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聖竜と薬草4

 

「おいおい。キミたち、この時期の森に初心者冒険者が集まって、危ないだろ。今年は少し早くに竜が集まっているんだ。危険だから、すぐに町に戻ったほうがいい」


 口元を緩め、こちらに近づいてきた冒険者は三十くらいの年齢の冒険者パーティーだ。

 彼らは心底心配そうにこちらを見てきた。


 俺が振り返ると、向こうの冒険者がこちらに気づいたようだ。

 慌てた様子で礼をしてきた。

 ……新聞で俺を知った人たちなんだろう。


「何かあったんですか?」


 俺が問うと、彼らは顔を見合わせてから口を開いた。


「ああ……あのポッキン村ってのがこの森を抜けた先の山に囲まれた峡谷にあるのは知ってますか?」

「そうですね……我々はその村への依頼があるので今ここにいます」

「なんだって! 悪いことは言いません。迂回していくといいですよ。なんでも、普段は見慣れないホワイトウルフという魔物が大量発生しているそうで……峡谷を進むのは危険ですよ。というか、迂回していくのが正規のルートではありませんか?」


 なぜか向こうも敬語だ。

 そもそも冒険者で敬語がすっと出てくる人は珍しい。


 俺だって、貴族の家にいた時に騎士学園に通っていたからなんとか話せるが、冒険者の多くは完全な平民だ。


「そうですが……こちらから行った方が近いですし、素材を集めて売却もできますからね」

「そうですね……まあ、あなたのようなベテラン冒険者がいれば、大丈夫かもしれませんが」


 ベテラン? 誰のことを言っているんだ。

 俺が首を傾げていると、ニンがくすくすと顔の半分を手で隠しながら笑っていた。

 あんたじゃないの? その目があまりにも失礼に俺を見ていた。


 ……。

 冒険者たちと別れたあと、とりあえず進んでいく。


「……誰がベテラン冒険者だ」


 ぼそりと俺が呪詛のように呟いてやると、隣にいたニンが腹を抱えて笑っていた。


「いいじゃない。下に見られてなめられるよりは」

「けどな。俺が老けて見られているみたいじゃないか」

「まあ、ちょっと強面だし、それが影響してるんじゃない? ね、リリフェルたちも初めて見た時はそうだったんじゃない?」

「そんなことないですよっ!」

「……リリフェル」

「お父さんみたいで安心できる顔であります!」


 例えで父親を出すのはやめてくれないか。子持ちに見えるというのだろうか。


「ドリンキン……おまえはどうだ?」


 彼も強面で、どちらかといえば俺に似ている。

 俺の気持ちもわかってくれるだろう。

 そんな彼は困った様子で苦笑を浮かべていた。何も言わない。それがすべてを表している。

 ファンティムに視線をむけようとするが、すでに彼はそっぽを向いていた。


「ティメオ、おまえはどうだ?」

「……ま、気にする必要はないんじゃないですか? 僕はよく、中性的な顔なせいで、若く見られがちですし、羨ましいくらいですよ」


 ……俺も一度くらいは若く見られたいものだな。


「そういえば、ティメオ。ちょっといい?」

「……なんでしょうか」


 ニンが首を傾げて聞くと、ティメオはどこか改まった様子で背筋を伸ばした。


「ティメオも、貴族出身なんだろうけど、あたしには普通に接しなさいよ。あんたとあたしは、あくまでクランメンバーってわけ。もちろん、先輩後輩で気を遣うっていうのはいいけど……公爵家の娘だからって気を遣うのはやめてくれない?」

「……そうはいってもですよ」

「肩肘張られると、こっちも疲れちゃうのよ。お願いね」

「……善処させていただきます」


 ティメオはやっぱりどこか緊張しているようだ。

 ティメオははぁ、と息をはきながら歩いていく。


「貴族だから、虫が苦手でありますか?」

「平民だから、単純な計算もできないんですか?」


 さすがにティメオもやられっぱなしではない。

 二人がばちばちと睨み合い、それを見てドリンキンとファンティムがまあまあとなだめる。

 良い雰囲気だな。


「リリフェル姉ちゃんはこの先の村の出身で、ティメオ兄ちゃんはもともと貴族なんかぁ……ドリンキン兄ちゃんはどうなんだ!?」


 くいくい、とファンティムがドリンキンの服を掴む。

 ドリンキンはうっといいづらそうに頬をかく。


「オレは……二人とは違う。こんな見た目をしていたから、化け物みたい、だって。よく言われていたんだ」

「なんだそれ! ドリンキン兄ちゃん優しいっ! それに、ルードさんより顔怖くないぞ!」


 一人のフォローをした後で、一人を傷つけていることに気付いてほしい。

 無邪気なファンティムはわかっていないようだ。

 ドリンキンはこちらを見て、苦笑する。


「オレ……昔から、臆病で怖がりで。村でも弱かったんだ。同年代の子たちが、魔物を狩っているのに、オレだけ、畑仕事だけで……村の人たちに無理やり魔物狩りに連れていかれたときもあったけど、力になれなくて……そんな自分を変えたくて、冒険者に、なったんだ」


