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最強タンクの迷宮攻略  作者: 木嶋隆太
第一章 
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実戦での初使用



 俺とフィールが先を、次にルナ、遅れてニンという並びで町を駆ける。

 走る俺たちを見て、不安そうな町の人たちに笑顔が生まれる。


「ルード! おまえがいてよかった!」

「ルードなら、どんな魔物だってぶっ倒してくれるよな!?」

「ああ、任せろ」


 そう返すと町の人たちは安堵した様子で胸をなでおろす。


「あんた、信頼されているのね」

「嬉しいことにな」

「……そうね。あたしもちょっとうれしいわ」

「ルード、こっちだ!」


 フィールの案内のもと、アバンシアの北門を抜け、リンゴール果樹園へと向かう。

 町で管理している果樹園だ。


 普段は木々が美しく立ち並び、町民たちが自警団とともに果実の採取を行っている。


 俺も何度か付き添ったが、今はそんな長閑な空気などどこにもなかった。


 木々がいくつも倒され、熟れたリンゴールが足元に転がっている。

 激しい攻防の声が響いている。


 そちらへと向かうと、自警団と魔物がぶつかりあっていた。

 魔物は巨大なトラのような生き物だ。


 あの魔物はなんだ……? 禍々しい黒色の魔力を纏っている。

 初めて見る魔物だ。


「なに、あの魔物……ルード知ってる?」

「俺もわからない。けど、やることはいつもと変わらない。ニン、俺に回復魔法を連続でかけてくれ。フィール、自警団の人にも同じことを伝えてくれ」

「わ、わかった!」


 集まっていた自警団は十人ほどだ。

 皆、息も絶え絶えな様子だ。


「だ、団長! 外皮が壊れました!」

「く、くそっ! 下がれ! 次、誰か前に出れる奴はいないか!」


 団長であるフィールの父親が顔を顰める。

 そんな彼と目が合った。


「ルード! 来てくれたか!」


 こわばっていた顔が和らいだ。


「全員、攻撃を始めてくれ。ここからは俺が引き受ける」

「すまない、頼む! 全員ルードが来たぞー!」


 団長が笑顔とともに叫ぶ。

 俺の登場に、自警団の者たちも途端に覇気を取り戻す。


 ……俺の能力なら、彼らを守ることができる。

 それをはっきりと伝えるかどうか。少し迷う。


 ルナのことが表にあがれば、国がきっと欲しがるだろう。


 彼女の自由を奪いたくはない。

 ただ、彼らは信頼できる。大丈夫だろう。


「全員に伝える! 俺はスキルの効果を自覚できた! 他人が受けたダメージを、肩代わりできる! だから、全員臆せず突っ込め!」


 にわかには信じられないといった顔を向けてくる彼ら。

 ……戦闘の中で信じてもらうしかないだろう。


 俺が前に出ると、トラが煩わしそうに前足を振りぬいてきた。

 それを盾で受ける。トラは口を大きく開き、咆哮をあげる。


 音が衝撃となって俺の体へとぶつかる。

 大盾で受け止めると、じんわりとしびれた。


 俺が盾で受け流し、トラを殴りつける。

 盾による攻撃を受けたトラだが、あまり攻撃が効いている様子はない。


 スキルを使用していない攻撃は、そこまで通りがよくない。

 魔物たちは、魔神が作り出したといわれている。


 魔神から与えられた魔神の鎧――人間でいう外皮や体力が、スキルや魔法以外の攻撃を弾いてしまう。

 エンチャント魔法を使える者がいれば、俺も攻撃に参加できるかもしれないが、それらはかなり珍しく、才能を持った人がいない。


 背中にわずかな痛みを感じた。

 自警団の一人が、衝撃にやられ背中から地面に落ちたようだ。


 耐えられないほどの痛みじゃない。

 それこそ、なんか背中を軽く叩かれたようなものだ。


「ほ、本当だ。痛みがない!」

「ルード、おまえなんつースキルに目覚めたんだ!」

「仲間がダメージを喰らわなくなるなんて最強のタンクじゃねぇか!」


 途端に、自警団の者たちの攻撃が苛烈なものへとなっていく。

 守る必要がないとわかれば、それだけ攻撃に専念できる。


 無茶な突進によって、俺の外皮ががりがり削られていく。

 だが、こちらには最強の聖女がいる。


 俺の外皮が2000、3000と削られる。

 ニンの回復が間に合うときはそれを浴びる。


 足りない分はポーションを積極的に使っていく。

