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実力差


 それから何度か、戦闘を行っていく。

 ほとんど障害物のないこの第一階層ならば、単純な力勝負になる。

 リリフェルとドリンキンも、慣れてくるとゴブリンの相手も苦ではなくなってきたようだ。


 この慣れるまでが実は一番大変だ。

 冒険者としての第一歩を踏み出すことに成功したようだな。


 一息つくため、俺たちは一度外と一階層をつなぐ階段に戻ってきた。

 その踊り場で、それぞれが水分補給を行う。

 迷宮の気温は、迷宮によって違う。

 マリウスの迷宮はほんわかとした落ち着いた温度だ。


 動かない分にはちょうどいいのだが、戦闘を繰り返していると汗をかく。

 水筒をしまっていたティメオは、口元を拭ったあと、にやりと笑みを浮かべる。


「そろそろ僕たちは十分戦いましたし、ルードさんたちの番じゃないですか?」


 途中指導こそしていたが、俺たちは一度も戦闘には参加していない。

 別に戦う必要はないのだが、ティメオの意見にリリフェルが目を輝かせた。


「あっ! 私も見てみたいです、師匠の戦うところ!」

「オレも……何か参考に出来る部分もあるかもしれませんし……見てみたいです」


 さっきからずっと彼らが戦ってばかりだったしな。

 マリウスは少し退屈そうにしていた。


 視線を彼らに向けると、それぞれうなずいた。

 

「わかったわかった。それじゃあ、軽く戦ってみようか」

「僕はもっと上の階層で戦う三人をみたいですね」

「私もー」

「お、オレ……も」


 ……こういうときは息が合うみたいだな。

 まあ、冒険者なんてそんなものか。

 普段は喧嘩していても、戦闘のときに連携がとれれば十分だ。


「それじゃあ、6階層に行こうか。あそこはゴブリンとゴブリンリーダー、それに時々、オークが出るからな」

「もっと上の階層でもいいんじゃないですか?」

「いや。万が一があるからな。そのくらいでいいだろう。それに、もう少し上にいってもフィルドザウルスくらいしか出ないからな」

「まあ……わかりましたよ」


 一応、納得してくれたようだ。

 立ち上がり階段を上がっていく。

 一度1階層に降りた俺たちは、ルナのダンジョンウォークで6階層へ移動する。


 ルナの魔法を見たリリフェルが手をぱちぱちと叩いた。


「ダンジョンウォークは便利ですよね! 私も覚えたいです……」

「そう簡単に覚えられるわけないですよ。僕もそれは無理だったんですから。あなたみたいなのには無理無理」


 ティメオは肩をすくめ、歩いていく。


「みたい、ってなんですか! 意地でも覚えてやりたくなったでありますよっ!」

「まあまあ。魔法にはそれぞれ相性があるんだ。覚えられるかもしれないし、覚えられないかもしれない。そこは挑戦してみるしかないな」


 そういえば、この三人は誰もダンジョンウォークが使えないのか。

 今日の様子を見た限り、あと少し訓練すれば低階層の魔物ならば問題なく倒せると思う。


 そうなったら、三人でこの迷宮に挑戦してもらおうと思っていたが、ダンジョンウォークがないのだと不便だな。

 ……とはいえ、最初の階層くらいなら問題ないか。


 むしろ、そのくらい動いたほうが体力づくりにもいいか。


「師匠の戦い! 久しぶりに見るなっ楽しみだなっ」


 上機嫌にリリフェルが歌を歌う。


「見たことあるんですか?」

「ありますよー。だって、私、それでこのクランに入ろうって決めたんですからね!」

「はあ、そうですか。どんな感じなんですか?」

「それはもう凄いですよっ! がっ、どがーん、ばよーん! って感じなんですからね!」

「さっぱりわかりませんね。リリフェルさんって馬鹿ですよね」

「だ、誰が馬鹿でありますか! 私は天才、でありますよ! 馬鹿って言ったほうが馬鹿なんでありますっ!」


 びしびしとリリフェルが指を振り下ろす。

 ティメオはそれ以上彼女の相手はしなかった。


 6階層を歩いていると、ゴブリンとゴブリンリーダーたちが出現した。

 意気揚々と現れた彼らであったが、俺たちに気づくと固まった。


 ゴブリンとゴブリンリーダーたちは、揃ってこちらを見てくる。

 ……変な疑いを持たれるからやめてくれないかね。

 魔物たちは「え、あんたらが相手なんすか?」という困惑したような顔である。


 マリウスがにやりと口元を緩める。

 その笑みで、すべてを察したようだ。ゴブリンたちは一度震え上がったところで、雄叫びをあげた。


 彼らもさすがに迷宮の魔物だ。その役目をきちんと果たそうとしている。

 俺たちも、冒険者の役目を果たさないとだな。


 三体に俺が挑発を放つと、そいつらは一斉にこちらを向いた。

 そうして、飛びかかってくる。

 ゴブリン一体の攻撃を剣で受け止める。


 こん棒で殴りかかってきたゴブリンの一撃を盾で弾くと、ゴブリンが大きくよろめいた。

 

