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実力




 迷宮から帰った彼らに合流するため、町へと戻る。

 町に着くころには空もすっかり暗くなってしまった。

 

 門の左右には、入り口を示すように明かりがついていた。

 騎士が一人、そこには立っていて、こちらに温和な笑顔とともに会釈してきてくれた。


 年齢は50近くだろうか。皺が寄り始めた顔であるが、それでも彼の体はまだまだ引き締まっている。

 老人、だからといって甘くみてはいけない。彼の剣は、技術の塊だ。


 問題を起こした冒険者をあっさりと押さえつけた場面を見ている。

 そんな彼の横を過ぎていく。

 アバンシア果樹園迷宮に近いこの門から入ってすぐは、冒険者たちの区画だ。


 新しく建設していたこの区画は、魔法使いたちの力もあって、ほとんど完成している。

 俺たちの生活空間よりもずっと綺麗で丈夫な建物が並んでいる。

 

 まあ、あるのは宿屋だけなんだけどな。武器屋や薬屋は、もう少し進んだところにあるレイジルさんか、ギギ婆のところを使うことになっている。

 その二人は、手伝える人か、弟子が欲しいと言っていたな。


 宿屋も人が足りていない。

 なんとか町の人たちで店番を行っているが……どうにかならないものだろうか。


 宿の運営を行いたい、という人がいれば是非とも来てほしいが、なかなかいないものだ。


 ……ミノタウロスにでも手伝ってもらおうか。

 珍しい種族の人間です、とか言っておけば通用するような容姿だしな。

 いや、それは最終手段だ。何かしらの問題を起こしそうだ。


 三人のところにも行きたかったが、ギルドにも用事があったので先に向かう。

 リリアたちに、他の迷宮の情報を調べてもらいたかった。

 ギルドに足を運ぶと、リリアがあくびをして、リリィがそんな姉を見て嬉しそうにはにかんでいた。


 彼女らのせっかくの時間を邪魔するつもりは別にないのだが、今は仕事中なんだしいいよな。


 近づいて事情を話すと、彼女たちはあっさりと了承してくれた。

 これでなにか、進展があればいいのだが。

 リリアは「あっ」と小さく息を漏らし、それから小首をかしげた。


「そういえば、さっきあんたのところの……新しく入った子? 一人訓練場に来てたよ」

「誰だ?」

「刀持った子」

「……了解だ」


 ドリンキンか。

 迷宮のあとにもかかさず訓練場に足を運んでいるのか。

 あまり頑張りすぎても怪我とかしないか心配だ。


「そろそろギルドも閉めるから。そのまま連れてきちゃって」

「了解だ。いつも、遅くまで悪いな」

「別に。これが仕事だし」


 ひらひらとリリアは片手を振る。

 そろそろ閉める時間ということもあって、冒険者の数も少ない。


 リリアとリリィは楽しそうに仲良く話している。

 

「あっ、リリア、リリィちゃん! 依頼達成したんだよっ!」


 明るい調子で冒険者が近づいてきた。

 冒険者たちをちらと見て、彼女らは小さく息を吐く。


「はいはい。すぐに処理するから」

「もうそんな冷たい態度とらないでくれよー。そうだ。これから食事とかどう?」

「一人で食べたほうが豪華に食べられるわよ」

  

 リリアがそんな調子で冒険者をうまくあしらっていた。

 ……相変わらず、冒険者たちから人気なんだな。

 

