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 魔物たちを見ている場合ではないな。

 俺も自分の仕事をしなければならない……いやまあ、これは全部マリウスの仕事なんだけどな……。


 俺は手元の紙に視線を向ける。

 ざっと文字を眺めていき、定期的に入っている果物を増やしてほしいという文字。これはリリアたちの要望じゃないか。後回しだ。


 冒険者たちの純粋な意見を取り入れていかないとな。

 町と迷宮は切り離せない関係だ。


 迷宮が面白いもの、稼ぎやすいもの、外皮を鍛えやすいものであれば、それだけ町に人が来る。

 町が盛り上がれば、冒険者が増え、クランもにぎわっていくだろう。

 クランに入ってくれた冒険者を、アバンシア果樹園迷宮で鍛え、いずれは彼らの自由に冒険をさせる。


 旅先で、うちのクランについて話をしてくれる。過ごしやすい町と聞いてベテラン冒険者が来るかもしれない。

 そしてまたクラン、町は盛り上がっていく――。


 これらはすべてマニシアが話していた内容だ。天才すぎる。さすが俺の妹だ。

 だから、そのためにも迷宮をよりよいものにしなければならない。

 ……まずは、迷宮の構造か。


 迷宮の構造自体は難しいとは感じていないようだ。Cランクまでの冒険者がバランスよく攻略できると、それなりに評価が高い。


 それでも、いくらかの不満はあるようだ。

 いくつか、細い道があったり、一か所に魔鉱石と薬草が集まっているのが、現在では採掘場の取り合いになっていて、問題となっているようだ。


 冒険者同士で、奪いあいの喧嘩も発生しているようだ。

 特に、低ランクの冒険者たちはそれで苦渋を飲まされていることもあるようだ。


 ……魔鉱石と薬草は、冒険者の街で購入したものがまだ残っていたはずだ。

 ランクでいえば、C程度までの魔鉱石と薬草がある。

 

 だからといって、すべての意見をそのまま叶えるのも難しい。

 例えば、低階層にC程度の魔鉱石をいくつも設置するのは良くない。


 値崩れなどが起きてしまう可能性がある。

 それに、迷宮内の素材はエネルギーを用いて複製を行う。

 

 迷宮のエネルギーを確認する。

 現在あるのは、5000エネルギーほどだ。階層を一つ作るための……工事を行うために、300のエネルギーが必要になるようだ。


 現在の迷宮の階層は15階層までか。とりあえず、新しく階層を増やす必要はあるだろう。

 マリウス曰く、20階層が目標といっていたのだし、とりあえずはそこまで増やすとしたら、1500エネルギーがかかる。

 これはまず確定分として残しておこうか。

 

 魔物の複製などにも追加でエネルギーが必要になる。

 それらのエネルギーは、現在15階層までで、一日あたりの平均が出ている。

 ……一日あたりの運営にかかるエネルギーは2000ほどか。


 他に参考にできるものがないため、これが節約できているのかどうかはわからない。

 とりあえず、一日当たりの獲得エネルギーも日ごとに出ている。


 冒険者たちから回収できているのが2500ほどのようで、まあぎりぎり利益はあがっているようだ。


 ただ、変化がないと冒険者たちも飽きてくる。特に、アバンシアはまだ観光地としてそれほど力があるわけじゃない。


 最近では宿屋が増えてきたとはいえ、それでもまだ訪れる冒険者すべてを受け入れられるほどじゃない。

 住みやすい街で冒険者を続ける冒険者もそれなりにいるだろう。


 アバンシアの魅力は俺からすれば多いが、社会的に見れば、果樹園があるくらいだ。

 別にアバンシアに拘らなくても、近くの街なら多少値段はあがっても同様の果物が食べられる。


 だから、迷宮にどれだけ人を惹きつけられるか……。

 今後の魔物の配置なども考えないとな。


 難しすぎず、簡単すぎず。

 程よい緊張感が一番外皮の成長にも繋がる。


 迷宮の画面を触れて操作していく。

 魔物一覧? それを開いてみると、現在いる魔物たちのランクが表示された。


 ……ラミア、サキュバスはランクCか。ランクDだと思っていたんだがな。

 ミノタウロスはAか。……それで、あれだけの啖呵を切ってきたんだな。 


 魔物のランクは迷宮ではあてにならないか。

 この前のスケルトンで嫌というほど身にしみているしな。


 魔物たちが騒がしくなっている。

 気づけば全員を巻き込んでの追いかけっこが始まっていた。


 ……まるで子どもだな。

 おまえたちは魔物という自覚をもう少し持ってほしいな。


 まあ、そもそもだ。

 俺は迷宮の中を映す池に手をかざす。

 迷宮の権利のすべてを一時的に俺へ贈与している馬鹿な守護者をそこに映し出す。


 他の部屋でミノタウロスに必死に指導しているようだ。

 ……そういえば、マリウスは冒険者の街であちこちの店に回っていたらしいな。

 それらを参考にしているのかもしれない。


 ミノタウロスは羞恥にまみれた顔で必死にマリウスから接客の指導を受けている。

 意外と真面目なんだな。


 何度か浮かんでは消えていた疑問が、また形になった。

 ……守護者ってのはなんなんだろうな。

 外皮を削って得られるエネルギーを使って、人間のためになるものを複製している。


 そうとも捉えられるが、マリウスがやったようにある程度誘導して魔物を冒険者にけしかけることもできる。

 そもそも、マリウスは俺たちに襲いかかってきている。今でこそ和解しているが、もともとは敵同士だ。

 

