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最強タンクの迷宮攻略  作者: 木嶋隆太
第一章 
20/198

守護者の力


 他の者たちが剣を向ける中――。

 俺は彼へと一歩を踏み出す。


 守護者は不思議がるように眉間を寄せた。

 そんな彼に、俺は思いのままをぶちまけた。


「守護者、妹を助ける方法を知りたい」


 彼は一瞬不思議そうにしていたが、それから口元を緩めた。


「いきなりの質問だな。オレを見て警戒しないのか?」

「警戒はしているよ。けど、話ができそうだからな」

「なるほどなるほど。いくつか、新しい顔があるが……前の者たちは死んでしまったのか?」

「いや……重傷だけど、みんな生きている」


 凄い心配そうにしている守護者にそういうと、彼はほっとしたように息を吐いた。


「それはよかったな。無益な殺生は好まない主義なんだ」

「そうか」


 ……意外だ。

 今までに出会ってきた守護者とは別物と考えたほうがいいだろう。


 守護者は顎に手をやり、ふーむ、と唸る。


「おまえの妹、だったか。助けたいというのはどういうことだ? 何か危機的な状況に陥っているのかあるいは、何かしらの病でも患っているか……あいにく、オレは医者ではなくてな」


 思っているよりも、順調に話が進む。


「……妹は生まれながらに体が弱いんだ。そいつの治し方を……知らないか?」


 すがるような気持ちだった。

 魔本だけを頼りに迷宮攻略をしてきた。


 しかし、いつまでもそれに賭けていられるわけじゃない。

 守護者でも、わからないか……。

 と、守護者が首を傾げ、何やら眉間に皺を寄せていた。


「生まれながら……か。魔石欠陥か?」

「知っているのか……?」

「生まれたときから患っているならそれが可能性としては高いのではない、だろうかね。オレが知っているものなら、それが該当するな。人間は魔石を持って生まれるが、まれにそれが傷ついてしまっているものがあるんだ。そうなると、体が正常な状態ではなくなる。症状としては、体が弱くなったり、スキルに欠陥ができてしまったり、だな」


 ……確かに、マニシアの症状と似ている。

 こんなにあっさりと、わかるだなんて思ってもいなかった。


「治し方は……あるのか?」

「魔石を作り変えてしまえばいいさ。ホムンクルス技術と同じだ」

「作り変えるだと?」


 守護者は口角を吊り上げる。


「人の体にある魔石にはその人間のすべての情報が詰まってる。その情報を受け入れられる丈夫な魔石を用意して、そこに情報を移す。あとはその妹と同じ肉体のホムンクルスに移し替えれば、それで終わりだ」


 守護者はあっけらかんという。

 ……それはつまり、一度マニシアは死ぬってことだろ!?


「それで出来上がったのはマニシアとは違うだろ」

「何も違いはしないさ。記憶もあるし、肉体だって同じに作ることも可能だ。あるいは、理想の体もな。ホムンクルスだから、寿命が来ることもない。魔力さえあれば、生き続けられる。それが、ホムンクルス技術なのだからな」


 ……知らなかった。

 彼の視線はルナを捉えていた。気づいているのかもしれない。


「……ホムンクルスは、人間の生活を補助するためにいるんじゃないのか?」

「いや、違うさ。もともと、ホムンクルス技術は人間が永遠の命を得るために開発されたものだ」

「永遠の命、か」


 さっきの守護者の言ったやり方で、確かにそれを得られるのかもしれない。

 

「人というのは、生まれたときにすべてが決まってしまっている。ホムンクルス技術ならば、そのやり直しがきくというわけだ。さらに、魔石から情報を抜き取れば、新しいスキルだって習得可能だ。まあ、ホムンクルスに使われている魔石次第ではあるが」

「守護者……おまえは過去の人間、なのか?」

「過去……かどうかまではさすがに覚えていないな。ただ、そういう技術があり、オレの知る世界では、皆永遠の命を、自由な肉体を使って生きていたものだ」

「……マニシアを助けるには、それしか、ないのか?」


 ホムンクルス技術について詳しくはない。

 ただ、恐らくそのやり方は法に触れる。


 国はホムンクルスに感情を与えるのを禁止している。

 今やろうとしているのはそれに近い。


 だが……もしもそれで治るのなら――。

 俺は国を敵に回してでも、それを実行するかもしれない。


「いや、まだもう一つだけある」


 そういって守護者は嬉しそうに笑顔を作り、懐へと手を入れた。

 取り出したのは一枚の紙だ。


 風にあわせて揺れるそれには、文字が書かれている。


「これはどんな願いも叶えるといわれている魔本の一ページだ」

「……おとぎ話の、魔本か?」

「おまえの想像したものと完全に一致しているかはわからないが、確かにこれは空想の中に出てくるような遺物さ。他の迷宮にいる守護者も持っているのだが、これを集めればやがて一つの魔本になる。そいつを使えば、マニシアとやらも助けることができるだろうさ。もちろん、この一枚でも多少の効果はある。今よりは改善するかもしれないな」

