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少年と亜人の少女6



「みんな、仲間で家族みたいなものだ。そりゃあ、血のつながりとかはないけどな」

「……うん」


 先輩として、体験談を話してあげようか。


「俺も、小さいころは兄妹だけで暮らしていたんだ。可愛い妹を守るために、俺は毎日、金を稼いでいた……。二人よりももっと小さかったから、稼ぎ方は……まあ色々良いものばかりでもなかったけどな」

「……そうなんだ。ルードもそんなことがあったんだな」


 ファンティムがこちらを見てきたので、こくりと頷く。


「そんな生活が三年くらい続いたときに、貴族に拾ってもらったんだ。それからは、今まで問題なく生活できている。……二人は俺が二人きりだったときよりも歳はとっているんだ。やろうとすれば、昔の俺よりもうまく稼げる。……それに、クランには他にも仲間がいるんだ。……それできっと生きていけるはずだ」

「……そっか。ねえ、ルードさん。私って冒険者とか、クランとか……よくわからないんだ。それは、ファンティムもだよね?」

「お、オレは知ってるぞっ! 冒険者はお金を稼ぐ人たちだっ」

「そのくらいは私も知ってるよ」


 苦笑するシャーリエに、ファンティムがうっと声をうめいた。


「あ、あとは、だなっ。え、えーと……」

「うんうん、あとは?」


 それから、さらにシャーリエに知識を披露しようとしたのだろうが、ファンティムはそこで黙ってこちらへ助けを求めるように見てきた。

 幼さの残る顔は、若干、涙目だ。


「冒険者っていうのはギルドに寄せられた依頼を達成するのも一つの仕事なんだ。町の人の悩みを解決したり、町の近くに魔物が大量発生したから討伐してほしい……とかな」

「そ、そう! それが言いたかったんだ! ルード、ありがとなっ」

「ああ、よくわかってるなファンティム」


 へへ、とファンティムは笑う。

 シャーリエがこちらを見てきて、からかうように笑ってくる。

 

「クランっていうのはそういう冒険者の集まりみたいなものだ。……大きくなってくると、クランに対しても依頼が寄せられることが出てくるんだ」

「そうなんだ……入るといいことってあるの?」

「人によってさまざまだな。例えば、クランの活動が認められるようになれば、国から援助がでるようになる場合もある。所属している人たちからすれば、そんな自慢のクランに所属しているという箔がつく。あとは、様々なスキルを持った人たちが集まっているから、状況に合わせてパーティー編成を自由にできる部分はある。もちろん、親しい人と固定パーティーを組んで、時々変える、みたいなやり方もあるしな」

「……パーティーってのは知っているぞ! あれだよな、迷宮とか潜るときとかにつくるやつだ!」


 ファンティムが自慢げに語る。

 一般人が知っている基本的な情報を、彼らは知らないのだろう。

 そういう部分も教えていかないとだな。


「そうなんだ。ルードさんのクランって有名なの?」

「……まだ、そんなに有名じゃないんだ」

「そっか。それじゃあ、私とファンティムも頑張らないとねっ!」

「ああ、頑張る! ルード、助けてくれたいい人だから、絶対どうにかしてやるんだ!」

「そうか……ありがとな。クランの仕事は戦いだけじゃない。事務仕事もあるからな。シャーリエ戦ったことあるか?」


 彼女はうーんと首を傾げ、笑みを浮かべた。


「うーん、魔物と戦ったことはないけど、訓練とかでファンティムとよくやってたよ。私のほうが強いんだよ」

「ば、馬鹿、余計なこと言うな!」


 ファンティムはぶんぶんと首を振る。

 それが、シャーリエはおかしくって仕方ないようだ。


「また、詳しい話は町についてからにしよう。明日も歩くんだ。二人とも、休んでおかないと大変だぞ?」

「わかった。それじゃあ、おやすみシャーリエ、ルード」

「うん、おやすみねファンティム」


 それからまもなくして、ファンティムの寝息が聞こえてきた。

 ……よかった。眠れる程度には安心してくれたようだ。

 それを確認したからか、シャーリエがこちらを見てきた。


「ルードさん」

「なんだ?」

「……私の病気って本当に治るの?」

「薬さえあれば、治る病気だ」

「……その薬はすぐに手に入るの?」

「わからない。けど、ファンティムが絶対にとってくるよ。俺たちも、ファンティムを手助けするしな」

「……うん、ありがとね」


 シャーリエは不安げな表情でこちらを見てきた。

 ……彼はファンティムを気遣っていたのかもしれない。


 家族から追い出されたファンティムは、恐らくシャーリエよりももっと大きな決断をしていただろう。

 そんなファンティムの重荷になりたくなかったんだ。

 

