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アバンシアの様子3


 ひとまず、宿へと向かうか。

 ギギ婆の店をあとにした俺はその足で、冒険者区画へと向かう。

 冒険者や、それに向けた店が並んでいる。……以前に比べて随分と賑わってきたな。


 俺たちが町を離れている間に、またいくつか建物が出来上がったようだ。

 宿などを運営するクランもあり、それらの人が俺に気づくと、軽く挨拶をしてきた。


 代表者とは何度か会ったことがあったが、最近は代官が主になって動いてくれている。

 どのようなクランを誘致するかなどは、そちらがまとめてくれていて、俺たちは相談に乗る程度だった。


 そもそも、俺たちは他クランの情報はあまり持っていない。

 国内の二大クランに相談するくらいはできるが、あくまでそのくらいでしかなかった。

 

 ほかに目立つのは騎士の姿か。

 普通の街のように、騎士たちは通りの巡回を行ってくれている。

 騎士の詰め所に関しても、この冒険者区画にある。……これならば、以前よりも随分と犯罪への抑止力が高まっただろう。


 通りを歩いていると、冒険者たちからちらちらとみられる。

 ……まあ、注目を集めるような見た目なのは理解している。

 ただ、それにしたって今日は見られてるな。


 と思っていると、冒険者の一パーティーと思える四人組が近づいてきた。


「あ、あのルードさんですよね!?」

「……あ、ああ」

「新聞見ました! クーラスの街を守ったって!」

「僕たちみんな、元々クーラス出身だったので! 本当にありがとうございます!」

「あ、ああ……ありがとうな。といっても、戦ったのは俺だけじゃなくてだな……」

 

 というのだが、ああ、ダメだ聞いていない。

 皆が、俺に会えたことを喜んでいた。

 ……まあ、悪い気はしないな。


 しばらく彼らの話を聞く。それとなーく、クランに入るかどうか聞いてみたら、すでにクランには入っているそうだ。残念だ。


 握手を求められたので、全員と一度握手をする。

 ……自分ではそんなことを求められるような人間だとは思っていないが、一部の人からすればそのように映っているようだ。


 過剰にならない程度には意識したほうがいいのかもしれない。

 しばらく歩き、ホムンクルスたちが管理している宿へと向かった。

 町の人とホムンクルスたちが入れかわりで勤務している宿だ。


 中に入る前から、人々で賑わっているのがわかる。

 今は昼時だが、外までずらりと並んでいた。


 外で列の整理を行っていたホムンクルスが俺に気づくと、一礼をしてきた。


「ルード様、どのような御用でしょうか?」

「……ちょっと、フェアに宿の様子を聞きに来たんだが……忙しいか?」

「大丈夫です。それでは、裏口からお入りください」


 ホムンクルスが一礼をしてから、再び列の整理へと戻る。

 宿の一階は食堂で、二階で部屋を借りられたはずだ。

 つまり、この時間にこれほど客が入っているということは、食堂が人気なんだろう。


 ……料理なども、ホムンクルスたちの知識や技術で一気に向上したということだろうか。

 俺が裏口へと向かうと、掃除をしていたホムンクルスが俺に気づいた。

 先ほどと同じように事情を伝えると、すぐに中へと通してくれた。


 中を進んでいくと、厨房に出た。

 フェアと複数のホムンクルスたちがそこで料理を作っていた。


「あっ、ルードさん。いらっしゃい。泊まってく?」

「俺は自宅があるから大丈夫だ」

「サービスしちゃうよ?」


 何のだ。

 フェアがにこっと微笑んでから、俺を案内したホムンクルスを手招きした。

 ホムンクルスは一度頷いてから、フェアと代わる。


 フェアと代わったホムンクルスは、フェアとすべて同じように動いていた。

 ……これができるのが、ホムンクルスの強みだよな。

 フェアが俺の手を掴み、上を指さした。


「上の控室で話そうか?」

「……ああ、そうだな。仕事は大丈夫か?」

「うん、平気平気」


 フェアの言う通り、厨房に関しては問題なさそうだな。

 彼女とともに階段をあがり、控室として利用している一室に入る。

 席についたところで、フェアが首を傾げた。


「それで、どうしたの」

「今、ホムンクルスたちの様子を見て回っているんだが……宿のほうはどうだ?」


 何かあるだろうか。

 先ほど見た限り、忙しい、という以外は問題なさそうではあった。

 ただ、俺ではわからないことを、フェアは気づいている可能性があるからな。


「こっちは問題ないかなぁ。他のみんなはなんだって?」

「みんなも特には何もなかったな」

「そうなんだ? それならよかったぁ」


 フェアはホムンクルスたちのリーダーだ。

 ほっと嬉しそうに胸をなでおろしていた。

 そういえばフェアは、何か知っているだろうか?


 思い出すのはセプトでの戦いだ。

 俺たちは、ホムンクルスに襲われ、それを撃退した。


「フェア、話は変わるがいいか?」

「うん、何の話?」

「……この前、セプトでホムンクルスに襲われたんだ」

「……そうなんだ。ブルンケルス帝国の、だよね?」

「……確定まではできないが、恐らくはそうなんじゃないか? 他にホムンクルスを製造しているのは知らないからな」

「そうだよね。……大丈夫だった?」

「ああ。問題はなかった。ただ――」

「ただ――?」


 戦闘自体は大丈夫だった。

 だが、その中に他とは異なる特殊なホムンクルスがいたのも事実だ。


「その中に、レルドというホムンクルスがいた。……街を襲ったホムンクルスたちをまとめている印象を受けたんだが、知っているか?」

「……レルドは、私たち全員が知っているよ」

「……なんだと?」


 彼女の言葉に俺は思わず目を見張った。

 まさか、これほど簡単にあの男の情報が手に入るとは思わなかった。

 思わず身を乗り出した俺に、フェアは曖昧な表情を浮かべた。


「レルドは……私たちを外に逃がしてくれたんだよ」

「……何?」


 その言葉は想像もしていなかったものだった。


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