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それぞれの訓練


 場所を食堂から宿へと移して、俺の部屋に集まってもらう。


「これからどうするんだルード?」

「おまえたち三人を、信頼してある重要な話をする」

「……なんだ?」


 シナニスの目が鋭くなった。 

 俺はこれまで黙っていたルナの能力を伝える。


「ルナは、鑑定のスキルを持っている。相手に触れなければ見ることはできないがな」


 鑑定、と聞いた瞬間、三人は目を見開いた。

 そのまましばらく硬直し、シナニスは頬をひきつらせる。


「そ、そんなSSRの中でもトップクラスのスキルを、ルナさんは持ってんのか?」

「はい。持っています」

「ちょ、ちょっと試してくれないか?」


 ちら、とルナはこちらを見てくる。


「それでは、手を握らせていただきますね」

「お、おう……」

「あんたなんでちょっと顔赤くしてんのよ?」

「う、うるせぇ」


 確かに、シナニスは頬を僅かに染めていた。

 ルナが彼の手を握り、それから目を閉じる。


「シナニス様が所持しているスキルは、『剣士の意地』ですね。体力は1851ですね」


 『剣士の意地』か。確か、剣で戦うときに、戦いやすくなるとかだったはずだ。

 ただ、デメリットもあって、剣以外が上手に使えなくなってしまうはずだ。


 使い勝手は悪くないし、SRスキルだ。


「お、おう……そのとおりだ。……まさか、本当なんだな」


 シナニスが驚愕といった顔でこちらを見てきた。


「それと、この能力にはまだ秘密があるらしいんだ」

「秘密?」

「後天的に取得できるスキルがわかるらしい」

「そ、それってつまり、自分の欲しいスキルを狙って取得できるってことか!?」


 俺がマリウスに視線を向けると、彼が笑みとともに立ち上がった。


「ああ。そうだとも。スキルの取得というのは、ようはそのスキルの経験を体内の魔石に刻み込むことで発生する。要は、魔石の成長、あるいは異常によるものだ。だから、やんちゃボーイが女性のスカートをめくりたいと本気で願い続ければ、そんなスキルを獲得できるというわけだ」

「な、なんだって……」

「シナニス、めくりたいのか?」

「い、いやそんなことはねぇよ!」


 俺が問うとシナニスが全力で首を振る。


「なんだめくりたくないのか、まさか男好きかやんちゃボーイ!」

「見るなら女の方がいいに決まってんだろ」

「だよな!」


 じろっとした視線が二人に集まった。

 シナニスはぶすっと頬を膨らませた。


「……とにかく、ある程度狙ったスキルを取得できるってことなんだろ? その……ルナさんの鑑定を使えば、そのスキルまであとどのくらいかってのもわかる、ってことでいいのか?」

「ああ。この二つを使って、今すぐに取得可能なスキルを探して、その取得を行ってもらおうと思っている」


 そういうと、シナニスたちの表情に僅かな期待が生まれた。

 新しいスキルが手に入るかもしれないのだ。

 俺だって彼らの立場ならそんな気持ちになるだろう。


「とにかく、まずはやってみたほうがいいだろう。まずはシナニスからだな。シナニスはこれからどんな風に戦っていきたいんだ?」


 本人のやりたいことのほうが、スキル取得にも身が入るだろう。


「オレはやっぱり、アタッカーだな! どんな敵でもぶっ倒せるような強い、冒険者になるのがオレの夢だからな!」

「そうか。ルナ、スキルを見てもらってもいいか?」


 ルナが再びシナニスの手を握る。

 と、ルナは眉間に皺を寄せた。


「ど、どうしたんだ? オレの手あせばんでたか?」

「いえ、その……膨大な量のスキルが見えてしまって、どれがどれだか――」

「それもそうだろうな」


 マリウスがこくりと頷いた。


「人はすべてのスキルが取得できるといっただろう? だから、すぐに取得できなくても、取得可能なスキルは多くある。近いものをいくつか取り出してみるといい。一週間でとれるのは一個か二個が精々だろうさ」

