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鑑定のその先



 気晴らしがてら、一階層を歩きながら、先程の感想を共有していく。


「奴らの出現は多すぎるな。まったく、守護者にはもっと冒険者をいたわってほしいな」


 マリウスが言うと説得力あるな。

 確かにあの出現の頻度は厄介だ。おそらく三十秒ほどだ。三十秒で一体を仕留め切れないと厳しい。


 一対一ならともかく、先程のように複数の相手……さらに、ゴーストが加わると、とてもではないが処理が間に合わない。


 一瞬で敵を倒せるアタッカーは必須だ。

 マリウスは条件をクリアしている。あとは敵に防がれないようにできればいい。


 マリウスの一撃を当てられるように、他が助ける必要がある。


「猛毒の霧、か。ダメージを受けないのはルードのおかげか?」

「……かもしれないな」


 状態異常のうち、毒、猛毒というものがある。

 これは、外皮が時間ごとに削られていくというものだ。

 『犠牲の盾』で毒攻撃をくらうはずのマリウスたちを守り、『健康体』で俺は状態異常を食らわない。


 結果的に問題なく動けているのだろう。


 スケルトンの処理に時間がかかり、外皮が削られていくのだろう。


「そこらの対策をたてる必要がなかったのはラッキーだな」


 やはりあの魔物たちだな。

 ゴーストのほうをどう処理するか。それが問題になってくる。


「とりあえず、次はゴーストへの有効手段を探してみようか」

「そうだな」


 俺たちは何度か48階層と1階層を行き来し、調査を行っていく。

 夕方まで戦ったところで、俺たちはケイルド北迷宮を後にした。


 外に出ると、俺たちを案内してくれた冒険者たちが笑みを浮かべた。


「おまえたち、生きてたんだな」

「ええ、まあ」

「そいつはよかった。どうだった、48階層は?」

「そうですね。難しそうです」

「はっはっはっ、強がるなよ。難しいなんてもんじゃねえんだ。あの階層で通用する冒険者なんて、『竜黒ノ牙』と『白虎ノ爪』のリーダーくらいだ。あと何人か、強いやつがいれば新しい階層にも行けるんだろうけどな。なかなか、現れやしねぇよな。あの毒霧が厄介だって、前にうちのリーダーが言ってたよ」


 なるほど。そこが一番の問題だったか。


「そうですね」

「そういえば、最近は聞かないが勇者の称号を与えられた冒険者がいたよな? あいつも、リーダーたちに並ぶくらい強くなると思っていたんだが、どうなったんだか」

「……そういえば、二大クランのリーダーも勇者の称号を与えられているんですよね」

「まあな。ほかにも何人かいるらしいが、詳しいことはよくわからねぇな。ま、おまえたちが無事でよかった」


 気の良い冒険者に一礼を返し、ケイルドを目指して歩く。


「48階層ならば、なんとかなりそうだが、あとは49階層の魔物がどうなるか、だな」


 歩きながら、マリウスがそう語る。

 確かに、そうだな。

 俺たちは48階層の情報しかもっていない。


「オレと同じ適当な迷宮主ならば、同じ魔物を配置してくれているかもしれないが、どうだろうか」

「49階層も同じような造りと魔物なら、訓練次第で50階層への到達も難しくはないだろうが……」


 あとは、守護者がどんな奴か次第だ。

 意思を持たないやつなら、迷宮の管理は自動で行われるらしい。

 だから、似たような造りの構造が多くなるそうだ。


 逆に、定期的に魔物の配置がかわったり、内部構造が変化する迷宮はある程度の意思を持っている守護者である可能性が高い。

 まあ、あくまでこれはマリウスの意見だ。彼は別に他の迷宮事情は知らないし。


「マスター、これからシナニス様たちと合流し攻略に協力してもらうのですよね?」

「ああ。……ただ、シナニスは冷静な奴だからな。しっかりと攻略の可能性があることを伝えないと乗ってきてはくれないだろう」

「なるほど……」


 シナニスたちからすれば格上の迷宮に挑むことになる。

 恐怖や不安がたくさんあるはずだ。


「まあ、それなら問題ない。育成に関しては、前に話しただろう。あとは、鑑定スキル持ちのやつでもいれば、話が変わってくるんだがな」

「……何かあるのか?」


 そういえば、ルナが鑑定スキルを持っていることは伝えていなかったな。

 マリウスはああ、と笑う。


「鑑定スキルは、一番近い取得可能なスキルを見ることもできるそうだ。何か、工夫が必要らしいがな。それで確認すれば、どのスキルに一番近いか、簡単にわかるようになる。今までの行動の何かが、スキル獲得への道につながっていることもわかるから、その行動の反復でスキルが獲得できるというわけだ。まあ、つまり、持っていればよりスキル獲得が楽になるというわけだ。とても貴重なスキルだから、まず持っているやつはいないだろうが」