「私、ファンティムに迷惑かけたくないんだ。……私がいなかったら、ファンティムはきっとあの村で生きていけたんだよ」

「そうかもな。けど、ファンティムはおまえを助ける決断をして、いまここにいる」

「……そうだけど」

「家族よりも大切なものがあるのはおかしいことか?」

「……わかんない」

「俺はおかしくはないと思う。……シャーリエがそういう存在だったんだ、ファンティムにとっては」

「……う、うん」


 シャーリエはかぁぁと頬を朱に染める。

 そんな彼女に笑みを向ける。


「男の決断なんだ。それを否定するようなことは言ってやるなよ。ファンティムはシャーリエを助けるために行動したんだ」

「も、もういいよ、ルードさん。それ以上言われると恥ずかしいから……」

「そうか」


 シャーリエに苦笑を返すと、彼女はうぅぅと恨みがましそうにこちらを見てきた。


「私、ファンティムに迷惑かけない。私も、治ったら冒険者として生きていくよ」

「ああ。幸い、俺のクランの近くには初心者冒険者に優しい迷宮があるんだ。そこでゆっくり鍛えていけばいい」

「そっか。うん……これから、楽しいこと、たくさんできるように、私も頑張るね」


 シャーリエが明るく微笑む。

 それからゆっくりと目を閉じた彼女を確認して、俺は立ち上がる。


 外に魔物の気配はない。

 平和な夜になりそうだ。



 〇


 

 少し早い時間にシナニスが起きてきた。

 彼はぼさぼさの頭をかきながら、こちらに近づいてくる。


「ルードもちっとは休んでおきな。あとはオレが見張ってっから」

「……ああ、わかった」


 みんなに伝えていた出発時間まであと三時間ほどだ。

 仮眠くらいなら十分とれる。


 彼の言葉に甘えて、俺も一度体を横にした。



 〇

 


 まぶしい日差しがもろに顔に当たる。

 ……ティメオたちが作ってくれた簡易な家がなくなっている。

 気づけば出発の時間のようだ。


 みんなの準備も整っているようだ。

 俺が起き上がると、ファンティムがシャーリエを背負う。


 俺が担いでいってもいいが、彼がシャーリエを守るんだ。

 これは、その始まりだ。


「それじゃあ、アバンシアに向かおうか」


 こくりと頷き、オレたちは出発した。



 〇


 

 アバンシアに到着し、ファンティムとシャーリエを全員に紹介する。

 彼らにクランハウスの部屋を案内し、とりあえずの仕事は終了となる。

 すべて終えて、ひとまず家に帰り、それからニンと合流する。


「話は聞いたわよ。あんた、人に家族がどうのって言っておいて、家族を捨てさせるような決断をさせたんでしょ?」

「それはそうなんだが……向こうの家族が、ひどかったんだよ。おまえのところは、そんなことはないだろう」

「あたしにとってはあんまりよくないわね。あの親父。あたしら姉妹の似顔絵を部屋に飾っているのよ? 気持ち悪くない?」

「それは……」


 え、それって気持ち悪いのか?

 部屋にあるマニシアの似顔絵とか、全部処分しないとマニシアに気持ち悪いと思われてしまうのではないだろうか……。

 いや、そんなことはない。家族なら普通だろう。


「第一、貴族だなんだって、うるさいのよ。貴族であるまえにあたしは一人の人間なのよ。だから、自由に生きたいの」

「……まあ、いまはほら、放任されてるだろ」


 ……放任しすぎな気もするが。


「ええそうね。あんたによろしく頼むって親父が頼んだんでしょ?」

「……それは、そうだが」


 真剣な顔で面倒を見てくれと言われたことはある。

 俺はファンティムと、シャーリエがいた村のことを彼女に話す。

  

「……あんな場所に村があったなんて知らないわね。……たぶん、それ領主も知らないと思うわよ。報告したら、嬉々として税を巻き上げに行こうとすると思うわよ」

「管轄はトゥーリ伯爵か?」

「あそこは違うわね。あたしが一筆したためてあげるわ。もちろん、クランとして、でね」


 にやり、と彼女が意地悪く笑った。



 〇

 

 

 後日、彼女の手紙を受けたその土地の領主が、騎士とともに村へと訪れたそうだ。

 色々と問題はあったらしいが、結局この国で生活を送る以上、納税は義務だ。


 そこは権力で、無理やり言い聞かせることはできたそうだ。

 そこの領主から感謝の手紙が返ってきて、ニンがピースを作っていた。



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