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クランについて




「俺がクランですか?」

「はい。こちらで判断したところ、あなたはこの町に関していえば、影響力がもっとも強いと考えています。それに、ここからは少し現実的な部分での話になりますので、聞き苦しいかもしれませんが、あなたはもともと、勇者パーティーに所属していたと聞きました。それに、聖女の名前を借り、例えばあなたの今回の迷宮調査の活躍、特殊なスキルを持っていることを新聞社などを通して発表すれば、それだけでクランに必要な人間を探すこと、またクランとしての力も強まると考えられます」

「……」


 確かに、その通りではあるかもしれない。

 俺が、クランリーダー。


 やってみたい、という気持ちはあったが……責任が重たすぎる。

 失敗したらどうする? それに、マニシアの体が多少よくなったとはいえ、まだ完治はしていない。


 俺は少しだけ考えて首を横に振った。


「その話は……現実的ではありません。俺には俺の……別の目的がありますから」



 シサンティさんは少しだけ視線を落としてから、こくりと頷く。


「そうですか。それでは、この町にふさわしいクランについてはこれから探していきましょう。ただ、そちらもルードさんに頼みたいと思っていました」

「俺にですか?」

「はい。自分の領内の町ではありますが、我々はお恥ずかしながらこの町の空気、といいますかそういったものを詳しくは知りません。世の中、様々なクランがある以上、この町に合う、合わないクランも出てくると思います」


 確かに、クランによって色々だ。

 シサンティさんが続けて話す。


「あなたには、実際に多くのクラン本拠地がある冒険者の町へといって頂き、その判断をしていただきたいと考えております。もちろん、その活動に必要な経費や、報酬に関してはこちらから別に用意させていただきます」

「それくらいなら、構いませんよ」


 冒険者の街か。

 あまり詳しくないが、アバンシアにいる冒険者に相談すればなんとかなるだろう。


「わかりました。それでは、そのように話をすすめたいと思います。また、もしもクランを作るのであれば、その準備もこちらで行いますので、いつでも仰ってください」

「……了解しました」


 シサンティさんが呼吸のために口を閉ざした隙に、トゥーリ伯爵がテーブルに身を乗り出した。


「ルード、クランつくってくれないのか?」

「……その。自由に動ける立場でいたいんです。俺には妹がいて、妹を助けるために迷宮に潜っているんで」

「なんだ、何かの病気なんか?」

「はい。生まれたときから、体が弱いので……」

「……あー、そういうことか。けどさ、ルード。クランを作ったからって自由がなくなるってわけじゃないぜ?」

「……そうですかね?」

「おう。例えば、最後の決定だけはクランリーダーがやって、それ以外の雑務は全部サブリーダーみたいな人に任せちゃえばいいんだよ。オレだってそんな感じだからな。責任は全部オレが持つからって、仕事任せちゃってるし!」

「そのせいで、私の仕事がかなり増えているのですが。それに、現在のルードさんは一人ですよ」

「うっ、あっ、その……えーと……」


 シサンティさんが、じろりとトゥーリ伯爵を睨む。

 彼は鼻歌で誤魔化しながら、こちらに顔を向けてくる。


「と、とにかくだ。ルードを支えられる人材も探してみるよ。それで、改めてルードにお願いしたいとオレは思ってんだよね」

「どうしてそこまで」

「フィールの親父さんもよくお前のこと話してたんだよ。それで、ずっと気になってたんだよ。何度か会いに来たこともあるんだぜ? その時に限って、おまえいなくて会えなかったけどさ」


 彼は頬を膨らませる。いい歳して、とシサンティさんがため息をついている。


「という意見は半分、ですね。実際に町に来てから、あなたのことを少し聞いてみました。町の人たちは、凄い真面目でいい子と皆あなたを褒めていましたよ。これから、この町では様々な立場の代表者がかかわっていく必要があります。あなたなら、そのすべての立場の人とうまくやっていけると私は判断しました」


 それはさすがに……買いかぶりだ。


「その評価は素直に嬉しいです。ですけど今はやはり……考えられません。クランをつくったとして、俺がどれだけやれるかもわかりません。町のことも考えれば、すでにあるクランに頼むほうがいいと思います」

「……そっか。そうだな。うん、わかった。オレも押し付けるつもりはないからさ。そんじゃ、この話終了! よし、次! って、もう終わりか。オレの番だな。まずはみんな気になっていた治安維持に関してだ」


