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迷宮のエネルギー


 十分に、エネルギーがたまった、というので、俺はアバンシア果樹園迷宮へと来ていた。

 迷宮の大改革を進めようという話だ。


 今日やる予定は、冒険者の街で購入したランクの高い魔石の魔物化。

 既存の魔物たちの進化。

 また、迷宮の階層を20階層まで増やしていくというものだ。


 迷宮に入ると、マリウスがすぐに俺を管理室へと移動させてくれた。

 いつの間にか二つの椅子があった。

 彼の隣に腰かけると、マリウスは笑みを浮かべた。


「さてルード。これから迷宮の改革に向かおう」

「……それはわかったが、20階層に作る予定だった遊び場の目途は経ったのか?」

「それについては……色々と検討しているところだ。もういっそのこと、1階層にそれを造ってしまうのもありなのではないかと思ってな」

「まあ、階層はいくつでも大丈夫だろうけど……結局、人を呼ぶのなら話が出来る魔物がいないとだろ?」


 まさか俺たちで接客するわけにもいかないからな。


「それも含めて、これから魔物を作っていけばいいだろう。さて、とりあえずルード。頼む」


 そういって彼は魔石を渡してきた。

 

「これは何の魔物の魔石だ?」

「サキュバスだな。サキュバスといえば、人型だろう? だから、これならどうかと思ってな」


 ……確かに、他のゴブリンなどよりは接客ができそうな魔物ができそうだ。

 夢魔と呼ばれる種の魔物だ。

 奴らは色々といて、そのランクは多種多様だ。というか、それほどあてにならない。


 人間の魔力を吸うことで成長していくため、ランクはあってないようなものだ。

 成長する魔物、として恐れられている。

 魔石のランクがBということは、それだけ魔力を獲得していたのだろう。


「今回は合成じゃなくて復活、みたいなものだな。だから、魔石と素材だけあればいい」

「……別に俺がやらなくてもいいだろ」


 魔物に懐かれるのが結構大変なのだ。

 ヒューなんて、隙あるごとにぺたぺたくっついてくる。


 今はいいが冬になったら、な。あの冷たさは地獄だぞ。


「おまえの溢れんばかりの妄想力に賭けたいんだ。ちなみに、こっそり挑戦したオレはすでに一つの魔石を失敗で終わらせているんだ」


 ……なるほどな。

 失敗しても文句言うなよ。

 俺は以前と同じように、魔石と素材に魔力とエネルギーを込めていく。


 やがて光があふれ、それが収まるとそこに人型の魔物がいた。


 肌は紫に近い。局所を覆う程度に、衣服もあった。

 ただ、サキュバスらしさの欠片もない貧相な体だった。


 ボンキュッボンなサキュバスを想像していた俺は、眉根を寄せるしかない。 

 幼児体型の彼女は、こちらをちらと見て、ふんっと冷たくそっぽを向いた。


「……これは失敗、じゃないか?」


 別にマニシアとは顔が違うのだが、雰囲気が、幼少期のマニシアに似ている。

 ぼーっとしたような冷たい視線でこちらを見据えてくる。


 ……あれだな。最近マニシアが俺に甘えてばかりで、冷たい態度をとってくれないからだな。それが如実に表れてしまった結果だろう。


 どこかぼーっとしたような顔で、彼女はバカにするように口元を緩める。


「いやいや、可愛い子ではないか。あとは話ができればいいのだが……言葉わかるか?」

「……?」


 言葉は理解しているようだ。サキュバスは口を開いているが、何を言っているかはさっぱり理解できない。


 マリウスががくりと肩を落とした。


「ダメだな……やはり人間の言葉を話せる魔物はできないのだろうか」

「……ランクの高い魔物が、話をするというのは聞いたことがあるな」

「……となると、街で買えるような魔石ではさすがに難しいか?」


 どうなんだろうな。

 マリウスが作った魔物たちは普通のものよりも知能は高い。

 あと少し、きっかけがあればどうにかなりそうな気もしないでもないが。


 サキュバスに気付いたゴブリンが頬を染めて近づく。

 こいつ、ひとめぼれしたのだろうか。確かに、見た目の大きさは似たような感じだ。

 ゴブリンが気さくに声をかける。サキュバスはふーんと目を細める。まさに、他者を見下したような顔だ。


 サキュバスが地面を指さすとゴブリンは嬉しそうに鳴いた。

 そして、四つん這いになる。サキュバスがその上に座った。


「……仲がよさそうだな」

「まあ、それならいいさ。一応、服も用意してあるんだ。最小限のエネルギーでどの程度のものがつくれるか……それがこのメイド服だ」


 マリウスが取りだしたメイド服は、サキュバスに対しては大きい気がした。


「ぶかぶかじゃないか?」

「安心しろ。体に合わせて自動で変化する」


 そういう付与魔法はあるな。

 きちんと、マリウスは考えていたようだ。

 サキュバスにマリウスが服を渡す。


 するとサキュバスは、両腕を俺のほうに伸ばしてくる。


「着替えさせてほしいそうだ」

「そのくらい自分で着なさい」

「……」


 ん、んと駄々をこねるように手を何度も伸ばしてくる。

 ……まったく。

 

