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最強タンクの迷宮攻略  作者: 木嶋隆太
第三章

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特訓の成果


 彼らは結局、4階層に繋がる階段の部分で一度休憩をとった。

 ……迷宮の歩き方は伝えているんだよな。


 魔物が出現しやすい場所としにくい場所がある。

 あまり出現しない場所を見つけて、そこで適宜休憩をはさんでいく。

 

 そうでもしないと、体力がもたないことが多い。

 魔物との連戦とかもあるからな。


「ルード、どうする? あれではいつか、大けがをするぞ? あの生意気魔法剣士は、二人とは別にしたほうがいいのではないか? 実力的にも、離れているのだしな」

「けどな。いずれ、ティメオは下の面倒を見ないといけなくなるんだ。……というか、いまだって彼は冒険者の経験はなくとも、実力的には上に立てるくらいだ。……あの二人くらいの面倒は、見てもらいたい」


 それが、ティメオに求めていることだった。

 今すぐは無理だとしても、そういう立場が来ることも覚えておいてほしい。


 うちのクランはできたばかりだ。入ってくるとしたら新人冒険者ばかりになるだろう。

 ティメオはもうすぐに先輩になる可能性がある。

 ……それで、下に生意気な態度をとるのは、少し問題だ。


「……この迷宮に挑んでいる間は、問題ない。だから、次が最後の試練だ」

「試練? 何かするのか?」

「三人でひとつの問題に挑戦してもらうつもりだ」


 今のティメオは、下に見ている人間は切り捨てるような思考をしている。

 ……そうじゃない。

 パーティーでの話になるが、人がいれば何かしらの役割を与えられる。


 相手の短所ではなく、長所に着眼できるようになってほしい。

 ……そのためには――何か予想外のハプニングを用意してやるのがいいだろう。


「まあ、この迷宮にいる間はいくらでもできるがな。それでうまく行くか?」

「いってもらわないと困るな。……クランにしろ、パーティーにしろ。俺たち冒険者は色々な人とパーティーを組むこともあるだろう。まして、ティメオがいるのはクランだ。パーティーよりももっと多くの人と関わる。もう少し、うまく周りとやっていけるようになってもらわないとな」


 別に丸くなれ、というわけではない。

 彼があんな風な口をききながらも、もっと周りを気に掛けるようにするとかな。


「おまえの気持ちはよくわかった。そこまで考えているなら、出来る限りのことはしてみようか」

「ありがとな。ティメオともまた話してみる。ただ、彼が自分で気づく必要もあるからな。マリウスも、ほいほい助言ばっかりしないでくれよ」

「了解だ。あいつはおまえに任せるさ。リリフェルはもちろんだが、ドリンキンも色々たまっているだろうからな。そうそう。リリフェルはおまえとももっと訓練したいって言っていたぞ?」

「わかってる。そのあたりも含めて、あとでじっくり話してみるよ」


 最近はあまり彼らと話ができていなかったからな。

 もちろん、これから規模が大きくなればそういった対応はどんどん難しくなるだろうが、今くらいはな。

 特に、この時期に入ってくれた人たちは、将来このクランの代表になっているかもしれないしな。


「それで、試練と言っていたが、具体的には何かあるのか?」

「……ティメオ、リリフェル、ドリンキンは、例えば緊急事態にどのような反応をすると思う?」

「緊急事態? 例えばどんなものだ?」

「本来いないはずの魔物と遭遇した場合、とかだな」

「ふぅむ……」


 マリウスが腕を組む。


「オレの想像だが、ティメオはおそらくすぐには動けないだろうな。真っ先に動きだすのはリリフェルだ。それで、次はドリンキンだろうな。あいつもあいつで、意思は強い。なんとかしてみせようとするだろう。ティメオはその後くらいだろうな」