 トゥーリ伯爵は手元の紙を持ち上げ、声を張る。


「一応、現在の予定ではうちで自由に使える騎士を五名、配置する予定だ。そのくらいいれば、さすがに冒険者たちも好き勝手暴れるってことも減るだろうしな」


 確かに、一人でも騎士がいるとなれば、うかつな行動はできなくなるだろう。

 それでも、完全になくなることはないだろう。


 あとは、そこに冒険者たちをまとめられるだけの強い力を持ったクランがいればいい。

 

「まあ、だからって何もしなかったら大して変わらないだろうと思うし、ギルドからも再度、徹底して注意などをお願いな」

「承知しました」

「それと、これはルードにも関係するから聞いといてくれ。とりあえず、今領内で薬草や鉱石が余っている土地もあるんだ。そういうところから、素材は集める予定だ。だから、鍛冶屋や薬屋の人とはその辺り詳しく打ち合わせしてもらってもいいか? ということをルードはどっちにも伝えておいてくれ」

「承知しました」

「わかりました」


 リリアが首を縦に振る。

 トゥーリ伯爵は満足げな顔で、次はフィールを見る。


 びくん、っと背筋を伸ばし、固まる彼女。……フィールのやつ、気の抜けた顔をしていた。


「自警団の活動費なんだが……そっちも一応は増やす予定だ。ただ、どのくらい必要なのか、そこら辺はまた話しあって調整ということで、頼むな」

「は、はい」

「人が足りないってのもわかってる。この町に興味のある人とか、別の町にも募集をしてみるよ。それでとりあえずはいいか?」

「は、はい」


 フィールが壊れたようにこくこくと頷いている。

 話し終えたトゥーリ伯爵は体を思い切り伸ばした。


「そんじゃ、難しい話はこの辺りで終わりだ。いやあ、つっかれたつっかれたー」


 ぐだーとトゥーリ伯爵が机に突っ伏し、隣にいたシサンティさんが呆れたようにため息をついた。

 ……本当に、自由な人だな。


 トゥーリ伯爵が机に投げた紙は、すべて子どもが最初に学ぶ文字で書かれていた。

 ……わざわざ、シサンティさんが作ったのか。


「皆さん、お疲れさまでした。これでとりあえず、話は終わりにしましょう。各代表者とはまた個別にお話をする時間を設ける場合もありますが、そのときはよろしくお願いいたします」


 シサンティさんがそう締めたことで、俺もようやく、力を抜けた。

 隣に座っていたルナが、小さく頭をさげる。


「マスター、お疲れ様でした」

「ああ、ルナもありがとな」

「いえ、私はただ聞いていただけですので」


 それだけでありがたい。

 一人で来なくてよかったと思う。


 フィール並に緊張していたかもしれない。

 そう考えると、フィールもよく意識を失わず、乗り切ったものだ。


 彼女は今にもぶっ倒れそうな疲れた顔をしているが。


「そんじゃ、これからパーッと行こうか!」

「パーッと、ですか?」

「おうっ、これからみんなでパーッと飲もうぜ! もう準備はしてるんだ。自由に、色々話したいしな、ルードは酒は飲めるのか?」

「……それほど、強くはないですね」

「そっかそっか。まあ、そこら辺は自由にな! ニンちゃんは酒好きだったよな?」

「大好き」


 目を輝かせるニン。


「さすがっ。リリアちゃんはどうだ!?」

「私は妹が待ってますので帰ります」

「妹も連れてきていいって! 今日は仲を深めるためにみんなで騒ごうや!」

「甘いものも出すなら考えます」

「もちろん! うちのコックがもう外で作ってる。そういえば、フィールちゃんってお酒強かったっけ? 一緒に飲んだことなかったよな?」

「はい、強いです」


 嘘つけっ。

 さすがに事情を知っているニンも頬を引きつらせていた。


 いや、別に実害はないんだけどな。いや、俺にはあるけどさ。

 役得ではあるけど、なんというか周りの目が痛い。


 あとで、トゥーリ伯爵にはこっそりと教えておこう。

 ようやく、フィールも肩の力が抜けたようでそれは素直に喜ばしいことだ。


「それじゃあ、今夜は飲んで騒ぐぞ!」


 それがトゥーリ伯爵の目的だったんじゃないか? というぐらいにまぶしい笑顔である。

 シサンティさんが何度か頭をはたいているが、まるで気にしていなかった。

 





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