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最強タンクの迷宮攻略  作者: 木嶋隆太
第一章 
19/198

十階層

 十分戦えていたので、俺たちは五階層に来ていた。

 ダンジョンウォークにて到達した五階層は、一階層と造りがまったく同じだ。

 

 五階層を進んでいくが、今のところ守護者の気配はない。

 シュゴールが俺の隣に並び、笑顔を浮かべている。


「さすがルードさん。完全にフィルドザウルスと張り合ってましたね……」

「あのくらいはな。できなきゃ俺がいる意味がなくなるからな」

「いやいや……あのくらいじゃないですよ。あれだけ体格差のある魔物と正面から張り合うなんて普通しませんから。話には聞いていましたけど、想像以上でしたよ」

「……そうか?」

「はい。ルードさんのように馬鹿正直にやりあう人なんて僕は初めて見ましたよ」


 からかうように彼が笑った。

 シュゴールの言葉に反応して、ルナと双子が首をかしげる。


「……マスターは普通ではないのですか?」

「ルードって受ける系の盾なんだから普通じゃないの?」

「でかいのはいつもそんな感じだったけど?」


 小首をかしげた彼女らに、シュゴールは激しく首を振る。


「そりゃもうそうですよ。というか、リリアさんたちは僕がタンクを務めたときのを知っているでしょ?」

「情けなく逃げ回っていた」

「回避ばっかり。盾や剣で受けないの?」

「違いますよ! あれが正しいんです! 魔物と人間には肉体の差がありますから。だから、人間は頭を使って戦うんです。回避、回避! 回避で敵を苛立たせる! これが本来のタンクなんですよ」


 シュゴールが肩をすくめながらそういう。

 冒険者全体を見ても、タンクは少ない。

 たぶん、一割くらいじゃないか? そして、回避専門ばかりと聞く。


 キグラスもそんなことを言っていたしな。

 他所のタンクは回避をしている。なのに、なぜおまえはしないのか。だから、無駄に金がかかる、と。


 そりゃあ回避できるものはしているが、俺は根本的にスピードがない。

 慣れないことをやっても、本来の力を出せるわけじゃない。


「普通のタンクはある程度攻撃をかわしますが、マスターは敵に張り付いてますよね」

「まあな。あっちのほうが敵の注意を集めやすいんだ」

「なるほど……」

「ルナさん、ルードさんはアテになりませんからね? もう、ニン様も何か言ってくださいよ」

「別に。ルードにとってはそれが普通なんだからね」


 シュゴールはがくりと肩を落として歩き出した。


「そういえば、キグラスが新しく入れたあの子たちは強いのか?」


 まったく知らない顔が二つあった。

 少し気になっていた。


「それなり、でしたね。ただ、キグラス様が以前誘ったという女性二人……よりは腕が落ちるようでしたね。確か……サシンとサーアでしたっけ?」

「……あの子たち、抜けたんだ」


 ニンがぽつりとつぶやいた。少し悲しそうだ。

 サシンとサーア……俺といれかわりにはいった冒険者たちだろう。


「ええ。憧れの勇者にすっかり怯えてしまって、まだ実力不足だからって抜けましたね。それで、ギルドと一悶着あったようです。怯えて、冒険者活動をしばらく休んでいるそうですよ」

「……そっか。一応声はかけておいたんだけど、やっぱりまだ色々あったのね」

「みたいですね。僕もギルドの人たちから聞いただけですから詳しいことは」


 シュゴールが肩をすくめる。

 ニンがちらとリリアたちを見た。


「あんたたちなら、事情もわかってるんじゃないの、リリア、リリィ?」


 しかし、二人はニンの声など届いていない様子だった。


「姉さん、はい。これ昼食のリンゴール」

「まあ、リンゴール! いつの間に買っていたの?」

「ふふ。姉さんに喜んでほしかったからこっそり買っておいた」

「……ありがとう、リリィ。それじゃあ二人で食べましょう」

「そんな。それは姉さんの分で……」

「一緒に食べるの」

「姉さん!」


 仲良く姉妹で食事をしている。

 ニンが頬を引くつかせ、彼女らへと近づくのを、そっと止める。


 あいつらにはあいつらの世界がある。

 邪魔しないほうがいい。


 前に声をかけて、噛みつかれそうになったから。


「……キグラスたちが倒せなかった守護者、か。あいつの攻撃力はかなりのものだろ?」

「それは認めるわ。けど、前の攻略のときはそれだって満足に使えていなかったわね」

「僕のときもですね。ていうか、あのスキル使われると一瞬でそっちに魔物の注意が向いてしまうので、使用は控えてほしいくらいです。ルードさんのときは大丈夫だったんです?」

「俺は気にしたことはなかったな」

「それだけ、ルードの挑発が強い効果を持ってるってことでしょ。ルードって挑発がうまかったんじゃない?」


 からかうように彼女が言ってくる。

 この野郎と思いながらも、まあ、色々とコツがあるのは事実だ。


「スキル以外にも、相手の怒りを集める要素は多くある。例えば、同じ場所を何度も攻撃してみたり、相手が逃げようとしたときにわざと攻め込んでみたり……そういうちょっとした部分が、案外怒りを買いやすいんだ」


