計画をたてよう
ルナは小さく息を吐き、こちらを見てくる。
「それでは、次はラーファン様のスキルですね」
「……うん、お願い」
ルナが片手をラーファンにあて、スキルを確認していく。
タンクだけあり、『挑発』は持っている。
さらに、『シールドバッシュ』、というスキルも持っているようだ。
これは盾に神の力を付与し、敵を殴りつけるスキルだ。
運が良ければ相手を一時的に行動不能にすることもできる優秀なスキルだ。
……こういうときに、欲しいなーと強く思うことがスキルの取得に繋がるのだろうか。
人を羨んではいけない、他人と自分を比較しない。それを信条に生きてきたからちょっとすぐにはできないかも。
現在所持しているスキルはそんなところだ。
獲得可能なスキルもほとんどがタンクに関係している。
どれを取得していくか。そこが悩みどころだな。
「リーダーさん、私は何をすればいい?」
「一応、タンクの役割は俺が引き受けようと思っている。ラーファンには一体の相手を任せたい」
「任せて。そのくらい、お安い御用」
彼女は片手で扱える丸盾と長剣を持っている。
その二つを使った基本的な戦闘を行ってもらえればそれでいい。
俺の構想では、俺が複数の魔物を引きつけ、ラーファンが一体をおびき出す。
そうして、マリウスたちと連携して各個撃破を行うつもりだ。
「それでは、私はアリカ様と一緒にスキルの打ち合わせを行います」
「ラーファン、頑張ってね」
「うん、そっちもねー」
アリカとラーファンが手を振って別れた。
ルナがきちんと教えられるか不安だが、彼女たちの心配もしていられない。
俺は具体的にどうやって彼女を指導しようか、まったく考えついていないんだからな。
誰かにあれこれ指導した経験なんてない。
まったく何もしらない子どもたちに少し剣を教えたくらいだ。
今まで所属していたパーティーは基本的に、迷宮攻略を行うパーティーだ。
すでにある程度、戦い方が完成している人たちだ。お互いに意見交換はしても、一方的な指導をしたことなんてない。
なんなら、昨日の夜。布団に入ってずっと考えていたが何も思いつかなかった。あれは俺を抱きまくらにしていたルナも原因だろうけど。
「何か、ほしいスキルはあるか?」
「私は別に、なんでも」
「やりたいことはないのか?」
「うーん……考えたことってあんまりない。任せる、リーダーに」
……そうはいってもな。
ここでの成長が今後にまったく影響しないとも限らない。
彼女の将来すべてに責任を持てるわけじゃない。
できる限り、本人が望んでいるスキルを目指させたい。
まずは交流から始めようか。
「ラーファンはどうして冒険者を始めたんだ?」
「強くなりたかった。……昔、竜化の試練を受けたけど、失敗しちゃったから」
竜人族というのは竜化と呼ばれる力を持っている。一時的に竜の力を解放し、力を跳ね上げる種族固有のスキルみたいなものだ。
「そういうもんなんだな。冒険者になってからはどうだ?」
「楽しい、かな。シナニスたちとはうまくやれてるし、毎日おいしいご飯も食べられるし。これからも色々と楽しそうだし」
クランのこと前向きに捉えてくれているようだ。
よかった。
胸をなでおろしながら、俺はいくつかのスキルを見やる。
「俺からの意見としては、ラーファンには、防御スキルを目指してほしい」
「うん、わかった。どんなもの?」
「身を守るスキルだ。プロテクトシールドだ」
「……それって、どんなスキル?」
「結界のようなものを張るスキルだ。一時的に、魔力量に応じて敵の攻撃から身を守る効果がある」
ラーファンは今の自分の役割が楽しいといった。
ならば、それをそのままやれるようにしてあげたほうがいい。
このスキルを獲得できれば、シナニスたちのパーティーに戻ってからも役にたつだろう。
俺も欲しいくらいだ。
「あとはその訓練をするってところ?」
「……そうだな。これ以外のスキルも、まったく狙わないわけではないが、プロテクトシールドを優先すればいいと思っている」
「わかった」
ラーファンは小さく頷いた。
それから彼女はスキルの書かれた紙を掴み上げる。
じっと見ている。
なにか他にもほしいスキルがあったのかもしれない。
「なにか気になるスキルでもあったのか?」
「ううん、別に。これで打合せは終わりでいい?」
「ああ。……そうだな」
スキルを決めるだけなんだから、このくらい早く終わるのはおかしくはないだろう。
それでも、ちょっとばかり早すぎる気がしないでもない。
これはあれか。俺のトークが下手くそだからか?
