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最強タンクの迷宮攻略  作者: 木嶋隆太
第三章

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受け取り


「ルードはどうしたの? お父さんに用事? それともわたし?」


 からかうように彼女は頬に指をあててウィンクしてくる。


「二人に用事、だな。レイジルさんには預けておいた装備を。ミレナにはクラン名について何かいい意見がないかなと思ってな」

「クラン名?」

「ああ」


 フィールと同じように事情を説明すると、ミレナは顎に手をやる。


「うーん、クラン名はよくわかんないけど、確かクランってそれを示す旗とかもあるよね? それだったら、ルードの持っている大盾でいいんじゃないかな!」

「そうか……それもあったな」

「なんだ、そっちは覚えてなかったの? それなら、わたしが作れるし任せてよ」


 ばしんと胸を叩いた。

 クランの旗か。


 『竜黒ノ牙』は竜の絵柄と牙が描かれている。『白虎ノ爪』は虎が何かをひっかくような旗だった。


 俺が持っている大盾か。

 とりあえず、レイジルさんから受け取りに行くか。


 と、歩き出そうとしたところでフィールがじーっとこちらを見てくる。

 私の名づけは不満か、といった様子だ。


 ……素直さは人付き合いにおいて思わぬ問題を運ぶことがある。

 俺は苦笑だけを返しておいた。


「ミレナ、レイジルさんは奥か?」

「うん。大盾の整備も終わったって」

「わかった。中入るな」

「りょーかーい」


 ミレナに一言伝えて、俺は店奥へと入っていった。


 今日は火炉は動いていないようで、熱くはなかった。

 それでも、石造りの鍛冶場に置かれた金床や壁には、見慣れない武器がいくつも並んでいる。


 大盾は入ってすぐのところに飾ってあった。

 連戦で傷の目立っていた大盾だが、今はきらきらと輝いている。


 俺も最低限の手入れはしているが、やはり本職の人に比べれば腕は数段劣る。

 整備のためのスキルもあるからな。


 レイジルさんは、夏ということもあってか上着を脱いでいた。他に誰も訪れることがないからこそ、少しでも涼しい格好をということだろう。


 それでも汗をかいているようで、時々作業の手をとめてタオルで拭っている。

 彼は今、剣の手入れをしていた。真剣な目つきで、俺が入ってきたことにも気づいた様子はない。


 冒険者に依頼されたものだろう。

 レイジルさんが作ったものではないものがいくつも並んでいる。


 俺が近づくと、ようやくレイジルさんが顔をあげた。


「おぅ、ルード。盾を取りに来たのか? 向こうにあるぜ」


 ぐっと彼が指をさす。

 購入した時のような輝きを放つ装備品たちを受けとる。


「ありがとうございます。レイジルさん、ギルドとは打合せしましたか?」

「おう、まあ色々な。素材とかのやり取りはそれなりにまとまったよ。比較的、安く済みそうで何よりだ。なんていったって、迷宮で魔鉱石が取れるようになったらしいんだよ!」

「そうですか」

「ああ。薬草も取れるようになってな、ギギ婆も喜んでたぜ。まあ、どっちも最下級のものだがなっ。これからさらに上の階層にいけば、もっといいもんも手に入るかもしれねぇな!」


 レイジルさんは嬉しそうに語る。

 迷宮でとれるのは最下級のものしかまだ設置していないが、うまくいったようだ。


 彼らの期待に応えるためにも、さらに上位となる魔鉱石、薬草の設置もしなければならないだろう。

 あとでマリウスにも、伝えておこう。


 というか、冒険者の街で新たに購入した魔石や素材など、すべて俺の家に置きっぱなしだ。

 それらをもっていかないとだな。


「レイジルさん、ちょっと聞いてもいいですか?」

「ん、なんだ」

「……俺、クラン名で色々悩んでいまして。何かいいものってないかなぁ、と思ったんです」

「クラン名か……。おまえさんはタンクなんだし、白銀の盾をそのまま使ったらどうだ?」


 俺が持つ大盾を指さすレイジルさん。

 ……白銀の盾、か。


「まあ、オレはあんまりそこら辺は得意じゃねぇなぁ。鍛冶師には武器や防具に名前を付けるやつもいるが、オレはそういうのが嫌いだったからな」

「そうなんですか……」


 レイジルさんが白銀の盾といって思い出した。

 確か、この大盾を購入するとき、シルバーシールドとか、そんな呼ばれ方をしていた。


「そういうわけで、オレはパスだ。そういうのは若い男に聞くといいぜ。いいの思いつくだろうからな」


 けど、シナニスも特に思いついた様子はなかったんだよな。


「わかりました、貴重な意見をありがとうございます」

「おうっ。あんまり無茶するんじゃねぇぞ!」


 盾の消耗具合で、心配してくれたのだろう。

 別に無茶しているつもりはない。ただ、心配している人がいるというのはしっかりと覚えておこう。


 店に戻ると、女性客が増えていた。

 カウンター横に女性客は集まっている。


 覗き込むと、ネックレスやブレスレットなど、魔石のはまったものがおいてある。

 多少ではあるが、冒険者を補助するそれらの道具だが、どれも可愛らしい作りだ。


 冒険者が身につけるものはおしゃれよりも、質を重視するからな……。

 ミレナが作るようなのは珍しい。俺が首から下げている赤い魔石のネックレスなんかも、女性冒険者に時々羨ましがられたものだ。

 

