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マリウスの目標




 とりあえず、マリウスのところに荷物を持っていくか。


 家に戻った俺は、マリウスが置きっぱなしにしていったリュックを掴む。

 一応、中身を確認する。


 マリウスので間違いないな。

 結構買い込んでたんだな。

 彼は道中で手に入れたという魔石や素材を売り払い、それで別の魔石や素材を購入していたそうだ。


 魔鉱石と薬草、それと道中で狩った魔物の素材。

 また、店に置かれていた魔石と素材。……それらは適当にくみあわせれば、面白い魔物が作れるのではないか、とマリウスが目を輝かせCランク程度の魔石までがごろごろと入っていた。


 俺は装備品を整えてから、迷宮へと向かう。

 確かに、冒険者の数は増えている。こちらに気づいた彼らが、近づいてきた。


「あっ、ルードの兄貴! これから迷宮探索ですか!?」

「あー、少し様子を見に来たんだ」


 守護者に会いに来た、とは言えないため歯切れの悪い返事になる。


「なるほどなあ、まあ一人で入って怪我しないでくださいよ」


 町で関わることの多い冒険者たちが次々に声をかけてくる。

 人が聞いたら誤解しそうなくらい口の悪い人もいれば、本当に冒険者を続けられるのかと不安になるような人もいる。


 そんな、多種多様な冒険者たち。

 いずれは俺のクランにもクセのある人たちが入ってくるだろう。


 それらを俺がまとめていかないといけないのか。不安だな。

 まあ、やると決めたからにはやるしかない。今更後に引き返すつもりはない。


 迷宮へと入り、1階層に到達する。

 少し、地形が変わっただろうか。木々が増えているな。


 そんな木の根元に、薬草や鉱石があった。

 ……いい感じに、素材を隠して設置しているようだ。


 しばらく、迷宮を歩いていると、眼前に魔法陣が浮かび上がる。 

 魔法陣には小さな、ヒューマンスライムがいた。

 こっちだよ、と手招きしている。透き通るような青色の液体でこそあるが、彼女は今マニシアの姿だ。


 トラップだとしたら、えげつない。対俺用の最強トラップだ。絶対引っかかるぞ……。

 マリウスが用意したと思われる魔法陣の上に立つと、ヒューマンスライムがぴとっと張り付いてくる。

 一瞬どきりとした。それから、服がびしょびしょになっていることに気づく。

 

 トラップが作動し、俺の体が浮遊感に襲われる。

 俺の体は宙に投げ出されていた。


 視線を下に向けると、そこは大地。

 1階層のような平原が広がっている。


「おいっマリウス!」


 思わずぽつんと小さなマリウスがいたので、怒鳴りつける。

 と、俺と一緒に転移してきたヒューマンスライムの体がぷくーっと膨らむ。


 そうして、俺の体を包み込む。

 そのまま、地面に落ちた。


 ヒューマンスライムがすべての衝撃を吸収してくれたため、俺に痛みはない。

 膨らんだ体に包み込まれた俺は、仄かな心地よさを感じていた。


 夏の季節に、この水のような体はいいな。

 ぜひ自宅に持って帰りたいところだ。


「ありがとな」


 そういうと、ヒューマンスライムは嬉しそうに体を震えさせた。

 ヒューマンスライムの体を押しのけるように体を起こす。


 本来、スライムは獲物を体内に取り込んで吸収する魔物だ。一度、捕まってしまえば、脱出は困難だ。


 だが、このヒューマンスライムは俺を押し出すように動いてくれる。


 大地に降りると、ヒューマンスライムも人の形をとっている。

 俺は席に座り、池の前にいた彼に声をかける。


「おい、マリウス……とんだ挨拶だな」

「楽しんでくれたか?」

「心臓がとまるかと思ったな」

「はっはっはっ。オレは今、人間が楽しめる遊びを考えていたんだ。外皮を金の代わりに、様々な遊びを提供できる階層を作ろうとしていたんだ。今のはその一つだ」

「……なるほどな。そうやって外皮を巻き上げる、という作戦か」

「ああ。今はどの迷宮も冒険者の取り合いだろう? ならば、魔物を討伐する以外の、別の視点も必要だと思ってな。冒険者ばかりではなく、一般人も迷宮に足を運んでくれるのではと思ってな」


