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魔法


 次の日。

 昨日の打ち合わせの通り、特訓開始だ。


 ギルドに併設された訓練場へと足を運び、俺たちはそれぞれの訓練へと移っていく。


 訓練場はあまり人がいなかった。

 冒険者がわざわざこの場を利用することは少ない。


 多くの冒険者は、実戦の中で鍛えていく。

 魔物を倒すことで、外皮も成長するのだから、そっちのほうが手っ取り早い。


 多いのは魔法の練習をしている冒険者か。

 魔法に関しては、威力や形、範囲など、色々な調整があるからな。


 建物のおかげで、日陰もそれなりにある。まあ、気休め程度の違いしかない。

 特にマリウスとシナニスは体を動かす。熱中症とかには気を付けてほしいものだ。


 俺はラーファンとの訓練を開始する前に、まずは他の二組の様子をうかがう。

 別に俺が二人の指導を確認しているのもあるが、むしろ、俺も参考にしたいからだ。


 まずはマリウスとシナニスだ。

 彼らはさっそく実戦形式での訓練を開始していた。


 今日のマリウスは刀ではなく剣を握っている。


「グ……アアア!」


 そうしてマリウスは奇声をあげた。……スケルトンの物まねか。

 マリウスは雑に剣を振りぬいていき、シナニスがそれをさばいていく。


 どんどんシナニスは追い込まれ、やがてシナニスの剣が宙をまう。


 ……さすがだな。

 それを見ていたラーファンが首を傾げた。


「なにあの剣術は?」

「スケルトンの剣術だ。昨日、迷宮にいってマリウスが覚えたらしい」


 マリウスの指導は事前に聞いていた通りだ。

 スケルトンの剣術をシナニスに教えるというもの。


 相手の型がわかれば、それだけ対応もしやすくなる。それを覚えてから、48階層で実戦訓練を行っていけばいいのでは、というのが彼の意見だ。


 確かにそうだな、と思う。

 今のシナニスでは、スケルトン一体と戦っても恐らく負ける。


 ただ、相手の手の内がわかれば、補助として十分に立ち回れるようになるだろう。


「剣術が同じなのは理解できたとしても、力加減とかは変わってこない?」

「それについては問題ない。マリウスが、スケルトンと同じ力で攻撃しているはずだ」

「どうやって?」

「俺も散々スケルトンに殴られたからな。スケルトンの力はわかっているつもりだ。昨日マリウスと何度かやりあって、完璧に調整した」


 マリウスに攻撃してもらって指摘するだけだ。

 マリウスはそういった調整がかなり得意らしい。


「……あなたもマリウスさんも凄いね」

「いや、俺は伝えただけだ。マリウスが寸分たがわずやるんだから、あいつのほうが凄いだろ」


 同じ階層で出現する魔物でも、個体差はあった。

 今回対峙したスケルトンは全部で五段階に分かれていて、マリウスはその五体の力をほぼ完璧に習得している。


 ……あいつの才能は恐ろしい。

 それが守護者としてなのかどうかはわからないが。


「……あれなら、確かに短期間の間にスケルトンへの特効はできると思う」

「だろうな。シナニスはマリウスに任せれば大丈夫そうだな」


 まあ、訓練に問題があるとは思っていなかった。

 マリウスがやりすぎないかどうか。そこだけが心配であった。


 あの調子で鍛錬を積んでいけば、仮にスキルを習得できなくても、地力でマリウスの補助くらいこなせるだろう。

 

 次はルナとアリカだな。

 彼女らは魔法の練習をしているようだった。

 いわゆる併せの魔法だ。


 併せるだけなら比較的簡単だが、その精度をあげるとなると一気に難しくなる。

 ニンがいない以上、回復魔法は二人に頼むしかない。

 ニンほどの回復はできなくとも、それに近いものができれば十分だ。

 

「ラーファン。アリカって回復と攻撃、どっちが得意なんだ?」

「攻撃、かな」

「……そうか」


 そこが少しだけ不安な部分だ。

 攻撃が得意、好きな奴に回復をお願いしても、やる気が出ない可能性がある。

 魔法は、特に精神状態に左右される部分が大きい。

 

