ホムンクルス2
額に手をやり、天井を見るように息を吐いた。
眉間を手で揉み解していると、ニンが笑った。
「お疲れ様」
「ニンも相談に乗ってくれてありがとな。それにしても、リーダーとしてふるまうのはかなり大変だな」
冒険者のパーティーリーダーを務めるのだってそれなりに疲労があるというのに、クランのリーダーはそれよりもずっと規模が大きい。
果たして、うまくできただろうか。
フェアたちに、こちらの要求を呑んでほしいという気持ちをぶつけながら、しかし、リーダーとしては強く言っておかなければならない部分もあった。
フェアに、悪い部分だけが伝わっていなければいいのだが。
「兄さん。あとはなるようになるしかならないです。少し、聞き耳を立てていましたが、別段おかしな部分はなさそうでしたよ?」
「よく聞こえたわね。あたしは聞こえなかったわよ」
「兄さんの声だけでしたけどね聞こえたのは」
「……仲良い兄妹ね」
「まあな。俺たちは仲良い、世界で一番仲いいよな」
「はい」
マニシアが強く頷き返してくれた。それが嬉しくて、先ほどまでの悩みが吹き飛びそうだ。
「ニン。フェアたちには、国に引き渡すかどうかを使って話をしたが、改めて確認したい。ニンは国がどう動くと思っている?」
ニンは顎に手をやり、真剣な様子で目を細める。
「そうね。たぶん、国は他国の戦闘型ホムンクルスについて聞けば、調査をしたいと思うはずよ。だけど、彼らは戦闘能力を保有している以上、無理に聞き出そうとすれば危険、と判断するはずだわ。情報を得られないだけなら別にいいかもしれないけれど、ホムンクルスたちが暴れて下手に戦力を割きたくもないでしょう」
「そうだな。俺たちはそれをあおるように領主から国に伝えてもらう」
「ええ。そこをうまく交渉に使わせるのよ。まあ、詳しいことはあたしから領主に手紙を書いておいたわ。一応、ルードの名前で出すことになるから、目だけは通しておきなさいよ」
ニンから手紙を受け取る。
開いて中を確認する。
特に、変な部分はないだろう。というか、俺が彼女の文章を修正できるほど学はない。
「領主様への連絡はこれで問題ないだろう。あとはあの奥さんがなんとかしてくれるだろうな」
「そうね。それじゃあ町の騎士に手紙を渡してくるわ」
手紙をもとのサイズに折りたたみ、ニンに手渡す。
騎士を通じて、これを渡してもらう。
町には新しく四名の騎士が追加され、合計五人がいる。これが、この町を守る全メンバーとなっている。
「問題は、町の人たちだな」
「そうよね。ホムンクルスって、今まで町には一体もいなかったのよね?」
「そうだな」
「扱いが難しいと思うわね。みんなに話だけはしておいたほうがいいわね」
「……そう、だな。そこはフィールと自警団を中心に話してもらおう」
「冒険者たちはどうするの?」
「リリアたちに任せようと思う」
あとはバックル爺さんと、ギギ婆か。
町の老人たちのリーダー的な立場であるバックル爺さん。
彼らに話しておけば、町の七割を占めるお年寄りの人たちの対応はなんとかなるだろう。
皆、孫か自分の子供のように接してくれる、かもしれない。
特に、今回助けたホムンクルスたちはみんな若い顔の造りをしている。
それが、少し不安でもあるんだがな。
バックル爺さんもギギ婆も町の外も知っている人たちだ。
ホムンクルスについて、多少の知識も持っているだろう。
「俺はフィールに話をしにいってくる」
「大丈夫? あんた、最近全然休んでないでしょ?」
魔物の対応や、その後のホムンクルス関係など。
ここ最近は睡眠時間が不足している。
三人がこちらを心配そうに見てくる。しかし、俺は首を振った。
「別に。『健康体』のスキルもあるからな。俺は別に体調を崩すことはない」
「疲労はたまるでしょうが」
「……そうですよ。兄さん、最近ぼーっとしている時間が以前よりも多くなっています。最近の兄さんは普段より瞬きの回数も増えていました。それはつまり、疲労からくるものなのではありませんか?」
「ありがとな、心配してくれて。とりあえず、ギルドと自警団本部、バックル爺さん、ギギ婆のところにいったら今日は休むよ」