 ドリンキンはそれからファンティムを見る。


「オレは、強くなって、誰かの力になりたい。だから、困っているファンティムを助けたいって思った。……その、えっと……リアニ草の採取、頑張ろうな」

「うんっ! ありがとな、みんな!」


 ドリンキンの言葉にティメオたちも笑みを浮かべ頷いた。 

 と、眉間に皺を寄せたニンが、俺の肩を叩いてきた。


「ルード。あそこで戦っている人たち、見なさいよ」


 感動を一度抑え、ニンが示した方を見やる。

 そこにいたのは、巨大なナメクジだ。


 ビッグスラッグと呼ばれており、ランクC程度の魔物だ。

 冒険者たちは全員で囲むように攻撃している。


 時々吐き出される液体が、周囲を溶かしている。

 あれでうまく服だけ溶けないか、と妄想したことはあるのだが、たぶん肌までいくだろう。


 それにしてもあいつがここまで出てきているとはな。


 冒険者たちは問題なく討伐していた。

 彼らを見ながら、俺たちは峡谷を目指して歩いていく。


 森を進んでいくと、現れたのはポイズンモンキーだ。

 木の上で鳴きながら、こちらを見ている。


 その数は2体。群れをなす魔物なのだが、数が少ないな。

 本来は森の奥に生息しているランクC相当の魔物だ。


「リリフェル、かわりにタンクやらないか?」

「いやですよ! あいつうんち投げてくるじゃないですか!」

「一応女性なんですから、言い方ってものがあるでしょう……」

「じゃあ、なんていうんですか!」

「えぇ……排泄物とかでどうですか?」

「あんまり変わってないと思うでありますよ!」


 そう、ポイズンモンキーは糞を投げてくる。それが原因で、状態異常に陥る。

 ……ていうか、普通に盾が汚れるので相手したくないんだよな。


 こいつらがここまできているということは、この森のリアニ草も食べに、聖竜たちが立ち寄っているのだろうか。

 森の奥で生活している魔物たちは、聖竜に怯え、こうして住処を移動している。

 だとしても、ポイズンモンキーがここまでくるのは珍しいんだがな。


「ファンティムにまかせる。スキル『幻影』で俺の偽物を作ってくれ」

「わ、わかったぜ!」


 彼が幻影魔法を使い、俺の偽物を作り出す。

 ポイズンモンキーたちはその俺の偽物へと視線を向け、糞を投げ始めた。


 しかし、俺の偽物は貫通するだけだ。

 俺の幻影が動き出し、ポイズンモンキーがいる木へと突進を行った。


 その瞬間、魔力で形成されていた偽物の俺が爆発する。

 木がぐらりと傾くと、ポイズンモンキーは驚いた様子で別の木に移動する。


「やっぱり、使い勝手がいいな」

「まあ、爆発させるようにしたのは、ルードさんの意見だったけどな!」


 彼の幻影は魔力で生み出される。

 それに目をつけた俺は、その幻影に魔法陣を設置し、敵に突進させるのがいいのではないかと思った。


 狙い通り、彼の幻影は敵に幻を見せるだけでなく、攻撃性能も獲得した。

 よろめいたポイズンモンキーへティメオの風魔法が抜ける。


 一体を切り裂くと、驚いたもう一体が地面へと落ちた。

 俺が何度か剣を叩きつけると、ポイズンモンキーは息絶えた。

 薬の材料になる尻尾だけを切り裂いて、持っていたリュックサックに入れる。


「この調子で進んでいこう」


 糞を投げつけられたら、しばらく洗えないからな。状態異常は防げても、臭いは残る。絶対嫌だ。

 ポイズンモンキーが出たときは、ファンティムに任せよう。


 と、そんな時だった。


 冒険者たちの悲鳴が森を抜ける。

 俺たちは顔を見合わせ、声の方角へと向かう。


「ぐぉぉぉ!」


 森の奥にいるはずのオーガがそこにはいた。

 全長は2メートルほど。オーガにしては小さな個体だ。


 けれど、その膨れ上がった肉体は他のオーガとそう変わらないことがわかる。


 倒れていたのは先程俺たちに声をかけてくれた冒険者だ。

 オーガが拳を振りぬいた。それはまっすぐに冒険者へと襲いかかる。


 回避は間に合わない。そう判断したのだろう。冒険者は持っていた盾で受ける。

 しかし……その体が宙をまった。

 彼らの表情がみるみると青白くなっていく。身に着けている装備品を見ても、オーガと戦う予定などなかったのだろう。


「助けに入ろう。みんな、準備してくれ」


 俺をベテランと判断した以外は、いい冒険者だった。

 ここで死なせるわけにはいかない。


 俺は挑発を放ちながら、オーガへと向かう。

 

「俺がタンクを引き受ける! 攻撃は任せるぞ!」


 オーガが煩わしそうにこちらへと視線を見せ、それから一度吠える。

 振りぬかれた拳の一撃を、俺は盾で受けとめ、そのまま殴り返した。

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