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最強タンクの迷宮攻略  作者: 木嶋隆太
第一章 
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町の人たち、そして現れる聖女



 空はわずかに明るみ始めていた。


 ようやく、アバンシアが見えてきた。

 相変わらず、王都と比べると迫力のない門。

 しかし、どこか親しみやすさがあり、俺はこれが好きだった。


 この町はいわゆる田舎だ。 

 特に目立ったものはない。

 一応、少し離れた山に水の精霊ウンディーネが住んでいる湖がある。


 そのおかげで、町を通る川の水は美しく、そのまま飲んでも問題ないといわれるくらいか。


 まあ、その利点だってアバンシアではなく、山の麓にある町のほうが強い。そちらは、観光客でにぎわっているとか。


 アバンシアは悪く言えば殺風景、良く言えば落ち着いている。

 体を休めるにはここが一番だ。


 そんな門には、町を守る自警団がいた。

 全身鎧に身を包んだ人……恐らく、あいつだろう。

 目が合うと、がしゃがしゃと揺らし、こちらにやってきた。


「久しぶり、ルード。今日が戻ってくる日だったか?」


 重装備で身を固めたフィールは、兜の面を上にずらすと、美しい金髪が見えた。

 予想通りだ。

 この町で、そこまで装備を頑丈にしているのは彼女くらいだ。


「フィール、久しぶりだ。予定より、数日早まったな。中に入っても大丈夫か?」

「もちろんだ。……そちらの女性は?」


 フィールと目が合うと、ルナは俺の後ろに隠れた。


「ホムンクルスだ。捨てられていて……妹の世話を任せるのにちょうどいいかと思ってたんでな」


 フィールとは何かと交流が多い。

 隠しておいてもそのうちばれるだろう。


「……ホムンクルス、か。都会ではやはり流行っているものなのだな。……それにしても、本物の人間のようだ」


 じーっとフィールが上から下までルナを見る。

 緊張した様子で、ルナが顔をこわばらせていた。


「もういいだろう。俺は一度家に戻る。おまえも、これから仕事だろう?」

「すまない、時間をとってしまったな。今度はどれくらい町にいるんだ?」

「今のところ、すぐに出発する予定はないな」

「そうか。また、自警団本部にも顔を出してくれると嬉しい。父上もきっと喜ぶだろう」

「了解だ」


 それからフィールは、体を揺らし、


「時間ができたら……遊びにでも行かないか?」

「そうだな」


 たまにはそういうのも悪くないだろう。

 フィールは笑顔を浮かべてから、面を戻した。


 ルナとともに町へと入っていく。

 町には見知った顔が多い。

 すれ違うたびに声をかけられる。中には俺が女を連れて戻ってきたことを冷かしてくるのもいる。


 いやいや。

 ルナの格好を見てみろ。仲良く帰ってきたっていう服装じゃないだろ。


 町の人たちには適当な言葉で誤魔化しておく。

 落ちついたところで、ルナに視線を向けた。


「悪いなルナ。この町の人たちはこういう人ばっかりなんだ」

「いえ、気にはしていませんよ。マスターは、凄い信頼されているのですね」

「ここにいる間は魔物狩りとかしているからな」


 みんな親しい。

 だから、妹を町に残して迷宮攻略ができる。


 家に到着するまで随分と時間がかかってしまった。さっき近所のおばちゃんに捕まったのが原因だな。


 苦笑しながら、ようやくたどりついた我が家にカギをさして中へと入る。


「まだ、妹が起きるには早い。静かに頼む」

「……承知しました」


 ルナとともにそろりと入っていく。

 そしてリビングに入ると、コップを片手にもっていた妹がいた。


「……お帰りなさい兄さん」


 相変わらずの冷たい黒色の瞳で、こちらを睨むように一瞥してきた。

 昔は、この視線が苦手だったが、最近ではぞくぞくと感じるようになってきた。


 いけない、これでは変態ではないか。

 俺の妹、マニシアは桶から水をすくい、こくこくと喉を鳴らす。


 美しい黒髪は肩のあたりで切りそろえられている。

 昔から運動していなかったからか、十七になった今でも体は子どものように貧相だった。

 けれど、彼女の美しさはそれで損なわれることはない。


「ただいま。体の調子は大丈夫か?」

「ええ、問題ありません……そちらの女性はどなたですか?」

「彼女はホムンクルスのルナだ。……ここにくる途中に出会ってな。そのままというのも、あまりいい気分はしなかったからな。拾ってきた」

「そうですか。それでは」


 それだけを言って、彼女はゆっくりと部屋へと戻っていく。


「仲……悪いのですか?」

「まあな」


 ぱたんと扉が閉まり、俺は相変わらずの彼女にため息をついた。

 いつからか、彼女はああした態度をとってくるようになってしまった。


「妹さん、怒っていました。私の、せいでしょうか?」

「そんなことはない。……とりあえず、ルナ。おまえに冒険者について教えていくが、俺はいつもこの町にいるわけじゃない。その間のマニシアの相手を頼んでもいいか?」

「はい、承知しました。ですが、どうすればよろしいでしょうか?」

「そう、だな。とりあえず、挨拶でもしてくるといい。女二人のほうが、弾む話もあるだろ」

「わかりました」


 ルナは小さく頷き、マニシアが入っていった部屋へと向かう。


「二人とも体型が似ているから、服とか余っているならもらうといい。ダメならあとで買いに行こう」

「そんな。わざわざ買っていただく必要はありません。なんなら、裸でも私の活動に問題はありません」

「俺の評判が問題だ。服は着てくれ」

