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最強タンクの迷宮攻略  作者: 木嶋隆太
第二章

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相談




 シナニスたちは冒険者通りにいるようだ。

 通りに到着すると、夕方というのもあってか非常に混雑していた。


 露店のようにあちこちで食事などが売られている。

 魔物の肉の串焼きか。

 移動しながら食べられるので、ついつい買ってしまうんだよな。


「マスター、おいしそうなものが並んでいますね」


 ルナも気になるようだ。きょろきょろと周りを見ている。


「……シナニスたちと合流したあとに夕食を食べる予定だが」

「疲れた体には肉だな、やはり」


 ……まあ、少し腹に入れておいた方がいいか。

 今日は朝から迷宮で体を動かしていた。栄養補給は大事だ。


 近くの店で三人分を購入する。

 たれのついた肉を口に運ぶと、肉汁が口の中であふれた。

 うまい。これ一つでは物足りなくなってくる。


 夕食もすぐなんだからと言い聞かせ、シナニスたちを探しに向かう。


 シナニスたちは武器屋のほうにいるようだ。

 冒険者通りにはいくつもの武器屋が並んでいる。

 鍛冶を主にしているクランもあって、この通りには様々なクランが鍛冶屋を出している。


 有名どころになると、装備の質はもちろんだが、値段も跳ね上がる。

 なので、こういった通りにいる冒険者は必然的にそこそこの稼ぎがある者たちとなる。


 シナニスがいる武器屋につくと、ちょうど彼らが出てきたところだった。


「おっ、ルードたちじゃねぇか。どうしたんだ?」

「今朝のことでいろいろと進展があったからな。話しておきたいと思ってさ」

「へぇ、そうなんだ。そんじゃ今日の夕食はギルドにしようぜ」

「ああ、移動するか」


 シナニスたちと合流し、俺たちはギルドへと向かう。

 夕方というのは、ギルドがもっとも混む時間だ。


 冒険を終え、稼ぎの精算を行う冒険者が数多くいた。

 二階にあがると少しだけマシにはなった。

 いずれは冒険者たちであふれかえるだろう。


 席をなんとか確保してから、俺たちは料理を注文しに向かう。

 一通り済んだところで、向き合って座った。


「それでルード。もうおまえたちはアバンシアに戻るのか?」


 座ったところで、シナニスがそんな質問をしてきた。


「いや……俺たちはこの街の迷宮の更新をしたいと思っている」


 そう伝えると、彼らは目を見開いた。

 シナニスはははっとひきつったように笑った。


「おいおい、さすがに無茶だって。この前だって、二つのクランが挑んだらしいが、突破できなかったんだぜ?」

「俺たちはさっき48階層へ調査に向かった。……シナニスたちが協力してくれれば、もしかしたらいけるかもしれないとも思えた」

「……本気で言ってんのか?」

「本気だ。シナニス……それにみんな。俺たちと一緒にケイルド迷宮の最上階更新の攻略に参加してくれないか?」


 こざかしい話はなしだ。

 まずは、彼らのやる気があるのかどうか。

 それがなければ、これからの訓練にもついてこれないだろう。


「……本気で言っているのかよ。今回のは、フィルドザウルスとはわけが違うんだぞ? 長年――それこそ、オレたちが生まれるよりずっと前から更新されていなかった迷宮の更新だぞ?」

「ああ、わかっている。けど、やらないといけないんだ」

「二大クランのリーダーさんに会うためか?」

「違う。……俺は今回思い知らされた。今の俺の名前は弱い。俺の名前を聞いて、冒険者たちが驚くような力が必要だ。簡単に言えば、クランリーダーとして箔をつけたい。……そのためにも、迷宮の更新を行いたいと思っている」

「……なるほど、な」


 シナニスは椅子に深く腰掛け、それからちらと仲間たちを見る。

 彼の仲間たちは顔を見合わせている。

 シナニスはため息をついて首を横に振った。


「ルード……オレたちじゃあ戦力にはならねぇよ。クランメンバーになるって言ってすぐ情けない話だがな」

「もちろん、すぐにじゃない。ある程度鍛えてからだ」

「けどよ……」

「そこについては、オレから伝えさせてくれないか、ルード」


 マリウスが声を挟んできた。

 彼の目は真剣だ。任せよう。


「やんちゃクールボーイ。いきなりでは無理というのはオレもわかっているつもりだ。だからこその、訓練だ」

「訓練したって、そうすぐに強くなれねぇってのはオレたちが一番わかってるって」

「ああそうだ。今回の訓練で強くなるのは、あくまで48階層に出現するスケルトンに対してのみだ。もちろん、まったく無駄になるわけではないがな」

「……どういうことだ?」

「オレたちは48階層で戦ったうえで、どうにかなると判断してこの話をしているんだ。オレは、すでにスケルトンの剣術を把握している。オレがおまえに戦い方を教える。スケルトンと同じ剣術で挑み続ければ、おまえだって嫌でも慣れるだろ? 才能はあるんだしな」


