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攻略開始 2

 


 49階層と50階層をつなぐ階段に移動した俺たちはそこでようやく一息つくことができた。


 今までも隙を見て休憩はとっていた。しかし、スケルトンの出現頻度もあり、十分に休めていたとは言えなかった。


 シナニスたちは持ってきていた水筒に口をつけている。


「なあ、ルード。次の50階層にボスはいると思うか?」

「……どうだろうな」


 これまでの迷宮の構造から考えて、50階層にボス級のモンスターが配置されている可能性は考えられる。

 というか、俺たちもボスがいるというのを前提にここまで来ている。


「攻略できそうなら戦うが、今回は50階層に関しては様子見だ。無理そうならすぐに逃げて、また対策を考えるだけだ」

「そうだな。まっ、ここまで戦えるようになったんだ。あとは行けるところまで行くだけだ」


 シナニスはすっかり自信を持ったようだ。

 彼は大胆なようで冷静だ。同時に、少し臆病でもあるのだろう。


 臆病だからこそ、いつも強気な発言を繰り返しているのかもしれない。

 シナニスは自分の中で一つの線引きをしていて、それでどうしても一歩引いたところにいることが多いのかもしれない。


 フィルドザウルスや今回の攻略戦など、そういった格上の相手に挑んでいくことを繰り返せれば、もっと強くなるかもしれない。


「なんとか、なってるけど……正直結構大変」


 額の汗をぬぐいながら、ラーファンが言う。

 隣にいたアリカは比較的涼しい顔だ。


「前衛は凄い大変そうだよね……後衛の私たちは戦闘に参加してないから、余裕ね」

「ルードさんの挑発の効果が高いからか、一度も後衛に魔物が向かうことがないしね」

「本当にねっ。ルード様が守ってくれているから安心して魔法をうてるのよ」


 それが俺の仕事だからな。

 魔法は特に精神面の影響を受ける。俺がしっかりしないとだ。


 十分に休み、全員が動けるのを確認してから階段を上がっていく。 


「それじゃあ、50階層に向かうぞ」


 一つ一つ、階段をのぼっていく音が心地よい。

 未知の空間へと踏み込んでいくのは、なんとも心躍るものがある。


 そうして、階段を登り切った先。50階層は48や49階層とそう変わらない景色だった。

 この迷宮はずっとこんな造りだ。


 少し拍子抜けではあるが、油断してはいられない。

 俺が先頭を、マリウスが最後尾について警戒しながら進んでいく。


 しかし、スケルトンは一切出てこなかった。

 ……これは、怪しいな。


 視線を後ろに向けると、異様に楽しそうな顔のマリウスがいた。

 おまえはいいな、何も考えてなさそうで……。額に手をやりながら、シナニスたちに声をかける。


「通常の魔物が全く出てきていない。ボスの可能性がある」

「……マジか」

「ルナ、前半は様子見で、いつでも帰れるように魔法の準備だけはしておいてくれ。万が一、危険と思われる場合は、俺が一人残って足止めをしている間に先に戻ってくれ。全員が逃げたのを確認して、俺も一人で帰るから」

「……はい、承知しました」


 俺がダンジョンウォークの魔法を覚えたのもこれが理由だ。殿を務める必要が出てくるときがタンクだとあるからな。


 さて、何が出て来るのやら。

 あまり、強いボスモンスターでなければいいんだが、まあ普通に考えてそんなわけはないだろう。


 50階層をしばらく進んでいくと、地面が盛り上がった。


 ……スケルトンか? しかし、その全長が見えてきたところで、違う、というのがわかった。

 真っ黒な骨だ。対面しているだけで、圧迫感があった。彼の骨はきっとかなりの強度だろう。


 青く光る目と、心臓部分にある赤い魔石が他のスケルトンとは一線を画す。


 彼はすすけたコートのようなものをまとっている。

 あちこちに穴のあいたそいつは、まるで戦場から帰還した兵士のようだ。


 彼は右手に持っていた剣を振るった。太く長い黒の長剣が風を切る。

 風が切れた。そう思えるような音が響いた。


 名づけるならダークスケルトンか。


 その一撃にマリウスはより一層笑みを濃くした。


「オレの迷宮に置きたいものだな。魔石から、再生できればいいんだが」

「もしも、こいつを仕留めたとしても、魔石はギルドに持っていくからな」

「わかっているさ。それでルード。あいつをどう倒す? かなりの達人のようだぞ」

 

