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リーダーとしての振舞い



 マリウスはどうするか。

 当初の予定では迷宮近くで合流といっていたが、彼がこっちに来たいと言っていた。

 

 俺はポケットに入れているヒューの分身に触れる。

 今どこにマリウスがいるのかを聞くと、もうすぐ着くと返事が来た。

 

 今日は彼の迷宮に入ることになる。

 そして、事前に魔物たちにも伝えてある。今日は新人冒険者と一緒に入る、と。


 いい感じに悪い魔物を演技するように、とマリウスが伝えてあるらしい。

 まだ冒険者になったばかりの彼らに迷宮の基本を教えるには、とてつもなく都合がいいだろう。


「すまない! 寝坊してしまった! わくわくして昨日は眠れなかったんだ!」

「……そうか。一応、時間ぎりぎりだが間に合っている。それじゃあ、行こうか」


 マリウスの登場に、三人が視線を向ける。

 マリウスは仮面と笠をつけての登場だ。服装も、以前迷宮であったときのものではなく、町の人に溶け込むような簡素なものだ。

 俺たちはクランを出て、迷宮を目指していく。


「ドリンキン。マリウスも刀を使う。色々と教えてもらうといい」

「は、はい……ま、マリウスさんよろしくおねがいします!」

「うむっ。刀を選ぶとはおまえは見る目があるっ!」

「色々使って、これが一番つかえたんで……」

「ほぉほぉっ。なるほどな! まあ、刀の扱いに関してはオレがいくらでも教えられるからなっ。色々と聞くといい!」


 マリウスが楽しそうに笑みを浮かべる。

 見た目少し怪しさがあり、ドリンキンは持ち前の臆病さも加わってなかなか接しにくいと思ったが、やはりマリウスのとびぬけた明るさにどうにかなったようだ。


「ティメオも、剣はマリウスに聞くといい。魔法はルナが得意だ」

「彼で、大丈夫なんですか? あまり強そうには感じませんが」

「はっはっはっ。強いやつが必ずしもいい指導者になるわけではないぞ、気弱な少年!」

「……気弱?」

「マリウスは変なあだなをすぐにつけたがる。気にするな」


 マリウスは弱いと言われたことにいら立ってそう言ったのだろうか?

 ……いや、彼にそんな様子はない。そもそも、彼は別に自分の強さに関してはどう思われようとも構わない様子だった。


「な、なんか……えーと……凄い、人ですね」

「マリウスは、うちで一番……強い」

「師匠よりも、ですか!?」

「……まあ、本気だしたらそうなんじゃないか?」


 本気=魔物化したときのことだがな。

 人間状態なら、引き分けじゃないだろうか。彼は攻撃で、俺は防御だ。

 言っておくが、負けるつもりはない。

 ティメオは「ははっ」と笑った。


「現実的に考えて、それほど強い人が一クランで誰かの下につくなんてことありますか? ありえないですよ」

「まあ、それはそうだな……」


 しかし、ティメオの言葉にマリウスがにぃっと笑う。


「オレは面白いやつの下になら喜んでつくさ。ルードが面白いと思ったから一緒にいる、それだけだ」


 本音はそのうち俺と再戦したいからだろ?

 

「……よくわからない人ですね」

「マリウスはそんな奴だ」


 ティメオの評価が正しいだろう。

 アバンシア果樹園迷宮を目指し、歩いていく。


「師匠! 私、頑張りますね!」

「ああ、期待している」


 リリフェルがはにかみ、握りこぶしを固める。

 積極的にかかわってこようとするリリフェルとは意図的に距離をあける。

 今は全員と関わって、みんなのことを知らなければならない。


「迷宮に入るのは初めてか?」


 一番近くにいたドリンキンに聞くと、彼は小さくうなずいた。


「はい。オレ……初めて、です」

「……そうか。今日は三人にチームを組んで戦ってもらう。相手はゴブリン程度の魔物を予定している。ちょうど三人はバランスがいいからな」

「僕たち三人、ですか」

「ああ」


 ティメオは嫌そうな顔を作った。

 しかし、俺と目が合うと彼は嘆息をついた。


「わかりましたよ……まあ、今くらいなら別にいいですけど」

「……うぅぅ」


 リリフェルが何かを言いたそうにうなる。


「ティメオ。確かに実力差はあるがな、おまえにとって大事なことを学べるいい機会でもある」

「なんですかそれは」

「それは自分で気づいてこそ意味のあるものだ」

「そういう言い方、嫌いなんですよ。答えを教えてくれたほうがずっと楽じゃないですか」


 ティメオは苛立たしげにそういった。

 彼とリリフェルたちの間には実力差がある。

 だからこそ、ティメオはパーティーのリーダーとして、全体を見ながら行動する必要がある。


 それが、結果的に『俯瞰視』の習得につながる。

 彼が魔法剣士として戦うのなら、これはどうしても習得するべきだ。

 

「まっ、そういうなよティメオ。もちろん、教えるべきことは教えるつもりだ。例えば、クランについて、とかな。何か聞きたいことはあるか?」

「……まあ、いいですか。今は納得しておきますよ。ルードさん、一つ、どうしても聞きたいことがありますが」

「なんだ?」

「ルードさんはこのクランで僕たちのような新人冒険者に何をしてくれるんですか?」

「新人冒険者には俺たちが直接指導するつもりだ。……一応、うちには分野ごとではあるが得意な人間がいるからな。俺はタンクとして、ルナは魔法アタッカーとして、マリウスは近接アタッカーとして、それぞれに教えられるからな。ヒーラーを学びたかったら、ルナか聖女に教えてもらうことだってできる」