なにか他にも話をしておいたほうがいいのか?
……いや、でもラーファンだって世間話が好きな人ではなさそうに見える。
無理に二人きりで話す必要もないのかもしれない。
「と、とりあえず、他の二組の様子を見てくるか?」
「うん」
俺には無理そうだ。二組に助けを求めることにした。
彼女とともに部屋を出て、隣のマリウスの部屋へと向かう。
本来はルナが一人で使うはずだった部屋だ。
扉の外まで、二人の話し声が聞こえる。
「なんだか、打合せに熱が入っているみたいだな」
「うん」
そーっと扉を開ける。
部屋の中央に椅子を一つおいて、そこにシナニスが腰掛けている。
マリウスはベッドから彼を見ていた。
「うわぁ、このスキル全部取得できたら、オレ、もしかして最強になるんじゃねぇか?」
「まあ、今よりは確実に強くなるだろうな。だが、このスキルを取得したってまださらなる上のスキルもある。そのあたり、よく見ておいたほうがいい」
「わかってるって……なぁ、マリウス。オレも……刀を使えないかな?」
マリウスは眉尻を上げた。
彼も刀の指導をしたいのかもしれない。
俺も同じタンクのラーファンに教えるのは少し楽しみだしな。
マリウスは首を傾げてみせた。
「ふーむ。挑戦したことはあるんだろ? あれは集中力を高めて一撃を放つ、いわば魔法に似た戦いをする必要がある。やんちゃボーイはそういうのは得意なのか?」
「魔法……そいつは苦手だな。ああいう、頭を使うのは無理だ」
「それならやめておいたほうがいい。あの刀の達人にも言われなかったか?」
「……ケンセイさんのことか? 言われたぜ。刀は向き不向きが大きいからって。けどさ、オレもやっぱり使えるようになりてぇな」
「やんちゃボーイは剣のほうがあっていると思うがな。見たところ、なかなかの腕前のようだ」
マリウスはそう言い切ったところで、立ち上がる。
こちらへと来て、扉をぐっと開いた。
「なあ、ルード。やんちゃボーイの剣はそれなりの腕なんだろう?」
「ああ、そうだな」
「ルードとラーファン、もうそっちは話し合い終わったのか?」
シナニスがぐるりとこちらを向いた。
「うん。そっちももう終わったの?」
ラーファンが小さく頷いて答える。
「まあ、だいたいはな。んじゃあとはアリカとルナさんか。あの二人が話している姿ってあんまり想像つかねぇな。アリカのやつ、迷惑かけてねぇかな」
「やんちゃボーイが心配する必要はないだろうさ」
マリウスの言葉に俺も頷いておく。
二人とも合流し、それからさらに隣の部屋へと向かう。
そこはアリカとラーファンが使っている部屋だそうだ。
さすがに、俺たち男が扉をあけるわけにはいかない
ラーファンがすすーっと扉をあけた。
「二人共、打合せは終わった?」
ラーファンが声をかける。
二人が扉のほうへと駆け寄ってきた気配がする。
俺たちもそちらに近づくと、アリカがルナに抱きついていた。
……一体何があったんだ?
「ルナお姉様っ、私一生ルナお姉様についていきます!」
「……えと、その。私はマスターに一生ついていきますので……」
「それでは一緒についていきますね!」
「えーと……マスター」
助けを求めるようにルナがこちらを見てくる。俺としても他人事にはしておけない。
俺の与り知らぬところで、なんか二人が一生ついてくることになってしまっているのだから。
「何があったんだ……アリカ」
ルナに聞いても困惑していて理解できていなそうだった。
アリカが顔をあげ、きらきらとした顔をルナに向ける。
「ルナお姉様は私が、魔法を構築するときに抱えていた不安を一瞬で解決してくれたんです! ずっとあった体の中のどんよりした気持ちがなくなりました……これが恋なんですね!」
「ただ悩みが解決しただけだ……」
俺としては一番心配していた二人が仲よさげに話しているからそれはいいんだがな……。
特にルナには色々な人間に接してほしいと思っていた。
いや、かなりイロモノな気はしないではないが、これはルナにとっての修行みたいなものだ。
人間を知るというな。
アリカが元気よくルナの手を引っ張る。
ルナが唇をもにょもにょと動かし、助けを求めるようにこちらを見てくる。
それがなんだか少し新鮮だった。