 ……鍛冶屋レイジルのような感じだな。

 ミレナがアクセサリーを作ったことで、女性客が急増している。


 そう言った、新たな客層を開拓することが商売人が生き残る上では大事なんだろう。


 マリウスも、迷宮に関して色々考えていたんだな。

 なんだかもう人間のように生活していたから、守護者の立場を捨てて人として生きるのかと思っていた。

 それを、俺も結構望んでいた。


「どうしたルード」

「いや、やっぱりおまえは守護者でもあるんだなって思ってな」

「ああ。守護者として強者と戦いたい。ただ、同時におまえのクランのメンバーでもある。この迷宮でエネルギーを稼ぎ、新しい魔物を配置したり、強化したり、作ったりしていく。そうして出来上がった魔物たちで、おまえのもとに集まったクランメンバーを育成し、オレが手合わせをしていく。どうだ、見事な作戦だろう?」

「……なるほどな」

「その一環として、エネルギーを効率よく集める方法として、一般人を招きたいんだが、うまくいくと思うか?」


 うーん……。


「……すぐには、無理だろうな」

「なぬ! なぜだ」


 予想外の返事だからだっただろうか、彼は声をあげる。


「迷宮に対してのイメージがあるからな。一般人は迷宮を怖い場所と思っていることが多いからな」


 それをいきなり取り払うのは難しいだろう。

 やるとすれば、そういう場所があると知った冒険者が、異性の一般人の恋人を連れてきて、そしてまたその恋人が……という感じで伝えていってもらうしかないだろう。


 マリウスのような考えは効率良くエネルギーを回収するという点で見れば、悪くはないだろ。


「そうか……まあ、仕方ない。……ところで、怪我はしていないな?」

「まあな。スライムが助けてくれたからな」


 頭をなでると、水をぶくぶくと泡立たせた。

 嬉しさの表現なのだろうか。


「そういえばルード。今日は何用だ? まさかおまえから会いに来るとは思っていなかった。なんだ、戦いか?」

「配達だ。おまえ、俺の部屋に素材全部置きっぱなしだろ」

「おおっ! そうだったそうだった! 魔物たちのためにお菓子も買ってきていたんだったなっ!」


 マリウスとヒューマンスライムは目を輝かせた。

 ……魔物も食べるのか?


 冒険者の街の何階層だったかには、ミリカンという果物の顔をした魔物がいる。

 そいつがドロップするミリカンという、果物で作られたクッキーだ。

 柑橘系の味のクッキーは、マリウスも偉く気に入ったらしく、いくつかお土産に購入していたな。


「おーい、おまえたち。土産を買ってきたぞ、こっちに来い!」


 マリウスが声をかけると、フィルドザウルスやゴブリンが集まってきた。

 マリウスが砕いたクッキーを投げると、嬉しそうに食べる。

 だが、その体にはどう考えても足りていない。


 俺も同じように砕いて投げていく。

 ……これはこれで、なかなか楽しめるんじゃないか?


「……まさか、こんなに人気とはな」


 てっきり、魔物は人間の肉とかが好物なのだと思っていた。

 かなりの雑食なんだな。

 マリウスは、試食したときを思いだしたのか、一人でまた食べ始める。


 魔物たちがわんわんと喚く。

 魔物の言葉は分からないが、よこせ、ずるいぞっ! とか叫んでいるのだろう。

 マリウスはそんな彼らにふふんと勝ち誇ったような笑みを向けていた。


「安心しろ、このクッキーは素材にして量産するからな。おまえたちの分は量産されたクッキーから食べればいいさ」

「……クッキーとかもできるのか?」

「ああ、エネルギーを使えばな」

「果物とかもできるのか?」

「もちろんだ。よし、このクッキーを複製して……迷宮にでも設置しようか。クッキーのなる木、これは迷宮の名物になるだろうっ!」

「いや、冒険者が利用する場所にはやめたほうがいい……明らかにおかしいから」


 そんな迷宮みたことない。

 注目は集めるだろうが、このクッキーは冒険者の街で有名なものだ。


 さすがに、首を傾げる人が出てくるだろう。

 既製品を出すのはあまり好ましくない。できれば、ミリカンのなる木のほうがいい。


 マリウスはしゅんと肩を落とした。


「そうなのか? ルード、先ほどいった一般人を集めるという作戦だがな……」

「ああ」

「まずは階層を20階層まで伸ばしていくつもりだ。それから、20階層を、人が楽しめる階層として造ろうと思っているんだ。先ほどのスライム落下体験や、食事処、宿等々。外皮を消費すれば利用できる階層を造りたいとおもっている!」


 そうマリウスは宣言して、拳を突き上げた。

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