「なるほど……ね」


 ティメオはしばらく考える様に顎に手をやる。

 リリフェルは相変わらずだ。ニコニコとずっと笑っていて、ルナとおしゃべりを楽しんでいる。


「クランって、色々じゃないですか。僕はギルドで登録をしたら、クランには所属したほうがいいって言われたんですよね。ルードさんってクランには所属していたんですか?」


 ティメオが首をかしげる。


「していないな」

「そういう生き方もありますよね。僕も面倒ですし、どこにも所属しないでのんびりやりましょうかね」

「ただな、ティメオ。それなりに人付き合いがうまくないと大変だぞ」

「それはまた面倒ですね」


 ティメオはがくりと肩を落とす。

 生意気な子どもという感じだな。まだ15歳だし、仕方ない部分もあるだろう。


「それに、俺は所属してはいなかったが憧れたな。ある程度の制限は生まれるが、親しい仲間たちと過ごしていけるからな。ギルドが言うように所属したほうがいいという話は確かに分かる気もする」

「ああ、そうですか。不安とかそういうのですかね? 僕そういうのないんですよね、別に」

「まあ、それも少しあるが……いつも同じ仲間と行動できるのは、一種の安心感が生まれる。連携に関してだって、より密なものになっていくしな」

「確かに、それはあるかもしれないですね。ただ、クランって結構制約とかあるじゃないですか。場合によっては、月に達成した依頼の報酬の何割かをクランに入れたりってのも聞いたことありますよ」


 ティメオが肩をすくめ、首を横に振った。


「とりあえず、俺たちのクランでは一定のランクに到達したところでそういったものは請求しようと考えている」

「ああ、なるほど……そういう話も聞いたことありますね。具体的には?」

「初心者冒険者の卒業であるDランクにしようと思っている。だから、三人にはまずDランク冒険者を目指してほしいと思っている」


 そういうと、リリフェルはびしっと敬礼し、ドリンキンもこくりと頷いた。

 ティメオはそのあたりの話が聞きたかったようで、ひとまず口を閉ざした。

 ……まだ、具体的には決めていないんだよな。

 そこは他のメンバーとも話しながら決めていく感じだ。


「そういえば、新聞で読みましたが、ルードさんはアバンシアの管理を行うためにクランを設立したんですよね?」

「管理というか……まあ抑止力だな。クランの名前が売れれば、それらがある町で冒険者が暴れることも少なくなるからな」


 と、ティメオが思い出したように手をうった。


「そうですね。特に二大クランとかは有名ですよね。ルードさんはその二つのクランとも関係があるんですよね?」

「まあ、少しな」


 わざわざ詳しく話すことではない。

 だが、ティメオはそれがやけに気になるようで、目を細めた。


「どちらかのクランと協力関係を結ぶことはないんですか?」

「今のところは、考えていないな」


 ……クランリーダーとして、俺は挑戦していきたいと思っている。

 ティメオは短く息を吐き、顎に手をやる。


「ティメオ、いくつかのクランが候補にあるのか?」

「まあ、そうですね。僕はそれなりに優秀なようで、何度か声をかけられたんですよ」


 彼の能力証明書を見れば、それなりの才能があると感じ取れるだろう。

 何より、外皮の量が多いのが魅力的だ。一番わかりやすい数値だからな。


「それで、わざわざ、俺たちのクランに話を聞きにくるとは思わなかったな」

「ま、話を聞くだけならただじゃないですか。それに、クランは一度所属すると次のクランへの所属まで半年以上あける必要があるじゃないですか。そんなの、慎重になるでしょ?」

「それもそうか。まあ、聞きたいことがあったら何でも聞いてくれ」

「それじゃあ。最終的に、僕たちがクランの上に立つことってあるんですか? 例えば、支部ができたときとか、そこの支部リーダーになることは可能なんですか?」

「ああ。もちろんだ。やりたければ、席は用意するし、本部で仕事をしたいのなら、それも検討する。まあ、全部うまくいったらの話だ」

「随分と弱気なんですね。それじゃあ、別のクランを抜かすなんて無理じゃないですか?」

「弱気なつもりはない。……最後には、この国一番のクランになれればいいな」


 そういうと、ティメオはからからと笑った。


「ははっ、夢みたいなこと話しますね。現実的に考えて厳しくないですか?」

「そうかもな。ただ、厳しいほうが楽しいだろ」

「そういう考え方はできないですね。僕は……ま、やっぱり人が少ないのはのびのびできていいですね。それに、僕がルードさんたちと組めるときもすぐにきそうですし」


 ……それがねらいなんだろうな。

 俺と一緒に迷宮攻略を行いたいのだろう。

 その先で何を求めているのかまではわからない。


 名誉か、あるいは金だろうか。

 まあ、才能ある子がやる気を見せてくれるのならなんでもいい。


「ティメオ。一つだけ言っておくな」

「なんですか?」

「もう少し、人との付き合い方をきちんとしなさい。最低限の礼儀をもって、相手に接するように。おまえの一番の課題はそれだからな」

「まっ、努力はしますよ。努力は」


 ひらひらとティメオは手を振ってみせる。

 俺は別にこのくらいは気にもならないが、他の子たちが気にする。


 リーダーとして、ある程度の注意もしないといけない。

 実は俺が一番苦手なことでもある。

 リーダーって大変だな……。

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