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最強タンクの迷宮攻略  作者: 木嶋隆太
第三章

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新聞記者



「それでは、ルードさん。本日はよろしくお願いいたしますね」

「あ、ああ。よろしく」


 アバンシアにある自警団本部。

 その会議室内に俺はいた。


 以前同様、ぴっしりとしたシャツに袖を通し、席についていた。

 俺の対面に座るは獣人族の女性……王都新聞の記者だ。


 彼女は俺の顔をちらと見ては、手に持ったペンを走らせている。

 彼女の手元にある紙に視線を落とすと、俺の顔を書いていた。

 簡単に、書いているように見えて、かなりうまい。


 本人そっくりの似顔絵を描くスキルがあると聞いたことがある。

 そして、そんなスキルを持っている人たちが、新聞記者になることが多い、とも。


 彼女がここに訪れた理由は簡単だ。

 ……長年攻略されていなかった迷宮を更新したことが、彼女らの耳に入りこうしてやってきたわけだ。


 攻略終了のあと、少しクランリーダーたちと話をして、俺はアバンシアに戻ってきた。


 彼女は人懐こい無邪気な笑顔を浮かべる。


「そんなに緊張しないでくださいよー。話したことそのまんまが記事になるわけじゃないんですから。私がうまくごまかしてあげますよ」


 冗談めかして言ってきた彼女の尻尾がぴょんと揺れる。

 記者の言葉に少しだけ緊張はほぐれる。

 なにせ、こちとらこんな機会は初めてだ。緊張しない人のほうが少ないんじゃないか?


 だって、相手は王都新聞だ。

 時間差こそあれど、国内すべての人間が目を通すことのある新聞だ。


 その一部に、俺の記事が載るのだ。おまけに、似顔絵付きで。……いよいよ、変な行動ができなくなってしまうな。

 俺が深呼吸をしていると、隣に座っていたニンが目を細めた。


 それは睨みつけている、といっても過言ではないだろう。


「騙されないほうがいいわよ。こいつら、人の関心を集められればなんでもいいのよ。大げさに書かれたり、曲解して書かれることもあるわよ」

「そんな聖女様、ひどいですよぉー」


 ……ニンは何度かこういう機会があるらしい。

 聖女様としてもそうだし、公爵家の三女としてもインタビューを受けたことがあるとか。

 だから、まるで緊張している様子はなかった。


 普段の様子を見ているとニンが公爵家の娘であったことを忘れてしまうが、やっぱり彼女も一応、貴族なんだよな。


「とにかく、色々と聞かせてくださいね、ルードさん」


 明るくはにかんだ彼女に、俺は頷いた。


「それではまずは、お二人の関係からですねっ!」

「迷宮の話はどうした」

「そんな冒険者しか喜ばない話より色恋沙汰のほうがいいんですよ! 公爵家の三女にして、聖女様ですよ? 世の男たちのあこがれの存在ですよ? 隣にいたい女性ナンバーワンなんですよ!?」

「記事の一面にこう書いておきなさい。婚約発表って」

「おおっ、いいんですか!」

「良くないバカ。……こいつは同じパーティーを組んだことがある。それだけだ」


 盛り上がって変な記事をかかれないように釘を指しておく。

 それはそれで、興味を引いたようで、記者の目が細くなる。


「同じパーティー……というともしかして元勇者パーティーでしょうか? 聖女様はそこ以外とパーティーを組んでいなかったはずですが」

「……ああ、キグラスのところだな」

「あー、あの元勇者様ですか。最近まったく見かけないんですよね。記者としてはそれなりに面白い記事をかけるので良かったんですけどね。勇者の権利もはく奪されて、今では誰も姿さえ見ていないとか」

