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最強タンクの迷宮攻略  作者: 木嶋隆太
第一章 
21/198

冒険者生活の始まり

 

「まさかね、君たちがそんなに強いとは思わなかったな。いや、特に君かな」


 そう言って、守護者は笑みを浮かべる。


「オレの攻撃をここまで受け切ったやつは今までにいない。かなりの体力を持っているようだ」

「そうかもしれないが、みんなのおかげであんたを倒せた」


 攻撃が遅れていれば、仲間が俺を信じてくれなければ、倒すことはできなかった。


「どちらにせよ、おまえはオレのだした条件をクリアしたんだ。この魔本の一ページをあげよう。そこにある呪文を詠唱すれば、妹さんとやらの魔石の欠損も少しは治るんじゃないか? まあ、どんな傷であろうとこの魔本のページならば、大丈夫だろうさ」


 守護者は手に持っていた紙をこちらへと渡してくる。

 古い紙だ。

 粗雑に扱えばすぐに破れそうなものだが……不思議な力を感じられた。


「これからどうするんだ?」


 彼は守護者で俺は冒険者だ。

 町の発展のために、できれば迷宮を破壊したくはなかった。


 理由は不明だが、迷宮の最奥に本来いるはずの者――すなわち、守護者を討伐することで、迷宮は世界から消える。

 そのとき内部にいた人々は、全員迷宮があった付近へと転送されることになる。


 迷宮がなくなれば、町が発展する機会もなくなってしまう。


「ここで見逃してくれるのであれば、もう少しここで守護者として生きていたいな」

「それなら……問題ない、のか?」


 ニンとリリアたちを見やる。

 教会の代表者と、ギルド所属の調査員。


 リリアは首を傾げ、ニンもまた顎に手をやった。


「……こういった事例をあたしは初めてなのよね。確か、昔いた英雄の名をかたった者は、結局化け物になったので討伐された……とか聞いていたけど」

「暴走しないのであれば、別にいいんじゃない、とリリアは思うけど」


 神の使いとされている守護者たちであるが、その多くは魔物であることが多い。

 教会の教えを信じていない人たちもそれなりにいる。


 迷宮は神ではなく魔神が造り出しているのではないか、という意見もある。

 教会はこれに対して、一つの見解を示している。


 神とはいえ、万能ではないのではないか? ということだ。

 人を生き返らせるには、いくつもの代償を支払う必要がある。

 その代償が、複雑な迷宮内や、魔物の存在なのではないのか、と


 それらを代償として支払ってもなお、過去の英雄たちを復活させるには足りず……魔物化してしまうのではないか、と。


 蘇生に失敗してしまった魂――魔物化してしまった守護者たちは人が狩る必要がある。

 ……ほとんどの迷宮はそんなもんだ。


 最後の決断は俺に任せる、とばかりに二人は見てくる。

 守護者はごりごりと地面に頭をこすりつけている。


「シュゴール、調査の方は?」

「調査は完璧ですよ。やることは、十階層までにどんな魔物が出現し、どんな素材があるのか、それを知ることができれば大丈夫です」


 そこまでに出てくる魔物から、おおよその迷宮のランクは判定できる。

 ……それなら。


「迷宮の外に魔物がでないようにだけしてくれないか? 近くに町があるんだが、魔物が外に出て何度か被害が出ている。それをなくしてほしい」

「そうか。それくらいでいいのなら、やっておこう」


 できるか分からなかったが、できるんだな。

 ……これで、町への被害もない。

 この迷宮に関して、ひとまずは安心だな。


「調査はここまででいいんだろ?」

「うん」


 リリアが伸びを一つして、シュゴールへと視線をやる。

 彼はここまでの調査について、丁寧に記録している。そんな彼が、ぐっと親指を立てた。


 帰る準備を始める。

 守護者もいつの間にかきえ、ニンは背筋を伸ばした。


「もっと大変なことになるんじゃないかって思ってたけど、無事に終わってよかったわね」

「……そうだな。マニシアを治すための欠片も手に入った」


 迷宮の調査よりも、俺はそっちのほうが嬉しかった。

 軽く伸びをしていると、双子たちがこちらに近づいてくる。


「リリアたちからは一つだけ」

「ちゃんと、ケーキ奢ってね」

「……わかってるよ。それじゃあ、帰ろうか」


