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最強タンクの迷宮攻略  作者: 木嶋隆太
第二章

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攻略開始 3



 戦闘を開始してから、一時間は過ぎただろう。

 正確な時間を計っているつもりはない。ルナに訊けば、秒まで答えてくれるかもしれないが、それを聞いてもきっと途方もない疲労感だけが残るだろう。

 

 ダークスケルトンとの戦闘は未だ続いていた。

 前衛を入れ替わり立ちかわりで、少しずつダメージを与えていっている。

 

 もともと、ボス級の魔物はよっぽどの格下でなければ一時間、二時間戦闘を行うのはざらだ。


 それこそ、一日かけて倒すことだってあるほどだ。

 ダークスケルトンに疲労の色は見えない。魔物だからか、骨だからかは知らないが、どちらにせよ、長期戦で少しずつ疲労が増している俺たちからすれば羨ましい限りだ。


 ルナがポーションを取り出して一つ口に運ぶ。

 後衛もさすがにずっと魔法の準備をしているのだから、疲れが目立ってきている。


 ただ、なかなか退く決断を出せないのは、ダークスケルトンと思っていた以上に戦えていたからだ。

 相手が格上で、今の自分たちでは一切歯がたたないというのであれば迷わず帰っていた。

 けれど、今は――。


 マリウスの刀が鞘から解放される。彼がもっとも得意とする居合いだが、今回はその軌道が少し変化する。

 慣れてきていたダークスケルトンの目を幻惑するように揺れる一撃。

 俺も、今あれで攻撃されたらきっと驚きに一瞬を割かれ、対応できていなかっただろう。


 ダークスケルトンがガードしようと出した剣をかわし、その胸を切りつけた。

 魔石の破片が飛ぶ。

 ダークスケルトンの弱点は目と心臓だ。その魔石を削っていけばいいのだが、なかなかこれが頑丈だった。


 ダークスケルトンはその魔石を犠牲にするようにして、己の身を守っていた。俺たちの外皮のようなものだ。

 確実に削れてはいるのだが、いまどれだけ減っているかは正直分からない。


 相手の動きが鈍ったり、あるいは魔物の多くに見られる、極限まで追い込まれた時点で発動する激昂状態が見られれば、その判断もつくのだろうが。


 アリカとルナが、水分の補給を行っている。俺はその間、特に集中力を高めてダークスケルトンの攻撃を防いでいく。


 皆、隙を見つけては塩分や水分の補給を行って、どうにか戦闘を続けている。


 と、ダークスケルトンが後退する。

 魔物は剣を後ろにひき、そこへ魔力が集まっていく。

 斬撃を連続で飛ばす技だ。人間のスキルで言えば、『スラッシュ』などに似ているか。


「オレが多少は削ろう」

「私がいくつかは防ぐ」

「それでも食らうのは俺が受ける。回復魔法の用意を頼む」


 マリウスもまた、鞘に刀を入れ、似たような構えをとる。

 ラーファンが長剣に願いをこめるように、目を閉じる。

 

 斬撃が襲い掛かってくる。

 マリウスが同じ要領で斬撃を飛ばすと、ダークスケルトンのいくつかが弾かれた。


 それでも接近してきたものは、ラーファンが『プロテクトシールド』で防ぐ。

 張られた結界を破ってきた攻撃を、俺が盾で受けた。

 衝撃に体がよろめく。それでも、仲間たちが手伝ってくれたから衝撃は少ない。


「俺が前に出る。マリウスは一度水分補給と塩分の確保を。ラーファンは後衛を守ってくれ、シナニスは、俺が指示を出したタイミングで攻撃してくれ。後衛は、補助魔法の準備を頼む」

「「了解」」

「マスター、攻撃面での不安があります。シナニス様が回避重視にできるよう、風の補助魔法を用意します」

「わかった。シナニス、受けてから攻撃を頼む」

「ルード様には、私が防御魔法をかけますね」

「ああ、頼む」


 それぞれが、自分の役割を理解し、即座に共有し、実行している。

 まるで、長年パーティーを組んでいるかのような気分にさせられる。

 すっかり、シナニスたちの表情にも自信がついていた。


 頼もしい仲間たちだ。

 何より、俺の言葉を信じて行動してくれる。

 逆に言えば、彼らがミスをすれば、それは俺の指示に問題があったということになる。


 責任重大ではあったが、リーダーという立場はなかなかに楽しいものだった。

 前に出て、挑発を重ねてかける。

 ダークスケルトンの長剣が振り下ろされ、寸前でかわす。


 すぐに薙ぎ払われ、盾で受け止める。

 後退しつつ、立ち位置を変える。シナニスが、淡々とチャンスをうかがっている。

 と、彼の体に魔法がかかったのがわかった。

 同時に、俺も不思議な魔力に包まれる。


「シナニス、やれ」


 彼はこくりとだけ頷いて一気にとびかかる。

 それは、まるで狼のようだ。一瞬の隙をつき、駆け抜けるようにシナニスが剣をふるった。

 ダークスケルトンの胸を切りつけると、再び赤い破片のようなものが宙を舞う。


 ダークスケルトンはよろめき、一瞬体が沈む。しかし、その青い瞳が瞬く間に輝いた。

 ダークスケルトンの首がぐるりと、シナニスへ向かう。


 ありったけの怒りを覚えていようが関係ない。彼を守るのが俺の役目で、シナニスは俺を信じ切っているからこそ、攻撃に全力を注いでいる。

 