「そうか。……譲ってくれないか?」

「タダで、譲るわけがないだろう」


 ハハハ、と守護者は大きく笑う。

 それは当然か。それだけ、価値あるものを無償で譲ってくれるわけがない。


 だからといって、俺が対価に支払えるものはおそらくない。

 守護者の目が細くなる。同時に、周囲へ魔力が溢れていく。


「オレを倒せば、渡してやろう」

「……そういうこと、か」


 わかりやすい話だな。

 俺は盾を取り出して、構える。


 守護者は首を軽く傾け、舌を出す。

 その瞬間、肉体が変化していく。


 殻でも破るように彼の背中から腕が生える。

 体は倍ほどに膨れ上がる。

 下半身は蛇の尾のように変化していく。

 

「最高の戦いにしようじゃないか、人間」

「……そうだな」


 勝てば、マニシア完治に一歩近づく。

 ……これほど嬉しい戦いは初めてだ。


 守護者は腰の刀に手を伸ばす。

 俺も盾と剣を構え、向かい合う。


「怪我から治っていきなりこれって、ついてないわね」


 ニンが肩をすくめて魔法を準備する。


「すまない。俺のわがままに巻き込んでしまって」

「あたしは別に構わないわよ。それに、みんなやる気みたいだし」


 ちらと視線を向ける。


「この前は、リリィを傷つけたこと、許さないよ」

「お姉ちゃんの体力を削ったこと、絶対許さない」


 リリアとリリィは当然のようにやる気だ。

 シュゴールは疲れたような顔をしながらも、武器を構えている。


「マニシア様のために……私も全力で戦います」

 

 特に、ルナは気合が入っている。

 ……マニシアを大切にしてくれているのだろう。嬉しい限りだ。


 やることはいつもと変わらない。

 俺は小さく息を吐き、守護者を見据える。


 一歩、前に出る。

 同時に、守護者が動いた。


 這うように迫ってきた彼へ、挑発を放つ。 

 意思をもつ相手だ。


 挑発が効くかどうかわからなかったが、彼の視線は俺を捉えた。


「アア!」


 守護者は叫びをあげながら刀を振り下ろしてきた。その理性のはじけ飛んだような声は、魔物そのものだ。

 左右から襲い掛かる剣を盾で受ける。


 体が後ろにのけぞりそうになる。だが、受けきる。

 フィルドザウルスよりも重い一撃だ。


 ……根性を見せろ。

 ここで勝てば、夢幻だった魔本に近づく……! 必ずもって帰って、マニシアの笑顔がみたい。

 

 マニシアが、外で走り回れるくらい、元気にしてやりたい。


 その思いとともに、剣を振りぬく。守護者は尾をささえに、上半身を引くようにかわす。

 そこへ、シュゴールが仕掛けた。


 長剣を振りぬく。守護者はそれをかわしたが、シュゴールの剣から魔法が放たれた。

 火の矢が守護者の体をわずかに焦がす。


「シュゴール! 刀が来るぞ!」

「くっ!」


 シュゴールは咄嗟に横に跳んでかわすが、風圧に弾かれる。

 なんというパワーだ。わずかにダメージをくらい、俺はポーションで即座に回復する。


 守護者はシュゴールへと追撃を仕掛けようと動く。

 割り込むように、挑発を放つ。

 すぐにこちらへと注意が戻り、盾を突き出して突進する。


 挑発を常に発動し、守護者の意識を集める。

 リリアが脇から動く。

 彼女は守護者の死角からとびかかる。


「リリィを傷つけた恨みっ!」


 一瞬のうちにいくつもの刃が抜ける。

 彼女の持つスキルだ。守護者の腹を切り刻み、駆け抜けた彼女は同時に呼吸を乱した。


 強力なスキルを使った代償だ。それでも、リリアは回避できる程度に動けるようだ。

 守護者は俺から視線をリリアへと向ける。

 

