戦闘訓練と交流会2
アックスの振り抜いた斧を、俺は大盾で弾き飛ばした。
宙を舞う斧を見ていたアックスの喉元に剣を突きつける。
……勝負、ありだ。
アックスがふっと口元を緩め、目を閉じた。
「さすが、マスターだ。今の拙者では、到底及ばぬ域だ」
「……いや、アックスも十分強くなっている。前とは比べ物にならなかったぞ」
速度があがっているのは当然だったが、力も十分にあった。
俺だって、様々な力を組み合わせていなければ、まず勝てなかっただろう。
「それじゃあアックス。一度俺の外皮を削ってもらってもいいか?」
「了解だ」
アックスに調整してもらいながら、俺は外皮を削ってもらっていく。
合計で9000ほど削ってもらったところで、俺はニンが待つ部屋に戻った。
「おかえりなさい。ポイント増えたからそろそろ来るんじゃないかと思ったわ」
ニンが口元を緩めると、俺のほうにヒールをかけてくれた。
彼女のヒールは相変わらず凄い回復量だ。
三回ほどで、外皮は全快した。
「ニンの調子はどうだ?」
「ぼちぼちってところね。これ、結構楽しいわね」
ニンは今、ちょうど二十一階層の作成を行っていた。
映し出された画面には、遺跡のようなものが移っていた。
ニンが軽く手を動かすと、内部が変化していく。
幅の広い道を作ったり、逆に狭い道を作ったり。
道の先に行き止まりなど、様々な道があった。
「あとはこの小部屋とかに魔物を設置すればいいんじゃないかしら?」
「……そうだな」
どのような魔物を設置するかによるな。
俺の迷宮で今のところ怪我人は出たことがない。
これからも、今のように安全に成長できる迷宮を維持していきたいため、魔物の選択は慎重にならざるを得ない。
「ニン、あまりポイントを消費しない魔物で、それっぽい魔物がいないか探しておいてくれ」
「わかったわ。それと合わせて、残りの階層も造っておくわね」
「頼む」
ニンが片手をあげたところで、俺は別の部屋へと移動する。
……次の相手は、ゴブリダだ。
ゴブリダの部屋は……廃墟のような場所だ。
「ここは、ゴブリダが指定した部屋なのか?」
「うん!」
……それならいいんだが。
少年のような無邪気な笑顔とともに、ゴブリダは手に持っていた剣を振り回した。
「マスター、マスター! あそぶ!」
楽しそうにゴブリダは剣を振り回している。
俺が小さく息を吐くと、それが開始の合図とばかりに、ゴブリダが突っ込んできた。
速いな……一瞬で距離をつめてきたゴブリダの剣に、剣を合わせる。
力で跳ね返そうとしたときには、すでに脇に回られていた。
ゴブリダは、速度をより鍛えたようだ。
右に左に、ゴブリダは左右への移動を繰り返していく。
確かに速い……だが、ゴブリダの動きは数十秒後には目で追えるほどになっていた。
「おまえ、スタミナないな?」
「あ、ある!」
俺の指摘が悔しかったのだろう。
さらに加速しようとしたゴブリダだったが、勢いよく転がった。
顔からズサァ! と地面を転がる。
ゴブリダが顔をあげる。少し泣きそうである。
「ま、マスター!」
ゴブリダは目元をごしごしとこすったあと、再び剣を握った。
それから戦闘を再開したが、ゴブリダの体を大盾で吹き飛ばしたのは、それから数十秒とかからなかった。
ゴブリダが大の字で倒れ、俺はその隣に腰掛ける。
「ゴブリダ、中々良い動きだったぞ」
「マスター! 守る、ずるい!」
俺の大盾について言っているのだろうか? ずるい、と言われてもこれが俺の戦い方だからな。
「もっと速く動けるようになれば、俺にも攻撃を当てられるかもしれないぞ?」
「頑張る!」
それなら、よかった。
しばらく話をしたあと、俺はゴブリダに頼んだ。
「それじゃあ、ゴブリダ。俺の外皮を削ってくれないか?」
「わかった!」
ゴブリダにも力を加減してもらいながら、外皮を削っていく。
アックスのときも思ったが、二人の一撃はわりと結構外皮が削れるようだ。
目を閉じながら、外皮が削られているのを観察していると、残り500ほどになったので、止めた。
「ありがとな、ゴブリダ」
「また来て!」
「わかってる、またな」
ゴブリダの部屋からニンの元に戻る。
見ると、ニンはゾンビ種の魔物を見ていた。
「何を見ているんだ?」
「新しい魔物の候補よ。遺跡だし、やっぱゾンビでしょ」
……確かに遺跡にはゾンビやスケルトンといった魔物が出やすい傾向にある気がする。
そう思うのは、恐らくこの世界にある遺跡がそうだからだ。
迷宮以外にも、古代の文明と思われる遺跡などが見つかることがある。
それらの場所では、ゾンビやスケルトンがよく現れる。
その原因は遺跡が造られる理由だろう。
昔の有名な人などは死ぬ際に自分の墓として遺跡を作るそうだ。
死んだ後で、遺跡の奥深くに棺桶とともにその遺体をしまうのだとか。
……その魂が生み出す死後の魔力によって、アンデット種の魔物が現れるとか。
そのため、アンデット種の魔物が出る場所では、死体がないか探すものだ。
「あまり強すぎる魔物は出さないようにな」
「わかっているわ。でも、どうせ出すのなら一定の種族で固めたほうがいいわよね?」
確かにそうだな。
ゾンビやスケルトンはどちらも光や火属性の攻撃に弱い傾向がある。
攻略する側としては、同じ弱点を持った魔物がいたほうがやりやすい。
逆にお互いが補い合うような組み合わせだと、吐きたくなるほどに面倒になるものだ。
「それじゃあ、このあたりの魔物を召喚してみる?」
「……そうだな」
彼女が提案してきたのは、レッドゾンビやパープルスケルトンだ。
どちらの魔物も、他の迷宮でいえば20階層程度でみるような魔物だ。
さすがに、ニンのそのあたりの感覚は間違いない。
俺がニンから操作を引き継ぎ、まずは二体の魔物を召喚する。
現れたレッドゾンビとパープルスケルトン。どちらも魔物のままであるのは当然だ。
レッドゾンビはうつろな目をこちらに向けている。……少し心配だな。女性のような見た目をしているが、身につけている衣服はボロボロで血が付着している。
胸も結構あったが……だらりと溶け落ちそうだ。
パープルスケルトンは、全身が骨で出来ていたが、その両目には魔石が埋め込まれている。
紫色の魔石が、俺と目があったところで光った。
「……どちらも、俺の言葉はわかるか?」
「アアアィ……」
「……カラカラ」
……どっちも言葉は話せないようだが、わかるようだ。
レッドゾンビはわりとノリの良い奴のようで、見た目からは想像できないような速度で親指を立てた。
パープルスケルトンも目を何度か発光させながら頷いている。
「おまえたちには、二十一階層から二階層程度、冒険者の相手をしてほしい。この迷宮の基本としては、冒険者の外皮を削っても殺さないことだ。わかるか?」
「アアアィ……」
「……カラカラ」
どちらも、わかったようだ。
「今後、仲間は増やしていくが、それぞれのリーダーとしてまとめてくれ」
レッドゾンビはうつろな目のまま、両手の親指をぐっぐっと何度も上にあげる。
パープルスケルトンも、納得したのを示すかのように頭を掴んでくるくると回している。
……まあ、大丈夫だろう。
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オタクな俺がポンコツ美少女JKを助けたら、お互いの家を行き来するような仲になりました
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