 人間だってそうだろう。

 例えば、食事のときに誰かがくちゃくちゃと食べていたとする。

 それがとても気になる人もいれば、そうではない場合もある。


 相手を観察し、どんな行動が嫌だと感じるのか。

 それを瞬時に判断し、実行していくことが大事だ。


 シュゴールが感心した様子でうなずく。


「一日二日では、タンクの真似事はできないものですね」

「それはタンクに限った話じゃないだろ。どんな役割にだって、難しい部分はあるだろ。俺だって、シュゴールのように色々なことを戦闘中にはできない。基本バカだからな。敵に張り付いて仲間を守ることくらいしかできない」

「それをこなしてくれるだけで、僕たちは助かりますよ」


 シュゴールが微笑を浮かべ、ニンたちもうなずく。

 ……そう優しい笑みを向けないでほしいな。

 慣れないんだ。


「それじゃあ、先に進もうか」

「ええ、そうですね」


 迷宮を進んでいく。

 五、六階層は問題なく進む。


 七階層に行く前に一度休憩をとり、それから探索を再開する。

 出現する魔物は変わらない。ただ、少しずつ強くなっている。


 ルナの歩く速度も落ちている。

 ホムンクルスに疲労という概念はないといっていた。


 迷宮が持つ独特の雰囲気に、疲労に似たものを感じているのかもしれない。

 ……十階層まで、一度に攻略する必要はない。


 何日かにわけて行うことだってある。

 八階層に到達したところで、大きく息を吐いたルナに声をかける。


「大丈夫かルナ」

「はい……問題ありません」

「さっきの戦闘じゃあ、少し動きに切れがなくなっていたようだが、無理なら残りの攻略は別日に回しても大丈夫だぞ」

「大丈夫です。まだ十分活動可能です」

「そうか」

「魔力は大丈夫か?」


 彼女はここまでずっと魔法を使っている。

 ホムンクルスは魔力が原動力だ。

 少し違うのだが……例えるなら、命を削って魔法を発動しているようなもの。


「問題ありません。一度の戦闘で消費する魔力よりも、移動による回復のほうが多いです」

「それならいいんだ。魔力回復ポーションは渡しているだろ。好きなときに飲んでくれ」

「承知しました。魔力が最大保有量の半分以下になったら使用します。それで、大丈夫でしょうか?」

「それでいい。あとは、移動とかで疲れたら言ってくれ」

「私に疲労はありません。そちらは問題ありませんよ。心配してくださって、ありがとうございます」


 ぺこりと頭を下げる。

 双子はもちろん大丈夫で、ニンも問題ない。


 シュゴールは肩を回して軽い準備体操中だ。


「先に進もうか」


 リーダーというのは、やはり大変だな。



 〇



 休憩をはさみながら、階層を進んでいく。

 そうして、目的だった十階層に到達する。


 これまでと何も変わりはしないが、きりのいい階層というのは少し注意する必要がある。

 ユニークモンスターが出現するからだ。


 通常の魔物よりも質の良い魔石を落とすユニークモンスター。

 ときおり、良い装備をドロップするときもある。

 神からの授かりもの、なんて言い方を教会はしている。


 十階層の魔物を調査すれば、ギルドからの依頼であった迷宮調査は終わりだ。

 その結果を受け、さらに上の階層まで見るのか、ここまでで迷宮のランクを決定するのかは上が決める。


 そんな第十階層の探知を行ったのだが、魔物の姿はない。

 ただ、探知に引っかかった反応が一つだけあった。


 広大な草原に、魔物一体?

 異常事態だ。ユニークモンスターだろうか?

 

 その反応はだんだんと近づいてくる。

 三人が魔法を用意し、俺たちは警戒して待つ。


 と、人影が見えた。男だ。

 そいつは、東方の国から輸入されたという着物のようなものを身に着けている。


 腰には刀がささっているその男は、僅かに笑みを浮かべてこちらを見た。

 リリアとシュゴールが真っ先に構えた。


「守護者!」


 二人がほぼ同時にそう叫んだ。

 ……こいつが、守護者だと?


「ほぉ、また同じ奴が性懲りもなく来たのかと思えば、何名か違う顔があるな」

「……守護者、か?」

「ハハ、いかにも。この迷宮を管理する、守護者だ」


 ここまで、はっきりと話すのか。

 驚きと感動が半分ずつあった。


 人型の守護者を見たことはある。


 けれど、本物の人のように話す奴は初めてだ。

 彼は胸に片手をあて、笑みを浮かべる。


「ようこそ、我が迷宮へ。歓迎しよう、冒険者らよ」


 それから両手を思いきり広げ、どこか子どもっぽい笑顔を浮かべた。

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