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状況



「それでは、これより会議を開始します。進行に関しては私、シサンティが務めさせていただきます」

「話したい奴から手あげてもらったほうがよくねぇか」

「あなたは黙ってください。それでは、よろしくお願いします」


 伯爵の妻、シサンティさんが一礼する。

 ……この人、結構怖い感じなんだよな。


 シサンティさんは、冷めた表情をリリアに向ける。

 リリアも似たような表情だ。良い勝負だな。


「それでは、ギルドから現状について報告お願いします」

「はい」


 リリアは手元の紙を持ち、立ち上がる。


「事前に報告をしていた通りです。現在、ギルドは仮設テントと部分的に完成した建物での活動を行っています。建物が完全に完成するまでは、もうしばらくかかる予定です。現在うちで取り扱っている依頼は、国から指定されているフィルドザウルスの素材納品のみです。というのも、アバンシア果樹園迷宮ではフィルドザウルス以外の魔物が確認されていませんので、依頼はそれ以外ない状況です。町付近で、強力な魔物が出たという報告は、ギルドが設置されてからは発生していませんので、冒険者にあまり魅力的ではない、というのが現状の認識です」


 ……そう、なんだよな。

 迷宮が出現してこれから町がにぎやかになると喜んでいたが、問題は山積みだ。

 迷宮、か。


 もっと魅力ある迷宮に作り替わってくれればいいのだが。


「それと、ギルド職員はひとまず十名、配置の方は完了しております。これからの町の様子を見て、数は上下していくと思います」

「迷宮は微妙なんかぁ……ちーっと残念だなぁ」


 トゥーリ伯爵が椅子に体重を預ける。


「一つ、領主様へのお願いとしましては、冒険者たちの治安維持です。ギルドからも何度も注意をしていますが、現状ではその効果は薄いです。やはり、騎士が何名か常駐したほうがいいと我々は考えています」


 自警団に、逮捕権はない。

 だが、騎士ならばある。


 これだけ人の出入りが出るのなら、いざというときに行動できる騎士を何名か配置してほしいというのは、俺からも頼む予定だった。


「了解。たぶん、それは自警団と市民代表からもあがると思うし、最後にオレがまとめて回答するよ」

「承知しました。ひとまずは、以上です。何かあれば、都度連絡の方させていただきます」

「了解、ご苦労さん。そんじゃ次は――」

「教会の方、お願いします」


 遮るようにシサンティさんが声をはさむ。

 しょんぼり、といった様子でトゥーリ伯爵は肩を落としている。

 幼児……失礼かもしれないが、ちょっとわかってしまう。


「はい。まあ、我々も事前に報告をして、許可をいただいていますが、この町に教会を建設することになりました」

「そうですね。教会があれば、冒険者がもっと気軽にやってこれますね」

「どうやら、迷宮ができたのに合わせ、神の啓示が見れるようになったようです。これは、私のほうで確認済みです」


 神の啓示とはスキルの所持と外皮の量を把握できるものだ。


 理由は分からないが、教会曰く神に近しい聖地では、神の啓示を聞けるんだそうだ。

 設置した神石に祈りをささげることで、その者が所持しているスキルと外皮がその石に記される。


 鑑定のように、正確にスキルの効果を知ることはできないが、これのおかげで俺たち人間は第三者に自分のスキルや外皮を伝えられる。


 自己申告なら、いくらでも言えるからな。

 ここで出現したスキルが、国に報告され、そのスキルのランクが決定する。

 希少性だけで、SSRになったのが俺だ。


 俺が死ぬまでに、スキルの情報がわかれば正確に評価されることになる。

 俺のスキルはいったいどうなるのだろうか。


「それは素晴らしいですね。というと、教会所属の騎士も何名か常駐するような形ですか?」

「ええ。ですが、彼らはあくまで教会の守護です。もちろん、緊急時であれば協力いたしますが、基本的な業務は教会を守ること。治安維持はそこに含まれていませんよ」


 ……シサンティさんとニンの間で火花が散った気がした。

 シサンティさんは騎士の経費を削減したいという気持ちがあり、ニンは余計な仕事を騎士にさせたくないという思いがあるのだろう。


 なんでもかんでも良い人として引き受けていたら、それはただの馬鹿、というわけか。


 ただ、教会ができるだけでも違ってくる。

 悪い魂は神のもとには行けず、魔神に回収され魔物へと作り変えられてしまう。という教えがある。


 教会の教えを信じている人たちは多くいて、そんな教会が町の中にあれば意識的なものが変わってくる。

 だから、抑止力として十分仕事してくれるはずだ。


「教会からは以上ですか?」


 何やら色々と考えている様子のシサンティさんが首を傾げる。

 ニンは「はい」と言ってから座った。


「それでは、次は町の方々に聞いていきましょうか。自警団代表、フィールさんお願いします」


 そのとき。少しだけシサンティさんの表情が柔らかくなった。

 ……怖い人だと思っていたけど、それだけじゃないな。


「は、はい!」


 フィールにしては珍しく、噛まなかった。

 彼女は何度も何度も深呼吸をしてから、紙を持ち上げた。


「自警団からの報告、はっ。……えと、現在。自警団メンバーは合計十人、います。その、全員が毎日仕事をしていて、それでも足りないときは、ルードやルナ、冒険者で協力してくれる方たちや引退した人に頼んで、日々、なんとか仕事をこなしています。まだ、外で魔物の出現など、大きな問題が出てきていないため、問題はありませんが、緊急時の対応が行えるほどの数、体力は……残って、いません」


