戦闘訓練と交流会3
魔物、迷宮の管理についてはニンに任せ、俺は次の部屋へと向かう。
次はリザードマンのリザードだ。
彼の部屋に向かうと、部屋は二つに分かれていた。
大地と湖の二つだ。
湖に足をつけるようにして、リザードは座っていた。
肩には槍を乗せていて、首を傾けるようにこちらを向いた。
「マスター、来たんだ」
そういうリザードの目はどこかやる気なさそうだった。
片手であくびを隠している。
「リザードも、戦闘訓練でいいのか?」
「うん、やろっか」
あまりやる気はなさそうだったので聞いてみたが、リザードはすっと体を起こした。
ちゃぷんと水が震える。
リザードがこちらに向くと、槍を構えた。
その両目は相変わらずやる気なさそうに見えたのだが――瞳の奥からは気迫が伝わってきた。
戦う準備はできている、といったところか。
俺も大盾と剣を構えると、リザードはすぐに跳躍した。
迷宮の天井付近まで飛んだリザードが、槍とともに落下してくる。
動きは単調だったが、重力と体重の乗った一撃は相当な威力、だろう。
ただ、その全力の攻撃を止めてこそ、タンクの仕事だろう。
俺はわずかに腰を落とし、大盾を頭上に構える。
「ハァ!」
リザードが当たる直前に気迫を込めるように叫んだ。
同時、大盾を上へと押し上げる。
リザードの槍と大盾がぶつかり――大盾でリザードの体を弾いた。
だが、空中でリザードは軽やかに体勢をたてなおした。
見れば、リザードは空中を足場にしていた。
……水か? 水の塊を空中にうかせ、それを足場にしているようだ。
リザードがそれを踏みつけ、俺を空中から攻め立ててくる。
水の足場を用いた攻撃は独創的だったが……それでもリザードは移動先に足場を作るため、容易に動きの先を見ることができた。
だからか、時々地上を織り交ぜてリザードは距離を詰めてくる。
リザードの次の攻撃が突進だとわかった次の瞬間――俺は大盾とともに一歩踏み込んだ。
突進を弾き、その体をよろめかせる。
リザードが次の動きに移るより先に、俺はリザードへと斬りかかった。
リザードは槍でもって捌いたが、俺がもう一度大盾をぶつけるとリザードは武器を捨て、両手をあげた。
「まいった、降参だよマスター」
俺が剣を突き付けると、リザードは首を振った。
……これで終わりでいいのか?
リザードは依然変わらぬ表情だった。
何なら、あくびをしていて、さっきまでの戦闘でさえなかったかのようだった。
……リザードは他の魔物たちに比べ、感情をあまり前面に押し出す性格ではない。
だから、いまいち何を考えているのかわからないんだよな……。
「……リザード、戦闘訓練はもういいのか?」
「うん、まだ勝てないから。もっと強くなってからまたやろうよ」
「そうだな。ただ、以前よりも空中での動きを練習したんだよな? かなり、強く感じたぞ」
「そう? ありがと」
リザードは相変わらず変わらぬ表情で言った。
そのとき、リザードはあっと思い出したように口を少し開けた。
「そうだ。外皮を削るんだっけ?」
「ああ、頼む」
「うん、任せて」
その時、少しだけ楽しそうに笑った。リザードは素早く槍を振りぬいてきて、俺の外皮を削っていく。
これまでと同じように数字を削ったところで、俺はニンの元へと戻った。
ニンの前ではレッドゾンビとパープルスケルトンがいた。ニンが指示を出すと、二体はそれに合わせて器用に手足を動かしていた。
「……何やってるんだ?」
「どれだけ知能があるか確かめていたのよ。やっぱり、この二体通常の魔物よりもずいぶんと頭がいいみたいよ」
ニンが褒めると、レッドゾンビは嬉しそうに親指を立てて、何度も上げ下げを行う。
パープルスケルトンは頭の部分をくるくると回している。
二体の感情表現は、アンデット種からは想像できないような元気さにあふれるものだ。
ニンにヒールをかけてもらってから、俺は次の部屋について考えた。
……これで残りは女性陣だ。
ヒュー、レイ、ミア、キュイだ。
残りの人たちは搦め手を使っての攻撃が主になるだろう。
……特に、勝ち負けが付きにくいだろうヒューは後にしようか? 普段からよく会っているしな。
考えたあと、俺はレイの部屋へと向かう。
レイの部屋は……墓場だった。
暗い部屋を月明かりが照らしている。墓標の間をレイがゆらゆらと飛んでいた。
俺に気づくと、目元を嬉しそうに緩めてから、ふらーっと近づいてきた。
俺の背中にくっついてきたレイの頭を軽くなでる。
見た目は女性なのだが、やはり魔物だからだろうか。
なつかれている感覚はペットとかに近い感覚があった。
レイが俺の背中から離れない。頭を撫でるのをやめると、もう一度なでてほしそうにこちらを見てくるのだから、手を動かす。
そうすると、嬉しそうに目を細めた。
それを見ているのは悪い気はしなかったが、てっきり戦闘訓練を行うのだと思っていたから拍子抜けだ。
「戦闘訓練はいいのか?」
こちらから聞くと、レイは目を少し開いた後、
「……(ふりふり)」
首を横に振った。
……どうやら、このままでいいようだ。
レイは俺から離れると、俺の手を引いてきた。
「どうした?」
「……(つんつん)」
俺の手をつついたあと、ある方を指さす。
そちらは墓標が並ぶエリアだ。近づくと、人魂のようなものもぷかぷかと浮かんでいる。
「これは、元々あるものなのか?」
「……(こくこく)」
嬉しそうにレイが頷いた。
それから、部屋を紹介するように飛び回り、俺はその後を追う。
時々レイは足を止め、場所を示して両手と体を使って何かを表現する。
たぶん、その場がレイにとってのお気に入りなんだろうな。
なんとなくだけど、言いたいことはわかる。俺が相槌を返していると、レイは楽しそうに飛び回ってくれた。
そうして、部屋を見て回ってから、最初の地点に戻って腰掛ける。
レイも隣に座る。
「他のみんなとは仲良くできてるか?」
「……(こくこく)」
力強くレイは頷いてくれる。
……それならよかった。
「戦闘訓練は大丈夫か?」
「……(こくこく)」
レイは何度もうなずいて、それからぺこりと頭を下げてきた。
「楽しかったよ、また今度色々教えてくれ」
「……!」
レイが目を開いてから、大きく一度うなずいた。
その後、レイに外皮を削ってもらってから俺は部屋へと戻った。
ニンにヒールをかけてもらい、次の部屋に向かう。
ミアかキュイの部屋で迷ったが、俺はキュイの部屋に向かうことにした。
……以前、キュイはミアをライバル視していたからな。
俺が部屋へと移動すると、そこはこれまでと違い可愛らしい部屋があった。
肘をついて椅子に座っていたキュイはまだ、俺に気づいていないようで前髪をいじっている。
「キュイ、今大丈夫か?」
「マスター!? やっと来たのね!」
幼い容姿をしていたキュイがむすっと頬を膨らまし、腰に両手を当ててこちらを向いた。
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