迷宮管理2
同時に放たれた激しい風が俺の体を殴りつけようとしてきたが、それより速く背負っていた大盾で防いだ。
元々あった外皮による身体強化はもちろん、魔素による強化も含めて何とかこらえた。
……それほどの衝撃があったにも関わらず、この部屋には一切傷がない。
そういう、特別な部屋というわけだろう。
こらえきった俺は、大盾をおろしてスロースを睨む。
すると彼女は楽しそうに笑っていた。
「おおっ。今のに反応するんじゃな……っ!」
「いきなり何をするんだ……っ」
スロースが嬉しそうに声をあげる。俺が彼女を睨むと、マリウスもまた刀を構える。
「ルードはオレのライバルだぞ。勝手に手を出すんじゃないっ」
俺たちが責めるような視線を向けると、彼女は慌てた様子で両手をあげた。
「待て待て。別に悪意があったわけじゃないんじゃよ。おぬしがポイントがほしいと言ったからじゃ」
……なんだって?
そういえば、ポイントは冒険者から回収できるな。
……もちろん、俺だって戦闘を行えばポイントは増えていくだろう。
ただ、それでもここで戦ったからといってさして入るものではない。
「まあ、見ておれ。ルード、外皮はどのくらいあるんじゃ?」
「……とりあえずは9999あるが」
「それなら、5000くらい削っても変わらんじゃろう。ルード、魔導書を確認しておれよ?」
「……ああ」
いや、5000を削る攻撃は普通に危険なんだが――。
そうは思ったが、すでにスロースはお構いなしに攻撃を行ってきた。
次の瞬間に、俺の外皮が消し飛び、俺は吹き飛んだ。
とりあえず、外皮で受けきったからか痛みはない。
俺が体を起こしながら目を閉じて確認する。
彼女の計算通り、ほぼ5000の外皮が削られていた。
「ルード、魔導書を見てみるんじゃよ」
スロースは再び椅子に座り直し、こちらを見てくる。
俺も魔導書のほうへと近づいてみる。
浮かんでいた文字をじっと見てみると、ポイントが8000も増えていた。
「……どういうことだ? 外皮と同じってわけじゃないのか?」
「このポイントの増加に関しては二つの理由がある。一つは迷宮の規模、もう一つはその者の強さに比例して、回収率が変化するんじゃ」
「……規模と強さ、か?」
「そうじゃ。まずじゃが……おぬしたちの迷宮自体も、すでにそれなりの物になっているはずじゃ。できたての迷宮ならば、Fランク冒険者程度の実力の外皮でも十分にポイントを稼げたじゃろうが、今ではそうではないじゃろ?」
俺はチラとマリウスを見る。
「そうなのか?」
「そこまで見てない」
「……」
スロースが呆れた様子でため息をついた。
「もう少し、迷宮運営をしっかりとしてほしいものじゃなぁ。迷宮が成長すると、弱い冒険者の外皮では、その還元率が悪いんじゃ。分かりやすく数値で示すなら、Fランク冒険者の外皮を100削っても、10しか入らないみたいなこともあるんじゃ。Eランク冒険者なら100削れば20、のようにな。迷宮の規模や迷宮に出現する魔物によって、それらが変化していくんじゃ。それが、迷宮という便利な存在の制約なんじゃ」
「……なるほどな。それで、なぜ俺の外皮が削れたときはそれ以上の数値が増えたんだ?」
「先程言ったじゃろう? 実力のある冒険者の外皮を削れば、それだけ還元率がよくなると。それは100%を超えることもあるというわけじゃ」
……それだけの実力者、と言いたいのか。
「……だから、5000じゃなくて8000だったのか」
「ああ、そういうわけでじゃ。この削れた外皮を、他の神の恩恵を受けたものによる回復魔法を使って回復すれば、再び回収ができる、というわけじゃ」
「神の恩恵……つまりスキルで回復しろということか?」
「そうじゃ。外皮は神のエネルギーによって作られるものじゃからな。それに近いスキルで回復したものでなければどれだけ削っても無駄になるんじゃ。スキルか、自然回復によるものでなければならぬというわけじゃ」