「そうか……」


 見かけない、か。

 ただ、彼の性格だ。どこかで冒険者は続けているだろう。


「ルードさんは勇者パーティーにいた時は何をしていたんですか? アタッカー? タンク? それともヒーラー?」

「俺はタンクだ」


 そう答えると、記者は目を少し開いてからペンを走らせる。


「へぇ、珍しいですね。地味で目立たないと、最近ではめっきりタンクなんて減ってきましたよね」


 ずばり言ってくれるな。

 それをタンクたちの前であまり言うなよ。本気でかちんとくる人もいるからな。


「そう……かもしれないな。それでも、タンクはやりがいのある役割だ。そいつがいるかいないかで、パーティーの生死を左右するときだってある」

「はぁ、なるほどぉ……今回の攻略の際も、ルードさんはタンクとして戦ったんですか?」

「ああ。俺の友――クランメンバーのシナニスや、マリウス。それに、アリカやラーファン、ルナといった冒険者たちの助けもあって攻略することができた」


 ルナは意図的に一番最後に名前を出させてもらった。ホムンクルスの彼女に注目されてほしくはなかったからだ。

 51階層に到着したときのことを少し思いだし、口元を緩める。


 と、記者が首を傾げた。


「クランですか?」

「ああ。俺はこの町を拠点にクランを作るんだ」

「もしかして、聖女様も所属するのですか?」

「ええ、もちろんよ」

「それはなかなか興味深いですね! どのようなクラン名なんですか?」


 ……それが、色々悩んでいるんだよな。

 『竜黒ノ牙』と『白虎ノ爪』に負けないかっこいいクラン名がほしいものだ。


「まだ決めていない。これから決める予定だ」


 ただ、あまりいい名前がぱっとは浮かんでこない。

 あとで、親しい人たちに話を聞いてみよう。

 何か参考になるかもしれない。


「そうなんですか? どうせなら、新聞に載せてあげますから、私がいる間に決まりましたら教えてくださいね」

「……そうか。どのくらいいるんだ?」

「3日くらいですかね? なんだか町のことも色々調べてみたくなりましたから!」

 

 ……それは物凄い宣伝になるのではないだろうか。

 いや、別にたくさん人が集まればいいというわけではないが、これからクランを作っていく上で、やはり将来クランの中核を担ってくれるような冒険者を入れたいと思っていた。


 そのためにも、色々な人の目についたほうがいいだろう。


「もしかして、『竜黒ノ牙』と『白虎ノ爪』のどちらかにつくために、冒険者の町にいっていたんですか?」


 クランを家族に見立て、親クラン、子クランといった呼び方をすることがある。

 彼女が言ったのは、子クランになるかどうか、という話だろう。


 名前を借りられる強みはあるが、クランの運営や何かの判断を下すときに親クランの了承が必要になる。


「いや。そのつもりはない。……二人のリーダーからクランについてや、クランリーダーとしての心構えを教えてもらいに行ったんだ」

「へぇ……そうなんですか。珍しいですね、どちらのクランにもつかないんですか?」

「まあな。……二人にも伝えてきた。二人のクランを超えるクランを作るってな」


 そういうと、ニンと記者が目を丸くした。

 ……まあ無謀と思われてもしかたないか。


「あんた……二大クラン相手にそんなことを言ってきたの? やるじゃない」


 ニンが楽しそうに目を緩めた。

 こいつ、かなり好戦的な性格してるからな。

 

「……それ私が誇張表現でそうしてしまおうかなぁ、とか思っていたんですけど、直接伝えたんですか?」

「まあな。……自分に向けての決意みたいなものだ。そのくらいの気持ちがないと、クランリーダーなんてやれないからな」


 記者の目が鋭くなる。


「町を守るため、ですか?」

「ああ」

「なるほど……こういった街でクランリーダーになれば、それだけ町民たちから慕われますからね」

「名誉がほしいわけじゃない。……俺はただ、この町を守りたいだけだ」


 記者が紙にペンを走らせていく。

 何が書いてあるかは、ちょっと見えない。


「それでは他には、何もほしくないということですか?」

「……そうだな。単純に、クランを創設してみたいとは思っていた。伯爵様から機会を頂いて……だから挑戦したいと思った」

「はぁ……なるほど、了解しました」


 まあ、しいて何かほしいというなら……「お兄ちゃんかっこいい」とマニシアに言ってほしいかな。

 記者は満足げな笑顔とともに、頷いた。


 それからさらに、迷宮攻略についての詳しい話をしていく。

 ……といっても、なんだか記者の食いつきはクランのときほどではなかった。


「はい、これで質問は以上です。ありがとうございました」

「ああ。こちらこそ」


 手を差し出してきた彼女を握り返す。

 あとは、彼女がどんな記事を書いてくれるのか。

 それが不安であり、楽しみだった。



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