 アリカが望んで回復魔法を使ってくれればいいのだが。

 少し不安になりながら、アリカを見る。


「それでは、もう一度併せの練習をしていきましょうか」

「はい、ルナお姉様!」

「……あの、えと。……いきますよ」

「はい、任せてください!」


 ルナが魔法を構築し、それにアリカも併せていく。


「あの、近いです」

「何を言っているのですかお姉様! 魔法は親密であればより使えるようになります! まずはお互いの仲を深めないと!」


 ラーファンが苦笑を浮かべている。

 俺も同じような顔をしているだろう。


「ルードさんは魔法もそれなりに使える?」


 ラーファンが聞いてきた。


「まあ……最低限くらいだけどな」

「どんな感覚? 竜人は魔法が苦手だから」

「……そういえば、そうだったな」


 竜人は魔法が苦手な子が多い。


 見たところラーファンは竜人と人間との間に生まれた子供のように見えるがそれでも人間のように魔法を扱えるようにはならなかったようだ。


 どんな感覚、といってもな。


「まず、魔法陣って知っているか?」

「うん。それを頭の中で構築して、調整していくんだよね? 竜人はそれができない」

「そうだな。頭の中で魔法陣の基本であるサークルを作る。そこに、自分の使いたい魔法を書きこんでいく」


 威力、範囲、速度、属性……などなど。魔法陣には細かく記載するべきことがある。

 それらを書き終え、魔力を流しこみ、世界に現象として生み出す。


 魔法陣を作り出すことができれば、誰でも魔法は使えるようになる。


「うん……聞いたことがある。古代文字を使うんだっけ?」

「元々はな。今は、現代の文字で使えるように調整してあるんだ」

「そうなんだ。全然魔法は詳しくない」


 使えないものの勉強をしても無駄だしな。それは間違いではないだろう。


 魔法を作るためには古代文字を解析する必要がある。

 古代文字を組み合わせることで、魔法陣が完成し、魔法となる。


 古代文字のほうが威力は高くなるが、それで魔法を使用できる子なんてほとんどいない。


 見本の魔法陣が作られているため、それをそのまま脳内で再現すれば魔法が使用できる。


 すべての人がその文字を見ながら、魔法陣を作り上げれば魔法が完成するというものだ。


 ただ個々人に合わせて調整されていることはないため、その人が持つ得意な属性や、魔力変換効率などは一切度外視したものとなっている。


 また、人によっては得意、不得意な魔法文字もあり、それらの文字を省くことで、魔力の消費を抑えたり、威力が上昇したりする。


「ルードさんはどんな魔法が使えるの?」

「補助魔法なら、まあなんとか。攻撃や回復魔法は苦手だな」

「そうなんだ。補助魔法って色々あるよね。味方の攻撃や防御を補助したり、とか」

「……戦闘に関わるものは苦手だな」


 それでも、魔法陣を調整し、なんとか使えないかと思考錯誤をしたことはある。

 魔法陣の調整、というのはいわゆる自分用に作り変えるということだ。

 

 俺は攻撃魔法が苦手だから、それにかかわる文字を省いて魔法陣を作ってみるとかだな。


「そういえば、ルードさん。魔法って、騎士や教会で管理しているものもあるんだよね? うちのクランもいつかはそういうのできるの?」

「どうだろうな。迷宮から古代文字や魔法陣を発掘できればそうなるかもしれないが……」 


 騎士が独占している魔法なども一応ある。

 騎士でいえば、捕縛系の魔法文字を管理しているし、教会は回復系があったはずだ。

 クランにもいくつかある。


 迷宮からたまに魔法陣の記された紙や、新たな古代文字が発掘されることがある。

 それらを発見した人が所有者となり、その者だけが魔法を教えられるようになる。


 だから、騎士や教会、クランなどが独占できる。

 昔は厳しくそのあたり規制していたらしいが、今ではそんなことはなくなっている。

 結局、所属したものが外に持ち出して金にしようとして、まあすべての人間がいつでも自由に習得できるということはないが、金を払えば教えてもらうことは可能だ。


「あーくそ、疲れたー! 一度休憩だ!」

「そうだな。休息も大事だ。ルード、暇ならオレの相手をしてくれないか?」


 マリウスたちがこちらへとやってくる。

 汗をたくさんかいているシナニスは、塩飴を取り出して口に運んでいる。


 迷宮攻略に必須ともいえるアイテムだな。別に何か強化するわけではないが、人が調子を保つのに必要だ。


「俺もこれから訓練をするんだ。……それと、マリウス。少し聞きたいんだが」

「どうした?」

「なんだ?」


 ラーファンたちの耳に入らないよう小声で話す。


「マニシアに使った魔法書の一枚って、他の誰かにも使えるのか?」

「いや、あれは特殊な魔法書だ。ルードの妹さんの体内に入っていっただろう? あの紙とセットでしか魔法は発動しない」

「あれが入ったときは驚いたぞ。そうなるってわかっているなら事前に話してくれ」

「はっはっはっ、すまないすまない。その反応を想像して楽しませてもらっていたんだ」


 こいつめ。

 魔法の話をしていて思い出したのだ。

 

 あれも、書き写しておけば治癒の魔法として残せたのではないだろうか、と。

 ただ、あれは魔法陣も何も描かれていなかった。


 特殊な魔法というのなら、それでいいか。 


 ラーファンは羨ましそうにルナとアリカをみている。

 二人の併せが成功するたび、アリカはルナに抱きついている。


 ルナも嫌がっている様子はない。

 困惑しているようだが。

 

「魔法を使ってみたいのか?」

「……うん」


 憧れがあるのだろう。じーっとルナとアリカを見ていた。


「……まあ、その。ラーファンにはラーファンの才能があると思う。それを磨いていけばいいんじゃないか? 俺だって、タンク以外の仕事は正直いってそんなにできないしな」

「わかってるけど。一度くらいは使ってみたかった。竜化もできないし、魔法も使えない。……私はできないことばっかり」


 ラーファンはがくりと肩を落とす。

 ……彼女なりに色々と抱えているものがあるのだろう。

 訓練を通して、それを少しでも和らげられればいいんだがな。


「そろそろ、俺たちも始めようか」

「……うん」


 ラーファンにはタンクとしてスケルトン一体を押さえてもらう予定だ。

 俺は剣を抜いて、ラーファンも同じように構えた。






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