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門出



 51階層まで到達した俺たちだったが、さすがに緊張がとけて一気に疲れがきてしまった。

 51階層に現れた紫色のワームに襲われる前に1階層へと逃げ出す。


 そこについてからポーションポーチを確認する。

 やはり、残り三本か。

 危なかったな。


 どれもかなり質の良いポーションだ。今回の狩りで、かなりの損失を出してしまったが、達成感もあった。

 迷宮の外へと出ると、いつもの冒険者二人組がいた。


「おっ、ホラ吹き。なんだくたくたじゃねぇか。そんなんで、51階層に行けるのか?」

「ああ、いけた。そうだ。二人はこの迷宮の案内役だろ? 迷宮の更新を行っておいた。これから51階層にいくか?」

「また、ほら吹きがアホなこと言ってやがるよ!」


 だはは、っと男は腹を抱えて笑っていた。

 その男の隣にいた冒険者はじっとこちらを見てくる。


「……本当に行ったのか?」

「ああ。行った。これが50階層にいたダークスケルトンが持っていた魔石だ」


 そう言って俺はポーチから取り出した魔石を彼へと見せる。

 冒険者はそれを見て、明らかに質の違う魔石に驚いたようだ。

 彼らは目を見開き、そしてこちらを見て馬鹿にしていた冒険者が口を開いた。


「な、なにをでたらめ言ってやがる! うちのリーダーでさえ、突破できなかった48階層だぞ!? たかだか、低ランクの冒険者たちが攻略できるはずがねぇ!」

「だから、51階層に案内すると言っているんだ。迷宮を更新した場合、その迷宮を管理している街に報告する義務があるだろ。俺たち六人だけじゃあ、信じてくれない人もいるからな。どちらかについてきてほしい」

「……ふ、ふざけんなよ! 何をバカなことを――」

「やめろ。……わかった、俺が確認をする。すぐに行こうか」

「ああ。まあ、二人だけなら俺だけでも十分だ。みんなはここで休んでてくれ」


 マリウスはついてきたそうな顔をしていた。

 まるで、俺がこっそり51階層で戦ってくるとでも思っているのかもしれない。

 そんな動けねぇよ……。

 冒険者を引き連れ、第51階層へと移動する。

 

「こ、ここは……本当に51階層なのか?」


 彼は驚いた様子で、目を閉じる。スキルで確認しているのかもしれない。

 それから、ばっと目を見開いた。


「ほ、本当に……51階層だ。おまえ、いったいどうやって――」

「別に普通に攻略しただけだ。これから俺はクランリーダーになるんだ。このくらいできないとだろ?」


 からかうように彼に言うと、男は驚いた口元をそっと緩めた。


「……こいつは、また凄い冒険者が現れたな。俺が証人として、ギルドまで同行しよう。ホラ吹き、の二つ名も今日で終わりだな」

「そうだったらいいんだけどな」


 冒険者とともに、外へと戻る。

 と、入口を守っていた男が急いだ様子で駆けつけてくる。


「お、おい! 嘘だったろ!?」

「いや、この冒険者たちは本当に、51階層まで到達していたぞ。俺は証人として彼らとともにギルドまで同行する。その間、一人で頼むぞ」

「う、嘘だ! おまえまで悪い冗談を言うんじゃねぇよ! こんな奴らに――」

「あんまり馬鹿にしていると、何をされるかわからないぞ?」


 冒険者が目を鋭くしてそういうと、男はひぃっと声をもらした。

 俺たちはギルドを目指して歩いていく。

 俺の隣に、マリウスが並ぶ。彼は白に近い髪を揺らしながら俺の顔を覗きこんできた。


「よかったなルード。ホラ吹きと呼ばれ続けることにならなくて」

「……そうだな。あまりいい気分じゃなかったからな」


 ……少しだけすっとした気分はあった。 

 シナニスではないが、見返してやりたいという気持ちはあった。

 初めから諦めている人に、何かを言われたくはない。


「街に戻ったらどうする? 大々的に宣言させてもらうか?」

「それも面白いかもしれないな」

「おっ、おまえは結構大胆だよな」

「そんなことはない。もともとはこんな性格じゃなかったよ」

「はっはっはっ、そうか。それはそれで今のおまえがオレは気に入っているぞ」


 マリウスが口元を輝かせるように笑う。

 別に男にそんなこと言われても嬉しくないって。

 まあ、色々と無茶ができているのはマリウスのおかげでもある。


「ありがとな。これからも、クランメンバーとして頼むよ」

「ああ。任せろ。おまえの右腕、左腕、右足、左足として、尽力しようっ! 今度はじっくり、弟子の育成とかもしたいしな」

 