「……凄い。私が態勢を崩された一撃を、微動だにしないで弾いちゃった……」

「……さすがに、最高難易度の迷宮を攻略しただけはありますね」


 隙を見せたゴブリンにすかさずマリウスの刀が襲いかかる。

 振り抜いた居合は一瞬にしてゴブリンの体を両断する。


 魔物が消滅する。残り二体は、さすがに怯んだが、ゴブリンリーダーが剣を俺に向けて叫んだ。

 ゴブリンが飛びかかってくる。ゴブリンリーダーもゴブリンを囮にしながら、突っ込んできた。


 俺が大盾で防ぎ、一体のゴブリンを弾いた。

 その脇から、俊敏な動きでゴブリンリーダーが飛びかかってくる。


 振り抜かれた剣に剣を当てる。受け流す。

 ゴブリンリーダーが着地した先に、ルナの魔法がとんだ。

 素早い火の矢だ。それが上空から雨のようにゴブリンリーダーへ落ちる。

 

 その体を火の矢が貫き、リーダーは倒れる。

 ゴブリンが逃げようと背中を向けたが、ルナの魔法が無慈悲に貫いた。

 そうして、あっさりと魔物たちを仕留めた。


 以前よりもルナの魔法の精度は上がっているようだ。

 

「……流れは私たちと同じなのに、安定感がまるで、違います。私も師匠みたいにならないとっ!」

「……あんなすばやく威力の高い居合、初めて見た」


 リリフェルとドリンキンは、呆然としたままつぶやいていた。

 ティメオは、顎に手をやりルナを見ている。


「……予想よりも、ずっと凄いですね」

「まあ、俺たちはそれなりに冒険者として生活しているからな。一日二日で三人ができるようになるわけじゃない。それこそ月、年単位で成長していけばいい」


 急ぐ冒険者生活でもないだろう。

 無理して怪我をしたら無意味だ。まあ、この迷宮にいる間は、その点に関しては安全だが。


「それじゃあ、またおまえたちに戦ってもらおうか」


 そういって、6階層で戦闘を行っていく。

 ゴブリンリーダーが追加されたことで、ゴブリンの連携が向上している。

 ティメオたちは苦戦を強いられながらも、なんとかといった様子で戦闘を繰り返していった。



 〇


 

