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最強タンクの迷宮攻略  作者: 木嶋隆太
第一章 
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真実の想い 上



 ニンがアバンシアに来てから一週間が経った。

 ばたばたとしていた日常も、ようやく落ち着き始めたところだった。


 ニンは『聖女の癒し』というスキルを持っている。

 そんな彼女なら、マニシアの病気の原因もわかると思ったが、ダメだった。


 ルナの鑑定でも同じだった。

 そもそも、マニシアのように生まれ持って体が弱い子は、多くはないが世界にはあふれている。


 生まれもっての障害……みたいなものと社会からは認識されている。

 この町は今ちょっとばたばたとしている。今すぐに迷宮攻略の再開は難しいが、落ち着いてきたら新しいパーティーを探して、迷宮攻略をしないとな。


 朝食の時間。

 ルナが作った料理がテーブルに並んでいる。俺はあくびを手で隠しながら、席に座った。


「おはよう、マニシア」

「おはようございます」

「……今日も、いい天気だな」

「そうですね」


 向かいにいたマニシアに一つ挨拶をする。

 ニンとルナが来てから、一回り大きな机を買った。


 四人で同時に食事ができるようになったが、マニシアとの物理的な距離が遠くなり、話す機会はほとんどない。


 今まではもっと近かったのに……この距離だけでもすこし寂しい。


 元々、俺は話し上手ではない。むしろ、苦手だ。

 人付き合いが苦手な俺は、これ以上マニシアとの関係を悪くしないように努めるしかなかった。


 必死に尻尾を振るしかない。


 マニシアの睨むような視線に、俺は最近心地よささえも覚えてきている。

 これはいけない感覚かもしれない。


「ルナ、ニンはいつものか?」

「はい。学び舎で生徒たちに魔法を教えています」

「わかった」


 朝から真面目だな。

 彼女がいないせいで、余計に食卓は静かだった。


「マニシア様、マスターとお話をしないのですか?」


 ルナが、そう切り出した。

 少しばかり今日の彼女は目に力がこもっていた。


「話していますよ」

「……マニシア様。私は、マニシア様が……」

「ルナさん。今朝は洗濯をしてくださってありがとうございました。朝から、濡れたタオルも持ってきて、体も拭いてくれましたね。明日もお願いしていいですか?」

「……はい」


 わざとらしく、マニシアは言い切って、そこで話をしめた。

 マニシアの体を拭くという行為を羨ましいと思いつつ、ルナがどうにかしようとしてくれたことが嬉しかった。


 彼女が家にきてから、もう一ヵ月近くが経とうとしている。

 この家が、ルナにとって居心地悪いと感じるのは不思議ではない。


 彼女は、これまでも何度か、俺たちの仲を保とうとしてくれたな。

 けれど、そのどれも失敗だった。


 ……俺たちの関係はそう簡単なものじゃない。


 食事に手をつけたところで、ルナがこちらを見てきた。

 先ほど、マニシアに向けた表情と似たようなものだった。


 今度は、俺に何か言ってくるのだろうか。


「どうした」

「朝食を作った際に、魔冷庫の食材が残り少ないのを確認しました。そろそろ買わないとですね」


 予想とはまるで違う内容だった。

 一瞬固まってから、「あ、ああ」という感じで頷いておく。


「それじゃあ、今日にでも買い物に行こうか」

「承知しました。マスターも、一緒に手伝ってくれますか?」


 一度に買い込むのなら、ルナだけでは厳しいだろう。


「そうだな。わかった」

「はい。お願いします」


 ルナは微笑んでから食事をしていく。

 マニシアはちぎられたパンを一つずつ食べていく。


 ルナの作ってくれたシチューとの相性は抜群だ。

 だが、マニシアの表情は変わらない。


