アバンシアの様子2
サミミナとギギ婆の薬屋へと向かう。
並んで歩いていると、サミミナはちらちらと俺の顔を見てくる。
たまにそちらを見ると、嬉しそうにどこか恥ずかしそうに彼女は視線を外す。
……見た目は可愛い美女なせいで、こちらがドキドキとさせられてしまう。
ギギ婆の店はすぐ近くだ。
……こちらも、非常に繁盛していた。店の入り口には、ルーフポーションはおひとり様一つまで! と書かれた張り紙が書かれていた。
「ルーフポーションというのが、サミミナが育てた薬草で作ったポーションなのか?」
「は、はい……ルーフ草という薬草を育てまして、それで作ったものになりますね。こちらの薬草は、リビル草と組み合わせることで、普段以上の効果を発揮します」
「ルーフ草は確か猛毒があったよな? リビル草も確か毒があったはずだが……その二つを組み合わせることでポーションができるんだな?」
「はい。二つとも熱することで毒性が増してしまいます。ですが、すりつぶしたルーフ草、リビル草をそれぞれ2対1の比率で湯に投入し、おおよそ22時間38分かけて熱することで、毒は消え、効果の高いポーションが出来上がります」
「……22時間38分、それはぴったりか?」
「正確に言いますと一分程度の余裕はありますね。その瞬間に火を止めることで、毒が一切ない高品質のポーションができます」
「……ちなみに、ホムンクルスというのは時間もきっちりと把握できるものなのか?」
「可能な個体とそうではない個体がいますね。私はできますので、ポーションの製造はお任せください。また、この方法以外で、現在のところルーフポーションの作製は発見できていません。スキルでは作れないようですね」
……凄いポーションの作製方法なんだな。
スキルを用いて一瞬で作ることができる人たちもいる。
彼らに対抗できるほどの代物ということか。
「……知らなかったな」
「ただ、作製の工程からも分かりますように、大量生産を行うにはそれなりの設備が必要になりますね」
「……そうだよな。現状では大量生産は難しいから、一人一個か」
「それでも、ほぼ毎日売り切れていますね。おおよそ、一日あたり200個程度は製造してしますが」
「……凄いな」
ギギ婆の店を外から伺っていると、ギギ婆とホムンクルスが忙しない様子で動いていた。
「ホムンクルスたちは、どうだ? みんな馴染めているか?」
「ギギ婆様がとてもやさしく接してくださりますから問題ありません」
「……そうか。それならよかった。お店について他に変わったことはあるか? 町の状況を知りたいんだ」
「そうですね……ここに関してはこれ以上特別変わったことはございませんね。聞きたいというのはホムンクルスたちによって変化した部分でしょうか?」
「そうだな」
ホムンクルスたちは様々な技術を持っている。
それらのおかげで、今この町は……下手したらその他の町とは比較にならないほどの技術者で溢れているからな。
「まず、衣服に関しては……聞いていましたから大丈夫でしょうか?」
「ああ」
「承知しました。鍛冶も問題ありませんね。……ということは、あとは宿、食事といった部分でしょうかね」
サミミナが顎に手をやり、そういった。
宿と食事、か。
食事は分からないでもない。……料理人によってその腕は大きく変わる。
俺は料理が苦手な仲間の一人を思いだした。
彼女の名前はリリアだ。作るものがすべて毒物に変化してしまうほどの腕である。
リリアは何度も料理に挑戦していたのだが、まったく作れないのだ。あれはもしかしたら、呪われているのかもしれない。
見た目はそれなりにおいしそうなのだが、味は最悪になってしまうんだからな。
その処理は健康体を持つ俺が良く行っていた。キグラスに食べさせたら一日うなされていたからな。
ただ、宿もなのか?
「宿は一体どんな変化があったんだ?」
「宿は……どちらかといえばそこにある物などですね」
「物……そうか。家具などをホムンクルスたちが造ってくれたってことか」
「はい。その出来が完璧でして、泊まる人々たちの体を癒しています。こちらはフェアが主になって、行動していますね」
「……それは便利だな」
「宿に関連してですが、食事に関してもですね。食事も我々が作っているため、他の人々に負けないほどのものが出来上がっています。おかげで、ルード様のクランが管理している宿は、他クランの宿や料亭に負けないほどのものになっております」
「……そうか。クラン主導で行っていたんだな」
宿などは町の財産なので、どちらかといえばクラン主導というよりは領主主導だと思ったが、今は管轄がクランになっているのか。
「はい。代官様とマニシア様でお話して決めたそうです。責任は伴いますが、その分ルード様のクランが目立つ機会でもあります。そうとわかれば、我々ホムンクルスたちは身を粉にして働けますから!」
「そ、そうか……ありがとな」
またテンションがおかしくなってきたサミミナを落ち着かせるように、声をかける。
「はい……この命、ルード様に拾われたものですから。それに、我々もクランの一員のようなものですから」
「……そうだな。これからもよろしく頼む」
「お任せください。……そ、そのルード様。ひ、一つよろしいですか?」
「なんだ?」
「……わ、わがままになります。い、い嫌なら嫌とはっきり断ってくれて構いません」
「……なんだ?」
サミミナはもじもじと体を揺らしたあと、頭を俺の方に向けながら、
「あ、あああ頭をななな撫でてはくれませんか!?」
……。
サミミナが顔を真っ赤にそう言ってきた。
真っ赤な顔で目をぎゅっと閉じたサミミナに、俺はなるべくすぐに返事をした。
「わ、わかった……ちょっと待っててくれ」
「本当に良いのですか!? あ、ありがとうございます!」
嬉しそうにサミミナが頭を勢いよく下げてきた。
……なるべくすぐに返事をしたのは、サミミナが言葉を撤回してしまうかもしれないと思ったからだ。
クランリーダーとして、やはりメンバーが喜ぶことや意見は尊重したい。
このくらいでいいのなら、な。
ただ、もちろん俺は恥ずかしい。
一度息を吐いてから、俺はサミミナの頭に手をやる。
何度か頭を撫でる。マニシアにしていたときのことを思いだし、優しく丁寧に。
すると、サミミナは目だけではなく口までぎゅっとして、それはもう嬉しそうに震えた。
「……ありがとう、ございますルード様」
「……ああ。これからもよろしく頼む」
「……はいっ!」
サミミナが勢いよく頭を下げた後、ギギ婆が店の中から現れた。
「サミミナっ! もう、自警団にポーションの配達は終わったんだよね?」
「はい! それは早々に終わりました!」
「なら、早く店を手伝って! 忙しいんだから!」
「わ、わかりました! それではルード様! またあとで!」
ギギ婆と入れ替わるように、サミミナが店内へと入る。
ギギ婆もふっと微笑んでから、店へと歩き始める。
彼女にも一言でいいから感謝を伝えておきたかった。忙しい中悪いが呼び止めようとすると、ギギ婆が思い出したように振り返る。
「ルードの分のポーションはいつも確保してあるからね。いつでも取りにおいで」
「……ありがとうございます。それと、これからもみんなのこと、よろしくお願いします」
そういうと、ギギ婆は口元を緩めて頷いた。
「ああ、もちろんだよ。ルードも、無理しすぎないように頑張りなよ」
ギギ婆が軽く手をあげてから、店へと戻った。
……町のことはだいたい聞けたな。
宿を確認しながら、領主邸に向かおうか。