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三人の力


 アバンシアの教会へと向かう。

 簡素な造りではあるが、今日も人でにぎわっていた。


 神に祈りをささげる人々が訪れている……という名目ではある。

 ただ、多くの冒険者は聖女の顔を一目みたいというだけだ。


 その聖女であるニンはというと、時々教会のほうに顔を見せてはいるが基本的には裏側で仕事をしているようだ。


 船の底のように膨らみのある天井へ、いくつかの柱が伸びている。

 左右には均等に長椅子が設置されている。その中央、まっすぐ進んだ先には、神の石像が置かれている。


 周囲の壁にはステンドグラスで綺麗な模様が描かれている。神と思われる人型のガラスもあった。

 神の石像の前では、人が並び祈りをささげている。それを司教が見守っている。時々、シスターがやってきて、司教にいくらか話をしていた。


 ありふれた教会だ。ただ、設立されて間もないこともあって、綺麗だ。

 これだけ早く作れたのは、優秀な魔法使いがいたからだろう。

 

 俺たちの用事はこの石像への祈りではない。

 中庭に設置されている神の石板に用事がある。

 近くを過ぎたシスターに声をかけると、すぐに案内してもらえた。

 

 廊下を進み、中庭へと出るといくらかの冒険者の姿があった。

 列の最後尾に並ぶ。

 時間にして二十分ほどかかりそうだ。

 

 その間に、ティメオの能力証明書を確認する。


 ティメオ 1234 『剣術』『魔法使いの秘技』


 『剣術』はR、『魔法使いの秘技』はSRのスキルだ。

 『剣術』は剣の扱いが上手になるスキルだ。


 『魔法使いの秘技』は確か、魔法を即座に放てるようになるスキルだった。

 ただ、使用制限があったはずだ。人にもよるが、一度使用してから次の発動まで時間をあける必要があったはずだ。


「……ティメオ。戦闘の経験はどのくらいあるんだ?」

「昔にまあ、そこそこ。それでも、実戦よりは訓練期間のほうが長いですかね」

「そうか」


 魔法系と剣士系のスキルを持っているのは珍しい。

 というのも、魔法使いと剣士は同時にこなすのが難しいと言われている。


 魔法使いたちが魔法を使う場合、そちらに集中する必要が出てしまう。

 そうなると、視野が極端に狭くなってしまうんだ。俺だって、日常生活程度の魔法を使う場合に、周りが見えなくなる。


 だから、魔法剣士、のような戦い方をする人はほとんどいない。

 稀に、視界を確保するスキルを持った人がやるくらいか。


「魔法剣士ができるのか?」

「まっ、そのくらいは、余裕ですよ」


 ……凄いな。

 彼の言っていることが本当ならば、他のクランがスカウトしたがる理由も頷ける。

 列が進み、リリフェルが設置された神の石板の前にしゃがんだ。


 その前で祈りをささげる。すると光が石板に落ち、彼女のスキルと外皮が刻まれていく。


 ……ここで、確認できるのはあくまで、スキルと外皮のみだ。

 それを、見守っていた教会騎士が書き記していく。

 

「お疲れ様。これがキミの能力証明書になる」


 リリフェルはそれを受け取ってからこちらにやってくる。


「お願いします師匠!」


 勝手に弟子にならないでもらえるか。

 否定まではしない。それを受け取って、ちらと見る。


 能力証明書を発行してもらう。

 リリフェル 840 『挑発』


 そう簡単に書かれた能力証明書をみて頷いた。 


「戦闘経験はあるのか?」

「ありませんっ! でも、村で鍛えていたんですよ!」

「そうか」

「クランに入れてください! 落とさないでくださいーっ!」

「別に落とすつもりはないよ」


 この外皮は、実戦経験がないのなら十分多いほうだ。

 リリフェルが俺の腕をつかんで今にも泣きだしそうな顔で見てくる。


 ドリンキンも同じように能力証明書をもらってきて、俺のほうに差し出してきた。


「……これ、です。ど、どうぞ」


 ドリンキン 156


 受け取った能力証明書を見て、少し不安になる。

 外皮がとても少ない。一般人としてみれば、まあ悪くない。

 ただ。冒険者としてみれば、少ない。


 おまけにスキルもない。彼が腰から下げている刀をちらと見る。

 ……まあ、別に、今すぐ無理というつもりはない。


「……ドリンキン」

「は、はい……すみません、やっぱり、よわいですよね。ご、ごめん、なさい」

「別にそれで落とすつもりはない。うちには、刀の達人がいる。そいつに、みっちり鍛えてもらえば、冒険者としてやっていけるようにはなるだろう。ただ、それにはおまえ自身の努力が必要になる。覚悟はしておいたほうがいい」