 双子の自由さに俺たちは苦笑し、スキルを発動して迷宮から離脱した。



 〇



「お、おい! ルードたちが戻ってきたぞ!」


 自警団の一人が叫んで、駆け寄ってくる。

 そうして、俺の手を握って、ぐすぐすと鼻をならす。 


「よかった! おまえが無事で……っ! 勇者様がやられるような迷宮に入ったって話だから、みんな心配だったんだぜ?」

「……そうだな。けど、俺たちは無事だ。それに……調査も完了したぞ」


 シュゴールがまとめていた調査結果を、彼に見せる。

 守護者に関しては、多少濁してある。襲撃は受けたが、撃退に成功した。みたいな感じで。


 ……シュゴールの優しさで、俺が受け取った魔本の一ページもなかったことにしてくれている。


 双子も見ていないから、と言ってくれた。

 「面倒だし」とぼそりと呟いていたが、俺も聞こえていないことにしておいた。


 ギルド側が守護者をどのようにとらえるか分からないからな。

 シュゴールの紙を見ていた自警団が、声を張り上げた。


「ルードが、調査を成功させて帰ってきたぞー!」

「ルナお姉ちゃんも無事だ!」

「ふっ。なかなかの腕のようだな、まずはおめでとう、といっておこうか」

「やっぱりかなりの腕だったか……こんな町にすげぇ冒険者が隠れているんだな」


 見知った顔もあれば、見知らぬ冒険者もいる。

 数多くの人が町の入口に集まり、それぞれの感想を口にしている。


 誰かが俺の頭を叩きながら、「やるじゃねぇか」と叫ぶ。

 一人がそんな態度をとるものだから、他の奴も連続で攻撃してくる。


 やめろ、と笑顔とともに腕で振り払い、町を歩いていく。

 そうして、仮設テントであるギルドに到着した俺たちは、そこの職員に報告書を渡す。


「……まさか、本当に達成するとは」


 職員の男性がずれた眼鏡を直すようにして、何度も見ていた。


「悪い。双子、シュゴール。俺は一度家に戻りたい。あとは任せてもいいか?」

「ええ。お任せあれ!」

「……悪いな」

「いえいえ。妹さんを安心させてください」

「……ありがとう」

「それじゃあ、あたしは自警団のほうに報告行ってくるわね」

「……ありがとな」


 ニンがそういって、ひらひらと手を振ってパーティーから離れた。

 俺はルナとともに、家へと向かう。

 ポケットにしまった紙を確認してから、息を吐く。


「よかったですね、マスター」

「……ああ、本当にな」


 家に着くと、マニシアが慌てた様子でやってきた。

 彼女は倒れるように抱きついてきたので、それを受け止める。


 マニシアの小さな体を一度、ぎゅっと抱きしめる。

 それだけで天にも昇る気持ちだった。


「兄さん、怪我をしていませんか!」

「ああ、大丈夫だ。それと……迷宮の中で魔本のページを拾ったんだ」


 ポケットに入れておいた紙を取り出す。

 マニシアはそれをみて目を見開く。


「魔本ってもしかして……兄さんが、ずっと探していたという……」

「ああ。このページを集めれば、いつかはおまえの体を完全に治すことだってできるそうだ」

「……兄さん」

「……すまない。おまえは怒るかもしれないが、おまえが自由に動けるようになるのが俺にとって、一番の幸せなんだ。だから、これからも俺は魔本を探したい」


 彼女の頭をなでながら、気持ちを伝える。

 マニシアはぎゅっと俺の胸元を掴んでくる。


「……兄さんはバカですよ。兄さん一人ならもっと自由に、やりたいことができるんですよ」

「やりたいことがそれなんだ。バカな兄貴で悪かったな。けど……これからは、マニシアが治った後のことも考えて行動してみるよ」


 バンバンと俺の胸を殴るマニシア。


「マニシア様、マスターは……マニシア様のことが本当に大切なんだと思います。ですから――」

「ルナさん。あなたにも色々と迷惑をかけてしまいました。……わかっています。兄さんのことならなんでも、私が一番知っていますから」


 俺は嘆息をついてから、マニシアの頭を撫でる。


「とにかくだ。俺はこれからも迷宮攻略をすすめていきたい。……やっぱり楽しいんだ。魔物と戦うのがな」


 嘘は言っていないし、マニシアを安心させたいという思いもある。

 マニシアはすっかり口を閉ざし、こくこくと頷く。


 そんな彼女に、俺は手に持っていた魔本を読み上げる。

 読みあげると、文字が光りだす。

