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新種の魔物



「残っている魔石と素材もすべて投入してみようか」


 マリウスがそんなことをぽつりと呟いた。

 ……確かに、このままいつものように挑戦していても言葉を話せる魔物はできそうにない。

 

 当たりではある。だが、大当たりではない。

 大失敗に終わる可能性もあるが、それなら次にいかせばいい。


 一度、やり方を変えてみるのはいいかもしれない。


「やってみようか」


 マリウスが残っていた素材をすべてこちらに持ってくる。

 ……さて、どうなるだろうか。


 ダメならダメで、また別の方法を考えるしかないだろう。

 用意された魔石と素材に片手を向ける。

 エネルギーと魔力を注いでいくと、それらが融合していくのがわかる。


 ただ、まだ足りない。

 俺はさらに込めていく。同時に、気持ちも込めていく。

 ひときわ強い光が現れた。


 衝撃が周囲へと抜ける。

 爆風とも呼べるほどの勢いに俺たちは顔を覆う。

 やがて、すべてが収まったそこには人型の魔物がいた。


 全身は日焼けしたかのような茶色だ。その頭には鋭い角が二本、空へと向かって伸びている。

 牛特有のしっぽが揺れた。その男は片手を顎に当てる。


「ほぉ、貴様が俺様を作り出してみせたのか。なんだ、ただの人間ではないか」


 声をあげた。

 それに驚きながらも、俺はまずは対話を試みる。


「作ったのは俺だが、この迷宮の管理はこいつがやっている」

「はっ、なんでもいい。俺様は雑魚の言うことなど聞きはしない」


 そうミノタウロスが吠えると、それを聞いていたオークがいら立ったように立ち上がる。

 斧を持つオークは、軽く鼻を鳴らした。

 ミノタウロスがはっ、と吐き捨てるように笑う。


 それから片手で髪をかきあげ、そこで見下すようにオークを見た。


「貴様。たかがオークの分際で俺様に何か用事か?」

「……」


 オークが何度か鳴いた。

 それから斧を振りぬいた。しかし、ミノタウロスは片手を振りぬいた。

 彼の右手にも斧が出現し、お互いの武器がぶつかりあう。


「どうした? 威勢のわりに、ずいぶんと貧弱な力だな?」

「……っ」


 オークの斧が砕け散った。衝撃にオークがはじかれる。

 ミノタウロスは一層笑みを濃くし、斧を肩にまで持ち上げた。


「この程度の雑魚が、俺様に歯向かうとはな」

「……」


 オークはそれでも何かを言いたそうに鋭い目をミノタウロスに向けていた。

 ミノタウロスの両目がちらと俺を見てきた。

 