「承知しました」


 ホムンクルスというのは少し感覚がおかしいのかもしれない。

 ルナとマニシアは……まあうまくやるだろう。


 マニシアは俺以外には優しいし、社交的だし、可愛いし、綺麗だからきっとうまくいくはずだ。


 俺は、まだ挨拶していない人たちに顔を見せに行こうか。

 薬屋と鍛冶屋だ。


 まずは薬屋に向かう。

 開店よりも早かったが、店主であるギギ婆は俺に気付くと玄関を開けてくれた。


 皺をさらに深く刻むようにして、笑顔を作った。


「ルードちゃん。久しぶりだねぇ」

「……久しぶりです、ギギ婆」


 町の薬師を務めているギギ婆だ。

 もうかなりの高齢であるが、未だに背中はぴしっと伸びている。


 俺もこんな老人になりたいものだ。


「今回の薬代かい?」

「はい。今回の分です」


 マニシアは生まれつき体が弱い。

 なんでも、体内で生み出される魔力が極端に低いそうだ。


 そのため、魔法使いが時々陥る、魔力欠乏症と似たような状態が常時続いてしまう。

 それを緩和するための薬をギギ婆に作ってもらっている。


 ただ、結構珍しい薬草を使うため、高額だ。

 ……それでも、ギギ婆はほとんど儲けがないくらいの格安で、作ってくれている。


 この人には足を向けて寝られない。


「了解だよ。この町には、どのくらい残っているんだい?」

「しばらくは」

「そうかい。マニシアちゃんもさみしがっていたから、ゆっくりしていきなよ。それと、またあとでうちの義娘がいるときにまたおいで」

「わかりました」


 マニシアが寂しがっているか。

 俺がいないほうが彼女も羽を伸ばせるのではないだろうか。


 ただ、寂しがっている、か。

 『お兄ちゃん、会いたいよぉ』、とか言ってくれているのだろうか。だったら、嬉しいな。


「次の予定が決まるまでは残ります。ポーションが必要になったらまた来ますね」

「ああ、じゃんじゃん使ってね。いや、使わないほうが本来はいいんかね、はは」


 にこりと、愛嬌ある笑顔を浮かべたギギ婆に頭を下げ、隣の店に向かう。

 鍛冶屋だ。この町で武器を買うならここしかない。


 扉を押し開けると、店番の女性がカウンターにぺたーっと寝そべっている。


「いらっしゃいませー」


 気だるそうな女性は、鍛冶師である店主の娘だ。


「久しぶりだな、ミレナ。店主のレイジルさんはいるか?」

「る、ルード!? なにもう戻ってくるんだったっけ!?」


 ミレナは今更ながらに姿勢を正した。

 ……誰も客はいないんだ、気にしなくてもいいっての。


「ああ。ついさっきな」

「い、いるよ! ぱ――お、お父さん! ルードが戻ってきたよ!」

「おう、聞こえてるぜ! ちょっと待ってくれ、今行く!」


 レイジルさんが鍛冶場の方から叫んだ。

 彼が来るまでの間、並んでいる武器を眺める。


 と、ミレナが髪を直しながらこちらに近づいてきた。


「今度はどのくらいいるの?」

「ここに来てからその質問は三度目だな」

「みんな、ルードに残っていてほしいんだよ。もちろん、わたしもね」

「そうか。……それはありがたいな。しばらくはいるつもりだ。向こうで組んでいたパーティーとの契約もなくなったからな」

「そうなんだ。それは……えーと良いような、わるいような?」

「俺からすれば新しいパーティーを見つける手間が増えたが……まあ、一度体を休められるしどっちもどっちだな」

「そっか! それなら今度どこかに遊びに行こ-よ!」

「暇があれば、な。そういえば、フィールにも誘われたんだ。そのときに一緒に行くか?」

「……はぁ」


 ……なぜため息をついているんだ。

 ミレナが肩を落としてから、俺の腕をつかんできた。


「わたしはルードと二人で、二人で行きたいんだよ。ここ重要だよ。意味わかるかな?」

「……いや、別に」


 二人きり、でか。

 自意識過剰でなければ、俺と仲良くしたいということなのだろう。


 ただ、俺は妹を治すまで、自分の都合は後回しにするつもりだ。

 だから、俺は何も言えなかった。


 困り果てていると、奥からレイジルが現れた。

 レイジルは、俺とミレナを見て、笑みをこぼした。


「おうおう。相変わらず仲がよろしいようで。近いうちに孫の顔でも拝めるかねぇ」

「もう、お父さん。気が早いよ、ね、ルード」

「気が早いというか……」


 そもそも、孫の顔を見るには俺とミレナが……その、そういう関係になる必要がある。

 やっぱり、さっきのミレナの言葉はそういう意味なんだろう。


 ……考えないようにしよう。


「おまえは相変わらずみてぇだな。そんで、戻ってきた挨拶ってところか?」

「ああ……それと、剣を一本作ってくれませんか?」

「……そういえば、武器もってねぇな。おまえ、前は迷宮で拾った魔剣持ってたろ?」

「それが――」


 俺は彼に事情を説明する。

 レイジルははあ、とため息をついた。


「あの魔剣、なかなかいいやつだったな。あれに並ぶだけのもんを作ってほしい、ってことか」

「……いや、そこまでは言ってませんが」

「いや! 作ってやろうじゃねぇか! ちょうど、面白い剣の構想はあるんだ! あとでまた取りに来てくれ!」

「……了解です。それじゃあ、またしばらく町で世話になる。これからよろしくお願いします」


 二人にそう言うと、彼らは笑みを返してくれた。



 〇



 それから二週間が過ぎた。

 ようやく、ルナの紹介も終わり、町での活動を始めようと思った矢先だった。


「ルード! あたしの愚痴を聞いて!」


 ニンが俺の家まで押しかけてきた。




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