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最強タンクの迷宮攻略  作者: 木嶋隆太
第一章 
18/198

お試しパーティー


 ギルドからの許可はあっさりとおりた。

 しかし、問題が起きてしまった。

 調査隊のリーダー名が、「ルード」になっている、とかそういうのではない。


 フィールの父親――自警団トップの男がぎっくり腰で倒れた。

 そのため、フィールが代わりに自警団をまとめる必要が出てしまった。


 つまり、迷宮調査に参加できなくなった。

 その代わりの者は、用意した。


 よく晴れた日。門の前に立った俺は、集まったパーティーメンバーを見るために振り返る。


「それじゃあ、行こうか」

「よろしくお願いします」


 フィールのかわりに呼んだルナが丁寧にお辞儀をする。


 ルナの戦闘能力の高さはわかっている。

 俺、シュゴール、リリアが前衛にたち、残り三人が後衛を務める。


 これで、バランスはかなり良くなった。


 他にも候補はいたんだけどな。

 この前争っていたブーとガーリ。


 しかし、あの二人には町の冒険者をまとめてもらうように頼んでおいた。

 俺が頼むと、快く承諾してくれた。


 果樹園を目指し、フィールドを歩いていく。

 俺の隣に並んだのはシュゴールだ。


「いやぁ、これだけ女性がいるというのは、いいパーティーですね。目の保養、目の保養……」


 歩き出してすぐ、呑気なことを言うシュゴール。

 そういう話題はあまり得意じゃないんだよな……。


「勇者パーティーもそうだっただろう」

「いやいや。あのときはそんな余裕はなかったんだ。今はルードさんがいますからね」


 俺の隣に並び、耳元でささやくように言ってくる。

 近いっての。男の吐息とか嬉しくない。これがマニシアなら、飛び上がるほど喜ぶが。


 煩わしくて腕を振ると、彼は楽しそうに目元を細めた。

 シュゴールの視線はルナへと向けられた。


 彼女は気になるものが多いようで、ニンの腕をつかんですぐにそれを聞いている。そのたびに、目を輝かせていた。


「無邪気な子だね……ルードさんは、ああいう子が好みかい?」

「そういうのじゃない」


 ニンは食べられる野草や、うまい魔物の肉について詳しく、ぺらぺらと話していく。

 ルナが興味深そうに目を丸くし、何度も頷いている。

 あれで公爵家の三女かい。


「美しい……やはり、女性同士を眺めているのは心がワクワクしますね」

「悪い気はしないが……」

「さすが、ルードさんもこの魅力がわかりますかっ! 素晴らしい!」


 シュゴールは少し変わった奴だ。

 彼とは何度か面識があったが、ニンを介して知り合ったにすぎない。


 友達の友達。二人きりになっても、話が思いつかない。

 と、おもっているのは俺だけなようだ。


 あまり他人と話すのが得意ではない俺は、それでも必死に知恵を絞り、


「シュゴール、おまえはどんな戦い方をするんだ?」


 質問を投げる。

 彼と組んだのは初めてだ。


 確認しておきたいことは山ほどある。


「僕はなんでもできる古代語的に言うと、オールマイティーって奴ですね。全部がBランク程度。だから、それを敵に合わせて使うことでAランク相当の実力を発揮できる感じですね」

