表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
32/198

クランの話を聞きに行こう


 ルナとともに町を歩く。

 今は巡回ではなく、ある冒険者たちに用事があった。


 それは、ブーとガーリの二名だ。

 彼らは国内でもっとも大きい二大クランのサブリーダーたちだ。

 彼らに相談すれば、クランについて色々と聞けるかもしれない。


 ブーとガーリがまだ滞在しているということなので、彼らが拠点としているテントのほうへ向かう。


 現状、冒険者を受け入れる宿が圧倒的に足りていないため、一部の冒険者たちはテントを張ってそこで生活をしている。

 勝手に、冒険者区画と呼んでいるが、町の外郭より外側にある。

 いずれ、町を広げる工事が完了すれば、冒険者街のようなものも作っていくことになるだろう。


 そんなことを考えながら、テントの間を歩いていく。

 まずはブーのもとに行こうか。

 そう思って、彼がサブリーダーを務めるクラン『竜黒ノ牙』がいる場所へと向かったのだが、そこには別の冒険者がいるだけだった。


 着替え中であり、少し気まずい。相手が男性で助かった。


「……ああ、今ブーさんなら、ガーリさんと一緒だぜ」

「何かあったのか?」

「うちのクランメンバーが『白虎ノ爪』の奴にいちゃもんつけられたって話があってな。その真偽を確かめに行っているってわけよ」


 『白虎ノ爪』はガーリが所属しているクランだ。

 お互い仲が悪いのは、創設された時期がほぼ同じだからともいわれている。


 クランは冒険者をまとめるのが仕事だ。お互い仲良くやってくれればいいのに、とは思うが色々難しいのだろう。


 冒険者の街ではクランの一年の活躍を発表する祭りも開かれている。

 それが、余計に競争心をあおっているのだろう。


 確か、昨年のクラン一位が『竜黒ノ牙』だ。

 その前は『白虎ノ爪』だったな。


 その二つのクランの力が強く、三位以降は結構離れていたはずだ。

 とりあえず、大喧嘩に発展しても困るので、今度は『白虎ノ爪』へと向かう。


 大きなテントが一つあり、その前にブーとガーリがいた。


 周りの冒険者たちは「やれやれー!」なんて煽りあっている。

 ただ、俺に気づいた冒険者が、「やべぇ!」という感じで周りの冒険者の肩を叩いていく。


 学び舎の子どもたちのようだな……。

 

 何度も、町で喧嘩していた連中を止めてきたから、さすがにここの冒険者たちの間には、俺の顔も通るようになっていた。

 ブーとガーリも俺に気付くと、眉間に皺を寄せた。


「お、おうルードじゃねぇか」

「ひ、ひっさしぶりだな」

「おまえたち。また喧嘩しているんだってな?」

「そ、そんなことねぇよ……な、ブー!」

「お、おうとも!」


 がしっと二人は肩を抱き合う。

 そうして、数秒が経つと二人は「おえー!」と叫ぶ。


「くっさ! この豚くっさ!」

「くせぇ、このガリ、オレの親父並みにくせぇ!」

「誰が、豚の父親と同じくらいくせぇだ!」

「さっきから大人しく聞いてりゃ、誰が豚だ! せめてイノシシと呼びやがれ」

「落ち着け。今日は二人に話があってきたんだ」


 そういうと、二人は顔を見合わせ、我先にと顔を突き出してきた。


「なんだなんだ。クランの話か! ぜひとも、『白虎ノ爪』にな! 美しいクランリーダーが、おまえのことを待ってるぜ!」

「いやいや、『竜黒ノ牙』に来い! さらなる力を求める男にうってつけの場所だぜ! いかした筋肉を持つ、ムキムキなクランリーダーが、おまえを待ってる!」


 その内容だけなら、俺は『白虎ノ爪』で話を聞きたい。胸のサイズまで発表されていたら、うっかり入団していたかもしれない。『竜黒ノ牙』に教えられていたら、気分が悪くなってこのまま帰っていたかもしれない。


 二人は言い終えてから顔を突き合わせる。

 こんな喧嘩を町中でやっていれば、俺ももう少し止めるが、ここは町の中ではない。

 呆れる程度にすませておいた。


「クランの話で間違いはない。二人に頼みたいのは、クランリーダーに会わせてくれないかってことだ?」

「ほ、本気でクランに入るってことを考えてくれたのか?」


 ガーリがきょとんとした顔で訊ねてくる。

 その体を押しのけるように、ブーがタックルした。


「それなら、まずは『竜黒ノ牙』に来い! それで終わりだからな!」

「そんなわけねぇだろっ。『白虎ノ爪』のほうが先だ!」

「違う」


 二人が盛り上がるのを遮るように、俺は続けざまに伝える。


「俺も、クランを作ってみたいんだ。これから、この町を守っていく上で、それが一番必要だと思ったんだ」


 そういうと、二人だけではなくそばで聞き耳を立てていた冒険者たちも固まった。

 隣にいたルナも、意外そうに目を丸くしている。


 ……そういえば、まだこのことはバックル爺さんたちくらいしか知らなかったな。

 少し、恥ずかしい。


「クラン……を作るのはそう簡単なことじゃないとおもっている。俺にはできないかもしれないが、それでも挑戦したい。せっかく、できる環境も、あるんだしな。……だから、参考程度でいいから、話を聞きたいんだ。クランリーダーからなら色々いい話も聞けると、思ってな」

