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最強タンクの迷宮攻略  作者: 木嶋隆太
第一章 
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タンクとしての力を見せるとき


 彼女らと別れ、アバンシアに向かう馬車を探す。

 待合所に向かうが、すでに静かだ。


 もう夜も遅いしな……大人しく明日出発しようか。

 肩を落としていると、向かいから冒険者がやってきた。


 何やら真剣な顔で、少し気になった。


「……僕たちだけで護衛依頼、大丈夫かな?」

「だ、大丈夫よ……う、うん! Dランクあがったばっかりだけど、クーラスの街までだし、強い魔物は出ないわよ!」

「けど……少しだけ心配」


 そんな会話をしている三人組を見つける。男一人に、女二人だ。

 ……クーラスか。アバンシアのすぐ近くだ。


 そこまで行ければ、徒歩で数時間だ。

 護衛依頼か……。


「おまえたち。俺も参加させてくれないか?」

「え?」

「な、なによあんたいきなり」


 そりゃそうだよな。

 俺はかなりガタイがよく、見た目が怖い、とよく言われる。


 怯えられるのは当然という話だ。


「俺はクーラスの街に急ぎの用事があってな。どうしても、今すぐに馬車に乗りたいんだ。報酬はいらないから、一緒に行かせてくれないか?」


 そういうと、彼女たちは向かい合って話を始める。

 検討しているようだ。


「……まあ、いいわよ。一人増えれば多少は危険も減るだろうしね」


 結局そういう結論になったようだ。

 彼女らとともに俺は護衛する予定の馬車へと向かう。


「そういえば、あんたランクは?」

「Fランクだ」

「……やっぱりやめた方がよくない?」

「……けど、雇われ冒険者の人たちってランクが低いって聞くよ?」

「そうね……顔はいかついし、かなりいい筋肉してるし、Fランクよりは強そうだけど……けどねぇ」


 嘘でもDランク程度といっておいた方がよかっただろうか。

 いや後でばれたらな。


 見た目は怖そうでも、結構ビビリなんだ。

 嘘つくとき、きっと顔に出てしまう。


 これでも、勇者パーティーで高階層の迷宮にも入っている。


 タンクとしてなら、B……いやCランクは絶対あるはずだ。

 結局、断られることはなかった。


 それなら、これでよかっただろう。下手に嘘ついて、あとでばれたほうが不信感を抱かれるしな。


 商人のもとに着く。

 商人はこちらを見ると、目を見開いた。


「こ、これはなんと強そうなお方……ほ、報酬は二万のまま、変更はなしだからな!」

「わかっています。それでは、行きましょうか」


 商人が荷物を馬車に詰めていき、俺たちも荷台へと乗った。

 まもなく馬車は動き出し、街の門をくぐる。


 いい馬だ。かなりの速度で、フィールドを走る。

 この商人、結構裕福だ。


 予定の倍ほど早く進み、空が明るみ始めたころには目的の街が見えてきた。

 だが、そこで馬車は急に止まる。


 衝撃によって冒険者が俺のほうに吹っ飛んできて、それを押さえつけた。


「大丈夫か?」

「あ、ありがとうございます」


 商人が慌てた様子で荷台へと顔を見せてきた。


「冒険者と思われる女性が、ホワイトタイガーに襲われている! 最悪だ、こっちに向かってきてる!」

「ほ、ホワイトタイガー!? まさか!」

「山から下りてきたっていうの!? そんな!」

「……私たち、ここで死ぬの」


 全員が青ざめた顔で硬直していた。

 ホワイトタイガー? Cランク程度の魔物だったはずだ。


 幌をずらし、外を眺める。

 商人が言った通りの状況だ。


 馬車では向かってくる彼らから逃げられない。

 ならば、戦うしかない。


 俺一人じゃ絶対倒せない。

 ただのタンクだからな。


「おまえたち、あいつを狩るぞ」

「る、ルードさん!? む、無理ですよ! 僕たちはEランクなんですよ!? ランクは、己と魔物の力量をはかるためにあるんです! 今できるのは、とにかく逃げることですよ!」