「今回だけだからな」


 俺はそういってサキュバスにメイド服を着させた。

 というか、上からすぽっとはめるようにしたらあっさりといった。

 ただ、彼女の翼までも一緒に服に入れてしまったため、物凄く不機嫌そうな顔をしている。


「とりあえず突き破っておけばいいぞ」


 マリウスがいうと、サキュバスはすかさず翼を広げた。

 背中の部分から翼が伸び、サキュバスは自慢するようにこちらへ顔を向けてきた。


 なんつー力業だ。

 サキュバスは満足そうに腕と足を組んだ。

 そうして、指先で靴の先を指さした。


「舐めることを許可するそうだ」

「ゴブリンに譲るよ」

「……ゴブっ!」


 ゴブリンが嬉しそうな顔をして、その顔をサキュバスが蹴りつけた。

 それでも幸せそうである。おまえ、それでいいのか。


「さて、一体目は成功だな。あと残っているのはラミアとミノタウロスだ。どっちから行く?」


 これで成功だろうか……まあ、成功、ではあるのだろうか?

 もうよくわからん。


「よし、ラミアで行こうか。ルード、おまえのシスコン力なら、きっと可愛い魔物になるはずだ! あっ、かっこいい魔物にしてくれてもいいからな?」

「人をシスコン呼ばわりするんじゃない」 


 すぐに次の制作へと向かう。 

 魔石と素材を使い、先ほど同様にエネルギーを注ぎ込むと……。


 そこには下半身が蛇の魔物がいた。

 尻尾を突き刺すようにして背筋を伸ばしているラミア。彼女はどこかつんとした態度をとっている。

 こちらはかなり胸が大きい。俺の思いが通じたらしい。ラミアは長い舌をちろちろと伸ばしている。ただ、非常に目つきが悪い。意図的にやっているのか、まるでチンピラのようだ。


 俺が成功報告をするためにマリウスを見る。


 なんかサキュバスが分身していた。ゴブリンの端から端まで乗っていて、ゴブリンの四肢がぷるぷると震えている。


 お前大丈夫なのか!? ゴブリンは……幸せそうだ。


「マリウス、何をやっているんだ」

「おお! これで二人目かっ、さすがだなルード。とりあえずさっきのサキュッちゃんを分身させてみた。あれだ。迷宮に配置するのと同じだな。手っ取り早く数を増やすために、髪形を変えてみたんだがどうだ?」

 

 こちらを見てくる彼女は片目を前髪で隠しているものと、通常の背中のあたりまで伸びた髪型のものと、サイドテールに縛った者がいた。


「……確かに見た目は同じだが受ける印象が違うな」

「まあ、サキュバスはあくまで実験だ。彼女らは変身のスキルを持っているからな。相手の理想の姿に変身することも可能だから、サキュバスの心配はない。どちらかといえば、それができない他の魔物のための実験だな」

「サキュバスは他の者に変身できるのか……ちょっと、やってみてくれないか?」


 そういうとサキュバスはふーんと腕を組んで顎をあげる。


「マニシアに変身できるのか?」

「出来るんじゃないか。こいつらはある程度おまえの知識を基本に生成されているからな」


 サキュバスはぴくりと眉尻をあげる。

 不愉快そうに唇を尖らせた彼女は、それから片手を振った。


 そうすると彼女の体が変化した。

 ほとんどマニシアそっくりだ。ただ胸が異様に大きかった。


 さらに、サキュバスは服装も変化させていく。

 ……見事だな。マニシアは何を着ても似合う。


「ありがとな。もう大丈夫だ」


 サキュバスは元の姿に戻り、こちらをじろっと睨んでくる。

 ……いまいち、サキュバスの態度がよくわからないな。


「ルード、こっちが本命だ」


 マリウスの方を見るとラミアがいた。

 ラミアもメイド服に着替えていて、その頬は少し赤い。


 両目は鋭くとがっているが、ただ時々メイド服のふりふりに触れて頬を緩めてもいる。

 ……着れて嬉しいという感じか。とにかく、よく似合っていた。


「髪型とあとは服を変えれば、全員別の子に見えなくもないだろう?」

「思っていたよりも、な」


 あとは眼帯とかで顔をもう少し隠せれば、もっと分からないだろう。

 というか、両目眼帯で隠してほしいくらい、目つきが悪い。

 「何見てんだゴラッ」みたいな感じだ。


「問題は男、だな。これだけ女が集まっていては、女が集まってくれない。頼むぞ、ルード」

「……頼むぞって言われてもな」


 最後に残っているのはミノタウロスか。

 牛のようなあの魔物は、ゴブリンやオークに似たような不細工と呼ばれる顔の魔物だ。

 

 一体どうなれば、かっこいい魔物になるのだろうか。

 失敗しても、文句言うなよな……。

 俺は魔石と素材に片手を向けた。








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