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黒い魔物2

 北門に来ると、すでにリリアとリリィの姿があった。

 自警団の人や、教会の騎士の姿も見かけられ、皆が協力してくれているのがよくわかる。


「ここにいる冒険者が、今回の調査に協力してくれるという人たち」


 リリアが紹介してくれた冒険者パーティーの代表者が笑みとともに片手を差し出してきた。

 スキンヘッドの男と、目の下に物凄いクマのある女性。それぞれのパーティーのリーダーだそうだ。


 パーティーは二組で、一つのパーティーは4人だ。

 合計8人が、協力してくれるということになっている。


 ランク的には、平均Cランク。リーダーはBランクあり、なかなか優秀な冒険者たちであることが伺える。


「ま、よろしく頼むわ。スキンっつーんだ」


 スキンヘッドの男が名前を名乗ると、クマの濃い女性も軽く頭をさげてくる。


「こちらも……ね。私は、ベァというわ。よろしく」


 男性と女性のリーダーそれぞれと、自己紹介をしてから、俺は改めて彼らのパーティーを見やる。

 この集団の管理は俺がしないといけない。

 

 マリウスにはなるべく静かにしてもらうように伝えている。

 あいつが好き勝手すると、話したい事も話せないからな。


 ……まあ、彼は未知の魔物と戦えることに期待しているようで、今は静かだ。きっと魔物を想像して楽しんでいるのだろう。

 咳ばらいを一つしてから、全員を見やる。

 

「ギルドから話は聞いていると思うが、俺たちはこれからアバンシア果樹園に魔物の調査、討伐へと向かいます。戦闘のときは、パーティーごとに動くのを基本としましょう。索敵を行う場合は、全員で一緒に行動しましょう」

「いいのか、ルードさん? 敵を探すってなら、別れたほうが早くないか?」


 スキンが片手をあげていった。


「どれだけの敵がいるかわかりませんし、敵の力も未知数です。けど、あまり調査にも時間をかけられないのも事実ですので、お互いに見える程度で距離を離しての調査といきましょう」


 例えば、その場で治癒できないような状態異常攻撃など仕掛けられたらたまらない。

 俺のスキルなら、そういう予想外の攻撃はある程度防げる。


 冒険者たちは納得してくれたようだ。

 これも、俺の立場があったからこそだろう。


 ホッと胸をなでおろす。

 少し緊張した。


 俺たちは北門から出発し、アバンシア果樹園を目指して進む。

 すでに空は暗い。それぞれ、魔石灯を使い、夜のフィールドを歩いていく。


 マリウス、ニン、ルナに視線をやる。

 戦闘は各パーティーごとにした。俺たち全員が一緒に動くのはいきなりは難しいだろうからな。


 マリウスたちとの連携はそれなりにうまくいくと思うが、四人だ。

 普段よりも、パーティーでの役割は掛け持ち気味になるだろう。


「ルナは、確かそれなりに短剣も扱えたよな」

「はい。魔法ばかりですが、近接戦闘も可能ですよ。ただ、優秀なスキルはありませんが」

「今回、俺たちは数が少ないからな。万が一のときは、ニンを守ってくれ」

「承知しました」


 何もなければそれでいい。

 ただ、何かあったとき、ルナぐらいしか自由に動けない。


 俺たちは果樹園に入ってから、全体を見回す。

 魔物たちを探知魔法で探していくが、なかなか見つからない。


 ……複数の冒険者からさまざまな目撃情報が届いているため、まったくかからないということはないだろう。

 俺はヒューを取り出し、向こうに残しているフィールに声をかける。


「そっちの状況はどうだ?」


 ヒューが俺の言葉を伝えてくれる。

 しばらくして、返事がきた。

 大丈夫、らしい。


 何かあれば、向こうが連絡をくれるだろう。

 こちらは、果樹園で索敵に集中していればいいだろう。


 夜の森は虫たちの鳴き声が響き、騒がしい。あまり、聴覚は頼りにできない。

 ヒューをポケットにしまい、果樹園を歩いていく。


 黒い魔物、か。

 これまで何度か遭遇してきているが……すべて魔物化が原因なんだろうか。

 ……だが、魔物化というのは本来魔物ではない存在にのみ起こるとされている。


 魔物がさらに魔物化することによって凶暴化している……ということだろうか。


「全然、見当たらないわね」

 

 しばらく果樹園を探していたが、俺たちは魔物を見つけられずにいた。

 だが、魔物はいる。見慣れない足跡や、傷のようなものがついた木々があったからだ。


 一体どうなっているんだ。

 探知魔法に引っかからないための技術というのはある。


 だが、それは人間が戦争などで使うために開発したものだ。

 魔物がまさか、その技術を使っているとは考えにくい……が。

 