 人に教えるのが好きなんだなマリウスは。

 そんなことを話しているとギルドに到着した。


 もうすっかり空は暗くなっている。……結構な時間、迷宮に潜っていたんだな。

 魔石の街灯を頼りにギルドに到着する。


 帰りの支度をしていたケンセイがこちらに気付いて軽く手を振ってきた。


「どうしたの、こんな時間に。そういえば、迷宮の攻略がどうとかって言っていたけど」

「……ああ、51階層まで行ってきたよ」

「……え?」


 驚いたようにケンセイが目を見開く。

 彼に獲得した魔石を見せると、ケンセイは目を鋭くした。


「た、確かに、見覚えのない魔石だね……これは50か51階層の魔物が落としたのかい?」

「ああ。50階層に出現する黒色のスケルトンがドロップした。ボスモンスターのように強力な奴だったな」

「……俺も51階層に到達したことは、確認している。彼らだけでは証人としては認められないかもしれないと思ってな」

 

 一緒についてきてくれた冒険者がそう言うと、ケンセイが笑みを濃くした。


「また、面白いことをしてくれたね、ルード。おーい、誰か! 確か拡声魔石があったよね。緊急事態だから持ってきてー!」


 ケンセイが言うと、職員の人が首をかしげながらそう言った。

 ケンセイの言葉に反応した冒険者たちも首をかしげている。


 拡声魔石とは、音を大きくする魔石だ。

 こういう騒がしい場面で例えば、人に注意するときなどに使う。


 ケンセイはその魔石をつかみ、魔力を込める。

 拡声魔石が淡く光ると、ケンセイの声が大きく響いた。


『冒険者全員に報告する。たった今、冒険者ルードとその仲間たちによって、第51階層への更新が行われた!』


 ケンセイが叫ぶように言うと、冒険者たちはぽかんと固まった。

 突然の内容に皆が混乱しているようだ。ギルド職員も同様に固まっている。


「ルードって誰だ?」

「確かあれじゃないか。ホラ吹きと呼ばれている冒険者じゃないか?」

「51階層の更新……って本当かよ」

「ホラ吹きのウソじゃないのかよ? どこの誰かもわからんような奴らに攻略なんてできるわけないだろ」


 ケンセイの宣言をすぐに信じるものはいない。

 だが、ついてきていた冒険者がケンセイから魔石を受け取る。


『すべて事実だ。ホラ吹きと呼ばれていたルードという冒険者に、俺は第51階層まで案内してもらった。彼は見事、長年突破されなかった迷宮の更新を達成してみせた』


 冒険者はそう言ってからケンセイに拡声魔石を返した。

 