「……少々お待ちください。メモをしていきます」


 ルナが手元の紙に文字を書いていく。

 スキル名を書いたあと、その先に線をひく。

 彼女はそうやって、いくつものスキルを書いていった。


「ルナ、これはどういうことだ?」


 全部で三つのスキルが初めに書かれ、その先にすっと線が引かれている。

 スキルがまるで木の枝のように枝分かれしている。

 どれも、一番最初のスキルと似た能力で、強力なものとなっている。


「すぐに取得できるスキルの先に、このような形で枝がのびていました。これはいったい……」


 マリウスは紙を持ち上げ、それから顎に手をやる。


「わからん」


 わかんないのかい。

 まあ、仕方ない。彼は別に鑑定スキルを持っているわけではないのだ。


 ルナが書き出した紙をじっとみる。

 おそらくだが、これはスキルが成長していった場合の枝分かれなのではないだろうか。


 三つのスキルからいくつもスキルは枝分かれしているが、その枝の先は初めのスキルの上位のものとなっている。

 見ていて頭が痛くなってくる。こういうの、考えるのは苦手なんだよな。


「この『挑発』ってルードとかタンクのやつが持っているスキルだよな? オレも習得できるのか……」

「習得したところで、使い道はないんじゃないか?」

「それにしても、どうして『挑発』なんでしょうか?」


 ルナが小首を傾げる。

 と、マリウスがぽんと手をうった。


「ホムンクルスの問題が起きた時のシナニスの挑発は見事だったし、ああいうのを普段からやっているからではないか?」

「んなことしてねぇよ!」

「いや、してるよシナニスは」

「うん、してる」


 否定するシナニスだったが、仲間たちからの追撃に顔を強張らせる。

 たしかに初めて会った時はいけ好かないやつ、と思ったな。


 シナニスが言葉をつまらせ、それから諦めるように項垂れる。


 他のスキルを見ていく。

 刀使い、連斬りの二つだ。


 刀使い……は刀の扱いがうまくなるスキルだったはずだ。それが近いのか。

 シナニスは刀使いという文字を見て、顔をしかめていた。


「この刀使いって……あれかね?」

「たぶん、ケンセイさんに憧れてこっそり練習してたやつ」

「ああ、やっぱり……」


 ぼそぼそと仲間たちが話している。

 それが聞こえたシナニスが立ち上がる。


「う、うっせ! なあ、ルード! それで、オレに何を求めるんだよ!? 攻撃か!? 補助か!?」

「シナニスには攻撃の補助をお願いしたい。マリウスの居合を敵に当てるための補助だ」


 シナニスの攻撃がどれほど通用するかは現状わからない。

 ならば、確実にスケルトンを仕留めるだけの力を持ったマリウスの一撃を叩きこめるようにしたい。


「わかったよ。それじゃあ、オレは……ってこの中のスキルじゃ意味ないのか?」

「……そうだな。ルナ他にもいくつかスキル候補はないか?」

「承知しました。少し離れた場所にあるものも探してみます」


 ルナが再び手をあてる。彼女は真剣な顔で手元の紙に文字を書いていく。

 いくつかのスキルがわかっていく。


「まあ、こんなところか」


 候補は10個ほどまで増えた。

 シナニスはその紙をみて、しばらく考える。それをマリウスが覗きこむ。


「ルード、このやんちゃくんをオレに任せてくれないか? とりあえず、二人で打ち合わせをしたい」

「シナニスだ、きちんと覚えろ!」


 悪くはないと思った。

 戦闘中の連携は、俺たち六人でとるというよりは、前衛はマリウスとシナニスになるだろう。


 二人の連携を高めるという意味でも、お互いの力量を知ってもらう必要がある。


「わかった。あんまり無茶させないでくれよ」

「わかっているよ。それじゃあ、行こうかやんちゃくん」

「ああ、くそ! 今日は名前を覚えさせてやるからな! そんじゃ、オレはマリウスと行ってくる。おめぇらも、頑張れよ!」


 シナニスはマリウスとともに部屋を出る。すぐ近くの扉が閉まる音がした、恐らくはマリウスの部屋だろう。


「それじゃあ、次はアリカだな」

「はい、任せてください!」


 アリカがびしっと背筋を伸ばした。


 アリカは魔法使いだ。

 彼女はつばの大きな深めの帽子に、黒いマントを身に着けていた。時々、ずれるのか、目元までさがってきてしまうようで、慌てた様子で直している。


 ルナがさきほど同様にスキルを書いていく。

 彼女は期待するような目でこちらをみてくる。


「私は何をすればいいですか? シナニスと一緒のときは、攻撃と回復魔法をやっていましたけど」

「今回は回復に専念してほしい。俺のスキルは前に伝えたと思うが、基本的に全員のダメージを肩代わりする。どうしても回復が間に合わない時が出てくる」

「わかりました。それじゃあ、ルナさんと併せの練習とかもしたほうがいいですかね?」

「……そうだな。ルナの魔法の腕はかなりのものだ。色々と学べることもあると思う」

「私が教えるのですか……頑張ります」


 ルナはぐっと拳を固めている。ただ、ちょっとばかり緊張している様子だ。

 ホムンクルスは基本的に誰かの命令をこなすだけだからな。


 こういう経験は初めてだろう。ただ、これからクランで仕事してもらう以上、こういう機会は増えるので慣れてもらいたい。


 いくつかのスキルを洗い出し、アリカが視線を向ける。

 俺もそれをみていくと、どうやら回復魔法を強化するためのスキルがあるようだ。

 また、スキルで『ヒール』も見えている。


 魔法よりはスキルのほうが効果が高いはずだ。

 それに、スキルと魔法を併用して使用することで、回復頻度をあげる手段もある。


 ……難しいところだな。

 アリカは自分のスキルの可能性を見て、顎に手をやっている。


 これからルナと相談してもらうのだが、その前に最後の一人を見てもらう必要がある。

 俺がちらと視線をやると、涼しい視線が返ってきた。


「次、私の番?」


 肩のあたりで切りそろえた緑髪に、冷たささえ感じる青の瞳。

 彼女の名前は、ラーファン。彼女は竜人族の血がわずかばかりはいっているのか、首元や手首などに竜の鱗が見えた。

 彼女が人間ともっとも違う部分は、左右に揺れる尻尾だ。


 ちなみに、この前の食事会でもっとも料理を多く注文し、平らげた子でもある。

 眠たそうに目をこすっている彼女は、シナニスのパーティーでは、タンクに近い役割を担っているそうだ。


 そして、俺が教える子でもある。

 ……俺も結構緊張しているんだよな。



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