 俺が挑発を放ちながら、体を寄せる。

 ダークスケルトンの視界から割り込むように剣を振り下ろした。


 ダークスケルトンも、さすがに無防備に攻撃を受けるような真似はしない。

 俺の剣が見えれば、こちらに反応する。

 案の定、ダークスケルトンは足を止めたシナニスではなく、俺へと向き合う。挑発の効果もあるだろう。


 俺は小さく息を吸い、集中する。

 長時間での戦闘ではどこで気を抜くかが大事になる。人間、ずっと100%の集中を保つことはできない。


 俺が気を抜いているのは、他の誰かが攻撃する瞬間だ。

 シナニスもそのあたりの力の抜き方がうまくなってきた。


 まあ、彼がゆっくり休むためには、俺がタンクとして受け切る必要があるのだが。

 シナニスが下がり、持ってきていた水分を補給する。同時に、アリカが水魔法で水筒への補給も行っている。


 マリウスも頭から水をかぶっている。ぱしっと頬を叩いていて、すぐにでも戦闘に復帰できそうだ。

 ならば、次は――。


 そう思ったところで、踏み込んだ足が地面に沈んだ。

 ぬかるみだ。しまった。頬を汗が伝い、急激に現実を理解する。


 戦闘が長引いて、普段はやらないミスをしてしまった。

 一瞬で、脳内がある決断を下す。俺が崩れれば、そのままパーティーの崩壊へとつながる。


「ルナすぐに、脱出用の魔法を!」

 

 そう叫んだ次の瞬間、俺の体をダークスケルトンの剣が切り裂いた。

 痛みとともに外皮が一気に削られる。まだゼロではない。


 即座に回復魔法が飛んでくる。来るはずの追撃はなぜか来ない。

 顔をあげると、ラーファンとシナニス、マリウスの三人でダークスケルトンの相手をしていた。

 俺の傍らにはルナがいて、肩を貸してくれた。同時に口元に塩飴を渡してきた。

 

「いったん休め! ルードおまえずっと戦いっぱなしだろ!」

 

 シナニスが叫びながら、宙を舞った。

 着地した彼の顔がぬかるみにぶつかり、泥だらけのまま笑う。


「最後に決めるのはお前だルード。せっかく散々ためた一撃。まさか、『疲れました』ではずすなよ?」


 マリウスとシナニスが笑みを浮かべ、時間を稼いでくれる。

 ……確かに、これまでずっと仲間たちの休憩を優先して、俺はほとんど休んでいなかった。


 ルナから受け取った水分と塩飴で体力の回復を行う。

 頭の中にあった熱がすっと冷えた気がした。

 多少なりとも、体が軽くなる。

 

 すぐにマリウス達へと視線を向ける。

 ダークスケルトンの攻撃が激しさを増している。

 遠く離れてみたところで、ダークスケルトンの異常さに気付いた。


 ……ダークスケルトンが焦っている?

 彼の攻撃はどこか慌てた様子でさえある。まるで残り時間に追われているかのようだ。

 それはつまり、もうダークスケルトンの体力が残り少ないのではないかという考えへとつながる。


 シナニスの動きは各段に良くなっている。相手がスケルトンとそう変わらないという部分を差し引いても、彼の勘がどんどん優れていっているのがわかる。


 最後の一撃を確実に当てられる程度に、体力は回復している。


「ありがとう、もう戦える」

「なら、最後はオレたちが道を切り開く。ルード、トドメを頼むぞ」


 マリウスが視線を向けると、シナニスがこくりと頷いた。

 ラーファンとシナニスが下がり、マリウスが突っ込む。

 彼は素早い動きとともにダークスケルトンを切りつける。


 どれも挑発するような軽い切りつけ。しかし、ダークスケルトンはそれにも激しい怒りを覚えたかのように長剣を振り下ろした。


 マリウスが横に跳んでかわす。すかさず、シナニスがダークスケルトンへと距離を詰める。

 ダークスケルトンが体を起こすより先に、シナニスの剣がダークスケルトンの左目を捉える。

 

 大きくのけぞったダークスケルトンはよろめきながら、長剣を振り下ろした。

 シナニスが剣で受けるが、弾かれる。


 マリウスが居合で振りぬく。ダークスケルトンの長剣が宙を舞う。

 ダークスケルトンの心臓部分の魔石が見える。俺はルナたちの補助魔法を受けながら、駆け込む。


「やれルード!」


 マリウスが叫ぶ。ダークスケルトンの青い瞳が、僅かに光った。

 それは敗北を理解したきらめきだったのだろうか。

 スキルを発動した俺の剣が、何の抵抗もなく落ちる。その胸へと突き刺さると、魔石が砕け散る。


 ダークスケルトンの体は、ゆっくりと消滅していき、後には二つの青い魔石が残っていた。

 どちらも、かなりの純度だ。中は透き通るように綺麗で、それを拾い上げる。


 静寂に包まれた迷宮が、次の瞬間には騒がしくなった。


「ルード! やったな!」


 マリウスが肩を組むように飛びついてきた。

 戦闘の後で暑苦しい。それを引きはがそうとするが、今度はシナニスまでやってくる。


「……疲れてるんだ。休ませてくれよ」

「何を言うか! 今喜ばないでいつ喜ぶんだ!」

「そうだぜルード!」


 がしがしと肩を叩いてくる。

 ……俺だって嬉しいっての。

 彼らが叩いてくる手をかわしながら、笑顔を返した。


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