「お、おい……あの男、『竜黒ノ牙』の冒険者じゃないか!」

「それも、迷宮の監視を任されているマーキッスさんじゃないか!」

「あ、あの人が嘘をつくはずがねぇ! ほ、本当に、迷宮が更新されやがったのか!?」

「こ、こうしちゃいられねぇ! 街の人たちに、み、みんなに伝えてこねぇと!」

「な、なんなんだ、あの冒険者……ただの、ホラ吹きじゃなかったのか?」


 冒険者たちは困惑しながらも、騒ぎ始めた。

 ……かなり疲れがたまっていたので、詳しいことは別の日に伝えるとギルドに伝え、俺たちは宿へと戻った。



 〇



 噂はあっという間に広がった。

 一日もすると、街全体がその話題で持ち切りだった。

 迷宮から戻ってきて一日が過ぎたのだが、俺の体はまだ疲れが残っていた。


 ……これが年をとったということなのだろうか。

 俺よりも疲れているはずのシナニスたちなんか、ぴんぴんとしている。

 そんな彼らとともに俺はギルドへと来ていた。


 昨日用事は終わったのだが、二大クランのリーダーが会いたいらしい。

 俺も顔くらいは一度見たいと思っていた。先輩なんだしな。


 ギルドにつく。

 途端、ギルドがざわついた。


「お、おい。あれが、更新したっていう冒険者だぞ」

「さ、さすがの迫力だ」

「嘘つけ! おまえもこの前まで一緒に馬鹿にしてただろうが!」


 騒がしい彼らのさらに奥。

 そこにはブーとガーリがいた。

 それぞれの威圧感のある男女がいた。


 ……それぞれのクランのリーダーたちだ。

 先ほどまでの怒り顔はどこへやら。クランリーダーの女性は見惚れるほどの笑顔で振り返ってきた。


「あなたが、迷宮を攻略したルードね。『白虎ノ爪』はあなたを歓迎するわ」


 彼女は『白虎ノ爪』のリーダーだ。エルフ族特有の長い耳を持っていて、胸が大きい。そこに視線が張り付いてしまう。


 かなりの美人だと聞いていたが、その噂通りだ。

 こういうのは、案外盛られていることが多いのだが。彼女の提案に思わず頷きそうになってしまう。

 

「前にどこかであったか?」


 もう一人は鍛え上げられた体をさらしている、『竜黒ノ牙』のリーダーだ。

 彼らがギルドの受付にいるのだから、他の冒険者たちは委縮しきっている。

 そんな彼らと俺の視線がぶつかる。


 彼らは、さっとそらした。

 ……昨日からこんな調子だ。


 俺を馬鹿にしていた冒険者たちはあれから関わってこなくなった。

 新しい二つ名とか期待していたのに……その点だけはちょっとさみしい。


 マリウスが口元を緩める。

 腰にさした刀に手を伸ばそうとしたので、その肩をつかんで後ろに引く。

 「戦いたい」「大人しくしなさい」。視線でそれだけのやり取りをすると、マリウスはしゅんと肩を落とした。


「まあいい。おまえどっちのクランに入るつもりなんだ? もちろん、オレのクランだろ?」

「何を言っているのかしら、この筋肉馬鹿は。ルード、こっちにはきれいな子もたくさんいるわ。あなたなら、大歓迎よ。私もね」

「おいおい。百を超えたエルフのババアがなに若いのに色目使ってんだか。いい加減年齢を考えたらどうだ?」

「あぁ? まだ私100なんだけど? 人間で言ったら30くらいなんだけど?」

「どっちにしろ手遅れじゃねぇか」

「はぁぁぁあ?」


 『竜黒ノ牙』リーダーは慣れた様子で鼻で笑い、『白虎ノ爪』リーダーは目をとがらせて反論する。

 ……案外、仲いいのかもな。

 二人の顔がこちらに向いた。


「それで?」

「どうするのかしらルード?」


 ギルドがしんと静かになった。

 ……俺の返答をみなが聞こうとしている。


 冒険者たちにとっても、重要なことなんだろう。

 51階層に到達できる冒険者が、どちらの選択をするのか。


 それによって、クランの力関係が変わる可能性もある。

 ……だが俺は、もう自分の立場を決めている。

 

「俺は……自分のクランを持とうと思っています。だから、お二人のクランには入れません」


 そう返事をすると、その場にいた冒険者たちが息をのんだ。

 リーダーたちは顔を見合わせ、それから口角をつりあげる。


「まさか、ライバル宣言するためにここに来たのか?」

「そんなところ、ですかね」


 最初は違った。

 せっかく注目されているのだから、これからクランメンバーを集めるためにも、ここでアピールしておきたかった。

 タンクらしくな。


 クランリーダーたちは、顔を見合わせたあと、大きな声で笑った。


「面白いことを言う奴がいるじゃねぇか。口だけで終わるなよ、ルード」

「そうね、楽しみにしているわ。あとで、入らなかったことを後悔しないことね」


 『白虎ノ爪』リーダーが不敵に笑ってみせる。

 

「はい、もちろんです」


 からかうような彼らに、俺も笑顔を返した。


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