「……それで、オレたちに相談かよ」

「おいおい。これからライバルになるかもしれない男を、紹介しろってか?」

「……そう、だな」


 ……そうだよな。

 人気の店にいって、その商品と同じものを作りたいから教えろ、と聞きにいくようなものだ。


「悪かった。……ただ、その相談できる相手が少ないというのも事実なんだ。……おまえたちのクランではなくとも、何か参考にできる話を聞けないだろうか?」


 ブーとガーリは顔を見合わせ、それからはあと息を吐く。


「オレがおまえのことを嫌いなのはこういうときに意見が合うってところだな」

「ああ、最悪だ」


 二人は笑顔を作った。


「ルード、その気持ちは黙ってろ」


 ガーリがにやりと、口角をつりあげた。


「ああ、聞かなかったことにしてやる。クランリーダーには新しく入りたがっている人間ってことで紹介だけはしてやる。そこから、何を盗めるかはおまえ次第だ!」


 ブーもにやり、と口元を緩めた。

 ……おまえら。

 俺は二人の気遣いに、ただただ感謝しかない。


「……ありがとな」

「まあ、そのままうちを気に入って入ってくれてもいいしな!」

「馬鹿が、気に入るならうちだっての! おまえら! いいか! 男の挑戦を邪魔するような真似すんじゃねぇぞ!」


 二人は周囲の冒険者たちに怒鳴りつけるように叫ぶ。

 その場にいた冒険者たちが歓声をあげる。


「おいルード! 頑張れよ!」

「おまえくらいの若さでクラン作りたいなんていう大馬鹿者がいるとは思わなかったぜ! 応援してるぜ!」

「おうっ、問題起こして今のクランに居れなくなったら入れてくれや!」

「そんな奴はいれたくねぇだろ!」

「がははっ! それもそうか!」


 そんな風に盛り上がっている冒険者たちに、俺は苦笑を浮かべる。

 ……こういう馬鹿な男たちを見ていて、クランを作りたくなったというのもある。

 こんな風に、仲間たちと時間を共有できたら、どれだけ楽しいだろうか。


「……ああ、ありがとう。がんばってみるよ」

「それじゃあ。一度冒険者の街に戻る必要があるな。おまえはもう準備できてるのか?」

「ああ、行けるときに教えてくれ。いつでも大丈夫だ」

「了解。こっちも色々引き継ぐ必要があるから、それからだ。三日後の朝に出発と行こうか!」


 ブーとガーリとそれから多少打ち合わせをしてから、俺たちは町へと戻っていった。



 〇



 隣に並ぶルナが、俺の歩幅に合わせてきて、顔を覗きこんできた。


「意外でした」

「何がだ?」

「クランってこの前話していたことですよね。あの時、マスターはリーダーになることを否定しましたよね」


 そうだな。

 俺はバックル爺さんたちとのやり取りを思い出しながら、口を開く。


「あれから、少し考え方を変えた出来事があったんだ」

「出来事、ですか?」

「……ああ、みんなを見てたら、俺も何かやらないとって思ったんだ」


 色々なこと、全部だ。


「フィールは父の跡をつぐために、頑張ってる。ミレナだって、自分のやりたいことを見つけて、これから頑張るところだ。ニンだって、今は教会の人間として、町の人たちとさらに交流を深めていってくれている。そんな身近な人たちが、それぞれ何か目標をもって頑張っている。……俺も少しだけ、やってみたいと思った」

「……それがクランの設立ですか?」

「町のためにもなるし、何より……これから自分でメンバーを集めて、ギルドとやり取りをしていけば……様々な迷宮が攻略可能になる」


 あくまで、順調にいけば、の話だ。

 失敗すれば、町にも、伯爵にも迷惑をかける。協力してくれたブーとガーリたちにもだ。


 それが怖いから、俺は……あの場で咄嗟に否定したんだろう。

 情けない話だ。


「マスターの夢、ということですか?」

「どうなるかは、まだわからないけどな」

「……夢。私は――」


 ルナが考えるようにつぶやいてから、笑みを浮かべる。 


「マスターなら、きっとできます。……マスターが嫌でなければ、私も一緒にお手伝いします」


 ルナがぎゅっと手を握ってきた。

 微笑んでいる彼女に、俺も笑みを返した。


「嫌なわけがない。俺は……色々と足りていない男だからな。トゥーリ伯爵様とシサンティさんみたいに、ルナが俺を補助してくれるっていうなら、嬉しい話だ」


 俺にはトゥーリ伯爵のような快活さはない。

 けど、俺にしかできないこともあるはずだ。


 ルナはしばらく考えるように顎へ手をやり、それから首を傾げる。


「それはもしかして、私とマスターが夫婦のようなものになるということですか?」

「………………」


 ルナが心底不思議そうに首を傾げ、俺は自分の例えが上手ではなかったことに気付いた。

 そ、そうだよな。それじゃあまるで、俺が告白したみたいじゃないか。


 恥ずかしくって顔が熱くなる。

 それを誤魔化すように首を振る。


「い、いや違う。リーダー、サブリーダーみたいな感じで、色々と助けてほしいってわけだ」

「そうでしたか……。承知しました、お任せください」

 

 ルナはこくりと頷いて、拳を固める。

 ほっと胸をなでおろし、俺たちは家へと戻った。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