表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
77/198

知り合い


 今は好き放題話をさせてあげよう。

 色々と不満はたまっているらしいからな。こういうただ聞いているだけというのは、ニンともよくあったからな。


 リリフェルはそれから迷宮であったことを丁寧に丁寧に、話してくれた。


「師匠は、ティメオをどうしてリーダーにしようと思ったのですか? 実力以外で、何かあるのですか?」

 

 俺はティメオの性格を評価していた。  


 多少言い方に問題はあったが、問題があればすぐに指摘してくれる人間はなかなかいない。

 

 俺は自分の周囲を、できればそういう人間で囲みたいと思っていた。

 ……俺が間違えたときに、違うだろと止めてくれる人たちでな。


 そういうのもあって、俺はティメオにリーダーとしての立場を期待していた。

 少し、押し付けすぎてしまったのかもしれない。

 じっくりやっていけばいいと思っていたのだが、焦っていたのは俺のほうだったな。


 そのことをリリフェルに伝えると、少しだけ考えるような顔になった。


「そんな意図があったのですね」

「……まあ、な。それともうひとつは、単純に実力があるからだな。あいつはどうにも視界が広いみたいだしな」

「視界が広い……?」

「通常、魔法を使う場合視界が狭くなるのは、知っているか?」

「あっ、聞いたことあるのであります! 魔法を使うには、この世界へと干渉しなければならなくて、そっちに集中しすぎるから……とかなんとか?」

「まあ、だいたいそんな感じだ。ただ、時々。魔法を使っていても問題なく行動できるやつがいるんだ」

「……あっ、そういえば。ティメオは魔法の準備をしていても、いつも私のミスとか気づくでありますよ! お尻痒くてかいてたら、みっともないって……! あっ……い、いまの聞かなかったことにしてください!」


 彼女はぶんぶんと両手を振る。

 ……まあ、ともかく。


 多くの魔法使いは、魔法の準備をしているときに視界が狭まってしまう。

 俺も、魔法を使うときはどうにも周囲が見えにくくなる。


 強力なものになればなるほど、視野は狭まる。

 だが、ティメオは普段どおり行動できる。

 リーダー、というよりも司令塔として、活動できると思っていた。


 そこを、若干混同させてしまっていた部分があったな。

 ……失敗だ。


「ティメオは、『俯瞰視』に近いスキルを持っている。それがあるから、周りを見渡すことができる……と思うんだ」


 危ないところだった。俺はルナのスキルによって知っているが、リリフェルには話していないからな。

 ひっそりと冷や汗をかく。


 どうして、ティメオがそのスキルに近いかはわからない。

 生まれたときから近かったのか、それとも日々の生活からなのだろうか。


「……貴重な話を聞かせてくれてありがとな。パーティーについては改めて、考えてみようと思う」

「あっ、そ、その……別にそんな無理にというわけではないのでありますよ? 実力的には、頼りになりますからねっ。今は、ティメオの弱点を見つけているところでありますよっ」


 ぐふふふ、とリリフェルは口元を緩めていた。


「ティメオはもう部屋に帰っているのか?」

「帰っていますよ。……ただ、なんだかいつもみない男性の人と一緒にいましたよ」

「……男性の人?」

「はい。ちょっと気になっていたのですけど、なんだかティメオさんの知り合いの方みたいでしたので」


 ティメオの知り合い、か。

 一体誰だろうか。


「わかった。ちょっと、行ってくるな」


 ……さて、ティメオとはどうやって話をするか。

 そんな事を考えながら、彼の部屋の前まで移動した。


 ……どのように接しようか。

 自分のクランに興味を抱いてくれた彼らと、俺は優しく楽しくやっていきたいと思った。


 ……同時に、嫌われたくないとも思った。

 注意にしろ、何にしろ、相手に嫌われるようなことはなるべくなら、言いたくないと思ってしまっていた。


 こんな感情はもしかしたら初めてかもしれない。

 自分で作ったクランだったから、なのだろうか。


 そんな風に思っていたからこそ、ティメオに対しても強くいうことはしなかった。

 できなかった、と言っても間違いではないだろう。


 ただ、リーダーとしてそれでは、ダメだ。

 間違っていることを間違っていると伝える必要はある。


 注意もきちんとしないと……その結果が、所属している冒険者たちに嫌われる結果になろうとも。


 もちろん、独裁のようなものになってはいけない。

 すべてを判断して、答えを出す必要がある。


 ここで、ティメオとはしっかりと話をする必要がある。

 軽くノックをすると、少しだけ扉が開いた。

 

