アバンシアの様子5
2月に漫画版の2巻が出ますので買っていただければ嬉しいです。
「まず、町に関してですが……ルードくんが見てきたように、順調に発達しているよ。嬉しい誤算もあったしね」
「ホムンクルスたちのことですよね?」
「ああ。彼らのおかげで、これまで特産品は果物くらいしかなかったが、今では衣服はもちろん、武器、防具、食事、ポーション……彼らの技術を活かした様々なものが使えるようになっているからね。今後は商売系のクランと相談して、これらを流通させていかなきゃだけど……まあこっちは任せて」
「……はい、おまかせします」
俺はさっぱりだからな。
商人にそういった伝手があるわけでもない。
「道の舗装もしないとだし、やることはたくさんあるからしばらくはこっちに注力させてもらうね」
「はい、大丈夫です」
「それで、ルードくんたちに相談したいと思ったのは迷宮のことなんだよね」
「迷宮、ですか?」
「ああ。現在攻略されているのは20階層までだろう? ただ、そこが最奥じゃないというのはわかっているんだが……どうにも先がみえなくてね」
20階層。現在アバンシア果樹園迷宮で、一般開放されているのはそこまでだ。
元々、マリウスが町のようなものを作りたいと言っていたが、正直いってそこまでのことはできていない。
「それで、何をすればいいのでしょうか?」
「どうにか、20階層から先の階層を見つけ出すことはできないかな? 最近、冒険者の出入りが減ってきて町での売り上げが徐々に落ちてきているんだよね」
「……そうなんですね」
確かに、果樹園迷宮が出来上がってからもう随分と経つ。
すでに魔物たちの素材は出回っているだろうし、難易度もそこそこで安定している。
となれば、ここで鍛え終わった冒険者たちが別の町に向かうのも当然だろう。
そもそも、当時はまだ田舎でロクに施設も整っていなかった。
当時の状況を知っている冒険者たちが、アバンシアについて良い話をすることも少ないだろうし、訪れる人はどんどん減っていくだろう。
「やっぱり、迷宮が一番話題になるからね。新しい魔物でも見つかって……それが珍しい魔物だったりすれば、それ目当ての冒険者が増えてくれるかもしれないからね。……まあ、あれ以上迷宮の先がない可能性もあるんだけどね」
ちょっとばかり、不安そうに彼が口を開く。
……あの迷宮のスペックが20階層までとなれば、今の町の発展が限界ということになるからな。
フェラルドさんの表情がこわばってしまうのも無理はないだろう。
「わかりました。今度じっくりと調べてみます」
「お願いするよ。……それが解決できれば、また冒険者がたくさん来てくれるだろうしね」
前回迷宮を調整してからしばらく経つ。
新しくできることもあるかもしれないが……根本的に魔物が少ないんだよな。
魔物の種類を増やすことも必要だろうし、迷宮の階層を伸ばすにはコピーの元となる魔物が必要だ。
今以上に魔物たちを働かせたら、疲労も出るだろう。
とりあえず、マリウスに相談してみないことには始まらない。
「とりあえず、僕から伝えたいことはそのくらいかな」
相談に関しては以上のようだ。
「詳しい町の状況に関しては、クランハウスの方にも送っておいたけど、目は通してくれたかな?」
「……はい。ただ、さすがに細かい数字までは覚えていませんが」
町の売り上げやおおよその人の出入りなど、町に関する細かい情報が記された資料がクランハウスに届いていた。
以前よりも人が増えたのは当然だが、それに関しては数百倍というとんでもないものだ。
……そもそも、それ以前に訪れる人がほとんどいなかったからなんだが。
まあ、同時に事件――といっても、本当に小さなものも含めての町の問題も、数百倍に増えていて頭を抱えたくはなったのだが。
「僕もさすがに全部は覚えていないよ。まあ、町の状況はあんな感じってことでね。お互い情報を共有しておいたほうがやりやすいと思ってね」
「……はい」
「とりあえず、クランに求めることは騎士との連携による犯罪の抑止、またギルドと連携しての地域の生態系を守ってもらうってことかな。今も頑張ってると思うけど、これからも頑張ってね、って話」
フェラルドさんに言われ、俺は黙ってうなずくしかない。
まだまだ、人数の問題やその他俺が動くことが多いのもあって、やることが山ほどある。
人手が欲しいが、だからといって誰でもかれでもクランに入れればいいわけではない。
……とりあえず、魔物たちにもいろいろ手伝ってもらおうかなぁ。
いや、でも迷宮のほうもあるしな。
それから少しの間、フェラルドさんと話をしてから、俺は領主邸を出た。
とりあえず、次にアバンシアを離れる前に、迷宮に関してくらいは改善しておく必要があるな。
まだ時間はある。
このまま、迷宮に向かってみようか。
〇
途中、ヒューでマリウスに連絡を取り、今どこにいるのか訊ねる。
迷宮で休んでいると言われたので、これから向かうと伝え、俺はアバンシア果樹園迷宮の管理室へと来ていた。
マリウスが作った立派な部屋に、俺も足を踏み入れる。
椅子に腰かけ、足を組んだマリウスが首を傾げた。
「どうしたんだルード。迷宮に手を入れたくなったのか?」
「そんなところだな。20階層までしかないことに、冒険者たちが飽き始めたらしい」
「なんだ。それならとっておきのサプライズを用意してやろうじゃないか! オレが一階層で待ち構えてやろうか!」
「……おまえ、二度とアバンシアを人型で歩けなくなるぞ」
「ならば魔物の姿ではどうだ?」
「町を破壊する気か」
マリウスが楽しそうに笑っていて、俺は額に手をやる。
「魔物たちはどうしたんだ?」
「今は仕事中だ。自身のコピーを作り、操作するのに忙しいからな」
「……そうか」
あの子たちにマリウスを押さえつけてでももらおうと思ったんだがな。
とりあえず迷宮の階層を増やそうか。
俺が迷宮の操作を開始したときだった。
空間が歪んだ。
真っ先に反応したマリウスが刀を構える。俺もそちらを見ていると――すっと一人の女性が現れた。
「なんじゃ、ここにおったのかえ」
すっと、迷宮の空間を突き破るようにして姿を見せたのは魔王の一人、スロースだ。
スロースの登場に、マリウスはむっと頬を膨らませる。
「不法侵入だぞ」
「なんじゃ。迷宮の管理をしとったのかえ。……ほぉ」
「なんだ、何か言いたいのか?」
マリウスが喧嘩腰に声をあげる。このまま殴りかかりそうな勢いだった。
スロースは取り出した扇子で、口元を隠し、高らかと笑う。
「この迷宮には魔導書がないんじゃな」
「……魔導書?」
なんだそれは?
俺がマリウスを見るが、マリウスはハテナと首を傾げる。
スロースは呆れた様子で嘆息をつき、それから――
「魔物を召喚する本じゃよ。また、魔物たちに特殊な能力を付与することができるものじゃ」
魔物の召喚だと?
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