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最強タンクの迷宮攻略  作者: 木嶋隆太
第四章

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少年と亜人の少女2

 



 ギギ婆の薬屋へと向かう。

 時々、巡回のときに会いにはきていたが、こうして薬草関係で会うのは久しぶりだ。


「ルードと、そちらの少年は初めてだね。こんにちは」


 少年、というほど小さくもない。

 しかし、ギギ婆から見れば俺も少年のように見えてしまうのかもしれない。


「ファンティム、彼女がこの町では唯一の薬屋を営んでいる。唯一といっても、腕はたしかだ。……その友達の状態を伝えてくれるか?」

「あ、ああっ」


 ファンティムはそれから、友達の状態を伝えていく。

 ギギ婆はうんうん、と余裕たっぷりの笑顔とともに何度も頷いている。


 そんな姿に、ファンティムも落ち着いてきたようで、丁寧に話していく。


「なるほどねぇ……リアニ草はあいにくなくてねぇ」

「そんな……薬屋にもないなんて、もうダメだ……」

「坊や。リアニ草について少し話そうかね」


 ギギ婆はにっこりと笑う。

 ファンティムは坊やと呼ばれたのが少し気に食わないようだった。


「リアニ草はね。保存ができない薬草なんだよ。採取から10日以内に内部にあった病気を治す効果のある成分が消えてしまうんだ。だから、病気が発覚してから、採取をして飲ませる必要があるんだ。緊急的に必要なら、それこそオークションとかで高額で入手するしかないねぇ」

「こ、高額。いくらくらいなんだ?」


 ファンティムはごくりと唾を飲み込んだ。


「うーん、下手をしたら10万くらいはいっちゃうかもね」

「そ、そんな……そんなの、払えねぇよ……」

「そう慌てなさんな。この病気はだんだんと悪化していって、一年程度で死に至ると言われているけどね。逆に言えば、一年もあるんだ。死ぬ前に薬を飲ませれば、病気は何の後遺症も残さないで完治するんだ。だから、そんな焦りなさんな」


 ギギ婆はそうはいうが、子どもとしては納得できない部分もあるだろう。

 彼らにとっては1日があっという間だ。俺だってそう感じるときがあるんだからな。


「ギギ婆、薬が用意できれば、調合は可能ですよね?」

「もちろんだよ。ルードなんだい、とりにいってあげるのかい?」

「一緒にですかね」


 俺の言葉に、ファンティムが首をかしげる。

 彼のほうを向いて、答える。


「助けたいっていうのなら、きちんと自分の力でやるんだ。リアニ草が取れる場所には心当たりがあるんだ」

「ああ、もしかして、あの子かい?」

「……ええ、まあ」


 なんだ知っていたのか。

 俺がそういうと、ギギ婆はにんまりと笑う。


「まあ、あの子も一度故郷に戻りたいだろうし、悪くはないと思うねぇ」

「はい。いい機会ですし、一緒にいけたらと思っています」


 ファンティムは首を傾げていた。

 俺たちはギギ婆の家を出たあと、ギルドへと向かう。

 ギルドには、リリフェルたちの姿があった。


 ドリンキンも彼らと合流していたようだ。

 ティメオとシナニスが腕を組んで睨み合っている。


「そんじゃ、どっちが多くゴブリンの討伐をできるか、勝負といこうぜ」


 シナニスが調子よく笑うと、ティメオも似たように口角を釣り上げる。


「ええ、構いませんよ。ずるしないでくださいね、先輩」

「当たり前だっつーの」


 ティメオとシナニスはふっふっふっと笑っているが、残りのメンバーたちはさして興味なさそうな顔である。

 と、リリフェルとラーファンがこちらに気づいた。

 リリフェルはぱっと笑顔を浮かべ、ラーファンは少しだけはにかみ、竜の尻尾をぶんぶんと振り回してみせた。


「師匠! お久しぶりです! 今日は依頼を受けにきたのですか!? それでは、一緒にやりませんか!」

「師匠……」


 そうラーファンはつぶやいてからリリフェルをちらと見る。

 ……少しばかり難しい顔つきである。確か、ラーファンはリリフェルと仲が良かったはずだが。


「ルードさん、元気? 一番弟子として、私たちと一緒に依頼を受けない?」


 ラーファンがくいくいと服の裾をつかんできた。

 ……なるほどな。

 どちらがより弟子として先か、そこでちょっと嫉妬してしまったようだ。


「ルード様! あの二人いつもあんな調子なんですよぉ。もう少し、どうにかならないですかね? あれ、そういえば、お姉さまと一緒ではないのは珍しいですね!」


 アリカが明るくはにかむ。


「ルナは、いまクランハウスにいるよ。用事があるなら、あとで寄るといい」

「はいっ! ぎゅってしてもらいに行ってきます!」


 アリカもアリカで相変わらずだな。

 濃い先輩たちに囲まれたファンティムがみんなに気おされていた。


 ……こいつら一人一人は常識あるほうだと思うが、誰かと組むと少しずれるんだな。

 これから新人冒険者を迎えるときは、常識的な俺が引き受けるしかないな。


「今日は悪いな。これからやらなきゃいけないことがあって」

「えぇ、師匠いつもそうじゃないですかぁ」


 リリフェルが、両手をぶんぶんと振り回す。


「……それなら、仕方ない。彼の一番弟子として、我慢しよう」

「わ、私も我慢しますよっ」


 どこか勝ち誇った様子でラーファンがリリフェルを見ている。

 仲の良い姉妹のようだな。

 