 騎士学園で学んだことがあったな。

 技術的にそう出来るものは少ないが、魔物であれば……可能性がないとも限らない。


 それらの探知ができるのは、ニンとルナくらいだろう。


「ニン、魔力探知の方法を切り替えてくれるか?」

「……まさか、魔物が空気中の魔力に擬態している可能性があるってこと?」

「……まあ、あくまで可能性だ」


 周りの冒険者たちも集めながら、俺は足跡を見やる。


「ルードさん、何を見てんだ?」


 スキンが首を傾げてくる。

 俺は足跡を指で示してやった。


 魔物が残したと思われる足跡だが、それには五本の指がついていた。


「これが何だぁ?」

「気づきませんか? ……これ、どう見ても人のものなんですよ」

「……あっ、確かに、そうだな」


 冒険者たちは驚いたように足跡を見ている。

 まるで、人間のような形をしている。それも、足のサイズ的にはルナとそう変わらない子のものだ。


「もしかしたら、魔物は探知に引っかからないようにしているのかもしれない」

「……そ、そんな可能性があるのか」

「さ、さすがに……クランリーダーともなると、違う、わね」


 スキンとベァが驚いた声をあげてた。

 と、ニンが眉間に皺を寄せていた。


「……ルード。擬態していると思われる魔力がいくつかあったわ」


 ニンの言葉に、冒険者たちが驚愕の声をあげる。


「……ルードさんの言った通りってか」

「ってことは、もしかしたら魔物たちは近くにいるってわけ、ね」


 スキンとベァは引き締めるように口を結んだ。


「こちらから、攻め込むことになる。みんな、いつでも攻撃をできるように準備しておいてくれ」


 それからしばらく歩いていく。

 足跡が続いていく。そこには、わざと足跡を消しているようなものもある。


 ある程度の知能も持ち合わせているようだ。

 そりゃあ、ランクの高い魔物ならば、それなりの知能を持っているだろう。


 あまり、考えたくはないが最悪の可能性は常に予測しておかないといけない。


 フィールとリリアにもヒューを使って状況を伝えておく。

 なかなか、敵の姿が見えてこない。

 ニンも、普段とは違う探知魔法で中々敵の位置を確定できていない。


 俺たちは、しばらく果樹園を歩いて行き――。

 枝の折れる音に反応して、即座に、盾を構える。


 同時、俺の体へ衝撃が襲う。

 木々の影に隠れていたのだろう。


「ルード! こいつが未知の魔物だな! 戦いがいがありそうだ!」


 嬉しそうにマリウスが目を輝かせて前に出てきた。

 彼の振りぬいた刀は空を切る。


 かわされたことを嘆くことはなく、むしろ喜んでマリウスがさらに攻撃へと移る。

 そんな彼を見ながら、俺は魔物を観察する。

 ……黒い魔物?


 魔物というか、見た目は完全に人型だ。冒険者から受けていた報告と全く同じだ。

 だが、彼らの全身は真っ黒に染まっている。この前の正体不明の黒い魔物とはまるで違う。


 あれは、まだ何かしらの魔物の原型は残っていた。

 だが、いま目の前にいるのは、人を黒で染めたようなものだ。


 ……おかしい。

 盾で弾きながら、『挑発』を放つ。

 人間と違うのなら、『挑発』がもろに入るはずだ。


 目論見通り、全ての魔物が俺に注目する。

 やはり、魔物……なのか。

 見覚えのない魔物に、硬直している冒険者たちに指示をとばす。


「敵の数は、四体だっ。うち二体は俺たちでひきつける! スキンたちは右側の一体を、ベァたちは左の一体を頼む!」


 動けていない人には、具体的な指示を出すしかない。

 スキンとベァが動いたのを確認してから、俺は二体と向き合う。


 動き出してからは、問題ない。さすがに、Cランク相当の冒険者パーティーだ。敵一体相手なら、うまく捌けている。


 それぞれのパーティーのタンクが、俺から挑発で一体を奪っていったからな。

 二人とも、回避タンクか。敵の攻撃をかわしたり、スキル『煙玉』や、『背後取り』などを使って見事にかわしている。


 俺も回避系スキルが欲しいものだ。

 いざというときにあると便利だからな。憧れを強く持ち続け、戦闘を行っていく。

 魔物へとマリウスの刀がぶつかる。


 膝をついた魔物の体から黒い魔力が一瞬抜け出たのだが、それは再び肉体へと戻り、魔物が咆哮をあげた。

 まるで、悲鳴のようなものだった。

 その瞬間だった。

 ルナが俺の手を掴んできた。


「……ルナ?」 

「ま、マスター……こ、この人たちはホムンクルスです!」


 ルナが慌てた様子で声を荒らげ、俺は思わず固まった。


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