「そうだよな。俺も同じような感じだ」


 マリウスが言ったような流れで、恐らく三人は行動するだろう。

 彼はにやりと口元を緩めた。まるで、悪戯でも思いついたような顔だ。


「おまえ、なかなか悪いことを考えているな?」

「人聞きの悪い言い方はやめてくれ」

「だが実際そうだろう、このこの」


 ……まあ、そうなんだけどな。

 考えているのは、より上の階層にいる魔物を彼らが遭遇するような場所に配置してしまうというものだ。

 もちろん、配置した魔物には、殺さないように、と念を押しておくつもりだ。


「ここにいる間くらいしかこんな体験はさせてやれないんだ。だから、今のうちに予想外の出来事に遭遇してもらう。もちろん、今後の冒険者生活のためでもあるんだぞ」


 これから先、こんなものよりもっと大きな想定外に直面することも出てくるだろう。

 そんなとき、彼らが冷静に対処できるようになるには、日頃から想像しているか、実際に似たような場面に遭遇しているかだろう。


 ……俺だって、初めてユニークモンスターを見たときは驚いてしばらく普段の調子で動けなかったんだからな。


「はっはっはっ。まあ、彼らにはいい経験になるだろうな。よし、狙いは何階層にする?」

「5階層でいいだろう。あそこなら、色々と怪しまれないはずだ」


 区切りのいい階層では、特殊な魔物が出る可能性がある。

 みんなにはきちんと教えてある。

 誰かが気づいてくれたら教えた甲斐があるというものだ。


「配置する魔物はどうする?」

「……そういえば、ミノタウロスはどうなったんだ?」


 この部屋には、以前俺が作成した魔物たちがいない。

 ……みんなどこで何をしているのだろうか。


「ああ。今日も接客の練習をさせているぞ。別の建物でな。サキュバスやラミアたちに客役をやってもらってな」


 なにそれ気になる。

 ただ、今はリリフェルたちが大事だからな。

 こらえなければならない。……というか、はたしてマリウスが教えられたのだろうか。


 今は彼らはいいだろう。


「配置する魔物はフィルドザウルスにする予定だ」

「了解だ。5階層に彼らが入ったら、移動ができないように魔方陣をなくしてしまおうか」


 リリフェルたちは迷宮を移動する魔法を持っていない。

 なので、三人の攻略は基本的に徒歩だ。

 時間はかかるが、迷宮を往復する形になる。体力の配分や迷宮の歩き方を学ぶために、初心者冒険者がよくやらされているそうだ。


「できれば、他の冒険者は巻き込みたくないな……なにかそういう風にはできないか?」


 マリウスは少し考えてから口を開いた。


「ああ、可能だ。4階層から5階層につなぐ魔方陣を別のものにしてしまえばいい。今使っていない20階層へと転移させ、そこでフィルドザウルスと一騎打ちをさせればいいのではないか?」

「なるほど……それじゃあ一度20階層は調整をかけないとだな」


 そういうこともできるのか。

 まあ、ダンジョンウォークのスキルを持っていれば、現在の階層を把握できるため、すぐにばれてしまうだろう。


 だが、ティメオたちは持っていない。

 つながる点と点を入れ替えてしまっても、だれも気づけないな。


 彼とともに、20階層の造りを変えていく。

 ……うまくいくだろうか。


 今回の作戦の目的はもちろんティメオにある。

 彼の考えが少しでも変わってほしい。そう強く思っている。


 懸念事項はたくさんある。

 この迷宮に挑むように指示を出しているのは俺だ。


 だから、リリフェルやドリンキンは俺に不信感を抱くかもしれない。

 命の危険を感じるのだから。

 何より、迷宮がトラウマになってしまうかもしれない。


 正直迷っている。ただ、三人――特にティメオのことを考えれば、やっておきたかった。

 実行に移すかどうかは、彼らと話をしてから決めよう。


「ルード。そろそろ彼らも迷宮の外に出るところだぞ」

「わかった。それじゃあ、俺もそろそろ帰るな」

「まあ、待て待て。気難しい顔をしているおまえに一つプレゼントだ」

「なんだ?」

「こいっ!」


 彼がぱんっと手をたたくと、近くの空間がゆがんだ。

 そこから、ミノタウロスが飛び出してきた。


「相変わらず、人使いの荒いやつだ……」


 ミノタウロスは俺のほうを見て、はははと胸をそらすようにして笑う。


「貴様か。久しぶりだなぁ、人間。俺様はこれまでに多くの訓練をつんだ! 貴様に見せてやろうっ、これが、俺様の接客だっ!」


 そういって彼は笑みを浮かべ、こちらに近づいてきた。

 俺の手を握り、きらんと笑みを浮かべる。


「やあ、こんにちは。お待ちしておりました。今日はお客様、おひとりですか、お、お……お……く、ぅぅ。ふ、踏ん張れ、俺様……っ。お、お席にご案内いたします」


 そこまで言い切ったミノタウロスは猛烈な疲労を感じ取っていたのか、肩で息をしている。

 ……意外としっかりしているな。

 

 後は途中露骨に接客しているのを嫌がる態度さえなくせば、完璧だ。


「凄いじゃないか、ミノタウロス。まさかここまでできるとは――」


 ちょっと大げさに褒めてみる。しっかりできたらきちんと褒める。

 この前、ペットの飼い方について町の人に聞いたのだ。


「ふ、ふふふーっ! そうだろうそうだろうっ! 俺様は天才だからな。この程度は当然できるんだ。わかったか、愚民が! はぁーはっはっ!」


 おお……効果抜群じゃないか。

 叱りつけるときはしっかり叱る。それもまた大事だそうだ。


 高笑いしているミノタウロスは放置して、それよりも気になったのはマリウスだ。


 俺が一番驚いたのはどちらかといえばそっち。

 ミノタウロスが覚えられたということはそれを指導できた人間がいるというわけだ。


「マリウス、こんな完璧な接客をどこで学んだんだ?」

「店で見て学んだのと、ケンセイだな。挨拶を基本に、相手を思う言葉を並べる。それが接客の基本だと言っていた」


 ……マリウスもちゃんと先を見据えて勉強していたんだな。


「まあ、ルード。そう難しく考えるな。失敗したら反省してまたやり方を変えればいいだけだ。生きている限り、いくらだってやり直しはできるんだからな。迷宮とクランを密接に利用しているクランなんて、今までにはないんだ。そりゃあ、色々と手探りだろうさ」


 どうやらマリウスも俺のことを気遣ってくれていたようだ。

 それに感謝しながら、俺は迷宮の外へと出た。

 とりあえず、三人と話し合ってみよう。



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