 美人で仕事できるしな。


 ギルドから訓練場へと向かう。

 ドリンキンはタオルで汗を拭いながら、帰り支度を整えているようだった。


 こちらに気づいたドリンキンが、少しだけ頬を緩めた。


「あっ……ルード、さん。どうしたんですかこんな遅くに」

「ちょっとな。最近あんまりみんなと話せていないから、少し時間を作ってきたんだ」

「そう、ですか」


 彼は持ってきていた刀を腰につけ直す。

 訓練場を離れるように歩きながら、彼に率直に聞いてみる。


「どうだ、パーティでの戦闘は。というか、パーティーの雰囲気はどうだ?」


 彼は口元を引きつらせた。

 まあ、答えにくいことだろう。


 少し、意地悪な質問をしてしまった。


「ティメオは、どうだ? よく、喧嘩しているんじゃないか?」

「その……えっと……はい」


 彼の性格の良さがよくでた間であった。

 俺が口元を緩めると、ドリンキンも苦笑を浮かべる。


「正直……オレはよくわからないです。今まで、一人でいることが多くて。……だから、どんな風に関わっていけばいいのかなって」

「少しずつ慣れていけばいいさ。ティメオは……能力はある。ただ少し、性格に癖があるのは確かだな」

「……はい」

「戦闘のとき、ティメオはどうだ?」

「……指示は的確、だと思います。それに、やっぱり……強い、です」

「ああ。あいつはよく周りが見えている。だから、気になってあれこれいうと思うんだ」


 視界が普通の人よりもずっと広い。

 それがティメオの長所であり、短所にもなってしまっている。


 彼はティメオをよく理解している。……まあ、大丈夫なんじゃないだろうか。


「随分と刀を振っているみたいだな」

「え、ああ……はい」

「無理はしすぎるなよ。無茶な特訓を続けて、体を壊してしまった人もいる。休めるときはきちんと休むことも大事だ。もしも、怪我をしたら……俺はもちろんだが、特にマリウスが悲しむだろうしな」

「……はいっ。無理しない程度に、がんばります」

「今度、打ち合いでもしよう」

「は、はい……ぜひ、お願いします!」


 ドリンキンが嬉しそうにはにかんだ。

 ……正直に言うと、俺もどのようにリーダーとして振る舞うのが正しいのかわからない。


 ただ、とりあえず……ドリンキンとはうまく話せたようだ。

 彼とギルドから出たところで別れた。少し、走ってから帰るそうだ。

 

 怪我しないようにとだけ伝え、俺は町を歩いていく。


 町を広げたため、ある一線からがらりと雰囲気が変わっている。

 アバンシアと冒険者街がはっきりと別れているおかげで、冒険者たちも滅多なことがない限りこちらまでは来ることがない。


 住宅街へと到着する。

 いくつか変わったこともある。

 前までは真っ暗だった町だが、今では明かりが確保されている。

 

 魔石灯がいくつか設置された。

 それらのおかげで、夜でも問題なく歩けるほどに明るかった。


 冒険者だけでなく、町の人たちも夜に出歩くことが増えていた。

 悪いことでは、ないと思う。俺はクランハウスへと向かう。


 クランメンバーにはとりあえず部屋を貸し出している。

 リリフェル、ティメオとも話をしたかったので俺も向かう。


 と、クランハウスの外に置かれているベンチに腰掛け、水を飲んでいるリリフェルがいた。


「あっ、師匠っ! どうしたのですか?」


 リリフェルはくりくりとした目を輝かせて近づいてくる。

 こう一方的に羨望を向けられるのは、嬉しさよりも恥ずかしさや緊張が生まれる。

 相手の期待を裏切りたくないという感情がふつふつと湧き上がってきてしまう。


「師匠っ、私達4階層まで行けましたよ!」

「ああ、ドリンキンから聞いたよ。思っていたよりもずっと早くて驚いたよ」


 道中でそれとなく迷宮の話もした。

 早くて、というとリリフェルは何かを思い出したようで表情に影が落ちた。


 ……まあ、それは少し狙っていたというのもあるんだけど。

 

「どうしたんだ? 4階層に到着して、嬉しくないのか?」

「嬉しいですよ……」


 だが、彼女の表情はどこか晴れない。

 確かに、4階層までいったときの戦闘は、どれもティメオが主だった。


 もしかしたら、彼女はそれを気にかけているのかもしれない。


「ルードさん。私達ってこのまま三人でパーティーを組んでいくのでありますか?」


 それは純粋な疑問だったのだろう。

 彼女の思いの込められた瞳がこちらを射抜く。

 

 そこに怒りや苛立ちといったものは見られなかった。


 意外だった。

 彼女がティメオに関して腹をたて、否定の言葉を並べるのだと思っていた。

 しかし、実際は違う。


「……私、まだまだ弱いです。たぶん、一人じゃ4階層にはたどりつけないです……。ティメオがいたから……私達は問題なくあそこまで行けたんだと思います」

「ティメオのこと、評価しているんだな。てっきり、嫌っているのかと思った」

「嫌ってはいますよっ」


 迷わず断言する彼女に、吹き出してしまいそうになる。

 だが、それから彼女は、小さく息を吐いた。


「……けど、実力は認めてますよ。あいつが強いのは確かでありますからね……けど、だからって……ああもう! なんであんなに何度も文句をつけてくるのですか!」

「どんな事を言っていたんだ?」

「チビーって言ってきたんですよ! 私はまだまだ成長途中なだけなんですよっ!」


 リリフェルはぶんぶんと腕を振り回し、むくれた顔をみせてきた。


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