 すっかり夕日に染まった空を見上げながら、俺たちはアバンシアを目指して歩いていく。

 その途中、ずーんと落ち込んでいるのはドリンキンだった。


 今日の戦闘中、彼はもっとも活躍できていなかった。

 途中から、明らかにやる気が空回りしていた。

 先頭をマリウスに任せ、俺はそんな彼の隣に並んだ。


「ドリンキン、気にするな。初めから戦えるやつはいない。むしろ、周りについていけているだけでも十分だ」

「……すみません。オレ、ほとんど戦闘経験がなくって。足手まといには、ならないように頑張ったんですけど」

「ああ。最初は十分だ。やる気さえあれば、これからいくらだって強くなれるさ」


 そう伝えたが、ドリンキンの表情は晴れない。


「まっ、僕と彼らとの違いは、十分理解したんじゃないですかルードさん」


 ティメオがどこか自信にあふれた顔でそう言ってきた。


「まあ、実力差に関してはわかったよ」

「そうですよね、それでしたら――」

「それを判断して、周りとうまく連携をとってくれてありがとな。今日のおまえは立派なリーダーだった」

「……そんなのはどうでもいいんですよ。僕をこの人たちと組ませているのはもったいないと思いませんでしたか?」

「そんなことはないな」

「……僕はもっと上の人と組みたいです。ルードさんと……」


 ティメオはじっと俺の方を見てきた。


「いや、おまえは彼らと組んでいた方がいい」


 ……彼は周りを気遣うような言葉はかけられない。

 けれど、周りが弱いとなれば、それを考慮したうえでの立ち回りはできていた。


 面倒臭そうではあったが、意外とそういう部分の面倒見は良いと感じた。 


「ティメオは魔法について、ルナに聞いておくといい。まだまだ、雑な部分があるからな」

「わかりましたよ」


 彼はぶすっとした様子でそういってルナのほうに向かう。

 ドリンキンに改めて視線を向けると、めっちゃ落ちこんでた。


「ドリンキン。どうして冒険者になろうと思ったんだ?」

「……すみません、才能なくって」

「そうじゃねぇ。おまえはおまえなりに考えて、選んだんだろう? そのときの熱意があれば、いくらだって強くなれる」


 そういうと、ドリンキンはわずかに顔を俯かせた。


「弱いままだと、嫌だったんです。オレ、故郷の街にいたとき凄い弱くて。人と話すのも……その苦手で。それで、よく馬鹿にされて、いじめられて……それが嫌だったんです。同年代の子たちはだいたいみんな町で自警団みたいなのになってて……。変わりたくて。オレも、それで頑張れば、今の自分を変えられると思いまして……」

「そうか……俺も弱いままは嫌で、強くなりたいって思ったんだ。そういう意味では、同じだな」

「……ルードさんも弱いときがあったんですか?」

「当たり前だろ。俺はスラム出身で、妹を守るために強くなりたいと思ってた。初めはおまえよりも弱かったかもしれない。それでも……今は強い、と言ってもらっている。努力すれば、いくらでも強くなれるはずだ」


 彼の話すときの目、態度にはしっかりとした信念があった。


「そう、ですか……オレも頑張ります」

「……ああ、頑張ってくれ。マリウスもおまえのこと気に入ったみたいでな。刀の扱いとか、教えてもらうといい。あいつはかなり元気な奴だからな。付きっ切りで教えてもらえるはずだ。それに今は幸い、クランメンバーもたいしていないからな。今のうちに、たくさん聞いておくといい」

「はい……ありがとうございます」


 ぐっと小さく拳を固めて彼ははにかんだ。

 ……なんとか、リーダーらしく振舞えただろうか。

 俺も色々不安なんだ。

 アバンシアについたところで、振り返る。ここで今日は解散だ。


「お疲れ様。とりあえず、今日みたいに冒険者として面倒を見ていくつもりだ。みんなが慣れたところで、各自自由に行動という感じだ。まあ、今すぐ答えを出してくれとは言わない。ゆっくり、町でのんびりしながらでも考えてみてくれ」

「私はクランに入るでありますよ! 師匠のもとで、無敵のタンクになるんです!」

「……まあ、今日はゆっくり休んで。それでも考えが変わらなければな」


 冷静になって考えて、結論を出してくれればいい。

 いや、入ってくれるのならもちろん入ってほしいが、あとで嫌になってやめられても困る。

 人の出入りが激しいと、それだけで冒険者の間で悪い噂がたちかねない。


「そうですね。僕も少し考えさせてもらいます」


 彼はぶすっとした態度だった。

 ……俺と一緒にパーティー攻略したいらしいからな彼は。


 と、二人が去って行ったあと、ドリンキンはマリウスに声をかけていた。

 マリウスは笑顔とともに彼と歩いていく。

 それを見送った後、俺はルナとともに家に戻った。


 家に戻ると、ニンとマニシアが料理をしていた。

 くるりと振り返ったニンが何やら血しぶきのような模様が入ったエプロンを着ていた。


「ニン、それどうしたんだ?」

「ふふん。これ、可愛いでしょ?」

「可愛いというより物騒なんだが……」


 マニシアも苦笑している。ニンは、ぶすっと頬を膨らませ、栗色の髪をかきあげる。


「この魅力がわからないなんて、まだまだね。それよりルード、新しい子たちはどうなのよ? まだあたし、よく話してないのよね……ほんと、最近教会が忙しくて忙しくて」

「みたいだな。まあ、三人に関しては俺たちに任せてくれ。また落ち着いたら、こっちに協力してくれればいい」

「うーん。まあ、一度どっかで飲みにでも誘いたいんだけどねぇ……どっかで行ければいいんだけど」

「俺たちは問題ないから、あとはニンの日にちが合えばだな」

「そうねぇ、あとで調整できればいいんだけど……。とと、もうそろそろ夕食できるし、食器の準備して。一つ商人から可愛いコップ買ったのよねっ」

「わかった」


 ニンが嬉しそうに言って示したコップも鮮血が描かれていた。

 あいつの感覚はよくわからないな。



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