 ……よし、話す機会だ。

 ルナのためでもある。それにお兄ちゃんも話したいのだ。


「おいしくないか」

「おいしいですよ。ルナさん、おいしいです」

「はい、ありがとうございます。以前マニシア様に教えてもらったように作ってみました」

「そうですか……ルナさんは色々と覚えられて、凄いですね。あたしが料理をできるようになったのは、それこそかなりの時間がかかりましたよ」

「基本的な技能は持っていました。マニシア様はそれこそ一から覚えたはずです。その違いではないでしょうか」

「うーん、それならいいですけど。あたし、基本的に覚えるの苦手ですから」


 うん、マニシアは自然に俺との会話を断って、ルナと話しだした。

 俺のコミュニケーション能力の低さが露呈した瞬間だ。


 他人の会話に割って入るなど、俺には難しい。

 その会話も終わると再び沈黙の時が流れ、朝食は終わった。


 けど満足だった。


 今日はマニシアと二回も話した。

 久しぶりにたくさん話ができた。よかったよかった。


 ルナが席をたち、空になった食器を台所へと持っていく。

 彼女は水魔法を使い、食器を洗っていく。


「ルナさん、あたしも手伝います」

「いえ。マニシア様はお部屋で休んでいてください」

「もう、別に病人扱いしなくてもいいんですよ。このくらいはへっちゃらですから」

「いいから、休んでいてください。今朝はあまり調子よくなかったではありませんか」

「……わかりましたよ」


 手伝おうとしたマニシアを、ルナが部屋に押し返した。

 調子、悪かったのか? 今は大丈夫そうだけど、少し心配だ。


 マニシアが少しむくれた顔をルナに見せていたのが、ちょっとだけ懐かしく思えた。

 昔はよく、俺にもあの表情を見せてくれた。


 マニシアはじゃんけんが弱かった。いつも同じ手ばかりだすもんだから俺が連続で勝ってしまうのだ。

 そのときにはちょっぴり涙を浮かべ、頬を膨らませてこちらを睨んでくる。


 その姿が本当に可愛くて、それから数回後に俺はわざと負ける。

 そうすると、マニシアはぱっと顔を輝かせ、笑ってくれる。あれはまさしく天使、いや女神だ。


 そんな笑顔の彼女を取り戻すために、俺は冒険者になった。


 過去の記憶を思い返している場合ではない。

 食器洗いを手伝うため、ルナの横に並ぶ。


「マスターはマニシア様と仲良くないと思いますか?」

「……仲良くない、んじゃないか? 少なくとも、一般的な兄妹よりは」


 と、思う。

 参考になるかはわからんが、前パーティーの双子とかはめちゃくちゃ仲良い。


 ルナは考えるような顔で、食器を片付けていく。

 それが終われば、約束通り買い物だ。


 金だけ持って家を出る。


 風が吹き、ルナは髪を押さえながら頬を緩めた。

 今日も散歩にはちょうどいい天気だな。


 今の季節は春。この大陸は四季がしっかり分かれている珍しい地域だ。

 俺的には過ごしやすくて、気に入っている。


「ルナはもう町は一通り歩いたか?」

「一度、マニシア様に案内してもらいましたね」

「……そうだったのか」


 二人で出かけていたのか。

 俺は、自警団の仕事を手伝ってばかりだったため、家の状況はまるで分からなかった。


 毎日仕事をしていたら、『休め』と無理やり休日を与えられてしまったのが、実は今日。


 マニシアとルナはうまくやれているようで、よかった。

 伸びをして、光を目一杯に浴びていると、ニンが帰ってきた。


 彼女は学び舎で魔法を教えているそうだが、笑顔から察するに、楽しくやれているようだ。


「なに、あんたたち。仲良く買い物?」

「よくわかったな」


 まだ外に出ただけだ。まあ、武器も盾もなければわかるか。


「え? ……あー、まあね。それで、何時ごろ帰ってくる予定なのよ?」

「何時になるかわかるかよ。買い物なんでな」

「十二時には帰る予定です」


 ホムンクルスはそのあたりきちんとしてるし、彼女が言うなら間違いはないだろう。