 ギルドの受付を眺める。

 今日は珍しく、リリィが受付にいた。

 接客が苦手な彼女がここにいるのは本当に珍しいな。


「リリィ、今日は一人か?」

「そうですよぉ。お姉ちゃん、ちょっと用事があって別の町にいますぅ……」


 めちゃくちゃ元気がなかった。

 なんなら視線もずっと下に向けっぱなしである。これで仕事ができるのだろうか。


「ルード。何かあとで甘いもの差し入れに持ってきてくれるとリリィは頑張って仕事ができると思うのですが……」

「それなら、まずは一つ調べてくれないか? 毎年、この時期くらいからポッキン村で冒険者を募集していなかったか? 今年もあれば、受けたいと思うんだが」


 そういうと、彼女はしばらく手元の資料を捜しはじめる。

 今回の依頼はどこか特定の町ではなく、これる冒険者を募集するという形のものだ。


 だから、さまざまなギルドに情報として記録は残っているはずだ。

 うちにも話だけでもきていれば、受けることは可能だ。


「ポッキン村でしたら、たぶん出してるでありますよー」


 リリフェルがいったとき、リリィはこくりと頷いた。


「は、はい……ありますね。受けるんですか?」

「ああ。ファンティム。おまえもこの依頼についてきてもらうことになる。まあ、戦闘に関してはたいしたものじゃないからな」


 この依頼の内容は、村にもしも魔物がきた場合に討伐するというものだ。

 そもそも、山に住んでいる魔物はこのアバンシアとそれほど変わらないような生態系だ。

 強い魔物は一切いないため、余裕を持って戦うことができるだろう。


「その依頼って……何か、リアニ草と関係するのか?」

「あっ、あのまずい薬草を集めるんですね……」


 リリフェルは何やら嫌そうな顔をつくった。


「し、知っているのか、薬草のこと!」

「知っているも何も、あの村近くに結構生えているんですよ。まあ、生えている場所が場所なんで、そんなにたくさん持って帰ることはありませんけど……村では、健康のために、この時期に飲むのであります……」

「……村でなら、たくさんとれるってことか!?」


 ファンティムが希望に満ち溢れた声で言う。

 リリフェルはうーんと首をかしげるようにしてから、ぽんと手をうった。


「はいでありますよっ。あっ、なるほど! 師匠は彼を助けたいでありますね! それなら、道案内はお任せください!」


 ばしっと胸を叩くリリフェル。それを少し期待していた部分もある。

 作戦成功だ。内心で拳を固めていると、ラーファンが俺の前に出てきた。


「わ、私も。一番弟子として負けられない」

「来てほしいのは山々だがな。さすがに、これ以上タンクを集めても仕方ない」

「そんじゃ、オレが行こうか?」

「僕も行っていいですか?」

「オレもいいですか?」


 ティメオは軽い調子で。ドリンキンはどこか強い決意を帯びた目をしていた。

 彼はファンティムが来た時から彼を気にかけていたようだった。

 今も、力になってくれようとしているのかもしれない。


「シナニス、今回は町に残ってくれ。……もしものときは、おまえがみんなをまとめてくれ」


 マリウスたちがいないときに、信頼できるのは彼だ。

 俺が言うと、彼はガッツポーズを作った。


「おっしっ、任せろよな!」

「そういうわけで、シナニスと連携がとれるアリカとラーファンも待機だ」

「……残念です。久しぶりにルード様と一緒に行きたかったです」

「……うん、我慢する」


 ラーファンはしょんぼりと尻尾をさげていた。


「まあ、また今度別の依頼のときにでもいこう」


 今回三人を選んだのは、新人三人と一緒に依頼を受けたことがなかったからだ。


「それじゃあ……えーと。ルード、何人です?」


 リリィは全員の顔を見るような度胸がないらしく、うつむきがちにこちらへ声をかけてきた。

 俺を逃がさん、とばかりに受付にぺたーっとなって俺の右腕をつかんでいる。


「……とりあえず、確定しているのは四人だ。あと一人、追加する予定だ」


 候補として、ニンかルナにきてほしいものだ。

 マリウスも来たいと言うのならきてくれて構わないが、魔法が使える人が欲しいんだよな。


 俺が町をあけている間は、ニンか、マリウスには残っていて欲しい。

 ニンはもちろんだが、マリウスもちょくちょく町にきては、町の人や、冒険者たちと談笑している姿が見られる。


 マリウスはひょうきんな性格をしているからか特に子どもとの接し方が上手だった。

 容姿が整っていることもあって、そんな子どもの母親たちにも人気である。


 彼らなら、俺がいなくても町を任せられる。

 ルナも……大丈夫だとは思うが、本人が決断をするのがそもそも慣れていないだろう。そういうわけで、マリウスかニンのどちらかには絶対に残っていてほしい。


「わかり、ました」

「ありがとな、それじゃあ。ポッキン村の依頼はそんな感じで頼む」

「も、もういっちゃうのですか……」


 ついついと、服の裾をつかんでくる。

 こんなところリリアに見られたらぶん殴られるぞ俺が。


「ルードたちといれば、とりあえず冒険者は別の受付に行くから……。ここにいてくれるだけでいいです。むしろ話しかけられて迷惑になりますので、黙ってここで相談しているふりをしていてくれませんか?」

「俺も忙しいんだ。そんじゃ、ファンティム。村のほうにいって、その友達を連れてこよう。クランハウスが余っているから、お前とその子で一つの部屋でいいよな?」

「うえ!?」


 素っ頓狂な声をあげるファンティム。

 その声にびくんと肩をあげるリリィ。なぜ俺を睨む。


「どうしたんだよ?」

「そ、そいつ……女なんだよ」


 彼は気まずそうな顔でそういった。

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