 そうして、俺の手から離れた紙が、マニシアの体へと飛んでいく。


「……なんだこれは?」


 紙は彼女の体内へと入っていき、そしてマニシアが一瞬、揺れた。

 マニシアは目を見開く。


「だ、大丈夫か?」

「は、はい。大丈夫です。……それに前より、体が軽いです」


 そう言って、彼女はその場でぴょんとはねた。

 一度だけではなく、五度ほど。


 それからごほごほとむせた。

 ……けど、五回もジャンプできた。


「マニシア……おまえ体が――」

「は、はい。……少しですけど。……っ、少し、ですけど……動いても大丈夫に、なりました」

「……マニシア!」


 思いきり彼女を抱きしめる。

 痛いですよ、と言ってくるマニシアを……それでも俺はだきしめつづけた。


 よかった。

 これまでやってきたことが、間違っていなくて。


 これからも俺は、冒険者として迷宮を攻略し続ける。

 いつかきっと、マニシアを完全に治せる日が来るはずだ。



 〇



 それから二週間ほどが経った。

 人の出入りも激しくなってきた。


 自警団はますます忙しくなり、俺はその手伝いばかりだ。しばらくは、町を離れられそうにない。


 今日はギルドから呼び出されたために顔を出す。

 そこには見慣れた顔があった。ついてきたニンが顔を顰めていた。


「キグラスじゃない……」

「なんか、すごい剣幕だな」


 ギルド職員が、俺の方を見て、キグラスもこちらに気づいたようだった。


「ルード……っ! てめぇ、どうやってあの守護者を撃退したんだよ!?」


 傷はまだ完全には治っていないようだが、それでも動ける程度には回復しているようだ。


「ルードっ! ゴホゴホ、オエェ! てめ、あいつを、どうやって……」


 俺の胸倉をつかんでくる。


「俺はみんなを守っただけだ」

「……守った、だと?」

「ああ……。おまえと別れてから、スキルの効果を理解できて、な。……俺のスキルは、他人のダメージを肩代わりするものだったんだ」


 そう言うと、キグラスが俺の胸倉をつかむ力が弱まった。

 ……そうして彼は、唇をぐっと噛んだ。


「なん、だそれは……。……っ。それ、で……、オレは……」


 彼は苛立った様子で、地面を蹴り付け、それから何も言わずに去っていった。


 ……少し意外だった。

 俺は彼の背中を見たあと、ギルド職員の前へと向かう。


「お待ちしておりました、ルード様。ギルド本部から手紙が届いておりますので渡しますね」


 手紙? 一体なんだ?

 受け取った手紙に目を通す。


 そこに書かれていたのは昇格についてだった。


「なんだこれは」

「ランクアップの話じゃないの、よかったわね」


 隣にいたニンが顔を寄せてきた。

 ランクアップ?


 上から下まで読んでみたら、どうやら俺のランクを上げるという話だった。

 FからDへの昇格。……一気にあげてきたな。


「まあ、別にあげるのなら勝手にやってくれ」

「わかりました。それでは、ギルドカードの提示をお願いします」


 彼女にギルドカードを渡し、多少のやり取りのあと返却される。

 ギルドカードにある魔石の欠片が三つに増えていた。


 欠片の数がランクになっている。一つがFで、そこからは一つ増えるごとにランクが一つあがる。

 用事も済んだので戻ろうとしたが、ニンが受付嬢に訊ねた。


「キグラスはどうしてあんなに怒ってたの?」

「えーと……キグラス様は度重なるミスによってSランクからBランクに降格となりました。それについて、怒っているようでして」

「ああ、そういうことね。……よかったんじゃない? Sランクでは確実になかったんだし、実力があるならそこからまたやり直せばいいだけなんだしね」


 ああ。まだ、キグラスだって若い。

 いくらでも、Sランクにあがる機会はあるだろう。


 俺は去っていった彼の方角を見ていると、ニンが手を掴んできた。


「それじゃあ、ルード。見回りに戻るわよ」

「……そうだな。またなにかあったら言ってくれ。できる範囲で、協力するから」

「はい。ありがとうございます。ルードさんがそう言ってくださると心強いです」


 受付嬢のそんな挨拶に笑顔を返して、ギルドを後にした。



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