「……まあ、そうだな。買い物して外で食事を済ますわけにもいかないしな」


 陽に晒し続ければ、新鮮な野菜がダメになるしな。

 俺も日差しを長時間浴びるのは好きじゃない。


「そっか。わかったわよ。それじゃあね」

「あっ、ちょっと待ってくれ。ニン、学び舎のほうはどうだ? 俺も午後にでも剣の稽古に行こうと思ったんだが」

「あんた今日は一日休みでしょ。たまには体を休めなさいよ。みんなも、あんたの稽古なんて大変でやりたくないわよ」

「……そ、そうなのか」


 そ、そりゃ厳しいところはあったかもしれないが……。

 俺は嫌われてしまっていたのだろうか。


「半分冗談よ。そこまでは言ってなかったけど、大変だって。勉強にはなるとも言ってたけどね」

「……」


 みんなを思っての行動だが、教えるのって難しいな。


「それじゃ、またあとで」

「ああ、わかった」


 ニンが家に入っていくのをみながらふと思う。


 あの家も、改築した方がいいかもしれないな。

 ニンはそのうち帰るだろうが、結局三人だと狭い。


 金はまだある。

 ルナが今後もいてくれるなら、本気で検討したほうがいいかもしれない。


 町を歩いているとよく声をかけられる。

 魔物を追っ払ってくれたとか、この前うちの子どもを助けてくれたとかでたくさんサービスもしてもらい、両手で抱えるのが苦しいほどになった。


 食材は結構すぐに購入できた。ちょっと申し訳ないくらいもらってしまった。


 ……俺は来ないほうがよかったんじゃないか。

 そんなことを思いながら、歩いていく。


 予定よりも早く終わると、ルナが服の裾を引っ張ってきた。


「少し、町を見てみたいのですが、よろしいですか?」


 結構重たいんですけど……。

 とはいえ、ルナの頼みだ。


 いつもマニシアの面倒を見てもらっているお礼もある。

 鍛錬として考えれば悪くない。


「そう、だな。少し歩こうか」


 特に目的もなく、歩いていく。

 だらだらとした休日らしい時間の潰し方だ。悪くない。


「この町は、あまり人がいませんよね」

「そうだな。ここは田舎って言われているからな。……いずれは、町自体がなくなってるかもしれない」

「そうなのですか」


 驚いたように目を丸くするルナ。少し悲しそうに目は伏せられていた。


「若い子がこの町に移住することがほとんどないんだ。何もない町だからな。遊び場もなければ、近くに迷宮があるわけでもない。だけど、落ち着いている」


 だから、この町は好きだ。

 俺は迷宮攻略をするうえで、都会で暮らすことが多い。


 人ごみはどうにも苦手な俺としては、田舎の方が落ち着く。


「……そうですね」

「おまえは、どうなんだ?」

「私も……好き、です」


 ルナはそう言って、俺のほうに顔を向けてきた。

 ちょっぴりどきりとさせられる表情だ。


「マスター。私マスターに聞きたいことがあります」

「どうしたんだ?」


 真剣な眼差しだ。

 いったいなんだろう、想像もつかない。


「マスターとマニシア様。どうして仲が悪くなってしまったと思いますか?」


 ……その質問には答えられない。

 答えたくないのではない。


「わからないんだ」


 俺が俯きがちに言うと、彼女は小さく息を吐いた。

 なんだろうか、その表情は。


 悲しんでいる……というよりかは、怒っているように見えた。


「……そうですか」

「ああ……その、少し昔の話でもしようか」


 俺たちのこと、ルナはあまり知らないだろう。


「昔の話、ですか」

「マニシアから聞いたか?」


 ルナは考えるように顎へと手をやり、それから小さく頷いた。


「少し、聞きました。お二人は、小さいころに……その捨てられてしまったと」


 答えにくそうな彼女に笑顔を返した。





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