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最強タンクの迷宮攻略  作者: 木嶋隆太
第四章

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ホムンクルス3



 クランハウスで待っていると、こんこんとノックが響き、扉が開いた。

 まだ新しいクランハウスの扉は、すっと開き、向こうから笑顔のフェアが現れた。


 その表情にほっと胸をなでおろしたのは言うまでもない。

 暗い顔で現れたら、おおよそ回答も予想できてしまっていただろう。

 

 そんな俺の表情の変化に気づいたのか、フェアはくすくすと笑う。


「ルードさん、なんだか安堵したような顔してるね?」


 このこの、と肘を動かすフェア。

 それは彼女なりに俺との距離を縮めようとしてくれているのだろうという気遣いにも感じられ、俺も同じような調子で返す。


「そりゃあ、落ち込んでいたらだいたい返答は想像できるからな。それで、フェア。みんなの今回の件はどんな感じなんだ?」

「はいっ! 全員嫌だそうです!」

「何!?」

「冗談だよー、ごめんねごめんね。みんな、いいって。安全に、毎日平和に生活できるだけで、それでいいってさ。ルードさんの作戦通りだよ!」


 フェアがけろっとした様子で片手を頭の横でびしっと構える。

 その敬礼の姿勢に、はぁ、と息を吐く。


「気分は最悪だ、まったく」

「え、ええ……そこまで怒らなくてもご、ごめんね」


 慌てた様子でフェアが両手を合わせる。

 そんな彼女を見て、俺は腕を組んで悪戯っぽく笑ってやる。


「冗談だ。ただの、仕返しだよ。フェア、これから町をよろしく頼む」

「……もう、ルードさん意地悪なんだから」

「先にやったのはそっちだろ?」

「ぐぅっ、何も言い返せぬ……」


 フェアがぶすっと頬を膨らませた。

 がくりと肩を落とした彼女に、現在の状況だけは伝えておく。


「とりあえず、領主には連絡した。今回の件に関しては俺に一任してくれるそうだ。だから、みんながおかしなことをしなければ、このままでいけると思う」

「そっかぁ、よかった。この国の人たちは優しいね」

「ただ、定期的に……隣国で行われていたことを報告する義務はある。辛いことを思い出させるかもしれないが、そのときは話を聞かせてはくれないか?」


 まったく新しい情報がなかったとしたら、ルナから聞いてたものを伝えるつもりだ。

 それを、小出しに重要なことから報告していく。


 隣国ブルンケルスが何かを企んでいるのは確かだ。こちらもそれを、ただ待っているだけというわけにもいかない。 


 もちろん、ホムンクルスたちの安全を少しでも長く確保するためにどのように情報を出していくのかは難しいところだ。

 その間に、上の考えや今後の展望も見えてくるはずだ。


「まあ、そうだよね。それは任せて。ボクが一人ずつ確認して、情報をまとめておくね!」

「ああ、ありがとうな」

「それじゃあ、早速なんだけど、ボクはみんなに仕事を教えていきたいんだ。詳しい話を聞かせてもらってもいいかな?」

「わかった」


 俺は町の地図を取り出す。

 町全体を示す地図は長方形に近い。フェアが覗きこむ。


「今、ここに新しく四つの宿を追加したんだ」


 外壁を伸ばし、そちらに新しい門も追加された。

 新しく作った区画は、仮ではあるが冒険者街と呼んでいる。


 外壁にぐるりと囲まれたそちら側には、冒険者のための宿がいくつかある。


 ただ、人手はたりていないため、町の人だけではなく自警団の人たちにも協力してもらってどうにか回している状況だ。

 たまに、マニシアやルナも接客に入るくらいだ。


「その四つに、人数を分けて対応してもらいたい」


 そうすれば、何とかなるだろう。

 今ぎりぎりで回している人たちの代わりに入り、ホムンクルスたちの休暇を作るために、時々人手を増やせばいい。


「うーん。わかったっ!」

「具体的にどんな仕事をするのかとかは、宿で仕事をしている人たちに教えてもらうことになっている。だから、問題は少ないと思うが――」

「うん、ボクたちは覚えるのは得意だから、任せてっ。……ひとつだけ相談なんだけど、ボクはみんなが慣れるまで宿を行き来したいと思うから、遊撃隊みたいに扱ってくれると嬉しいなぁ」

「わかった。おまえを除いて、宿四つの接客にあたっていってくれ」

「わけるのはこっちで決めるよ。ホムンクルスにも仲の良しあしはあるからね。っていっても、ボクたちは長い長い旅路を一緒にしてきたから、別にそこまで仲悪いってことはないんだけどね」

「それはうらやましい限りだな」

「なになに、ルードくん、仲の悪い子がいるの? ダメだよー、仲良くしなくちゃっ。ほらほら、ボクになんでも相談してね」

「別に仲悪いってほどじゃないけどな。たまに、生意気な奴がいて困ることがあるくらいだ」


 脳裏に何名かの顔が浮かび、口元を緩める。

 まあ、俺からしたらかわいいものなんだがな。


「なるほどねっ。まあ、前向きに考えるといいよ! 生意気ってことはそれだけよく話すってことだからねっ! 悪い部分に目をつけたら、ダメなんだよ? どうにかなるなる。頑張っていこうね!」