「なるほど……パーティーに一人いると助かるな」


 迷宮攻略は六人が基本だからな。

 どんな状況になっても自由に動ける人がいると、頼りになる。


 ただ、全部が天才的、というのは少ない。

 シュゴールのオールBランク相当の評価というのは、そこらのSランクよりも凄いと俺は思う。


 迷宮にたどり着いた。

 全員が、俺の方を見てきた。


 今回は俺がリーダーだ。


 戦闘での指示だしは、前衛の俺より後衛のほうがいいといったのだが、「たまにはやりなさいよ」とニンに押し付けられてしまった。


 こういうとき、なんていえばいいかわからなかったが、とりあえず拳を固めてみた。


「そ、それじゃあ行こうか」


 少し詰まって言うと、くすりとニンが笑う。……おまえな。


「そうね、行きましょうか」


 慣れていないんだ。こういうのは。

 頬の熱をとるように、息を吐いた。



 〇



 迷宮は上へとあがっていくものだ。

 入口すぐの魔法陣に乗ると、階段の前に出た。


 壁には古代語で一階層と書かれている。

 別に古代語に詳しくないが、冒険者をやっているとこのくらいは読める。


 階段をあがっていき、一階層に到達する。

 広大な草原だ。これはシュゴールから聞いていたものだな。


 全員があがると、階段の入口が消滅する。


「これが、迷宮……なんですね」

「ああ。迷宮の中は、いるだけで外皮が削られていく。迷宮の特殊な魔力の影響でな……そういえば、ルナ。おまえって外皮持っているのか?」


 後半は小さく言う。


「はい。3000ほどですが……」

「わかった。……そういえば、スキルを自覚してから中に入るのは初めてだな」


 迷宮から受けるダメージも、肩代わりできるのだろうか。

 ……しばらく様子をみていたが、俺の外皮の減りが速くなることはなかった。


 ということは、これは無関係なのか。

 迷宮は神様が造ったものだから、とかか? よくわからない。


 ルナがきょろきょろと周囲を見回し、俺のほうにそそと近づいてくる。

 彼女がしきりに見ているのは、消滅した階段だ。


「なぜ……階段が消えたのですか? これでは戻ることができませんよ」


 ……なんか新鮮だな。

 迷宮に入らない者からすれば、知らなくて当然のことだ。


「出口と入口は、別の場所にあるんだ。全員が通ることのできるものがな」

「……全員、ですか? それでは、今私達が通ってきた入口は全員が通れるものではないのですか?」

「そのとおりだ。さっき、魔法陣に乗っただろ。あの魔法陣は、最大六人までを次の階層へとつながる階段にワープするんだ」


 ルナが首を傾げた。

 ……俺も説明は上手じゃないんだがな。


「例えば、俺とルナが別の時間にあの魔法陣に乗ったとする。俺はAの入口へワープし、ルナはBの入口にワープする。絶対に一緒の入口にはいけないんだ」

「……では、この階段をあがった迷宮につながる入口も違う場所につながっているのですか?」

「ああ」

「……だから、迷宮でのパーティー編成は六人、なんですね」


 理解した様子のルナに、もう一つ教えてやる。


「例えば、迷宮内を移動するためのスキルであるダンジョンワープとか、ダンジョンウォークとか……そういうスキルも最大六人までの移動しかできないんだ。これらスキルは神から与えられたものだから、迷宮も神が作ってくれているのでは、というのが最近の研究結果だな」