「さて、俺様を作りあげた貴様。まあ、この程度の魔物しか従えていない魔物の王など、たかが知れているがなっ」


 魔物の王ではないのだが。

 ミノタウロスが嬉々とした様子で俺へと斧を振りぬいてきた。


 重い一撃であるのはわかるが、動きは単調だ。

 俺は取り出した盾で受け止める。


「さすがに、この程度は止めるか。だが、俺様の力はこの程度では――」


 ミノタウロスがさらに力をこめてくるが、それにあわせ俺も力をあげていく。

 お互いに間近でにらみ合う形になる。

 ミノタウロスの笑みが濃くなっていく。


「な、なかなかやるじゃないかっ。どれ、そろそろ本気を――」


 ミノタウロスがさらに力を込めていく。

 ただの押し合いなら、負けるわけにはいかない。


「えっ、ちょっ……も、もう俺様限界なんだが……っ」


 ミノタウロスの声が情けなく震えた。

 俺はさらに力をこめてやり、その体を盾でつぶすように殴りつける。

 ミノタウロスの体が吹き飛ぶ。ミノタウロスは、斧を地面に突きさし、呼吸を乱す。


「オークはうちの大事な仲間なんだ。傷つけるようなことはしないでくれないか?」

「……くそっ。馬鹿な! 俺様が、貴様のような人間に……っ。ならば、次は貴様だ!」


 ミノタウロスは斧をつかみなおし、マリウスへととびかかる。

 マリウスはすでに刀を構えていた。

 神速ともいえる一撃で、ミノタウロスの手元を打ち抜いてみせた。


 ぽろりと、斧をこぼしたミノタウロスは先ほどまでの勇ましい様子とは打って変わって、がたがたと震えだした。


「き、貴様ら……何者だ……。俺様は最強のミノタウロス・グロウ、だぞ……っ。魔界でも上位の魔物、なんだぞ……っ」


 ミノタウロス・グロウ? 聞いた事もない名前だ。

 魔界は人間と敵対した悪魔たちが住み着いているといわれている世界だ。


 すべての魔物は魔界からこの人間界にやってきて、繁殖し、今の世界が出来上がったといわれている。

 それにしても、変なものを作り出してしまったな。


 ただ、大量に魔石をぶちこめば何か異常なものができあがるのはわかった。

 今回は俺たちで押さえられる魔物が出来上がったからいいが、それこそ壊滅させられるようなのができていたら――。


 そう考えると、迂闊になんでもぶちこむのはよくないな。

 料理と同じだな。前に全員で集まって、鍋に適当に食材をぶちこんだことがあったが、あのときは酷かった。

 まあ、『健康体』のおかげで腹を壊すことはなかったが。


 マリウスはミノタウロスの言葉など無視して、笑顔でその体を引っ張り起こした。


「ルード! 迷宮への魔物の設置とかはおまえに任せるなっ。オレはこいつに接客を教えてるっ」


 おまえに教えられるのか?

 そんな疑問は浮かんだのだが、別に俺が教えられるわけでもないため、そのまま見送ることにした。

 頑張れよミノタウロス。


「せ、接客など、するわけがなかろうっ! 俺様は……っ!」

「いいからこっちにこい。ほら、燕尾服だ。早く着るんだ」

「ふ、ふざけるなよっ。誰が貴様の命令なんて……っ」


 しかし、ミノタウロスはなかなかいうことを聞いてくれる様子がない。

 さて、どうするのだろうか。

 少し参考にしたい部分もあった。俺も自分のクランメンバーに生意気なことを言う奴がいるからな。


「居合が次は体を切り裂くかもしれないぞ?」

「そ、そんな脅し……俺様につ、通用するわけが……ないだろうっ!」


 ミノタウロスが隙をみて斧を掴みなおす。

 振りぬいたが、それより早くマリウスの居合がぶつかる。


 ミノタウロスが再び斧をつかんだが、マリウスが素早くそれを吹き飛ばす。

 宙をまった斧はゴブリンの眼前に落ち、びくりとゴブリンがはねる。


 乗っていたサキュバスが背中から派手に落ちた。

 あのまま落ちたら危険だろう。俺はとりあえず、『犠牲の盾』で代わりに受けといた。

 

 ミノタウロスは頬を引きつらせたあと、燕尾服を受け取った。

 ……あれは参考にはならないな。

 ミノタウロスとマリウスは別の管理室へと移動していく。


 結果的に、とても静かになった。

 サキュバスは驚いた様子でこちらを見てくる。


「大丈夫か?」

「……」


 頬を僅かに染め、彼女はぷいっとそっぽを向いた。

 今回作った三体の魔物は全部俺に懐いていないな。

 こういうこともあるんだな。


 とりあえず、マリウスに頼まれた仕事でもしようか。

 実は、事前に迷宮に関する情報は集めてある。


 リリアたちから迷宮の苦情というか要望をまとめた紙を受け取っている。

 受け取ったのはここに来る前なので、俺も見ていない。マリウスと一緒に見る予定だったんだが、仕方ない。


 表紙に描かれたお世辞にもうまいとは言えない絵は……リリィだな。

 リリィはお絵かきが好きだった。だいたい、迷宮で休憩をしているときなんかは、そこらの地面に木の枝や杖で絵を描いていた。


 表紙をめくる。

 冒険者たちが感じていることが羅列されていた。


 俺の近くにはヒューマンスライム、サキュバス、ラミア、フィルドザウルス、ゴブリン、ゴブリンリーダー、ゴーストがいる。

 今この迷宮にいる魔物たちが勢ぞろいという感じだ。


 フィルドザウルスはそのままの姿ではあまりにも邪魔になるので、小さくなってもらう。

 この迷宮内であれば、そういう融通が利くようだ。

 フィーとそれほど変わらない感じか。ただ、凛々しい目つきで子どもではないのだとわかる。


 文字を覗き込んできた彼らだったが、文字が読めるはずもない。

 ていうか、邪魔だ。近い。

 目で訴えかけるのだが、彼らはそれぞれの鳴き声をあげるだけだ。


 文字が見たいというのなら……。

 俺はまだ見る予定のない紙を後ろからとって彼らに渡す。


「これでも読んでいるか?」


 サキュバスが俺の手から奪い取るようにとった。

 それをスライムがえいっと手を伸ばして奪い取ろうとする。


「破いたら怒るからな」


 それだけはきちんと伝えておく。

 しかしサキュバスはあっさりと逃げる。翼を広げ、遠くにいこうとしたところを、ラミアが尻尾で巻き取る。


 紙が宙をまう。フィルドザウルスがばくっと噛みついた。


「食べても怒るからな」

「フィア!」


 フィルドザウルスが理解したように鳴く。


 その衝撃で紙が宙をまう。ゴブリンの頭におちて、ゴブリンがそれを掴んで走り出した。


 わーわーとそこで追いかけっこが始まった。

 楽しそうだな、おまえたち。


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