戦闘訓練と交流会1
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次の日。
一日時間があるということで、俺はニンとともに迷宮へと足を運んでいた。
いつものように、管理者の部屋に移動する。
そこでマリウスと合流すると、彼はにっと笑った。
「ルード、オレはちょっと町に用事がある。ポイント稼ぎは魔物たちに手伝ってもらうといい」
「……了解だ。というか、用事ってなんだ?」
「キグラスの奴が稽古をつけてくれと言ってきたのでな。仕方ないが、スロースとともに相手をすることにした」
「……そうか。キグラスはスロースのことを知っているのか?」
「オレが教えてやったんだ」
……キグラス、強くなりたいという意思は伝わるが、その二人に頼むのは無謀ではないだろうか?
まあ、本人が望んだのなら何も言うまい。
二人とも、殺す寸前までは相手にするかもしれないが、加減もできるだろうからな。
「各魔物ごとに部屋は用意してあるんだ。ルードはそっちに移動していって、一体ずつに稽古をつけてやってくれ。みんな、おまえとじゃれたがっていたからな」
「……了解だ」
マリウスはそういって、去っていった。
じゃれる、か。魔物的感覚からすればその表現で間違いはないだろう。
マリウスの姿が見えなくなったところで、部屋にあった椅子にニンが腰かける。
「それにしても、迷宮を改良するためのポイント稼ぎねぇ。そんなことができるのねぇ」
ニンの前には魔導書が置かれている。ニンがそれに軽く触れて、文字を読んでいた。
操作まではできないが、中を見るのは問題ないようだ。
「一応な」
ここに来るまでに、ニンには事情を説明していた。
「何か、迷宮に関しての構想ってあるの?」
「……あんまり決まってはないな。とりあえず、珍しい魔物をいくつか用意しておこうとは思ったが」
「確かに、今のままだとインパクトに欠けるわね。何か候補の魔物はいるの?」
「メタル系の魔物や、見たところカーバンクルとかがいいかと思ってな」
「カーバンクル! それいいわね! 可愛いのよ、あの子!」
おお、ニンでもカーバンクルを可愛いと思うようだ。てっきり、ゾンビ系の魔物とかを喜ぶのかと思っていた。
俺が驚いていると、ニンがじとっとこちらを見てきた。
「何よ、その驚いたような目は」
「い、いや……なんでもない」
「何かあるような目ね。まあ、いいわ。あたしは、ここでルードの治癒を行えばいいのかしら?」
「そうだな。それで暇なら、一緒についてきてくれてもいいし……なんなら、ここで迷宮を造ってみるか?」
権限を俺が与えれば、ニンでも問題なく操作できるだろう。
俺がいうと、ニンが目を輝かせた。
「やって面白そうね。好きにいじっていいんでしょ?」
「ああ」
「とりあえず、二十一階層から先よね?」
「……そうだな。三十階層まで造っておけば、冒険者たちも興味本位に攻略してくれるんじゃないか?」
「そうね。それなら、草原エリアじゃなくて、別の物がいいわよね。そういうのもできるの?」
「……みたいだな」
俺が魔導書に触れてみると、すべて魔導書で管理ができるようになっていた。
もちろん、これまで通り池のようなものでも操作ができる。
二つを同時に使うことで、操作が各段にやりやすくなったな。
「二十一階層からは……遺跡エリアにしましょうか。あっちのほうが冒険している感じがあっていいんじゃない?」
「……確かにそうだな」
「よし、やってみるわね」
ちょうど、俺は考えるのに苦労していたし、やる気のあるニンに任せてみてもいいだろう。
ニンに権限を与えたあと、池と魔導書の操作を軽く教えてみる。
「……なるほどねぇ。ていうか、こうやって冒険者の近くにいきなり魔物を設置するなんてのもできちゃうのね。守護者って恐ろしいわね」
「……だな」
「けど、この冒険者に有利な機能が多いのは、どういうことなのかしらね? 冒険者を殺すために運営しているんじゃないの?」
「冒険者を呼び込むための餌なんじゃないか? 効率良く稼げるとなれば、冒険者たちもこぞって挑戦しにくるだろ?」
「確かにそうね。……まあ、とりあえずあたしは三十階層までの中身を造っておくわ。魔物の配置なんかはルードの外皮を削ってからでいいでしょ?」
「そうだな。頼む」
ニンがぐっと親指を立てたのを見てから、俺は別の部屋へと移動することにした。
マリウスから部屋の移動に関しては簡単に聞いていた。
片手を虚空にあてると、現在の管理者の部屋がそこにばっと映し出された。
一覧にあるのは、人の姿になった魔物たちだ。
どこから行くか……。
稽古をつける必要もあるんだよな。
……となれば、殴り合う相手の方が疲れるはずだ。
一番のパワータイプである、アックスオークのアックスの元に行こうか。
その部屋をタッチすると、虚空に穴が生まれる。
一応これで、俺も管理者の部屋――マリウスの部屋に戻ることもできる。
アックスの部屋についた。
そこに、物は少ない。いくつか、マリウスに頼んだのだろうか? トレーニングを行うためのカカシや、重りのようなものがあった。
……部屋とは違うな。
足元は土だ。いうならば、道場のような場所だった。
アックスは上半身に何も身にまとわず、今も重りの上げ下げを行っていた。
引き締まった体だ。すっとした顔つきで、真面目さを感じる。
……頭のあたりに小さな角のようなものが見えたが、見た目は普通の人のように見える。
むしろ、下手な男よりもたくましさと凛々しさがあり、街を歩けばモテるかもしれない。
俺に気づくと、アックスはその作業をやめてこちらへとやってきた。
びっしりと汗をかいている。それだけ、鍛錬を積んでいたというわけだろう。
アックスは、すっと頭を下げてきた。
「マスター、お久しぶりです」
「ああ、久しぶりだ。トレーニング中か?」
「はい」
「……まだトレーニングの予定があるなら、後でもいいんだが」
「いえ、今のはマスターと戦うための、準備体操ですから」
アックスは右手をばっと開くと、そこに斧を作り出した。
……アックスオークのスキルだったな。
やる気満々、といった様子だ。
俺も軽く息を吐いてから、剣と大盾を構えた。
鞘から剣を抜いた瞬間、久しぶりの戦闘だからか魔剣が楽しそうに輝いている。
……今回は模擬戦みたいなものなんだから、あんまりはしゃぐなよ。
俺は外皮を意識しながら、その上に魔力を、さらに魔素の力を重ねるように意識する。
三つの力を複合させるのは、中々に骨が折れるが……時間をかければ問題なくできる。
準備ができたところで、俺はアックスと向かい合う。
「アックス、自由に仕掛けてくれて構わないからな」
「……参るっ!」
アックスが地面を蹴ると、一瞬で俺への間合いを詰めてきた。
……想定以上に速いな。
以前戦ったときよりも加速している。
ただ、俺だって前とは違う。
……改めて、魔物たちと戦うのは、俺の成長にもつながるだろう。
アックスの斧に大盾をあて、その体を弾き飛ばす。
「アックス、こちらからも行くぞ!」
叫び、全身の動きを確かめながら、俺はアックスと戦い始めた。