 人間のため、なのかな、本当に。

 教会も守護者を討伐することを勧めている。

 それっておかしくはないか? 教会は神を崇めているはずだ。


 知らないこと、わからないことが多すぎるな。

 教会は何か知っているのだろうか。

 前にニンに聞いた事があるが、彼女もそのあたりは詳しく知らないと言っていた。


 それにミノタウロスは魔界といっていた。

 魔石による生成は魔界から魔物を召喚しているのだろうか……?

 疑問を抱いても答えが出るわけではない。


 考えすぎても仕方ないのかもしれないが、俺はクランリーダーとしてこれから自分の仲間に危険な迷宮攻略の指示を出すこともあるだろう。

 ……そんな得体のしれない場所に彼らを送り込む、か。


 もっと色々と知っておきたいな、リーダーとして。

 知らないままでは好きなように使われてしまう。


 それは、人だけじゃないか。

 魔物たちだって、このよくわからないシステムで、複製されて戦っている。


 考えても仕方のないことばかりだな。

 とりあえず、迷宮の再構築を始めようか。


 1から15階層までの構造を見直し、5階層ごとに景色を変えることにした。

 まったく変わらない風景で戦い続けるのも苦しいからな。

 とりあえず、初めの5階層はゴブリンなどを主体にした平原の階層だ。


 その次は中央に大きな川が流れた6から10階層。木々を多く設置し、ゴブリンたちが奇襲を仕掛けられるような造りにした。

 ゴーストも設置されているため、冒険者たちからすればそれなりに苦戦するだろう。


 ここではゴブリンリーダーが出現する。Dランク程度の冒険者なら問題なく突破できるだろう、

 それほど冒険者たちが面倒と感じることはないだろう。まあ、不満があればそこはまた調整だ。


 その次、11から15階層は廃墟を増やしてみた。

 ゴブリンリーダー、アックスオーク。さらには15階層には時々レアモンスター的な感じでフィルドザウルスも配置している。ここにくる冒険者はCランク程度の想定だ。


 16階層から18階層は、フィルドザウルス、ラミア、サキュバスを出現させるようにした。


 より上の階層に出現する魔物のほうが強い、という冒険者の常識を伝えると、三体はばちばちとにらみ合い、じゃんけんを始めた。


 この三体はそれぞれの実力的にそれほど変わらない。別にどいつがどこになってもそう変わらない。

 その結果、この並びで配置ということになった。


 フィルドザウルスもじゃんけんをしていたが、うまく退化した前足を使えず、パーばかりになってしまっていた。がくりと肩を落としていた。

 この5階層も初めの1から5階層までと同じ景色のものを使った。


 ……迷宮内の構造も色々と変えたいんだが、それらにも、エネルギーが必要なんだ。

 これ以上使うのは厳しい。


 19階層は三体を適当に出現させるようにした。


 そして、問題は20階層だ。

 ここはまだ、到達はできないようにしてある。

 マリウスが今後どうしたいのか。彼自身で作ってもらいたい。


 迷宮の調整は完了だ。

 ……冒険者から不満がでないように意識したが、どれほど効果があるかはわからない。


 席を立ちあがると、ゴブリンが飛んできた。

 どうやら、魔物たちが訓練しているようだ。受け止めてやると、ゴブリンはきらきらとした目で俺を見上げてきた。


 くしくも、お姫様抱っこのような形になった。

 魔物たちがそれぞれ戦って、お互いに鍛えあっているようだ。それについては何も文句はない。


 あれは……ヒュー?

 俺についてきていたヒューも戦いに加わっていた。

 だがっ!


「お、おいヒューマンスライム! マニシアの姿で戦うのはやめるんだ!」


 もちろん、体は液体のままだ。けれど、その造りはマニシアそのものだ。


 へ? という感じで振り返ってきたヒューマンスライムが殴りとばされる。

 マニシアが傷つけられたみたいな気分になる。


 サキュバスとラミアたちを見やり、俺は挑発を放つ。


「訓練をしたいのなら、俺も相手してやるからな」


 それから、俺は、彼らの攻撃すべてを防ぎきり、彼らのスタミナがつきるまでつきあった。


 マリウスとミノタウロスは、まだ接客の訓練を行うそうなので、今日はそこで解散となった。


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