プロローグ
私には物心ついた時から前世というべきかもう一人の人生の記憶があった。
前の私は生まれた時から重い病気で人生のほとんどを病院のベットで過ごした。学校へも通えず、友達と呼べるのは同じ病院の子たちだけだが、この子たちも病気なわけで私たちの世界は病院の中だけだった。
楽しみと言えば読書とテレビ、そしてゲーム。それらから普通の生活、人生を送る自分を妄想し、羨望し、そして絶望した。
何一つ実現出来ないまま15歳で命尽きたのだった。
今世は前世の記憶と全く異なる世界だったが、元々狭い世界でしか生きていなかった事が幸いしたのか戸惑いは多少あったもののすぐに馴染んだ。
なにより重要だったのは前の私と違い健康体という事。
ディアナ エメラルド
それが今世での名前である。前世と違い階級というものがある世界で私はエメラルド伯爵家の娘、つまり貴族の令嬢だ。健康体でなんでもできる私は嬉々として礼儀作法や教育を受けた。ただ前世でやりたかった事がすべて出来るわけではなかった。掃除や洗濯、料理など前世では当たり前に行うはずの事を貴族は自分では行わず使用人の仕事となっていた。
しかし前世の未練がとても強く私は両親に頼み込んで、使用人の仕事も学び行える許可を勝ち取ったのだった。まあ、その事は邸内だけで極秘と言う制限つきだったが。私はただ楽しく、とても幸せな今世に感謝して日々を過ごした。
そして前世で命尽きた年齢になる頃、最上の羨望が叶った。恋をしたのだ。
ガラム サファイア
私の初恋であり、一目惚れした大好きな人。
10歳年上ではあったが幸い婚約者も居らず侯爵家の子息と伯爵家の令嬢と身分差も問題ないため、私の望み通り直ぐに婚約となった。
周囲からは政略のための婚約と思われたが、私は片想いで終わらせるつもりはなかった。彼が私を好きになってくれるように猛アプローチし、幸運な事に相思相愛となる事ができたのだ。
私はディアナ サファイアとなり、愛しい旦那様は侯爵の位を譲り受けたため、侯爵夫人となった。結婚して1年後には女の子を授かった。
まさに順風満帆の人生。幸せすぎて私は一つ目の違和感を見逃した。そしてさらに1年経たずして、男の子を授かった。
「この子の目元はディアナに似ているな」
「ふふ、瞳の色は旦那様譲りのようですわ。男の子の名前は旦那様が決める約束ですが、もうお決めに?」
「ああ。ノアにしようと思うがどうだろうか?」
「まぁ素敵!ノア、ノア サファイアで・・・」
息子の名前を口にした時に二つ目の違和感を感じた。そして違和感は記憶を呼び起こした。
『宝石の瞳に恋して』
前世のゲーム好きの妹に薦められてやった所謂乙女ゲームの題名。擬似だけど私が初めて恋愛体験をした思い出のゲーム。なぜ今まで気づかなかったのだろうか、今世がそのゲームの世界観そのままである事に。息子の名前で思い出したのは当たり前だ。
ノア サファイア
ゲーム攻略キャラクターの1人の名前と同じ。それだけなら偶然だろうとも考えたが、ゲームと同様にノア サファイアには同じ名前の姉がいる。見逃した一つ目の違和感は自ら付けた娘の名前だった。
レイラ サファイア
この名前のキャラクターはヒロインのライバルで、ヒロインを虐めたり邪魔をして最後に必ず制裁を受ける謂わゆる、悪役令嬢だ。
瞬時にゲームの記憶と今世の記憶の共通点がいくつも結びつき私は今世で初めて絶望を感じたのだった。
初投稿。使い方がままならない。