 それは読んでいる。

 俺はリリアと守護者の間に割って入り、盾を構える。彼女との連携は、それなりに多い。このくらい、慣れたものだ。


 守護者が突進してきたのを、盾で返す。

 腕が折れ曲がりそうなほどの衝撃だ。

 しかし、盾に身を隠すようにし、攻撃をそらす。


「あんがと」


 リリアはそれだけを残して、すぐに気配を隠す。

 また、チャンスをうかがっている。


 魔法組の準備が調った。

 守護者も、それに気づいたようだ。魔法組へと視線が注がれている。


「放て!」


 ニンとルナの併せた魔法が飛んだ。

 火の弾丸が守護者へと当たる。


 守護者がそれを手で防ぐ。

 その瞬間、火の弾がはじけた。

 爆発は連鎖する。守護者の手から腕へと、爆発は侵食するように進む。


「ギャ、アア!?」


 守護者は口から氷を放ち、腕を固めた。

 しかし、そんな守護者へと雷が落ちた。


 リリィの魔法だ。それに、リリアがすかさず併せる。

 威力の増した雷撃に、守護者がよろめく。


 シュゴールが飛びこむ。

 守護者の意識がそちらに向かないよう、俺は挑発を連続で使用しながら、その視界に飛び込む。


 シュゴールの剣が守護者の尾に当たる。

 頑丈な鱗を剥いだ。


 守護者がふらつきながら、刀を地面に差す。

 連続の攻撃が、かなり効いているのか?


 いや……違う。

 魔力が集まっていくのがわかる。

 同時に、シュゴールが叫んだ。


「土魔法が来ます! 前回は、これにやられてしまい、撤退したんです!」

「そうか。ニン、回復魔法の準備だけしてくれ」

「……わかったわよっ!」


 怒鳴るようにニンが叫ぶ。

 俺のやろうとしていることを即座に理解してくれたようだ。


「全員、もてる最大の技を叩き込め。急所への攻撃だけはかわせ! それ以外は、俺が守りきる!」


 俺のスキルを知らない三人は迷うそぶりを見せた。

 しかし、即座に彼らは攻撃の準備へ移る。


 さすがは、一流の冒険者だ。


 彼らが攻撃を仕掛けると同時、地面が揺れた。

 それはまるで地震だ。


 地面が割れ、そこからいくつも土の槍が飛び出す。

 

 リリアとシュゴールはかわしながら、守護者に肉薄する。しかし、土の槍が掠り、ダメージが増えていく。


 体力が削られていく。

 ポーションを一気に飲んで、それを誤魔化していく。


 誰かしらがダメージを受けている。

 わずかな痛みが蓄積していく。

 

 意識を失わないように奥歯をぐっと噛んだ。いくら軽減されるからとはいえ、全身を槍で貫かれては、さすがに辛い。

 だが、俺はタンクだ。このパーティーを守る盾だ。


 さらに、痛みが襲ってくる。

 魔法組が、土の槍をかわしきれない。


 俺は剣を地面にさし、それを支えにしてこらえる。

 これほど長く、大きなダメージ、今までに受けたことがない。


 敵の魔法はまだ終わらない。いつまで続くんだ。

 一秒が長く感じる。


 俺が意識を失えば、スキルが解除され、反撃の機会を失う。


 耐えろ。耐えるんだ。

 汗が頬を伝う。体の内部を刃が駆け回っているかのような痛みが続く。


 ……ダメだ。

 ポーションを飲む余裕がない。


 腰のアイテムポーチから取り出そうとしたポーションが手からこぼれおちた。


「ルード!」

「マスター!」


 叫びが聞こえた。

 遅れて、俺の体を柔らかな光が包んだ。


 ……ニンとルナの併せた治癒魔法だ。

 相変わらず、異常なほどの回復量だ。

 

 ……ありがとな。

 痛みに顔を顰めながら、守護者を睨む。


 守護者の魔法が終わり、シュゴールとリリアが刀にはじかれる。

 攻撃後に、大きな隙が生まれていた。


 最後の一押し。

 それがあれば――!


 大地を蹴りつける。

 俺は守護者へと肉薄し、剣にスキルをこめる。


 生命変換。これまでに溜まったダメージを、すべてこの一撃にのせる!

 剣が淡く光を放つ。

 

 守護者が反応する。刀を振りぬいてきたが、それを盾で受け流し、剣を振り下ろした。


 剣が突き刺さる。同時、光は一層増し、守護者の体を吹きとばした。

 砂煙をまきあげながら、地面を転がる。

 

 そうして、ぴたりと守護者は止まった。

 だが。よろよろと、体を起こす。


 まさか……まだ立つのか?

 ……だが、かなり削った。あとは全員で一気に攻めれば――!


 視線だけをかわし、距離をつめる。

 

「わあっ、待て待て降参だ。これ以上やったらオレが死ぬ」


 守護者が間抜けな声をあげる。

 魔物に変化していた体はゆっくりと人間へと戻る。

 

 ぼろぼろの衣服をまとっていた彼は、そのままあぐらをかいてしゃがんだ。

 笑顔とともに両手をあげる。


「降参だ。悪いが、まだオレもこの迷宮で遊びたいんだ。約束のものはあげるから、見逃してくれないか?」


 勝った、ってことでいいんだよな。

 そう思った瞬間、俺の体から力が抜けた。

 

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