「安心しろ、おまえたちは俺が守る。俺のパーティーでの役割は、タンクだからな」


 まずは信頼してもらうところからか。

 俺は一人、外へと飛び出す。

 外に飛び出し、女性とホワイトタイガーを睨む。


 ホワイトタイガーは人間の大人の倍はある巨体だ。白い毛並みが美しい。


「こっちに来い! ここからは俺がタンクとして、おまえを守る! だから、討伐に協力してくれ!」


 叫ぶとホワイトタイガーに追われていた女性はこくりと頷いた。

 すれ違うようにして前に出る。

 俺は大盾を構え、ホワイトタイガーへと突撃する。


「ルードさん! 避けてください! あんな巨体の体当たりを受けたらひとたまりも――」


 冒険者たちの声が響いた。

 ひとたまりもない? いやいや、この程度で吹き飛ばされていたらタンクなんて務まらない。


 ホワイトタイガーが怯んだように後退する。

 俺は盾を地面に突き刺し、威嚇する。


「え!?」


 驚いたような声が響いた。

 もしかしたら、彼らは俺のようなタンクと組むのは初めてなのかもしれない。


 最近の流行りは回避型のタンクらしいからな……。


「俺はタンクだ。おまえたちを守りぬいてみせる! だが俺には攻撃手段がない。だから、おまえたちに、攻撃は任せる。できるか?」

「……は、はい」

「信じてる、任せたぞ」


 俺は大盾を構えなおし、ホワイトタイガーと向き合う。

 ホワイトタイガーは一瞬冒険者たちを見る。


 そっちには行かせないからな。

 スキル『挑発』を放ち、ホワイトタイガーの注意を集める。


 普段、目立つことなくひっそりと生きている俺でも、このスキルを使えば一瞬で目立つことができる。

 いや、いい意味ではないんだがな。


 冒険者たちが戦闘に加わる。

 俺はヒーラーの回復を受けながら、ホワイトタイガーの攻撃を受け止める。


 ただ、やはり知らぬ間にどんどん外皮は削られてしまうので、持っているポーションも使って回復していく。


 冒険者たちが攻撃を加えていき、ホワイトタイガーの体に傷が目立つ。

 そうして――


「グギャァァ!?」


 少年の剣がホワイトタイガーの喉を貫いた。

 血を噴き出し、大きな地響きで、俺たちは勝利を確信する。


 動かなくなったホワイトタイガーを見て、冒険者たちは固まっていた。


「嘘……私たち勝っちゃった」

「私たち……というよりも、ルードさんがずっと魔物の攻撃を受け止めてくれたから。こんなに頼りがいのあるタンク、初めて見た……」

「凄いですル、ルードさん! ルードさんのおかげで、勝てました!」

「いや、おまえたちが攻撃してくれなかったら倒せなかったよ」


 だって俺武器もってないし。

 冗談めかしく言うと、彼らの緊張もようやく抜けた。

 と、視界の隅で女性が倒れた。


「お、おい、大丈夫か?」


 近づいて声をかけるが、女性は意識を失っているようだった。

 うすい灰色のような髪をどかすように首元に触れる。 


 呼吸はある、死んではいないようだ。

 呼吸も、寝息のように落ち着いている。まるで人形のように整っている顔といい、どうにも現実感のない女性だ。


 改めて見ると、衣服がボロボロなのがわかる。

 外套のようなものを、ただ羽織っているだけだ。


 ちらちらと、彼女の肌が見えて、なんだかいけない気分になってくる。

 彼女の服を戻そうとしたところで、その胸元が見えた。


 思わず目を見開く。胸がないからではない。

 その心臓部分には、わかりやすく魔石が見えた。

 ――ホムンクルス、か。


「そ、その子……大丈夫でしょうか?」


 近づいてきた少年に胸が見えないようにする。

 この年頃の子にこれは刺激的だ。貧乳好きとかに目覚められても責任がとれない。


「わからない。ただ、とりあえずは俺が面倒を見よう……それと商人。すまない。俺の家がある町はアバンシアなんだ。ここからのほうが近いから、護衛はここまででいいか?」

「あ、ああ……いいけど……なあ! また今度オレの護衛をやらないか!? あんたほどの実力があるなら、専属で雇ってもいいぞ!」

「そ、それなら、ルードさん! 僕たちと一緒にパーティーを組みませんか!?」


 二人が声を張り上げてくる。

 それはとても嬉しい話だが、俺には大切な妹がいる。


「悪いな。俺にはどうしても助けないといけない人がいるんだ」

「そ、そうなのか……もしかして……奥さんとかか?」


 俺がそんな歳に見えんのか。


「妹だ」


 俺はそのためだけに、迷宮に潜り続けている。

 世界で一番かわいい妹――あいつの病を治すために。



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