「……ポーションは駄目なのか?」
「ああ。アバンシアでは何やら新しいポーションが流行っておったが、あれで回復した外皮では回収できぬな。まあ、便利なポーションが流行ることで、迷宮に挑む冒険者が増えるというのもまた事実ではあるがの」
「……なるほどな」
便利なポーションはあったほうがいい。
冒険者の立場として考えるなら、いざというときに外皮を全快にできる手段があれば、心に余裕を持って攻略を進められるからな。
「ポイントの荒稼ぎ方法はわかったかの?」
「……ああ。ただ、正直いってこんな手段であっさりと稼げるなんて思いもしなかったな」
「わしらも、普通は出来ぬ手段じゃ。協力的な人間、というのは本来おらんからの。魔界の迷宮では意味がないしの」
「……そうなのか?」
「ああ、そうなんじゃよ。じゃが、わしはある場所でこの方法を知ることができたんじゃ」
「ある場所?」
「わしが今までどこでどんな活動をしていたのか、知っておろう?」
そう、だった。
スロースはそもそも、ブルンケルス国で動いているという魔王について調べてくれていた。
彼女がここにいるということは、その調査が終わった、あるいはそれなりの情報が手に入ったということでもあろう。
「スロース。何か、わかったのか?」
「動いている魔王については以前話したグリードで間違いない。それに協力しておる奴もおるようじゃの」
「……そうなのか」
マリウスの表情が険しくなっていく。
俺も迷宮に関してのあれこれをするよりも先に、そちらの話が気になったので一度手を止める。
「そやつの名は、マルバス・ラストじゃ。女の魔王であり、かなりエッチな見た目な奴じゃな」
「……そうか」
「お? なんじゃ気になったのかえ? こんな感じの見た目じゃよ?」
そういうと、スロースはぼんっとその場で変身した。
緑色の髮に、エルフの耳、そして……胸などの局部は木の葉で覆われていた。腕や足には、絡みつくように木の根のようなものがついている。
なんというか、ドリアードという魔物に近いように見える。
というか、胸が凄い。確かに……エッチな見た目だな。
「まあ、とにかく、こんなところじゃな。調べたところ、巨大迷宮の管理を務めているようじゃな」
「……なるほどな」
「疫病を撒き散らす力も持っておるようで、迷宮のある街では体調不良を訴えるものもおるようじゃな」
「そう、なんだな」
そこまでの情報は持っていなかったが、危険な相手であることにかわりはないだろう。
「巨大迷宮の攻略をするのなら、こやつは恐らく障害になるはずじゃ」
「……だろうな。覚悟して挑むつもりだ」
「そのほうがいいはずじゃ。先程のポイントの稼ぎ方に関しては、ラストの奴から聞いたんじゃよ」
「巨大迷宮の守護者となれば、このくらいの知恵は働きそうだな」
「ラストは、人間をたぶらかし、迷宮内に飼っているそうじゃ」
……なるほどな。
確かにこの見た目で誘われたら、男なら八割引っかかるだろう。
恐ろしい魔王だ。
「そういうわけで、ラストのほうの情報はそのくらいじゃな。問題はグリードのほうじゃが――」
そこで、空間を突き破るようにして、ヒューとレイが現れた。
どちらも本物のようだ。ヒューは俺のほうに飛びついてきて、レイも控えめに俺の背後についた。
「二人共、戻ってきていたのか?」
「わしがブルンケルス王国で回収しておいたんじゃよ」
……なるほどな。
二人を交えてのほうが、話もより詳しくなるだろう。
俺は二人の頭を軽くなでて、ねぎらっていた。
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不遇職『テイマー』は最弱スキル『正拳突き』で無双する ~追放された少年はハードモードの人生を努力でぶち破る~
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