帰還3
じぃーっとこちらを睨んでくるリリィ。
……正確には二人に用事があったので、俺の言葉が足らなかった。
あとでリリィとリリアにまとめて説明しようと思ったが、仕方ない。
「リリィとリリアに、用事があってな。なんでも、俺たちに迷宮攻略の依頼が来ているんだ。国から」
「……国からですか? 俺たち、ってもしかしてキグラスも入っているのですか?」
「ああ。とりあえず、キグラスは参加する予定だ。……それで、リリアとリリィはどうするのかと思ってな」
「……あー、それでお姉ちゃんにも用事があったと。そういうわけですね」
こくこくと納得したようにリリィが隣に並ぶ。
「それでリリアはギルドにいるのか?」
「はい。いると思いますよ」
俺たちは並んであるきだす。
なぜかリリィもついてくるようだ。
「リリィは今何をしていたんだ?」
「巡回中です。お姉ちゃんに任されたので」
えへん、とリリィは胸を張る。
……本当に任されたのだろうか。
あまりリリィは仕事ができないと以前リリアが言っていたような――。
リリアに体よく追い出された可能性もある……よな。
「……そうか。リリアはギルドで仕事しているのか?」
触れないでおこう。真実だったときにフォローの言葉が浮かばないし。
「はい、書類の整理など、お姉ちゃんの許可が必要なものがあるようなので、その対応にあたってますね」
「へぇ、リリアってそういう立場にいるんだな」
「お姉ちゃんは優秀ですからね! 自慢の姉です!」
えへん、と胸を張ったあと、リリィはがくりと肩を落とす。
露骨に落ち込んでいる様子だ。
「……どうしたんだ?」
「……いえ、お姉ちゃんが優秀すぎて妹の私は辛いんですよ。みんなお姉ちゃんと比べるんです。お姉ちゃんは仕事できるのに、どうしてって……お姉ちゃんのやる気を上げるためだけに雇われているんじゃないかってそんな疑惑も出てるんですから……」
いかん。リリィが結構本気で落ち込んでいる。
こんな姿を姉に見られたら、俺が落ち込ませたと怒られるかもしれない。
「そ、そうは言ってもな? リリィだってそれなりに仕事はできるんじゃないか?」
「え、本当ですか? どこですか、どこですかルード」
深くは聞かないでくれ……。
俺はそうだな……と呟くように誤魔化しつつ、考える。
「仕事、というか俺の知っているリリィに関して話してもいいか?」
「はい。構いませんよ」
「俺が知っているリリィは戦闘中、魔法の援護が凄い子だってことだな」
「あのルード」
「なんだ?」
「凄い『子』、ってなんですか? 私、ルードよりお姉さんですよ、お姉さん!」
びしびしと腕をつついてくる。
……そういえば、そうだったな。リリアとリリィは俺からすれば年上だ。そりゃあ双子だしな。
リリアは時々、ああ年上だな、と感じることがあったが、リリィに関しては完全に年下に見ていた。
「……悪かった。その、俺には妹がいるだろ? だから、ついつい妹ってつくと年下に見てしまうんだ」
「なんだそうだったんですか? それなら、許してあげましょう。リリィお姉ちゃんとこれからは呼ぶと忘れなくて済むと思いますよ」
絶対に呼ばないぞ。こっ恥ずかしいからな。
俺は苦笑だけを返して歩いていく。
リリアがギルドで仕事をしているという情報は引き出せたので、この話題は終わりでいいだろう。
「リリィ。お姉ちゃんなリリィに一つ相談なんだが」
「はいなんですかルード」
ご機嫌取りもこれで十分だろう。
彼女の笑顔を見れてほっとしておいた。
「キグラスを含めた五人パーティーで仮に決定したとして、あと一人どうする? どうせなら六人で挑んだほうがいいだろ?」
「確かにそうですねっ! 誰か候補はいるんですか?」
「単純な戦闘能力で考えるなら、ルナかマリウスだと思ってる」
「ルナちゃんとマリウスですか……」
リリィが考えるように顎に手をやる。
俺も悩んでいた。ルナは魔法が得意だが、近接戦闘だって中々でパーティーに合わせて動くことができる。
マリウスは近接戦闘のみだが、明らかにルナよりも力がある。
それに、迷宮に関してはマリウスを連れて行ったほうが何かとわかることがあるかもしれない。
「パーティーのバランス的に考えて、ですね。マリウスのほうがいいと思いますよ」
「……確かに、そうだな」
基本的に近接で動ける人間を多くするほうが何かと都合がいい。
それに、ヒーラーに関しては他の追随を許さないニンがいるし、魔法攻撃に関してはリリィ以上の使い手を俺は知らない。
ニンは暇になったら攻撃に回れるし、リリアだってリリィほどではないが魔法を使える。
リリアが、先程考えたルナのような立ち回りが可能だということだ。
そう考えると、似たような役割のルナはたしかに連れて行かないほうがいいかもしれない。
……それに、ルナ自身別に戦闘が得意、あるいは好きだからやっているわけではない。
俺のために、という部分が大きい。
彼女には、町に残ってもらって他のホムンクルスの人たち、町の人達との交流を深めてもらっていてほしいな。
「相談に乗ってくれてありがとなリリィ」
「えへへ、そうですか? 役にたてましたかルード?」
「ああ」
嬉しそうに微笑む姿は……やはり年上というよりは年下っぽさがある。
リリィは少しだけ歩いていったところで、ふっと微笑んだ。
「私だって、いつまでもお姉ちゃんの後ろに隠れてばかりではいられませんから」
意外だった。
リリィがそんな風に考えていたなんてな。
「……リリィ。そうか、頑張れよ」
「はい。あっ、そうだ。ルード、少ししゃがんでください」
そういったリリィはそれから俺の服を引っ張る。
耳にささやくような姿勢をとったので、俺が少ししゃがむと、耳にふっと息がかかる。
「今の、お姉ちゃんには内緒にしておいてくださいね」
「ああ、わかってるよ」
「うん、ありがとうございますルード」
リリィが無邪気な様子で笑う。
そのときだった。凄まじい殺気を感じた。
ギルドの外にちょうど出てきたのだろうか。
リリアがこちらを睨んでいた。