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帰還1


 アバンシアに到着した俺たちは、地上に降りたところで背中を伸ばした。

 足ががたがたと震えていたキグラスも、久しぶりの大地をふみしめると表情に余裕が見える。


「この町に来るのも久しぶりだな」

「以前、迷宮に挑んで以来?」

「そういや、そうだな。つーか、おいルード」


 俺の肩をつついてくるキグラス。

 ……すっかり距離感が出会った時の頃に戻ったな。


 そういえば、俺がタンクとして初めてキグラスと会った時は、こんな感じだったかもしれない。


「なんだ?」

「なんで、あいつがいるんだよ?」


 あいつ、というのはマリウスだ。

 ……セインリアに乗っているときは、恐怖のせいかまったく俺に質問してこなかったからな。

 指さされたマリウスが首を傾げた後、キグラスをじっと見る。

 

 それからポンと手を叩いた。


「そういえば、どこかで見たことある顔だと思ったら以前迷宮に挑んできた男か! それなりの実力者だったな、そういえば」

「……お、おうサンキューな……じゃねぇ! なんでこいつ当然のように外で歩いているんだ!」

「それはもちろん、オレがルードのクランメンバーだからな!」

「なるほど……って納得できるかよっ!? おまえ、しゅ――! ……守護者、だよな?」


 守護者、と言おうとしたときにリリアの手刀を思いだしたのか、キグラスの声が控えめになる。

 キグラスがそういうと、マリウスはこくこくと頷いた。


「ああ、そうだが、それが何だ?」

「い、いや何だって……オレがおかしいのか?」

「少なくとも、みんなすっかり慣れたわよ。そういうもんよ」


 ニンが言い放つと、キグラスはまだ納得がいっていない様子だったが静かに頷いた。

 キグラスも落ち着いたところで、町へと入る。

 すると、セインリアを見て集まっていたのだろうか。


 一斉に町の人たちがこちらへと駆け寄ってきた。


「ルード! なんでも大活躍したって話じゃねぇか!」


 嬉しそうな声をあげたのは、自警団たちだ。

 セインリアから降りると同時、皆が駆け寄ってくる。

 自警団だけではない。この町に滞在している冒険者たちもだった。


「な、なんだいきなり?」


 まだ新聞などにも載っていないはずだ。

 仮に、載っていたとしてもこの町に届くのは随分先になるのだ。

 しかし、それでも町の人たちの興奮は止まらない。


「グリウルから聞いたぜ? そりゃあもう大活躍だったらしいな! マスターの活躍はってな! それはもう毎日話してくれたぜ!」


 おい、グリウル……。余計なことをしないでくれ。


「いや、俺だけじゃないって。グリウルたちだって戦っていたんだからな」

「そりゃあそうだが! そいつら全員仲間なんだろ!? すげぇ話じゃねぇか!」


 彼ら緑狼族たちをセインリアでアバンシアに先に送り返す際、彼らはそれこそ崇拝ともいえるような視線を俺に向けてきた。


 ……あのまま、余計なことまで言っていなければいいのだが。

 街を歩きながら自警団たちに話を聞いていく。


「グリウルたちとは、どうなんだ? ……うまく、いっているのか?」

「ああ、そうか。ルードはそこを気にしていたんだな。大丈夫だ。色々と町のためにやってくれて、むしろ助かってるくらいだぜ」


 自警団がへへ、と鼻の下をかいて笑う。

 その後も、色々な人にもみくちゃにされ、町を歩いていくことになる。


 ……まったく。

 興奮するのはいいが、町をあげてのお祭り騒ぎは少し照れ臭かった。

 それが落ち着いたところで、俺たちは足を止めた。


「それじゃあ、あたしはちょっと教会に顔出してくるわね」


 ニンがそういうと、マリウスも一つ頷いた。


「オレは一度迷宮に戻る。何かあったら呼んでくれ」


 マリウスはヒューを肩に乗せてから、歩き出した。

 リリアとリリィも軽く背中を伸ばす。


「仕事、溜まってなければいいけど」

「そのときは私に任せてください……っ」

「……うん」


 リリアはやる気満々のリリィに頬をひきつらせている。

 ……リリィ、そんなに仕事できないからな。


「俺もクランに戻るか」

「……オレはどうすりゃいいんだ?」


 キグラスが手持無沙汰にしていた。


「とりあえず、クランハウスまで来るか?」

「……そうだな。他に行くあてもねぇし。国からの依頼ってのも気になってたしな」


 というわけで、一度俺たちは解散した。

 俺がクランハウスへと向かって歩いていくと、シナニス、アリカ、ラーファンの三人組を見つけた。


「おっ、久しぶりじゃねぇかルード!」


 シナニスが嬉しそうに微笑んでこちらにやってきた。

 アリカとラーファンも遅れてやってくる。


「俺がいない間、町はどうだった?」

「こっちは何もねぇぜ? ルードがいなくてもどうにかなるってもんだ」

「そうか。それは良かった。マニシアはクランハウスか?」

「おう。いくつか、処理できていない依頼があるから、これからオレたちでその達成に向かう予定だぜ」

「……了解だ。よろしく頼む」

「おう!」


 シナニスがひらひらと手を振り、ラーファンとアリカも微笑んでから彼らは町の外へと向かう。


「今のはクランメンバーか?」

「ああ」

「結構強そうな奴らだな」

「ランク、A、B相当はある子たちだ」

「すげぇな、そいつは」


 キグラスが驚いたようにそちらを見ている。

 ……いや、おまえだって似たような年齢の時には、とっくにSランクだったんじゃないか?

 やがて、クランハウスが見えてきた。


 クランハウスの庭では、ファンティムとシャーリエがいた。

 彼らは、それぞれ剣を振りあっていた。

 俺たちに気付くと、一度手を止め、汗を拭った。


「あっ、ルード! 久しぶりだな!」


 元気な様子でファンティムが手をあげる。シャーリエも小さく微笑んだ。


「ルードさん、話聞きましたよ。凄い活躍だったみたいですね」

「そうだ! ルードが凄かったってみんな言ってたな!」


 そのみんなってグリウルたち、緑狼族のことじゃないのか?


「一応、クランリーダーとしてそれなりには頑張ったつもりだ。リリフェルたちは今どこにいるんだ?」

「な、なにしているんだっけシャーリエ?」

「リリフェルさん、ティメオさん、ドリンキンさんたちは、一緒に片付いていない依頼を受けに行きましたね。シナニスさんたちは――」

「ああ、シナニスたちならさっき会ったよ。ありがとな」

「はい」


 それじゃあ、今はマニシアだけか?

 

「訓練、頑張ってな」

「はい」

「おう! オレも早く強くなってルードみたいになるんだ!」


 二人の訓練が再開し、俺はクランハウスの扉をあける。


「しっかりリーダーやってんだな」

「まあな」

「そういうの、あんまり好きじゃないって言っていなかったかよ?」

「今も得意じゃない。けど……任されている以上はやらないとな」


 期待している人もいるからな。


「そうか」


 キグラスとともにクランハウスに入ると、そこには天使がいた。

 マニシアが振り返りながら、微笑んだ。


「あっ、兄さんお帰りなさい」

「……ただいま」


 ついつい、声が大きくなってしまうのをこらえながら、俺は返事した。

 やっと、戻ってきたな。

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