「ミレナちゃん、このアクセサリーいいわね!」

「でしょー、それ渾身の出来なんだよ。今なら安いよー?」

「うん、買った!」


 女性冒険者たちは次々にアクセサリーを掴んでいく。

 ……効果よりも、可愛らしさ重視、なのか。


 まあ、アクセサリーはそれほど効果があるものじゃない。

 見た目重視でも問題はないものだ。

 

 女性冒険者たちがわらわらと集まっていく。ミレナが楽しそうに、アクセサリーを売っていく。

 フィールはというと、隅へと移動し、飾られている鎧の隣で固まっていた。


 それで擬態しているつもりなのだろう。

 見事だ。一瞬気づかなかった。


「フィール。俺の用事も済んだし、巡回に戻るか?」


 ここでやることは終わった。

 フィールはがくりと肩を落とす。ちょうど、入口から入ってきた冒険者がびくりと体をのけぞらせた。

 ……フィールを飾りものと勘違いしていたのだろう。


「そ、そうか……こんなに人がたくさん来るとはな……私の落ち着ける場所がまた一つなくなってしまった……」


 がくりと肩を落とすフィールに、苦笑を返す。

 次に向かったのはギルドだ。


 だいぶ、建物も出来上がってきている。

 冒険者の街とは違い、アバンシアのギルドは木造建築だ。


 町の景色に溶け込んでいるいいデザインだ。

 ただ、まだ本格的に動き出せるわけではないようだ。

 

 併設された仮設テントは何やら忙しいようだ。

 普段怠け者の双子が、右に左に移動している。


 ギルドを訪れる冒険者も多く、その対応が多いようだ。

 フィールが歩いていき、双子に声をかける。


「リリア、リリィ。ギルドのほうはどうだ?」

「もう本当忙しいわね。なんか突然迷宮で素材が取れるようになったもんだからそれらの依頼の管理も増えたし、魔物も新しいの出てくるし……正直めんどくさー」

「リリィもそうです……放り出してどこかに行きたいです……」

「そう言わないでくれ、ふたりとも」


 フィールが苦笑まじりに答える。

 ……おまえ、リリアとリリィとは仲良くなれたんだな。

 その成長ぶりに、俺は涙が出てきそうだった。


「自警団とギルド、うまく連携できているみたいだな」

「ルード、結局クラン作るの?」


 リリアがきょとんとした顔で首を傾げてきた。


「ああ」

「頑張って、私たちの仕事を減らしてね」

「それでリリィたちの仕事を減らしてください」

「……まあ、努力はするよ。それより、フィールとはいつ親しくなったんだ?」


 フィールは他のギルド職員に声をかけられているが、彼らとは相変わらず緊張した様子である。


「この前、ケーキを作っていただきました」


 目を輝かせてリリィが言う。

 そんなリリィの手をとるリリア。


「あれは本当においしかった。リリアたちはそれだけのために、仕事をしているところもあるよ」


 ……餌付けしたのか。

 フィールは料理が趣味だ。

 その腕はかなりのもので、マニシアの師匠でもある。


「まあ、うまくやれているならそれでいい」

「ルード、ちょっと」


 リリアが俺の腕を思い切り引っ張り、耳元で囁いてくる。

 おまえにその気はなくとも、いきなりこういうのはやめてほしい。男としては、ドキリとしてしまうから。


「迷宮の守護者と何かあった?」

「……なんでだ」

「この前課題だった素材や魔物、すべてがいきなり解決されたから。なんかしたのかと思ったのよ」

「……した。守護者……マリウスに相談したら、出来ると言われたからな」

「そっ。面倒になるから、私は聞かなかったことにしておく。ブードーとかの果物が作れるなら追加しておいて。あれ、私の大好物だから」

「……聞かなかったことにしておくんじゃないか?」

「リリア、なにかいった?」

「お姉ちゃんは何も言っていません」


 リリアとリリィは顔を見合わせ、そのまま去っていった。

 ……相変わらず、仲の良い奴らだ。


「フィール、次の巡回はどこだ?」

「これで、終わりだ。先に教会と冒険者たちのたまり場には回ってきたからな」

「わかった。それなら、一度家に戻るな」

「了解だ。一緒に回ってくれてありがとう。……楽しかった、ぞ」

「俺もだ。それじゃあまた今度な」


 俺は片手をあげて、彼女と別れた。


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