アバンシアの様子4
彼女たちを逃がした。
その言葉に俺は少なからず驚きながらも、同時に彼のある言葉を思い出していた。
あの時、ホムンクルスを大事にしてくれる人間――。
その言葉の意味はもしかしたら、彼がフェアたちを逃がしたという言葉にも繋がるのかもしれない。
「そう、だったんだな。……けど、みんなは……その化け物になっていただろ? あれは一体どうしてなんだ?」
「……レルドはあくまで、事故などと見せかけて逃がしてくれているだけだからね。逃げるには危険が伴ってまあ、私たちはその危険を乗り越えられなかったってわけだよね」
「……事故、か」
「うん。それでまあ……ああいう形になっちゃったんだよね」
……結果的には、脱走には成功してはいるんだな。
「レルドは……何が目的なんだろうな?」
「……それまでは分からないかな。私たちも、ほとんど話したことはないからね」
「……」
あとは、考えることくらいしかできないだろう。
……ホムンクルスたちを逃がしたい、というのはあるのかもしれない。
ただ、いくら考えたところで答えがあって照らし合わせられるわけじゃない。
「わかった、教えてくれてありがとな」
「ううん、協力するって約束なんだから、どんどん聞いてよ」
ばしっと、彼女は胸を叩いた。
他にも気になることはあったし、確認しておこうか。
「……ホムンクルスたちは、魂を引き継ぐ、みたいなことができるのか?」
「あー、できないこともない、かな。できる子とできない子がいるって感じなんだ」
「そうか。レルドは、魂を引き継ぐ、みたいなことを言っていたんだ……つまり、戦った相手を殺しても、死なないってことなのか?」
「うん。……活動用の器を作り、その中に入って、自分の体のように動かせるんだって」
「……そう、なんだな」
だからこそ、レルドはレフの器を作り、潜入していたのだろうか?
他にも結構な量のホムンクルスがいたし、できる個体の作り方などもあるのかもしれない。
「セプトの街では、他の人たちに成り代わっているのもいたんだ。……例えば、俺の肉体を作り、ホムンクルスの器とすることもできるのか?」
「できると思うけど、その相手をじっくりと調べる必要があるからね。相手と親しくなるか、あるいは殺してその肉体を調べる必要があると思うよ。あと、魂を移せても中身は自分だから……行動や口調までは真似できないよ」
……つまり、それらが怪しまれない程度に、レルドは情報を集め、レフにすり替わっていたというわけか。
とはいえ、ホムンクルスの学習能力があれば、そこはそれほど苦労しなそうにも思えるが。
「レルドは、ホムンクルスたちのリーダー、なのか?」
「まあ、ホムンクルスの管理を任されているのは間違いないよ。ただ、もちろんホムンクルスの中でのトップなだけで、上にはもっとたくさんの人間がいるよ。……私が知っているのはそこまでかな」
「……ホムンクルスたちをまとめている、か。貴重な話が聞けて、助かった」
もしかしたらレルドは、ルナの存在についても気づいていたのかもしれない。
そんなことをうっすらと考えていると、フェアが首を傾げた。
「サミミナにも会ってきたの?」
「ああ」
「大丈夫だった?」
「相変わらず、元気だったな」
「あはは、そっか。それなら問題ないね」
「……もう少し、その落ち着かせることはできないのか?」
「無理無理。ルードさんが強く言えば大丈夫じゃないかな? 私たちのマスターだしね!」
「……強く言ったら、落ち込むんじゃないか?」
「しばらくはね。でも、仕方ないとあきらめると思うよ」
……別に、そこまでして止めたいほど嫌というわけでもないからな……。
「わかった。色々聞けて助かった、ありがとな」
「うん、また何か気になることがあったら言ってね」
「ああ。フェアも、気になることがあったら言ってくれ。困ったこととかもな」
「ありがとね」
俺は来た道を戻り、宿を出る。
一度伸びをしてから、領主邸へと視線を向ける。
……さて、そろそろ行くとするか。
相手は代官という立場で、貴族だ。
誰にも分け隔てなく接するいい人なのだが、こちらとしてはやはり少し緊張するものだ。
軽く深呼吸をしてから、俺は領主邸に向かった。
領主邸では、自警団たちが騎士とともに鍛錬を行っていた。
形としては、自警団が騎士と打ち合っている、そんな感じだ。
その指導を行っている中にフィールの姿もある。
こちらに気付いた彼女に軽く手を挙げて、近づいた。
「ルードどうしたんだ?」
「少し代官様に用事があってな。今は大丈夫だと思うか?」
「分からないが、中にいらっしゃる。会ってみたらどうだ?」
「そうだな。フィールの調子はどうだ?」
「それなり、といったところだな」
彼女は微笑を浮かべる。
……前に比べ、随分と人に慣れたよな。
そうなるしかない、というのもあるのかもしれないが、凄い成長だな。
屋敷へと入る。代官が来たことで、使用人が屋敷に入るようになった。
といっても、数は五名。
必要最低限の仕事を行う、くらいなものだった。
「ルード様、フェラルド様にご用事でしょうか?」
「ああ、今は大丈夫か?」
「はい、問題ありません」
そういうと、メイドは俺を連れてすぐに代官――フェラルドさんの元へと俺を案内してくれた。
メイドが先に部屋に入り、事情を説明する。
扉が開くと、そこにフェラルドさんがいた。
「やっ、ルードくん! よかった、戻ってこれたようだね!」
「ええ、まあ何とか」
眼鏡をかけた爽やかな男性が両手を広げながら俺のほうに近づいてくる。
軽く抱擁を行ったあとに、俺は彼の書斎へと入る。
……昔はただの物置だったここだが、今では立派な部屋となっている。
トゥーリ伯爵と親しい関係であるフェラルドさんの爵位は、確か子爵だったか。
フェラルドさんがソファに腰かけ、向かいの席を示してきた。俺は一礼のあと、腰をおろした。
「町は見てきたのかい?」
「はい……自分が離れてから随分と発展したようですね」
「ホムンクルスたちの活躍がすさまじいからね。……あれだけの才能をもっているのは喜ばしいことだが、少しばかり不安にもなるね」
「……何か、彼らが問題を起こしたのでしょうか?」
「いやぁ、彼らは大丈夫だよ。ただ、あのホムンクルスたちってブルンケルス帝国から逃げてきたんだろう? 彼らにも話を聞いたんだけど、あくまで一部のホムンクルスなんだってね」
「はい」
「まだまだあれほどのホムンクルスがわんさかいるとなると、不安だなって思ってね」
フェラルドさんが微笑を浮かべる。
メイドが飲み物を持ってきて、俺たちのもとに置いた。
それをお互いに一口程度飲んだところで、フェラルドさんが手を合わせた。
「さて、ルードくん。色々と相談があるんだけどいいかな?」
「……はい」
フェラルドさんの表情が少し険しくなる。
一体、どんな相談なのだろうか。
先ほどのホムンクルスのことはもちろん、冒険者やクランのことなど様々な不安が浮かんでくる。
大きな問題でなければいいのだが……そう願うしかなかった。
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俺(私)のことが大嫌いな幼馴染と一緒に暮らすことになった件
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