 先にそれだけは伝えておく。

 スキルを獲得できる可能性を知った今、最初の能力が低かろうが俺は本人のやる気さえあればどうにでもなると思っていた。


 だから、スキルの有無で判断するつもりはない。

 ドリンキンは唇をぎゅっと結び、それから力のこもった目とともに頷いてきた。


「そのくらい、覚悟、しています」

「そうか。それならいい。……とりあえず、クランのほうに行ってみるか?」

「はい!」


 リリフェルが元気よく声をあげる。

 俺たちは教会を後にして、クランへと向かう。

 もうほとんど完成した俺たちのクランの入口を開けると、中ではマニシアとルナが掃除をしていた。


 二人がこちらに気付いた。エプロンをつけていたマニシアがこちらを見てきた。


「兄さん、どうされたんですか?」

「新しくうちのクランに入りたいと言ってくれた子たちだ。とりあえず、明日一緒に迷宮に潜ろうと思ってな。ここを集合場所にする関係で、案内をしているところだ」

「なるほど。私はこのクランで事務仕事を務める予定のマニシアです。こちらは私の兄でもあります。よろしくお願いします」

「私はルナと申します。事務仕事兼、冒険者として活動しています。よろしくお願いします」

「よ、よろしくです!」


 リリフェルは緊張した様子で声をあげる。全員が、簡単に自己紹介をしていく。

 ルナとマニシアは一人ずつに握手をする。ルナに視線をやると、彼女はこくりと小さく頷いた。


 ……事前に、ルナとは決めていた。

 今後、新しく入ってくる子がいた場合、ルナには相手のスキルの状況を見てもらう予定だった。

 ルナが全員と握手を終えたところで、綺麗に腰を折り曲げた。


「私は別の部屋の掃除をしてきますね」


 たぶん、スキルのメモを取りに行ったのだろう。

 三人分だからな。忘れる前にきちんと残してもらわないと。


「……はぁ、綺麗な人ですねぇ、師匠」

「マニシアか? ……綺麗というよりも可愛い、だな」

「ま、マニシアさんもそうですが、ルナさんですよっ。まるで人形さんのように綺麗であり可愛らしい人じゃないですか! なんですか、師匠の奥様とかですか!?」

「違いますリリフェルさん。彼女は、メイドです」


 マニシアの表情がひきつっていた。

 こいつまさかルナに嫉妬しているのか? 兄としては嬉しい限りだが、いい加減お兄ちゃん離れしないとダメだぞ。


 確かにルナは綺麗で可愛い。それは俺も認める。時々、どきりとさせられる場面もよくある。

 俺は三人に向きなおる。


「ここが俺たちのクランになる予定だ。とりあえず、明日俺たち三人とおまえたち三人で迷宮に潜ろう。しばらくは、三人で一緒に行動することになると思うからな」

「……ルードさん。いいですか?」


 気に食わない、といった顔でティメオが一歩前に出てきた。

 それから、小馬鹿にしたようにリリフェルとドリンキンを見た。


「しばらく一緒に、彼らと行動といわれても、僕と彼らでは力の差が圧倒的ですよ。もちろん、ルードさんたちと一緒とまでは僕も言いませんが彼らと一緒とは――」


 ティメオの言葉に、リリフェルがむっと眉間に皺を作った。

 ドリンキンはそんなリリフェルを落ち着かせるように両手を向けているが、あと少し火種を投げればとびかかりそうな勢いだ。


「もちろんわかってる。まだ、あくまで検討中なだけだ。とりあえず、明日全員で一度迷宮に潜る予定だ。そのときに、聞きたいことがあったら何でも聞いてくれ。これで、解散だ」


 ティメオはまあいいか、という感じで頷いて片手をあげ、外に出た。

 癖があるな。俺からみるとあのくらいの生意気さは可愛らしいものもあった。

 ただ、同年代のリリフェルからすれば、気に食わないようだ。


「師匠。あの人嫌いです」

「そういうな。色々な冒険者がいるんだ。それに、ティメオの実力は証明書を見た限りでは確かだ。色々と学べることもあるかもしれないぞ」

「……うー、わかりましたよぉ」


 がくりとリリフェルが肩を落とす。

 これも一つの勉強になってくれればいい。

 

 ティメオだって、彼らと関わっていくことで学べることもあるだろう。

 色々な性格の冒険者とうまくやっていけるようになれば、ある意味一流の冒険者だ。

 リリフェルたちも、クランの外に出た。


 ちょうどそのタイミングで、ルナが奥の部屋から出てきた。

 扉をささっと開け、きょろきょろと周囲を見ている。


「もう三人は帰ったよ」

「そうですか。よかったです。マスター、三人がすぐに習得可能なスキルを書き出しておきました」

「ああ、ありがとう」


 ルナは嬉しそうにはにかんで、こちらにメモを渡してきた。

 マニシアもささっと隣に寄ってきて、手元を覗きこんできた。



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