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最強タンクの迷宮攻略  作者: 木嶋隆太
第三章

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フィールのセンス


 クラン名、か。

 記者との話でもあがったクラン名について、俺は部屋のベッドで横になりながら、考えていた。

 何かいいものでもないだろうか。


「どうしたのですか、兄さん」


 部屋に入ってきたマニシアが俺の傍らに座った。

 

「いや、な。クラン名について考えていたんだ」

「そういえば、兄さんクラン作るんですもんね。私もお手伝いできることがあれば協力していきますねっ」


 彼女は非常に嬉しそうだ。

 「俺がやりたいことを見つけた」、と強調したからかもしれない。


「それなら、一つ相談したい。クランの名前がまったく思いつかないんだ」

「そうですか……。名前って何か決まりとかあるんですか?」

「特にはないな」


 前に聞いたことのあるクラン名で、『仲良しバスターズ』なんてのもあった。

 多くのクランは古代語から文字を借りていたりすることが多い。ちょっと、かっこよい感じになるからな。


「マニシア、何か案はないか?」

「えーと……」


 マニシアは考えるように周囲へ視線を向ける。

 まずい、マニシアを困らせてしまった。俺はなんとダメな兄だろうか。

 万死に値する行為である。


「クランリーダーである兄さんを表すような言葉とかはどうですか?」

「……俺か?」

「はい。盾を強調したようなクラン名はいいのでは、と思いまして。ほら、ちょうど町を守るためでもありますし」

「天才かおまえは」

「そんなことはないですよ」


 いや彼女は天才だ。

 マニシアのヒントを大事にしつつ、また考える。


 盾、盾……。

 盾がつく言葉でかっこいいものが思い浮かばない。

 しばらく悩んでいると、洗濯物をもってルナが入ってきた。

 

 ルナはメイド服を着ていた。

 彼女は家で作業するとき、メイド服を着ていることが多い。どうやら、気に入ったらしい。


 俺には、クラン名以外にも悩みがあった。

 それは、マニシアにメイド服を着てもらえないかというものだ。


 ルナとおそろいだぞ、とかいえば着てくれないだろうか。

 実は冒険者の街で一つ購入しておいた。

 彼女にそれとなく勧めたのだが、恥ずかしいからと断られてしまった。


「どうされたのですか、マスター?」

「クランには名前が必要だろ。何かいいものはないかなと思ってな」

「マスターは名づけが上手ではありませんか。私にも名をくれました」


 嬉しそうに彼女は胸の前で片手をぎゅっと握りしめる。

 ……それは、名前からとっただけに過ぎない。


 名をつけた、なんてたいそうなものではない。

 ただまあ、クラン名だからといってそこまで気にするものでもないのだろう。


 ルナは食事を作るために、キッチンへ向かう。

 俺たちも手伝うために、リビングへと向かう。

 と、眠そうな顔とともに、ニンが起きてきた。


「あー、ねっむ」


 とても、公爵家の娘とは思えない。

 寝起きだからか、普段以上に低い声は鋭さが混ざっている。


 ぴょんと好き放題はねた寝ぐせが、ニンの性格を物語っている。

 彼女はマニシアの隣に座る。


「ニンさん、寝ぐせ凄いですよ?」

「あっ、ほんとだ。ま、そのうち勝手に直るでしょ」

「それでしたら、私が直しますよ。人前に出るんですから、だらしない格好はダメです」


 ニンは片手でそれを押さえるが、またぴょんとはねる。

 マニシアがくしをもってきて、寝癖に触れる。


「もうあたし聖女の仕事いやー。これであたし、裏では胸がないとかなんとか男連中に言われてんのよ?」

「胸なんてないのが当たり前なんですからいいんですよ。あっ、動かないでください。うまくできませんから」


 まるで、仲の良い姉妹だな。そんな関係になってくれたことを嬉しく思う。

 最近ニンは教会関係で忙しい。それが影響してか、若干幼児退行してしまっている。


 ようやく、神の啓示を浮かび上がらせる魔石も出来上がり、それも影響してか多くの冒険者が教会を訪れている。

 ……まあ、みな聖女様の顔を見たいという感じであったが。


 笑顔で対応する機会が多いらしく、時々見る彼女は引きつったような顔になっていることもあった。

 見慣れている俺からすると、あれは怒る寸前の顔だ。

 ルナが朝食を運んでくるころには、ニンの調子も戻ってきていた。



 〇



 町に戻ってきてからの俺の生活は別段大きく変わっていない。

 自警団の手伝いで巡回を行っているのも相変わらずだ。


 そこに、ルナが加わるかどうか、それだけだ。

 ただ、最近ルナは部屋にいることが多い。


 前に拾ったフィルドザウルスの卵が最近よく揺れるようになった。

 どのくらいで魔物の卵が孵化するのかわからないが、そろそろ時期なのかもしれない。


「おっ、ルードじゃねぇか。今日は一人か、珍しい」

「うん、おはようルードさん」

「おはようございます、ルード様!」


 やってきたのはシナニスたちだ。

 彼らも俺たちとともに、この町に戻ってきていた。

 

