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川遊び


 一週間ほどが経過した。

 ティメオたちの面倒を見ていた俺たちだったが、この日だけはそろって休日にしている。


 この一週間毎日朝から晩まで迷宮に行ったり訓練をしたりしていたからか、全員くたくただ。

 ティメオだけは、「平気ですよ。よゆーです、よゆー」とか言っていたがさすがにいつもの調子はなく、パーティーでも喧嘩を吹っ掛けることもなかった。


 常に疲れさせておけば、おとなしいかもしれない。


 いや、俺は途中に何度か休みを入れてはいたんだけどな。

 彼らはその休みをつぶし、それぞれの分野を伸ばすための訓練を行っていたそうだ。

 その結果……三人とも今日は宿で一日休んでいるらしい。


 というわけで、俺たちは川へと来ていた。


 今年はまだ川遊びをしていなかったこともあり、町の子どもたちも誘っての大所帯だ。

 この町は近くに川があることもあって、夏には何度か、川で水遊びを行うことがある。


 今年は忙しく難しいかもと思っていたのだが、ニンが水遊びをしたいといいだしたのをきっかけに、とんとんとんと計画は進み、今に至る。


「いやぁ、今日も暑いな……」


 マリウスが片手であおいでいるが、あまり効果があるようには見えない。

 彼も水着に身を通している。見ためは人間とそう変わらない。引き締まった体をしている。


 その隣にいたシュゴールが、首を傾げた。

 最近は教会関係で別の街にも行っていたらしく、こうして会うのはずいぶんと久しぶりだ。


「そういえば、新しく入った三人の子たちは、どうしたんですか? 今日遊びに来ていないようですけど」

「ああ、あいつらは今日は休みだ。さすがに体が動かないそうだ。マリウスがしごきすぎたってのもあるだろうな」

「は、ははそうなんですか……マリウスさん、厳しそうですしね」

「そんなことはないぞ。普通だ普通」


 マリウスが迷宮に彼ら三人を連れていき、連携について教えている。

 リリフェルに関しては、俺が個人的に教えていて、刀の扱いはマリウスが、魔法の扱いはニンやルナが教えている。


 そのためか、彼らの腕はかなり上達している。

 一番成長が遅いリリフェルは俺のせいなのではないか、と思わずにはいられないほどだ。


 教える側というのも難しいものだ。そんなことを考えていると、マニシアがやってきた。

 可愛らしい水色の水着を着用した彼女は、川辺に咲いた一輪の花……いや、天使だ。


「兄さんもこっちにきてください。水が気持ちいいですよ」


 川の浅い部分に入りながら、マニシアが声をあげる。


 一番はしゃいでいるのはマニシアだろうか。

 昔は体が弱く、外で遊ぶことなんて年に一度ある調子のいい日くらいだったか。

 これまでに彼女と遊んだ回数は、十回だ。いずれも、三十分もしないうちに体調を崩してしまったのはよく覚えている。


 そんなマニシアが、太陽にも負けない笑顔を浮かべて川で遊んでいる。

 こんな日がくるとは思わなかった。感動で涙が噴出しそうだ。


「一応、俺たちは魔物の警戒も行っているからな」


 俺は隣に並ぶ二人に視線を向ける。

 シュゴールとマリウスがそこにいる。

 彼らも水着こそ着ているが今回は、魔物の警戒も行ってる。


 シュゴールと協力し、一定時間に一度探知魔法を放ち、周囲に魔物が近づいていないかを確認していた。

 子どもたちもいる以上、俺たちが気を抜くわけにはいかない。


 そう考えていたのだが、マリウスがとんと肩を叩いてきた。


「ルードは遊びに行ってくればいいだろう。何かあったときはすぐに呼ぶしな。なあ教会の色男よ」

「そうですね。それに、僕はあまり水が好きではありませんので」

「そうなのか」

「はい。昔溺れかけましたから」


 にっこり、と微笑むシュゴールはそれから川で遊ぶ女性たちへ目を向ける。


「ですが、女性の水着を見るのは好きです」

「確かに、あれほど露出しているのはこちらとしては心躍るものがあるな。何より、あれほどのスレンダーな女性たち……うつくしいな!」

「スレンダーではありますが、少々胸が残念な気がしますね」


 ……それはそのとおりだな。

 マニシア、ニン、ミレナ、フィール、リリア、リリィ……俺の友人たちはどうにもそこが残念だ。


 なんなら、アリカやラーファンのほうが大きい。ていうか、リリフェルのほうが大きいか? いかんいかん。こんな思考は失礼だ。何より俺の命が危険だ。


 しかし、マリウスは顎に手をやって首を傾げた。

 