 マリウスがやりたそうにこちらを見てくる。

 実力を測るのに彼が打ち合うのは一番わかりやすい。


「マリウス。危険そうなら俺も割って入るからな」

「わかったわかった。ま、オレが一人で倒したら悪いな」


 それができるのなら、やってほしいものだ。

 彼が前に出て、俺たちはダークスケルトンの注意を集めないように下がる。


 ダークスケルトンの青い瞳がすっとマリウスを睨みつける。

 マリウスを敵と認定したのだろう。

 ダークスケルトンは剣を頭の横にまで上げる。……かなりの長剣だ。


 48階層のスケルトンも似たような型を持っていた。それと同じであれば、今までの経験がいきる。


 場が静寂に包まれた瞬間、ダークスケルトンが地面を蹴った。

 速い! 一瞬でマリウスとの距離を詰める。 

 ダークスケルトンは頭上から剣を振り下ろす。


 マリウスはその一撃をわずかに抜いた刀で受ける。

 だが、衝撃に弾かれる。


 後退したマリウスが体勢を整えるより先に、ダークスケルトンが剣を振るう。

 上段からの振り下ろし、そのままさらに詰めるように剣を突き出す。


 そして――。

 マリウスもそのチャンスを狙っているようだった。


 ここまでのスケルトンと同じ剣術だ。

 だからこそ、その次に大きな隙が生まれる。


 マリウスが、すかさず刀を抜きはなったのだが、ダークスケルトンは剣を引き戻して防いでみせた。


「なぬっ!?」


 マリウスがぶーと口を尖らせる。しかし、笑顔だ。……楽しんでるな。

 応用力があるようだ。ダークスケルトンは大きく飛びのいて、再び鋭い目をマリウスへと向ける。


 素早く、速い。そして、ダークスケルトンの体からは黒い霧のようなものが発せられている。

 何かしらの状態異常を誘発するものだろうか。


 この迷宮にはそんな魔物が多くいる。

 ダークスケルトンがなにかしてきたとしてもおかしくはない。


「マリウス、相手の手の内を引きずりだす。全員で、様子をみながら攻撃していくぞ」

「くー、もう少し! もう少し一人でやらせてくれないか!?」

「いや、貴重な戦力であるおまえを疲弊させたくはない。たぶんだが、長期戦になる。おまえの力が必要なんだ、こらえてくれ」

「わかったわかった……」


 マリウスはへの字に口を歪めている。

 俺たちが動き出すと、ダークスケルトンの目がこちらにも向けられた。

 彼が誰か個人を狙いにつける前に、挑発を放つ。


 ダークスケルトンの青い瞳が一瞬だけ赤く輝く。

 それから、彼が長剣をこちらへと向けてくる。


 その腕にまとう黒い渦が一層濃さを増した瞬間、その体が消えた。


 まるで闇に溶け込むかのようだ。

 右から襲撃してきた剣を盾で受けとめる。

 かなり、重たいな。


 腕を襲う負荷が大きくなっていく。

 このまま力勝負を続けるのは馬鹿と言われるかもしれない。


 俺は一瞬だけ力を緩め、それから思い切り押し上げる。

 ダークスケルトンの体を殴り上げると、ダークスケルトンはすぐに後退して体勢を立て直す。


「シナニス、一度だけ右から切りつけてくれ」


 シナニスは持ち前の素早さをいかし、ダークスケルトンへと剣を振り抜いた。

 一撃がダークスケルトンの左腕をかすめ、黒い破片が空を舞う。


 それが地面に落ちると、黒く小さなダークスケルトンが生まれた。

 こいつらもか。


 現れたのは二体だ。ただ、そいつらがまとうオーラは、以前の階層のスケルトンたちとは比べものにならない。


 調べたかったのはこれだ。

 俺が指示を出そうとしたところで、ダークスケルトンが突っ込んできた。

 その剣を盾で受ける。鋭い突きだ。

 これを馬鹿正直に受け切るつもりはない。体をひねるように力を流す。


 だが、ダークスケルトンはすかさず、身を引いた。その足を振り抜いてきた。

 蹴りに剣を当てる。


 ……かなりの力だな。

 筋肉などないはずなのに、スケルトン相手にそんな言い訳は無意味か。


「ラーファン、チビダークスケルトンを一体引きつけてくれ」

「わかった」

「マリウス、シナニス。スケルトンと同じように攻めてくれ」


 それができれば、あとはダークスケルトンの体力をいかに削っていくかだけになる。

 俺はダークスケルトンと、チビダークスケルトン一体を引き受ける。


 彼らの連携攻撃はまるで意思がつながっているかのようだ。

 お互いの隙をつぶし、こちらを追い込むように剣を振り抜いてきた。


 チビダークスケルトンはいくらか、本体に比べてすべての性能が落ちている。

 力で無理やり対応しきれる。


 だが、ダークスケルトンはそうはいかない。

 一度でも攻撃を受けると、連撃で外皮を削られるだろう。それだけ剣の扱いに長けている。


 それほどの脅威ではあるが、この肌を焼きつけるような感覚はたまらない。

 シナニスたちがチビダークスケルトンを狩り、俺の援護に回ってくる。

 もう一体のチビもあっさりと倒し、残るは本体だ。


「やれるぞ! このダークスケルトンは、ボスの割に大したことないぞ!」


 もちろん、そんなことはない。

 巧みな剣の扱いに、重い一撃。

 それらは、俺やマリウスでなければ対応できないだろう。


 だが、士気を上げるために、俺はあえてそう言った。

 リーダーの役割として、そういったことも必要だろう。


 事実、シナニスたちの表情にもやる気があふれている。

 ダークスケルトンは、俺へと長剣を振り抜いてきた。




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