 そう彼が持ち上げると、シナニスは少しばかり頬を緩める。

 ……マリウスが言うように、スケルトンたちは皆同じ流派と思われる剣術だった。


 その動きを覚えれば、シナニスも十分に戦えるようになるだろう。

 ルナの鑑定だってあるしな。そちらは、まだ伝えてはいない。


「……なるほどな」

「魔法に関しては、生を求める少女が。攻撃訓練ならいくらでもここにいるルードをタコ殴りにすればいい」


 おい。

 マリウスが冗談めかしく笑みを浮かべ、俺の方を指さしてくる。

 シナニスは、仲間たちに視線を向けていた。


「オレはな……まあ、そのなんだ。ルードの気持ちも、よーく、わかる。……オレだって、リーダーのために何かしてやりてぇ……し、その……全力で訓練には臨む。ただ、それでも足りないものはあるかもしれない。ルード、いいのか?」

「……ああ。わかってる。無理ならそこで終わりだ、無茶して挑むつもりはない。それに、訓練するのはおまえたちだけじゃない」


 俺たちだって、さらに強くなる必要がある。

 俺だってスケルトンにあっさりと利用されてしまった力など、まだまだ自分の戦いの拙さを痛感させられた。

 たるんでいる部分や甘えている部分を振り払い、ここで鍛えなおす必要がある。


「全員が今よりも一回り、二回りは強くならなければならないんだ。自分を成長させる機会と思って、協力してくれないか?」


 そういうと、みんなが頷いてくれた。

 ほっと胸をなでおろしていると、シナニスが笑みを浮かべた。


「ま、冒険者としてはな。歴史に名前を残したいってのもあるしなっ! 51階層までの攻略、やってやるぜ!」


 一度やる気を見せれば、そこからはノリノリなシナニスが宣言した。

 そんな彼の叫びが、近くを通った冒険者の耳に入ったようだ。

 ぷっと彼は噴き出した。


「……おいおい、あんまりアホなこと言ってんなよ」


 くすくすと、冒険者が笑う。

 そう言ってきた冒険者に、シナニスが目つきを鋭くして立ち上がる。


「ああ? なんだよ」

「51階層への攻略? ははっ! そんなことできるわけねぇじゃねぇか!」


 彼の言葉を聞いた他の冒険者たちが、こそこそと話しだす。

 こちらの話をうかがっているような様子だ。


「るせぇな。やってみねぇとわからねぇだろ?」

「わかるんだよ! あれだけ強いっていわれている『竜黒ノ牙』と『白虎ノ爪』たちでさえ、更新できてないんだぜ? く、あははっ! マジで言ってんのかよ、バカだな!」

「本当にな! おまえたちランクは?」


 シナニスが顔を真っ赤にして、目を吊り上げる。

 俺は彼を押さえるために、その肩を掴む。


「最高はCだな」


 彼らの求める答えを伝えると、より一層吹き出した。


「その程度の冒険者たちごときで、迷宮の更新ができるわけないだろ!」

「まあまあ、そう笑ってやるなよ! 若いうちに夢くらい見させてやれよ!」

「はははっ、ま、どうせできねぇだろうがな! 面白い話聞かせてくれたお礼に、飯でも奢ってやるぜ? このBランク冒険者の俺がな!」


 冒険者たちの笑い声は連鎖していく。

 シナニスがそれに対して、眉根を寄せる。

 彼の手をつかみ、首を横に振る。無謀なことを言っているのは俺たちだ。


 冒険者たちはそのまま去っていったが、時々こちらを見てはバカにしたような大笑いをあげている。


「……ちっ、この薄髪がっ。そぎ落としてやろうか……」

「シナニス、おまえは対人のときにもう少し冷静さを身に着けるべきだな。実際にできればそれでいいし、できなければ彼らの言う通りなだけだ。実力を示せばそれでいい。誰も何も言わなくなるさ」

「けどな……っ。こっちのリーダーの目標を馬鹿にされて黙ってられ――あ、ああいや、単純にむかついたんだよ、くそっ!」


 シナニスは気に食わなそうに、床を蹴りつけている。


「なんだやんちゃボーイ。リーダーのこと意外と慕っているのか?」

「んなこと言ってねぇよ!」


 俺が聞かなかったことにした部分をわざわざ掘り下げなくていいから、マリウス。

 マリウスはからかうように目を細めている。

 シナニスはそれを振り払うようにして、こちらを見てきた。


「ルード! 絶対更新するぞ! あいつらに、目にもの見せてやる!」

「ああ。みんなも頼む」


 シナニスの仲間たちも悔しそうに顔を顰めていた。

 結果的には、やる気もあがったので、よかったのかもしれない。



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