 腰に下げた、収納袋から、ポーションを取り出していく。

 それで、常に9999の体力を維持する。


 ニンは本当に頼りになる。


 トラへ挑発を使い続ければ、俺以外が狙われることはない。

 範囲攻撃に巻き込まれ、少しずつ削られていくだけだ。


 ……スキルを自覚したからか。以前よりも痛みを意識することが増えてしまったな。


 ただ、それは決して悪いことではない。

 誰かが攻撃をくらうとわかれば、それに合わせて心の準備ができる。


 そうして、俺を中心にトラを攻撃していく。

 針のような毛がかられ、その下の柔らかな皮膚へと剣が突き刺さっていく。


 少しずつだが、確実に傷は増えていく。


 追い込まれたトラは、逃げようとしたのか背中を向ける。

 だが、トラの逃げ道をふさぐように土の壁が出現した。


 ルナの魔法だ。 

 煩わしそうにトラがルナを睨むが、それに割り込むように挑発を放ち、俺へ注意を戻す。


 爪の一撃を盾で受け流しながら、笑みをぶつける。

 迷宮と違い、大人数で戦えるのが、外の利点だ。


 俺の能力がいかんなく発揮できる。

 外皮がおおよそ20000近く削られたところで、俺は『生命変換』を発動する。


 これは、攻撃スキルだったんだよな。

 今までくらったダメージを盾にのせる。


「全員、下がれ! 俺が最後はやる!」


 これまでくらったダメージを一撃に乗せる。

 さて、どれだけの威力になるのか。


 トラの突進に合わせ、俺は盾を振りぬいた。


 トラがぴくりと反応して、回避しようと後ろに飛ぶ。

 だが、遅い。それより速く踏み込んで、俺は盾を叩きつける。


 その瞬間、激しい音とともにトラの体が吹き飛んだ。

 木々をなぎ倒し、ごろごろと地面を転がり……そしてぴくりともうごかなくなった。


 沈黙した。

 先ほどまでの怒声のような雄たけびもなくなり、静かな平和なときの果樹園が戻ってきた。


 ……こんなに、威力の高い攻撃スキルを、俺は初めて見たぞ。

 もちろん、条件を調えなければ使えないから、雑魚戦ではなかなか使えないため、強敵専用ではあるが。


 一応、警戒しながらトラに近づき、完全に死んでいるのを確認してから、自警団に顔を向ける。


「る、ルードおまえ……なんだ今のめちゃくちゃ強いスキルは!?」

「おまえ攻撃スキルなんて持ってなかったろ! くぅ……さきをこされちまったか!」

「いやもともとおまえよりルードのほうが何倍も先を行っているけど……」

「くぅ、黙れ!」


 仲良し二人組が喧嘩しているが、それよりも俺は怪我している奴がいないかが心配だった。


「俺も使うのは初めてで驚いているところだ。とにかく、大きなケガをしている奴はいないな?」


 タンクとして守る、攻撃に専念してくれといったのだから、怪我人が出ていたら洒落にならない。

 しかし、フィールの父親はふるふると首を振った。


「おまえのおかげで、大丈夫だっ、ルード! 助けに来てくれてありがとう! おまえがいなかったら、オレたちは今頃……」

「無事なら、よかった。軽いケガ程度なら、ギギ婆のところで薬をもらうか、こっちの聖女に診てもらうといい」


 聖女? と彼らは首をかしげる。

 ……戦闘に夢中で気づいていなかったのか。


「せ、聖女様!? そういえば町に来られたとか!? ま、まさかルードおまえのお嫁さんとかか!? うちの娘はどうした!」


 そもそも、フィールとはそういう関係じゃないっ。

 ややこしくなるため、ニンのじろっとした目に気づかないふりをする。


「ニンはただ一緒にパーティーを組んでいた仲間だ」

「い、いいなぁあんなに綺麗な人がお嫁さんだなんて」


 おい、人の話を聞け。


「けどまあ……あんだけ強ければそりゃそうだよな。スキルで、オレたちへのダメージもなくしてくれたんだしな!」

「違うと言っているだろ」


 否定するのだが、団長の言葉に勘違いしてしまう人たちが現れる。

 ニンは色恋話が大嫌いなのだ。


 貴族や、聖女のときから色々な見合い話を聞かされてうんざりしていたらしい。


 件のニンは、満面の笑顔だ。

 おまえ、勘違いされることを喜んでいるんじゃない。


 反対にフィールが不機嫌そうだ。

 もう、触れないでおこう。下手に声をかけても、爆発するだけの気がする。


「とにかく、無事なら早いところ自警団は戻ってくれ。まだ他に魔物がいないとも限らないからな。俺はもう少し、果樹園を調べてみる」

「……あ、ああわかった。町の方も空けっ放しだからな。それじゃあよろしくなルード」