 ルナがちらとこちらを見てくる。

 たまには、こっちが驚かせてやれ。

 こくりとうなずくと、ルナがすっと片手をあげた。


「私持っていますよ」

「……なぬ!?」


 マリウスが予想よりも大きくのけぞってみせた。

 そして、こちらを見てくる。

 こくりとうなずくと、マリウスは目をらんらんと輝かせた。


「……なんとっ。そいつはすばらしい! それなら、それこそ、スキル獲得がぐっと近づく」

「ただ、ルナは……見えるのか? 俺のスキルを見たときはそんなことなかったと思うが」

「それはおまえの才能がないからではないか? 年老いた冒険者よりは若いほうがスキルは獲得しやすい」

「誰が年老いた冒険者だ。まだぴちぴちの二十だぞ」

「なんだと!?」


 さっきより驚いていないか?

 年上に見られがちだが、そこまで驚かなくても。

 俺がじとりとみると、マリウスは大きく笑った。


「それなら生を求める少女の見方が悪かったのだろう。少し工夫がいるそうだしな。どんな工夫なのかはわからないが」


 ……スキルには色々な使い方がある。

 例えば、『ヒール』にしたって、それで癒せる対象は人間のもつ外皮に限らない場合もある。

 人によっては、物などを直せる場合もある。


 そういった、様々な使い方を探すのも、スキルの醍醐味の一つだ。


 マリウスから貴重な話を聞けた。

 鑑定スキルを使えば、例えばこれからクランとして新人冒険者を育成するとき、他のクランよりも上手に育成できるのではないだろうか。


「ルナ、俺がこれから取得できそうなスキルはあるか?」

「……少し、試してみますね」


 彼女がぎゅっと手を握ってきた。

 それからしばらく、難しい顔をするルナ。

 まだすぐにはできないかもしれない。


「無理なら、無理でまたあとで練習するというのも……」

「いえ、もう少しやらせてください。なんだか、いつもと少し違うものが見えてきたような……」


 ルナが眉間にしわを寄せる。

 ずっと手を繋いで歩いているものだから、恥ずかしい。町も近づいてきたし、できれば町に入る前に離してほしい。


「ほぉ、照れているのか?」

「そうじゃない」


 からかうように目を細めてきたマリウスを睨みつける。

 ルナは真剣な表情で、今もうんうん唸っている。


「……もしかしたら、これかもしれません。マスターが獲得していないスキルが、いくつか見えます」

「……そ、そうなのか?」


 年甲斐もなくワクワクしてしまう。

 新しいスキルを獲得できる可能性があるのなら、俺だってほしい。

 攻撃スキルは現状一つしかないし、他のタンクが持っているような回復スキルとかも手に入れられるなら欲しい。


「いくつか見えますが、まだどれも遠いですね……」

「そうなのか……」

「スキル獲得は現状に不満を抱き、打開したいと思う心が大事になってくる。ルードはほら、タンクとしては満足していたんじゃないか?」

「……それは、確かにあるな」


 もちろん、多少なりともどうにかしたいという気持ちはあったが、それでもそこまで悩んでいたわけではない。

 現状の自分で、迷宮に通用していたので悩みは少ないほうだった。

 それが逆に、さらなる成長の可能性を押しとどめてしまっていたのなら、残念で仕方ない。


「まあ、まだこれからがあるんじゃないか? どうやら、若いようだしな」


 にやりと笑う彼の額を小突く。

 ちょうど、街の門も見えてきた。

 街へとたどり着くと、魔石の街灯がちかちかと明滅して点灯する。


 もうそんな時間なんだな。


「まずは、シナニスたちと合流しないとだな。……あとでギルドに集合するとは伝えていたが」


 街に入ってすぐにある建物についた時計を見る。

 もうすぐ午後七時か。


「それなら、オレがシナニスのもとに案内しよう」

「……わかるのか?」

「こいつがいるからな」


 小さなスライムを手のひらに乗せる。……またひっつけたのか。


「おまえ、それストーカーだからな?」

「安心しろ。おまえとシナニスにしかつけていないさ」


 彼がそう言うと、俺の肩からぴょんと眼前を何かが跳んだ。

 掴むと、スライムがいた。小さなそいつは俺の手のひらで嬉しそうにポーズを決めている。

 まるで虫のような小ささだ。これは気づかないな。




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