「ティメオ。少し話をしたいんだが大丈夫か?」

「……ええ、とその」


 少し困った表情を浮かべるティメオ。

 その背後には、初老の男性がいた。


「……これは、クランリーダーのルード様ですね。夜分遅くに申し訳ありません、わたくし、ティメオ様の家で執事をしていたものです」

「ティメオの家で、ですか?」

「はい。その――」

「……エンビ、悪いが僕はもう家とは関係ないんだ。だから、帰ってくれないか」

「……お坊ちゃま」

「……」


 エンビと呼ばれた男性は皺の寄った顔にわずかな落胆をにじませ、それからとぼとぼと外に出た。

 

 白髪の混じった髪を揺らす彼は、しかしその肉体はまだまだ鍛えているようで、引き締まっていた。

 執事、それにティメオの家、か。

 

 ティメオのことを知っている人間だ。

 彼をこのまま、帰らせるのは惜しい。


「ルードさん、何か用事がありましたか?」

「いや……さっきの人は?」

「……僕はもともと貴族でした。その家に仕えていた執事の方です。年齢的にそろそろ仕事をやめるつもりだったようで、それでまあ、その」


 ティメオは少しばかり濁した様子で、視線をそらした。

 ティメオのことを詳しくしる人物だ。


「ティメオ。また、詳しい話はあとでする」

「……そうですか。わかりました」


 ティメオは手に持っていた新聞を握りしめ、それから扉を閉じた。

 入口に向かうと、ドリンキンとリリフェル、それにエンビさんがいた。


 もういい年齢なのだろうが、背筋はびしっと伸びている。

 こちらへと振り返ったエンビさんは、柔らかな笑みを浮かべた。


「ああ、ルード様。改めまして……わたくしはエンビと申します。夜分遅くに本当に申し訳ありませんでした」

「……ああ、いえ。別に気にしていませんから」


 腰を折り曲げたエンビさんに、頭をあげるように促す。

 彼は人懐こい笑みを浮かべ、何度か感謝するように頭をさげる。

 ……慣れないな。

 仕事柄、染みついているのだろう。

 

「師匠……エンビさんは、ティメオの家の執事さんなんですよね?」

「元、ですがね」


 エンビさんはからかうような調子でそういった。

 ……ティメオの家に仕えていたのなら、彼のことや家のことなど色々と知っていることもあるだろう。


「……その、少し聞きたいことがあるんですけど」

「……承知しました。少し、外にでましょうか?」


 小声でいうと、エンビさんも察したようで外を示した。

 こくりと頷き、俺はエンビさんとともに外に出たのだが、リリフェルたちもついてきた。


「私たちも、ティメオのことを知りたいです」

「……ああ」


 リリフェルとドリンキンがぐっと頷いて言ってみせた。

 クランハウスの外に出て、離れるようにしばらく歩く。


 道の途中、魔石灯の近くに行って、そこで足を止めた。

 魔石の明かりを見ていると、エンビさんがすっと頭を下げてきた。 

  

「ティメオお坊ちゃまがご迷惑をかけて申し訳ありませんでした」

「……ご迷惑、ですか?」


 どのことだろうか。

 リリフェルとドリンキンを見ると、彼らは苦笑する。


「その、よく喧嘩すること伝えました」

「……ま、まあそんなところです」


 なるほどな。

 

「あの、ティメオのこと……色々と聞かせてくれませんか? どうして、貴族に生まれて冒険者になったのか……とか」


 通常は騎士になる。

 誰だって、冒険者よりも安定した職業である騎士を選ぶものだからな。

 特に、貴族の家で生まれた人間はその傾向が強い。


「そうですね……。クランリーダーの方には知っておいてもらったほうが、よろしいですよね」

「……お願いします」


 エンビさんは口元をぎゅっと結んでから、切り出した。


「わたくしが仕えていた家は、昔戦争で活躍して貴族となりました。今も、その傾向が強く……家を引き継ぐ者にも影響しているんです」

「……長男が引き継ぐんじゃないんですか?」


 基本的な貴族の家はそうだ。


「いえ。一番最初に生まれた子……まあ、いわゆる長男が20になるときの年齢で、すべてを判断します。一夫多妻を採用しており、年齢の近い子どもたちがお互いに争いあって、その中で最も優れた人が、家を引き継ぐことになっています」

「……争いあう、ですか」

「はい。兄弟の中で、力を示し続けること。それがその家での日常でした」


 エンビさんはどこか険しい表情で、そういった。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