 自警団の者たちが帰る中、フィールとニンだけは残っている。

 二人は知り合いだったのだろうか。


 俺は魔物が発生した原因を、調べるためトラの死体に近づく。

 と、二人が俺に近づいてきた。


「少しいいか、ルード」

「あたしも聞きたかったのよねルードのこと、色々」

「どうしたんだ?」

「ルード、この聖女様とおまえの関係はなんなんだ?」

「ルードとこの人ってどんな関係なの?」


 二人で見事に似たような内容を聞いてきたな。

 別にどちらとも友人、としか返せないんだがな。


 フィールは……そりゃあ美人で、どきりと意識したこともある。

 ニンだって同じだ。

 けど、俺にはマニシアがいる。あいつをどうにかするまでは、そういうことは……考えられない、考えてはいけないんだ。


「俺とニンの関係は同じパーティーだった、くらいだな。フィールと俺の関係は、この町で世話になったことがある、そのくらいだ」

「せ、世話ってなによ!? まさかいかがわしいこと!?」


 どうしてそんな発想になる、発情期か?


「まだ町に不慣れだった時に案内してもらっただけだ」

「同じパーティーだっただと? 過去形……過去形、か。では今はなんだ? もっと進んだ関係……なのか?」


 フィールは顔を真っ赤にしている。何を口走っているんだ。


「ただ単にパーティーから追い出されて、それっきりだっただけだ。今は、彼女が休暇で遊びに来ているだけだ」

「どこに泊まっている? 確か町には珍しく、大変珍しく冒険者が訪れて宿がうまっていたはずだが」


 鋭い……。

 嘘をついてもすぐばれるし、正直に言おう。


「俺の家だ……。おまえたち、俺を介さないで、話したほうがいいんじゃないか? そっちのほうが仲も深まるだろう」


 ニンとフィールの質問は、俺でなくとも答えられる。

 二人は一度顔を見合わせ、自己紹介の後に話を始めた。


 だんだんと熱がこもっていく。二人の話を聞かないように、トラの死体を観察する。

 なんだったんだろうな、あの禍々しい魔力は。


 そこらの魔物より明らかに強かったし、ユニークモンスターみたいなものだろうか?

 とりあえず、魔石だけは回収しておくか。


 トラの皮をはぎ、魔物の心臓である魔石を探す。


「あ、あたしはね、ルードと何度も死線を潜り抜けてきたわ! それだけ、あたしたちの仲は深まっているわ!」

「そ、そんなもの、私だって同じだ! 私は彼とともに、この町を守りぬいてきた! その時間の長さは、おまえの組んでいたパーティー時代のかすかなものとは比較にならない!」

「おまえら、喧嘩してないでこの魔石を見てくれ」


 溝が深くなってしまった彼女らの間に入る。


「ルード、あんたにとってあたしとこいつ、どっちのほうが大切なの!?」

「そうだな。どっちが上か、はっきりと言ってもらおうか」

「そんなのどっちも大切だ。それよりも、魔物の異常な強さの原因がわかったぞ」


 そう言うと、二人は一瞬頬を染めて、とりあえず落ち着いた。

 今の回答は、一応正解だったようだ。


「な、なんだと? どうだったんだ?」

「おそらくだが、この魔石が原因だ。たぶん、ホムンクルスに用いる人魔石だ」

「……ホムンクルス技術を魔物に転用した者がいるってこと? そもそも、ホムンクルスを戦闘用に作るのは禁止されているでしょ?」


 ニンはちらとルナを見る。

 ルナは怯えたように目を伏せる。


 それがまた、ニンにとっては気になるようだ。


「禁止されていても、よく話題にあがるくらいみんな興味を持っているんじゃないか?」


 ホムンクルスの心臓には人間が持っていた魔石を入れる。

 魔石にはスキルなどの情報が残っているため――簡単にいえば、生前の冒険者のコピーが作れる。


 だが、そのまま使うことは、禁止されている。

 魔石にある情報をすべて消し、それからホムンクルスの心臓として使うことになっている。


 戦闘能力を保持したホムンクルスが暴れだしたら大変だからな。


「確か、ギギ婆はホムンクルス技術にも明るかったはずだ。そっちで一度、魔石を調べてもらってから結論は出したほうがいいだろう。フィール、そっちは任せる」

「……そうだな。これは預かっておこう」


 フィールに魔石を渡す。

 自警団の仕事をこれ以上奪っても悪いからな。








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