「なるほど……?」


 これはちょっと分からなかったようだ。

 ……とはいえ、俺もそれっぽいことを言っているだけで、この辺りはさして詳しくない。


 それ以上の解説は無理だ。ニンに聞いてくれ。


「少し問題を出そうか」

「問題ですか、任せてください」

「それじゃあ、迷宮内で七人以上で行動するにはどうすればいいと思う?」

「……中に入ってから合流するのですか?」

「ああ。けど、結局その階層しか攻略はできない。理由はわかるか?」

「さっきと同じであれば……次の階層に向かう魔法陣に入ったとしても、また別々の場所から始まってしまいます。中で合流しないと、ダメです?」

「おお、理解が早いな。迷宮内は広大だ。これだけの空間を探して歩き回っているだけで、時間の無駄になる。だから、パーティーは六人が基本なんだ」

「わかりました。ありがとうございますマスター」


 少しだけ、マスターらしく振舞えただろうか。


 ルナはうなずいてから、草原を眺める。

 次の階層へと繋がる魔法陣が、どこかしらにある。


 その魔法陣は同時にいくつか出現するが、一つのパーティーが利用すると別の場所に移動してしまう。

 厄介なものだ。


「とりあえず、前回到達した第五階層まで、ダンジョンウォークで行きますか? 僕スキルを持っているんですよ」


 迷宮攻略に必須のダンジョンウォーク。

 高階層の攻略にはそれがないと話にならない。


 徒歩で一から攻略とか絶対嫌だからな。


「第一から第四まではフィルドザウルスしか出ないんだったよな?」


 事前にシュゴールのまとめた迷宮の情報ではそうだった。


「そうですよ。倒してから行きますか?」

「ああ、慣らしておこう。一緒に戦うのはこれが初めてなんだしな」

「それがいいですねっ。では、探知魔法を使います」

「俺も探知魔法は使える、併せて発動しよう」


 魔法はスキルを模倣したものだ。

 一人で発動してもたかが知れているが、誰かと合わせることで神が与えたスキルと同等の、あるいはそれを超える効果になることもある。


 よっぽど相性が良くないと難しい。双子とかは、こういうときに強い。魔力の波長が似ているからな。


「あのルードさんと併せることになるとは……将来、ルードさんが有名になられたときは子どもに自慢するとしましょうか」

「そんな有名にはならないと思うぞ」

「いえいえ。ご謙遜を。どちらが軸で魔法を使いますか?」

「たぶん、シュゴールのほうが得意だろう。おまえを軸に、俺は魔法を添える」

「わかりました」


 魔法の準備を行う。

 探知魔法の発動は、自分を中心に波紋を広げるような感じだ。


 シュゴールが魔法を用意する。

 人によって、魔力の波長は違う。できる限り近づける必要がある。


 俺の準備が調ったので、彼に目で合図する。


 シュゴールが探知魔法を発動し、そこに合わせる。

 探知魔法が魔物の位置を特定していく。

 ただ、そこが俺たちの限界だ。


 スキルならば、どんな魔物なのか、また魔物の強さまでも判断できるらしい。

 これでも十分だ。


 シュゴールはさすが平均Bランクなだけはある。

 かなり質のよい探知魔法だ。


「さすがだな、シュゴール。魔法で確定的な探知ができるなんてな」

「そうですかね? ふふ、ルードさんに褒められると嬉しいです」


 シュゴールが微笑を浮かべる。

 リリアとリリィがじっとこちらを見てきていた。……な、なんで普段まるで反応を示さないのにこんなときだけ見るんだよ。


 彼女らは俺たちのほうに親指をたててから、また二人の世界に戻っていった。……意味わからん。


 首を捻りながらも進む。


 いたのは、フィルドザウルスだ。

 敵は一頭。ただし、大きい。


 今回のメンツにフィルドザウルスにびびる奴はいない。

 事前に、戦闘の流れだけは伝えておく。


「連携は深く考えなくていい。とにかく、仲間に攻撃だけはあてないようにな」

「それで、大丈夫なんですかルードさん」

「まあ、そこは任せろ」


 ルナ、ニン、リリィは魔法の準備を始める。

 フィルドザウルスがこちらに反応したところで、俺が前に出る。


 盾を突き出し、フィルドザウルスへ挑発を放つ。

 注意を集めることに成功する。


 シュゴールとリリアが左右を囲み、じりじりと攻撃の機会をうかがう。

 フィルドザウルスが咆哮をあげた。大地を強く踏みつけ、走り出す。


 まっすぐ俺へと向かってきて、その顎で噛みついてくる。

 ずしり、と盾に重たい衝撃が伝わる。

 外で戦ったフィルドザウルスとは比べ物にならないな。


 牙が眼前に迫る。

 激しい口臭とともに襲い掛かるそれに盾をぶつける。

 薙ぎ払うように盾を振りぬく。


「グア!?」


 フィルドザウルスの首が上を向いた。

 力では勝利した。


 その隙に、シュゴールとリリアが剣を振り抜いた。

 シュゴールの剣は長剣だ。一撃が重たい。


 リリアは手数の多い二刀流。舞うように剣を叩きつけていく。

 フィルドザウルスがよろめいた。


「ニン様! ルナ様! 弱点属性は氷です!」

「……そんなこともできるんだな」


 魔物ごとに、弱点属性が違う。より効率よくダメージを稼ぐためには、彼のような敵の弱点を暴けたほうがいい。

 正面で攻撃を受けながら声をかける。


「ええまあ、制限をかけることで、どうにか発動可能にしていますよ」


 シュゴールはさわやかな声をあげる。しかし、呼吸が乱れている。

 フィルドザウルスに挑発を重ねがけてから、盾と剣を叩きつけていく。


 魔法組を見る。

 彼女たちは小さく頷いた。魔法の準備が終わったのだ。


「放ってくれ」


 さすがに、魔法組の攻撃を受ければ、フィルドザウルスの敵意はそちらに向いてしまう。

 だから俺は、魔石の魔力を解放する。


 青く輝く剣に、俺自身の魔力も加え、思い切り振りあげた。

 フィルドザウルスが大きくのけぞる。今だ!


 よろめいたフィルドザウルスへと、魔法が飛んだ。


 フィルドザウルスの足元に氷の弾が当たる。

 その氷は種のように芽吹き、氷の槍が咲いた。


 見とれるほどの透き通る氷の槍が、フィルドザウルスを足元から串刺しにした。

 三人で魔法を合わせたようだ。

 体を貫いた氷の槍は、今もなお成長していく。


 フィルドザウルスの目から光がなくなる。

 氷が消えると同時、魔物も消滅する。


 迷宮内で倒した魔物は、霧のように消える。

 肉が欲しければ、外まで誘導するしかない。


 後には、ドロップ品としていくらかの素材と魔石だけが残っていた。

 ……やっぱり、こいつらなら問題なく倒せるな。


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