「別に胸など大きくなくても構いはしないだろう。オレとしては、あの手に納まるくらいがちょうどいいとおもうが」

「いえいえ、それはこぼれんばかりの胸を触ったことがないからですよ」

「なに?あるのか?」

「……ありませんが。歩くたび揺れるのを眺めている。それだけで幸せになりませんか?」

「……ふぅむ、まあ見ている分にはいいが、どうにもオレは戦闘中のことを考えてしまうな。それほど大きいと邪魔なのでは、とな」

「なるほど。ですが、それに苦しんでいる姿を見るのもまたわくわくしませんか?」

「いや、それならば胸が薄く悩んでいる女性を見るのもまた一つの楽しみではないか?」

「なるほど……これはなかなか難しい問題ですね。ルードさんはどうですか?」


 俺か? 俺はもちろん大きいほうが好きだ。

 そう言いかけたとき、肩を叩かれた。

 冷たい感触がじわりと肩から広がる。振り返るとニンがいた。


 冷たいのはあれだよな。ニンの手が濡れていたからだよな? それ以外の寒気も感じ取れたのだが……。

 たとえるなら殺気だろうか。


「ルードもこっちきて遊ぶわよ! シュゴールたちも、そんな肩ひじ張らずに、川で遊びなさい!」

「いえ、僕は泳げませんので」

「オレも日差しは無理だ」


 情けないわねぇ、とニンが息を吐いた。

 ……いやいや、マリウスに関しては死活問題だからな。


「ルードさんは遊びに行って大丈夫ですよ。周囲に魔物はまったくいませんし、他にも自警団の方や冒険者の人もいますしね」


 冒険者には、俺から声をかけておいた。

 しばらく滞在予定の冒険者たちが、町の人と仲良くできるようにというわけだ。

 普段の冒険者たちの仕事を見れば、みんなの考えも少しは変わると思っていたからだ。


 まあ、参加した冒険者たちは異性の体をちらちらと見て楽しんでいるようだが。

 無料で全員が快く引き受けたのも、水着姿の女性たちが見られるからだろうな。


 目がいやらしく歪んでいるのは、見なかったことにしておく。

 俺だって、彼らと同じような目になっていないとも限らない。気持ちはよくわかる。


 木陰から引っ張り出されると、日差しの眩しさに勝手に目が細くなる。

 俺は上着だけを脱ぎすて、ニンに引っ張られるままに川へと入る。

 

 足が水につかった瞬間、冷たい感触に体が驚く。

 しかし、すぐにそれに慣れる。

 じんわりと足先から体が冷えていく。ちょうどいいな。


 透き通るような水は、ウンディーネの力のおかげだろう。

 地面がしっかりと見える。魚たちが泳いでいるのも見え、俺たちが歩くたび、逃げていく。


 子どもたちはそれが楽しい様子で、魚を追いかけて遊んでいる子たちもいた。

 彼らを眺めていると、顔に水がかかった。


「ほらルード、気抜いていると痛い目みるよー?」


 ミレナだ。赤い水着を身に着けていた彼女は、恐らくこの中では一番胸が大きいだろう。

 それでも、一般的な女性よりやや控えめという感じか。


 ぺったんこなニンやフィールと違い、多少胸のふくらみがある。マニシアと同じくらいか。

 ……というか、久しぶりにマニシアの体をじっくりと見たな。

 次にヒューマンスライムがマニシアの体に変化するときは、さらに正確な体になっているだろう。


 ルナは水着ではない。さすがに、ホムンクルスの証である胸の魔石が丸見えになるからな。上に濡れてもいい服を着用している。


 俺はそんなミレナに笑みを返す。きっと結構邪悪な笑みとなっていただろう。


「やったな……っ」


 ミレナのほうに足を蹴り上げて水を放つ。

 ミレナがそれを素早い動きでかわす。


 俺がミレナを追いかけようとすると、今度は別の場所から水が放たれた。

 フィールだ。

 

 彼女は剣でも振るように、腕を振り上げている。

 ……彼女が一番ぺったんこなのは、昔から鎧をつけていたからかもしれないな。


「どうしたルード。不意打ちに驚いたか?」

「いや、そういうわけじゃないっ」


 反撃に水をかけてやる。久しぶりだな、こういうの。

 子どもたちも加わり、全員で水をかけあったり、鬼ごっこをしたりと、遊んでいく。

 しばらく体を動かしていると、水の負荷も影響して、さすがに体が疲れてくる。


 足だけ水につけたまま、川辺に腰かける。

 そんな俺の隣にニンが腰かけた。赤色の水着を身に着けていた彼女は、可愛らしい。


「そういえば、どう? 新しい子たちの最近の様子は」

「……まあ、問題はないかな」


 ティメオは少しばかり元気がなくなっていた。

 リリフェルとドリンキンに対してもほとんど話さないので、二人が不安がっていた。


 二人に、事情だけは話しておいた。そうしたら、二人はとりあえず納得はしてくれていた。


「あたし、全然関われてないからあとで話したいのよねぇ」

「そのうち、いくらでも時間はできるだろうさ」

「そうねぇ。ま、そのときを楽しみにしてるわね」

「みなさーんっ! 昼食をどんどん作っていきますから、お腹すいた人から来てくださーい!」


 いつの間にか、周囲にはいい匂いが立ち込めている。

 シュゴールやその他の冒険者たちが、肉を焼いていた。

 その匂いにつられた子どもたちが、元気に走っていく。


 冒険者と町の人たちが談笑しながら食事をしていく。

 ……よかったな。


 それから、近くで火をたき、軽い昼食を用意する。

 さすがに、結構な人数がいて、腹いっぱいになるほどは食べられないが、談笑しながら食べるには十分だった。


 夕方には、子どもたちは眠たそうに目をこすり始め、そのあたりで川遊びは終了となる。

 

「町の人と冒険者、結構話せていたわね」

「そうだな」

「よかったじゃないの。いい交流会だと思うわよ?」

「昼食に関してはおまえがシュゴールに話しておいてくれたんだろ?」

「別にそこまでは考えてないわよ。あたしが肉と酒っていったらシュゴールが用意してくれたのよ」


 あっけらかんとした様子でニンがそういった。

 

「……ありがとな」


 改めてそうお礼を伝えた。

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