 フェアの言葉に、思わず唸りたくなる。盲点だったな。

 要は、短所を長所として聞こえるように言い換えるってことだろう。


 これだけの明るさと前向きさ、それで彼女はみんなを引っ張ってきたんだろう。

 俺は、肘を机についた。


「おまえこそ、何かあったら相談してくれ。力になるからな」


 それを聞いたフェアはうえっと目を丸くして、それから戸惑った様子で頬をかいた。


「そ、そんなことないよ。ボクは大丈夫っ!」

「ホムンクルスたちをまとめるのに、色々と大変だった部分もあるだろ? 俺もリーダーとしていろいろ大変な思いをしたからな。お互い、相談していこうぜ」

「う、うん……」

「俺だけじゃない。町の人たちや、他の人たち……優しい人たちばかりだからきっと相談にのってくれるよ」

「う、うう……あ、ありがとね。そういわれたことないから、ちょっと照れますねぇー」


 フェアは頬をかいてそっぽを向いている。


「頬真っ赤……だな。そんな、照れるようなことを言ったか?」


 素直な気持ちをそのまま伝えただけなんだが……。


「ぼ、ボク今までそんな心配されたことなかったから……あー、あっついなぁ! このおうち、なんだかあっついよぉ!」


 いや、比較的涼しいほうだからな。

 彼女はパタパタと片手で顔を仰いでいる。


 彼女の口元はうぅぅともにょもにょ動いている。

 狙っていたわけではないが、彼女は心配されるのが慣れていないという感じか。


「る、ルードくん、あのね」

「なんだ」

「……ボクから、恩返し、必要だよね」


 そういって、彼女は肩のあたりを少しはだけさせてきた。

 

「い、いきなりなにしてるんだ!?」


 痴女か……?

 フェアはしかし、頬を少し染めたまま、こちらへと迫ってくる。

 その目には少しからかいの色が見えた。

 ま、まさかこいつ。さっき俺にあれこれやられて、仕返しの暴走か!?


「色々、ルードくんボクたちのことで疲れていると思って。町で見たときとか、凄い疲れている顔してたし」

「……別に、疲れてはない」

「だ、大丈夫。ボクになんでも任せてっ! 他人の記憶からあれこれ知識はあるほうでね。えっと、まずは鞭を用意して――」

「偏った知識を持ちだすな。それに、俺は巨乳以外に興味は――」


 そんなことをしている場合ではない。

 俺には色々とやらなきゃいけないことがあるんだっ。


 町のことやマニシアのた――。

 そうだった。今回も、クランハウスには以前と同じようにニンたちが待機していて……。


 ぎぃーっという音が鳴ることもなく、すっと扉が開いた。

 勢いよく開いた扉の向こうには、ニンとマニシアがいた。


 ルナは、フィーとヒューを連れて散歩にいっているのでこの現場にはいない。

 彼女がいれば、二人の暴走もどうどう、と抑えてくれたかもしれない。


 フェアがきょろきょろと俺とニンたちを見比べ、ニヤァ、と口元を緩める。

 ろくでもないことを考えているのは、表情から明らかだ。


 フェアが俺のほうに腕を伸ばしてくる。しなだれかかるような動きだ。

 それを、掴んで受ける。

 タンクをあまりなめるなよ。そうしながら顔をニンたちに向ける。


「マニシア、話は終わったんだ」

「そうみたいですね。最後らへんから聞いていましたよ」


 そんなわかりやすくむすっとしなくてもいいだろう。けど、怒った顔もやっぱり可愛いのがマニシアだ。


「宿への案内を任せていいか? ああ、フェア。彼女たちはこのクランに所属している仲間だ」

「うん、フェアです。よろしくね」

「はい、マニシアです。よろしくお願いしますね。それじゃあ、宿のほうに案内したいと思います。兄さんから、宿にある部屋をホムンクルスさんたちに貸し出すというのは聞いていますか?」

「え、聞いてない。ていうか、お兄さんなの?」

「はい。あの巨乳好きな方は私の兄ですよ」


 マニシアとフェアが、仲良く、歩いて去っていった。

 俺は心臓をわしづかみにされたような思いで、額をぬぐった。

 とりあえず、危機は脱したか。


「ニン、おまえも呼んで悪かったな。教会の仕事も、あった、よな。うん、今日はありがとう」

「冒険者のときからちらちら見ていたからわかっていたけどね」

「……」


 何が、というのは口にしなくてもわかった。

 そんなにわかりやすい視線だろうか……。


「ルード。大きければいいってもんじゃないわ。ほら、小さいのは小さいのでも悪いことは、ないでしょ」

「……そう、だな」

「壁の隙間とか通りやすいのよ。よく屋敷を抜け出すときに使っていたわ」

「……そうか」


 同族みたいなところもあるしな。

 まったくないのは無しだ。

 それは小さい、大きいとは別の次元なのではないだろうか。


 そうは思ったが、口には出さなかった。




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