 ……だろうな。

 俺だってほぼ毎日のように仕事している。


「ですので、人数の増員、またそのための活動費を増やしてほしいと思っていますです。以上、です……です」

「そうですか。また詳しい話は今後まとめていきましょう」


 シサンティさんの言葉に、フィールは短く息を吐いてから席に戻った。

 次は、俺か。


 シサンティさんの視線がこちらを向く。

 先ほどまでの優しさはすっかり消えている。


「それでは、市民代表としてルードさん、お願いします」

「わかりました」


 席を立ちあがり、全員を見やる。

 ……普段よく話す奴らだが、こうしてみると雰囲気が違った。


 フィールが緊張する理由もわかる。


「俺は、市民から集まっている意見をまとめて、発表させていただきます」


 まとめた紙を持ち上げ、小さく呼吸する。


「まず、一番は宿が少ないことです。現在、泊まれていない冒険者たちは町の一角でテントを広げています。その冒険者たちが夜の間騒がしいという苦情があります。また、冒険者たちのいざこざも、最初に比べれば落ち着きましたがそれでも数が多く、町の人――特に子どもたちが怯えてしまっています」


 これは相変わらずだ。

 やはり、この町が悪い意味で過ごしやすいのが原因だ。


 騎士でもいれば変わってくるんだろうけどな。


「ギルドからの改めての注意、警告を行っていただき、騎士の配置をお願いしたいです」

「それについては、最後に答えさせていただきます」


 シサンティがきっぱりと言い放つ。やっぱりこえぇな。

 睨むような視線に興奮することはない。どうやらマニシアだけだな、俺の体が反応するのは。俺も正常ということか。


「次にですが、これはギルドがもっとも関係してくると思います。町の鍛冶屋と薬屋からのお願いですね」

「なに?」


 リリアがぴくりと眉をあげる。


「これまで、この町ではギルドがなかったため、素材などは直接やり取りしていました。ただ、これからはギルドがそういったものを管理する以上、個人間での取引は基本的にはなくすことになると思います」

「うん、そうね」

「ですので、そこら辺の値段や、どれだけ納品を頼めるのか――すでに薬屋のほうは素材が足りなくなっている状況です。一刻も早く教えてほしいそうです」

「了解。上には伝えておくから、ただ、結局薬草はしばらく足りない状況が続くと思うわね。迷宮で採取できないし」


 ……そうだな。そこは俺たちにはどうしようもないところだ。


「俺からは以上です」

「申し訳ありません、一つ、追加で報告をしておきます」


 すっと、俺のかわりにリリアが立ち上がる。

 シサンティの目が少し鋭くなる。


「なんですか?」

「町での治安維持ができていないのはクランがないのも一つの原因です。どこか、この町に拠点を置きたいクランがいれば、冒険者たちも多少は落ち着くと思います。まあ、ある程度力のあるクランであるのが条件ですが」

「そうですね。ただ、そちらは慎重に選ぶ必要がありますね。この町にあったクランである必要がありますから」


 ……なるほどな。

 クランとは、言ってしまえばパーティーの集合体みたいなものだ。


 冒険者はかなりの数がいて、ギルドだけでは面倒が見られないため、クランという制度がある。

 パーティーと違うのは、その活動が認められればギルドから補助金が支給されることになる。


 結構馬鹿にできない金額らしく、クランリーダーになって悠々自適な生活を送りたい、という冒険者もわりかしいるのは聞いた事がある。


 クラン、か。

 クランによって、その町に住みつく冒険者は変わってくる。


 昔……まだ俺が冒険者になりたてのとき、クランに憧れたことがあった。

 いつか、自分のクランを持ってみたいなぁ、と思っていた。


 新人冒険者の面倒を見たり、他のクランと交友を深めていったり……そういうのが、楽しそうだったんだ。


「話は以上ですか?」


 シサンティの視線に、リリアは頷いて席に座った。

 シサンティはふぅと短く息を吐き、手元の紙へと視線を落とす。


 途中熱心にメモしていたのは知っている。

 ……これからなにを言われるのだろうか。すこし不安だ。


「そうですね。色々と問題点があることは報告書でも確認できていましたが、こうして聞かせてくださったことまずは感謝いたします」


 シサンティが頭をさげ、それから俺のほうへ視線を向けてきた。


「先ほど話したばかりですし、一つ確認したいのですが……ルードさんはクランリーダーになるつもりはありませんか?」

「へ?」


 想定外の質問を受け、俺は思わず素の返事をしてしまった。





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