「おはよう。おまえたちはこれから依頼でも受けにいくのか?」

「まあな。最近ゴブリンの目撃情報が増えてるらしいからな。原因の調査と、討伐をやってくるぜ」

「ゴブリンか。相手がゴブリンだからって油断するなよ」

「わかってるって。ずっと、骨とマリウスとしか戦ってなかったからな。ここらで感覚も取り戻さないといけねぇからな。全力でたたきつぶす!」


 シナニスが拳を固める。

 まあ、彼の慎重さなら問題ないだろう。


「ところでみんなに聞きたいんだが、クラン名って何か思いついたか?」


 帰りの馬車に乗ったときに、彼らにも考えてもらっていた。

 シナニスはうぐっと詰まったような声を出す。

 アリカとラーファンも、似たような感じで視線をそらした。


「オレはわかんねぇ。思いつかねぇな」

「私も……そういうのはあんまり得意じゃない」

「……申し訳ありません! 一生懸命考えたんですけど、思いつきませんでした!」

 

 ぺこぺこと頭をさげてくるアリカ。

 

「いやいいんだ。俺がクランリーダーとして責任もって考えるから」

「が、頑張ってください! 応援くらいしか、できませんけど! 応援だけはたくさんしますね!」

「私も……頑張って」

「まあ、何か思いついたら、伝えにいくってことでいいだろ?」

「ああ。それじゃあ、三人とも、怪我に気を付けて、いってらっしゃい」


 シナニス達はそのまま門のほうへと向かっていった。

 ……うーん、やはりクラン名は難しいな。


 しばらく、町を歩いていると対面から全身鎧と兜に身を包んだ人がやってくる。

 あれはフィールだな。

 人通りの多くなった町を歩く際、フィールはいつもその重装備だ。


 人見知りである彼女はそうでもしないと、これだけの人通りの町を歩けないらしい。


「フィールおはよう」

「ああ、おはようルード。……何かあったか?」

「いや何も」


 ほっとした様子で彼女は兜の面を少しずらした。

 最近、毎日何かしらが起きて、その対応に追われているらしく、過敏になっているようだ。


 その気持ちはわかる。

 ただ、深く考えていては潰されてしまうので気にしないのが一番と気づいた。

 

「ルードも、巡回中か」

「ああ。最近どうだ? 俺が旅に出る前に比べて、落ち着いているように見えるが」

「まあ、さすがにその時よりはな。騎士が一人、先に町に入ってきてくれた。そのおかげもあって、町にいる冒険者たちも落ち着いたものだ。やはり、騎士が動く可能性があるというのは、いい牽制になるようだ」

「……なるほどな。もうクランも必要ないか?」

「そんなことはない。クランがあれば、もっと冒険者たちをまとめられるだろう。何より、何か問題が起きたとき、クランが中心になって冒険者たちをまとめてくれるのだろう?」


 期待するようにこちらを見てくるフィール。

 俺は苦笑しながら、彼女とともに歩く。


「これから、ミレナのところに向かう予定だ。ルードはどうする?」

「俺も、あとで行こうと思っていたんだ。一緒に行こうか」


 剣と大盾の整備を、レイジルさんに頼んでいた。

 迷宮でかなり戦っていたからな。


「わかった、行こう」


 フィールが鍛冶屋へと向かう道へ視線をやる。

 相変わらず人が多い。特に、町にある鍛冶屋は一つしかないからな。


 冒険者が集まるのは仕方ないのだろう。

 フィールは、顔を青ざめた後、兜の面を戻した。


「フィール。今俺はクランの名前をどうするかで迷っているんだが、何かいい案はないか?」

「クラン名、か。なんでもいいのか?」

「そう、だな……」


 と思ったところで、フィールが飼っている犬の名前を思い出した。

 彼女の家にいる今はもうおいてしまった老犬。名前は、にゃんぴー。フィールがつけたらしい。彼女に任せるのはやめたほうがいいかもしれない。

 

「何かクランを代表するものはあるのか? 絶対につけたい、とか……」


 フィールの表情は読めないが、名付けることに対してとてもやる気を出しているようだ。

 聞いてしまった手前、ここでやっぱりいいというのはな。


「マニシアにも聞いたんだが、クランリーダーである俺を示すのと、町を守るという二つの意味から、盾を入れるのはどうかって」

「なるほど。マニシアもよくわかっているな。『たてきち』、というのはどうだ?」


 フィールが自信満々といった様子で言ってくる。ペットにつけるような感覚でいうのはやめてくれないか。

 

「そうだな、参考にさせてもらう」

「ああ、また聞いてくれ。他にも候補は色々あるんだ」


 フィールが楽しそうな声をあげる。

 逃げるように鍛冶屋レイジルへと入る。


 中に入ると、前までなら考えられないほどに賑わっていた。

 今まで訪れるのは自警団の人くらいだったからな。レイジルさんも完全に趣味でやっていたし。


 武器やアクセサリーを眺める冒険者がたくさんいた。

 アクセサリーを見ている冒険者には女性が集まっている。


 それでも、八割は男性客なので、むさ苦しい。

 忙しそうに、ミレナは客の対応をしている。それが落ち着くのを待ってから、フィールが声をかける。


「ミレナ、問題はないか?」

「うん、大丈夫だよ」

「そうか。それならいい」


 鍛冶屋は特に人の出入りが激しいからな。

 人がいればそれだけ問題が起きる。

 冒険者たちは、フィールを見て言葉が少なくなっていた。


 フィールも何度か、冒険者の喧嘩に割り込んで止めている。

 冒険者の間には知らぬ顔はないだろう。

 常に、全身鎧で威圧感は凄まじいからな。


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