「私がバックルさんとギギさんのところには行ってきますよ」
……バックル爺さんはマニシアを本当の娘のようにかわいがってくれている。
確かに、マニシアに任せたほうがいいかもしれない。
「わかった。マニシア、そっちの二人は頼む。ルナ、マニシアと一緒に行ってきてくれ。何かあったら、ヒューを使って連絡してくれ」
「承知しました」
「ヒュー本体はクランでとりあえず待機していてくれ。連絡があったらすぐに伝えてくれな」
水たまりを作っていたヒューは人型に戻り、ぐっと親指を立てている。姿は先ほどのフェアのものとなっている。
こいつの再現力は凄いな。
出発しようと思ったのだが、クランとしての仕事も残っていた。
「そういえば、マニシア。冒険者ギルドの依頼で達成が困難な依頼がいくつか残っていなかったか?」
「はい。納品依頼と討伐依頼がいくつか残っていましたね。今日、シナニスさんとティメオさんたちにお願いして全部回ってもらっていますよ」
「……そうか、ありがとな」
依頼というのは期限が決まっているものや、緊急を要するものがある。
万が一誰も対応できない場合は、その町にあるクランか戦闘能力を持つギルド職員がやる必要がある。
ただ、ギルド職員で戦える人は少ない。この町にだって、職員は何名かいるが戦えるのはリリアとリリィだけだ。
もしもダメだったら、俺が受ける予定だったが、彼らには感謝しないとな。
あいつらだって自分のやりたいことはあるだろう。
「よかった……それと、ヒュー。マリウスに話しておいた例の話も確認しておいて」
あいー、という感じでヒューが頷いた。
ニンが首をかしげる。
「例の話って何よ?」
「いやな。力仕事ができる奴が町にはもっと必要だと思ってな」
「……それで、何かたくらんでいるの?」
「ま、来てからのお楽しみってことで。それじゃ、俺は自警団本部に行ってくる」
クランから自警団本部へと向かう。
仲良し二人組を捕まえ、フィールのもとまで案内してもらう。
彼女も最近では多少慣れてきたようで、自警団のリーダーらしく振舞っているようだ。
今日もかつて彼女の父が使っていた部屋に堂々とした態度で座っていた。
「ルード、どうしたんだ?」
「フィール、この前助けたホムンクルスのことについて、とりあえずの俺たちの方針が決まったからな。それについて伝えに来た」
「……ああ、結局どうするんだ? 国に引き渡すとかそういう話があるとかなんとか」
こくりと頷いて、ニンたちと話した内容をそのまま伝える。
フィールは顎に手をやり、頷く。
「わかった。ホムンクルスたちについては私たちも気を付けよう」
堂々とした態度で彼女は決断をあっさりと出して見せた。
……凄いな今日は。なんというか迫力がある。
「それにしてもおまえがここにいるのは珍しいな。いつもは、頼られるのが嫌で巡回ばかりしているのにな」
「……うっ、そ、それはだな……」
と、ついてきていた仲良し二人組ががはは、と笑う。
「フィールちゃんはな。昨日子どもたちに怖い話を聞かされてなっ」
「なんでもその話の主人公が全身鎧の騎士だったらしくてなっ!」
「自分もそうなるんじゃないかと怖くなっちゃったみたいで、外にでられないんだそうだ!」
「フィールちゃんは何歳になっても可愛いところが、あが!?」
「相棒!? どこから靴が!」
「おまえたち、黙らないか!」
フィールが顔を真っ赤にして席から立ち上がる。
片足を勢いよく振りぬいたときの動きはまったく無駄がなかった。
……なるほどな。フィールは真っ赤な顔で首をぶんぶんと振っている。
怖い話、か。
昔マニシアによくしていたな。今はあまり怖がってくれない。人間のほうが怖いですから、とごもっともな意見で一蹴されてしまう。
怖がってぶるぶる震えて、「お兄ちゃん一緒に寝て……」と服の裾を掴んできたときのマニシアが忘れられないなっ。
これ以上ここにいて、フィールの怒りに巻き込まれるわけにはいかない。
俺は、自警団本部を離れ、ギルドにも寄る。
リリアたちにも同じような話をしてから、家に帰還した。




